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愛知県南知多町/持続可能な農業を目指して

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年4月10日

国営農地開発事業整備圃場

▲国営農地開発事業整備ほ場​​​​


愛知県南知多町

3236号(2023年4月10日)
愛知県南知多町長 石黒 和彦


1.南知多町の概要

南知多町は、愛知県知多半島南部に位置し、半島の先端と沖合に浮かぶ篠島・日間賀島等の島々からなっています。北は美浜町、東は三河湾、南西は伊勢湾に面し、昭和36年6月1日に当時の内海町、豊浜町、師崎町、篠島村、日間賀島村の5か町村の合併により誕生しました。

古くは、天然の入り江を利用した良港に恵まれ漁業が発達し、江戸時代には東西海上交通の要衝の地として海運業も盛んとなり、町内にも多くの船主が千石船を有する程隆盛を極めました。

現在においても水産業の生産基盤として漁港の整備を計画的に進め、都市地域への生鮮な魚介類を供給する魚の町・漁業の基地として発展しています。

漁港の風景   新鮮な魚介類  
師崎漁港の様子と新鮮な魚介類​  ​​

​ 観光においては、本地域は国定公園、県立自然公園に指定された自然環境に恵まれており、海水浴場や名所・旧跡、文化財、祭りなど豊富な観光資源を有しています。また、新鮮な活け魚料理を味わうことができ、漁業体験やイチゴ狩りなど体験型観光や海釣り、天然温泉が楽しめるなど四季を通じた観光地となっています。

南知多町(全景) 
空から見る南知多町(全景)​ 

 

2.都市近郊農業地帯を活かした農業施策

本町は、愛知県内で1番の水揚げを誇る漁業により、新鮮な魚介類のイメージが強い町ですが、恵まれた気象条件、自然条件、さらには海底から隆起したミネラル分が豊富な土壌を活かし、古くから水稲作と温州みかんの栽培を主体とした農業が発展してきました。特に農業発展のうえで大きな障害であった水不足を解消するため、昭和36年10月に愛知用水が通水したことにより、本町の農業は飛躍的に進展しました。また、土地基盤整備を進めるため昭和44年度から農業構造改善事業に着手するとともに、昭和50年度からは県営ほ場整備事業を進め、昭和58年度に124haのほ場が完成しました。また、昭和51年度から山林、原野の遊休地を農地化するために国営農地開発事業が着手され、平成6年度には385・6ha(美浜町を含む全体では412・8ha)の農地造成が完了しました。

農業構造改善事業や県営ほ場整備事業による水田の整備のほか、野菜類は、国営農地開発事業により農地が増大したことで、キャベツ、ふき、たまねぎ、レタス類、ブロッコリー、ばれいしょ、スイートコーン、びわ等が栽培されています。また、施設園芸による観葉植物や洋ラン等の花の栽培も多く、畜産も盛んなことが特徴です。

このように、名古屋市という大きな商圏へ農作物を供給する都市近郊農業地帯として、土地改良・農地造成事業を進め生産基盤の確立を図ることで、経営規模の拡大と自立農家の育成、大型機械の利用による省力化を図ることを目的とした農業施策を展開してまいりました。

農作業の様子
スイートコーン収穫の様子​  

3.農業の現状と課題

本町の人口は、合併前の昭和25年の約30、000人をピークに一貫して減少し、令和4年には約16、500人となっています。

また、農業でも、昭和45年では

1、605戸いた農家戸数は、その後の厳しい経済環境の変化により離農が急増し、令和2年には、482戸にまで減少しました。これは農業所得の低迷から他産業に転職したこと等が原因と考えられます。

さらに、就農者の高齢化も進んでおり、後継者を獲得できないまま離農することになれば、耕作放棄地の増加につながる懸念も現実化してきております。

本町の農業を持続可能なものにするためには、人口減少が進む中であっても後継者を獲得できるよう、本町の農業は魅力的であり、成長産業としての未来の姿を具体的に示していかねばなりません。

また、土地改良・農地造成事業により農地が拡大したとは言え、農地面積には限りがあるため、機械化による大規模営農のみを追求すると、当然就農者の減少を招いてしまいます。これでは人口減少をさらに助長してしまいます。

そのため、就農者を増加させるためには、多様な小規模農家が生計を成り立たせることができる農業を目指さなくてはなりません。つまり、小さくても稼ぐ農業を実現するために、面積当たりの収益性の向上が課題となりました。

みかん酒(南知多ブランド)開発会議
南知多ブランド商品開発会議の様子​  

4.南知多ブランド「ミーナの恵み」

では、限られた農地の中で農業の収益性を上げるためには何が必要かというと、生産した商品に付加価値を付けて高く販売することが求められます。つまり、「安く・たくさん」から脱却し、「高く・少なく」、ひいては「高く・多く」が成立する事業形態が求められます。収益性を上げるためには、農作物をそのまま売るだけではなく、農業、商工業、観光業が相互に連携することで新たな地域産業を創出する6次産業化によりいかに付加価値を付けるかがポイントになります。

しかしながら、6次産業化により新たな商品を作れば売れるかというとそうはいかず、全国各地の魅力あふれる商品の中から、消費者に選ばれるものにならなくてはなりません。そのため、タウンプロモートの観点からも南知多町の魅力ある資源を集約してアピールするべきだと考え、6次産業化による南知多ブランド開発を推進することとなりました。

最初に着手するものは、今後のモデルとなる商品開発にならなくてはなりませんので、町全体で取り組んだ商品開発を考えました。

町内の原料でできるものはたくさんありますが、第1号は温州みかんを使用したものにしました。

温州みかん栽培は、江戸時代末期から栽培され、昭和30年代までは内海みかんとしてブランドになっておりましたが、昭和50年以降の全国的な生産過剰の中で、厳しい状況が続いておりました。そのため、付加価値を高め、みかん農園の再興につなげることを目指すストーリー性と、生産量が減少しているものの比較的安定して原材料を調達可能な観点からも、温州みかんによる商品開発はモデルとして手ごろと考え、地元飲食店や宿泊施設等観光業との連携を考慮して、みかん酒といたしました。

南知多もぎたてみかん酒01 南知多もぎたてみかん酒02
南知多ブランド認定第1号日本酒「南知多もぎたてみかん酒​

ミーナの恵みマーク
「ミーナの恵み」ロゴマーク


しかし、商品開発のノウハウが町役場内に不足していたため、JA、農家、商工会、観光協会、半田市にある酒造メーカーの中埜酒造株式会社、町議会も参加した、みかん酒(南知多ブランド)開発会議を設置しました。また、参加団体から若手を集め、作業部会も立ち上げましたが、実際にメンバーを集めたところ、男性ばかりであったため、これではいけないと役場から女性職員に2名参加していただきました。

作業部会では、レシピ、デザイン、ネーミング、コンセプト、ポジショニング、ターゲットを決めました。商品開発におけるスケジュールや段取り、考え方は、中埜酒造に参加していただき、アドバイスと指導を受けました。そうして完成したのが、「南知多もぎたてみかん酒」です。

しかし、販売するにあたって、町内に販売場所が少ない、販売量の予測ができない、効果的なPR方法が分からないことが問題となりました。

そのため、町内限定販売でスタートすることとして町内の酒販店全店に営業に行き、新聞やホームページへの掲載だけでなく、町内の宿泊施設で食前酒に使っていただくよう、お願いして回りました。

結果として、平成24年4月11日に試験販売を開始し、町内の限定販売だけで完売しました。また、試験販売の結果、観光客が地元酒販店に来ることが増えたとともに、宿泊事業者だけでなく町民からも地元の新しいお土産を紹介できることがありがたいという声を多く聞くことができましたので、みかん酒の販売の継続を決定しました。

このように、みかん酒の開発により6次産業化の成果を得たことによって、この取組をさらに発展させるために平成25年に南知多町産業振興協議会を設置しました。また、南知多ブランドをつくるにあたり、定義づけが必要となりましたので、町のキャラクターのミーナを用いて南知多ブランドの名称を「ミーナの恵み」といたしました。町内の優れた商品のうち、特に優れたもの、類似品との違いが明確なものを審査して認定し、現在では、7点の商品を認定しております。

産業振興協議会
地域ブランド発展のために設置した産業振興協議会

5.官民共創による農業振興策の取組

6次産業化による南知多ブランドのように、付加価値を付け収益をあげることが地域産業の振興策の根幹となりますが、行政の力だけでは実現することはできず、民間事業者との協力が必須になります。

これは、全ての地域課題の解決にもつながります。なぜなら、行政は地域を構成する要素の1つにすぎず、地域課題はさまざまな関係者の関係性の中で発生しているからです。

そのため、行政と民間事業者が新しい価値や解決策を「共」に「創」ることを本町では「官民共創」と定義しております。これは、行政との連携により、民間事業者がビジネスとして地域課題の解決を推進できれば、市場機能による経済循環により、収益を得ながら課題解決が持続的に行われ、公的支出を減らすことが可能になるというものです。

官民共創による課題解決
南知多町での官民共創​

官民共創の取組といたしましては、令和2年度に愛知県が実施した「あいちスマートサステナブルシティ共創チャレンジ」という、県内の企業や自治体が国内外のスタートアップ等と共創して課題解決を目指すイノベーション事業に参加したことをきっかけに町として本格的に推進することになりました。

その中で、町内で有機農業による生産・販売と農作物を活用したオーガニックコスメ用品の販売を展開する株式会社yaotomiから連携事業の提案を受け、農業分野における官民共創事業について検討を進めました。同社は有機農業の課題である販売先の確保と、6次産業化による収益性向上をすでに実現できていることが連携にいたった理由です。

この取組を契機に、令和3年度から有機野菜を学校給食へ導入することが実現し、令和4年5月には、有機農業への新規就農者の育成機関の設置や6次産業化による商品開発等を始めとした「オーガニック農業普及に向けた連携に関する協定」を株式会社yaotomi(およびグループ会社の株式会社オーガニックファーム知多)と東海・関西エリアを中心に食材宅配事業を展開する株式会社ショクブンとともに締結しました。現状では、ふるさと納税の返礼品を2品開発し、6次産業化の新たなモデルとして模索を続けております。

オーガニック農業普及に向けた連携に関する協定
オーガニック農業普及に向けた連携に関する協定​

6.持続可能な農業を目指して

新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大により、グローバル・フードサプライ・チェーンが脆弱であることが露呈し、さらに、昨今のウクライナ情勢による原油高や穀物高も相まって、食料自給率の低いわが国の食の安全保障が脅かされております。また、モノカルチャー栽培体系や化学肥料過剰使用に基づく食料生産は、自然資源の劣化を加速させていることが世界規模で問題となっています。

その一方で、健康な食生活や持続的な生産・消費の活発化やESG投資市場の拡大に加え、諸外国でも環境や健康に関する戦略を策定する等の動きが進んだことにより、オーガニック市場自体が世界規模で拡大しており、農業分野における成長産業としての期待もあります。

このため、農林水産省では、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定し、その中でも有機農業の取組面積を拡大させることが示されております。

本町においても、価格が高騰する化学肥料の代替案として、また、環境負荷を抑えた持続可能な農法として、みどりの食料システム戦略に基づき、一般の農業と共生を図りながら有機農業を推進してまいります。

豊富な海洋資源と豊かな農地によって、カロリーベースでの町内の食料自給率は200パーセントを超えています。そのため、大都市に対して安定的に食料を供給できることは、本町の誇りであり果たすべき社会的な責任でもあります。今後も一次産業に基づく「食の安全保障ができる町」としてあり続けられるよう、まずは持続可能な農業を実現させるため、これからも各種施策を推進してまいります。

愛知県南知多町長 石黒 和彦