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岡山県西粟倉村/「生きるを楽しむ」上質な田舎を目指して―森づくりからはじまる脱炭素な村づくり―

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年3月27日更新

西粟倉村の面積のうち 93 %が森林。そのうち 84 %を杉や檜などの人工林が占める

▲西粟倉村の面積のうち93%が森林。そのうち84%を杉や檜などの人工林が占める​​


岡山県西粟倉村

3234号(2023年3月27日)
全国町村会財政部 梅元 謙太・前田 夏樹


1.はじめに

政府は2020年(令和2年)10月、2050年までに温室効果ガス(CO2)の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを宣言し、2021年(令和3年)4月には、2030年に温室効果ガスの46%削減(2013年比)の目標を表明しました。

同年6月には、地域脱炭素ロードマップが策定され、地域における脱炭素を推進するため、政府は全国で少なくとも100ヵ所の脱炭素先行地域を選定し、地域の特性に応じた脱炭素の取組を支援することとしています。

このたび、全国町村会職員が脱炭素先行地域に選定された岡山県西粟倉村を訪問。町の歴史や、地域脱炭素化に向けた取組についてレポートを行います。

2.村の概要


西粟倉村は1889年(明治22年)に、6つの村の合併により誕生しました。中国山地の南斜面の谷あい、岡山県の北東端に位置する山里で、鳥取県と兵庫県の県境に隣接しています。村の中央には清流・吉野川が流れ、それに沿って細長い平野部が広がっています。人口は1、361人、593世帯(2023年(令和5年)1月31日現在)、面積は57・97㎢で、うち93%が森林であり、そのうち84%が杉や檜などの人工林となっています。現在、村では環境資本を守り抜くことを基本理念とし、持続可能な「村まるごと循環型経済社会」の実現、そして皆が「生きるを楽しむ(well-being)」暮らしを実現できる村を目指しています。

村の木材をふんだんに活用した新庁舎は豊かな木の香りに包まれている(左が外観、右が内観)  村の木材をふんだんに活用した新庁舎は豊かな木の香りに包まれている(左が外観、右が内観)  

村の木材をふんだんに活用した新庁舎は豊かな木の香りに包まれている(左が外観、右が内観)​ ​       ​​

3.村の歴史

西粟倉村は、森林面積が9割を超え、林業の村として栄えてきました。1950年代から1960年代頃まで、全国的に進められた広葉樹林伐採跡地への針葉樹植栽、いわゆる「拡大造林期」は、西粟倉村では、将来を担う子や孫のためにという想いで苗木の植栽が積極的に実施されました。

しかし1964年(昭和39年)の木材輸入の自由化に伴い、海外から安価な輸入材が大量に流入したことで、1980年代以降、国産材の需要や価格が徐々に低下。林業の不況から、村の財政もひっ迫し、過疎化の一路を辿っていきます。

そんな中、平成の大合併が進む2004年(平成16年)、住民アンケートで合併反対が58%になったことで、村は合併を拒否。自立の道を歩むことを決めました。どのように村を存続させるか、自分たちは何をすべきか、村の職員が議論を重ね、村の大きな資源である森林を切り口に村づくりを行うことを決めました。「約50年生にまで育った森林の管理をここで諦めず、村ぐるみであと50年がんばろう。そして美しい百年の森林に囲まれた上質な田舎を目指していこう」と当時の村長が村民に呼びかけ、心と心をつなぎ価値を生み出していく「心産業」というコンセプトで産業を創り、仕事を生み出していく方向が定められました。

4.百年の森林構想


2008年(平成20年)、「心産業」を興し、上質な田舎づくりを実現していくために、森林の再生に資源を集中させるという村の方針を定めた、村づくりの根幹となるビジョン「百年の森林構想」が策定され、2009年(平成21年)4月から「百年の森林事業」が本格的に開始されました。

この事業では、地域資源に付加価値を付け、経済を循環させることを目指し、森林の保全管理から施工、間伐材の商品化、活用できない林地残材のバイオマスエネルギーとしての活用等により、持続可能な森林経営を行うとともに、村内外に情報を発信し、村に関わる人々のネットワークづくりの構築を図っています。また、その工程において、「百年の森林事業」の理念に共感し、移住・起業を行った若者たちによるローカルベンチャー(地方でのベンチャー的起業)の力を採用し、行政、林業事業者、村民が一体となった地域づくりに取り組んでいます。

木材集積所。間伐材に高付加価値をつけて6次産業化を進める

木材集積所。間伐材に高付加価値をつけて6次産業化を進める

「世代を越え、地域を越え、未来への想いを共有する森づくり」、そして「限りある自然の恵みを大切な人たちと分かち合う上質な田舎づくり」という決意を持った村民が育てている森林と、そこから切り出される木材は「心産業」の象徴です。

林地残材は木質チップボイラー

林地残材は木質チップボイラー​

ボイラーで生まれた熱を公共施設へ運ぶ熱供給管  木質バイオマス発電設備により熱や電力に生まれ変わって村内へ供給される​​ ​  

ボイラーで生まれた熱を公共施設へ運ぶ熱供給管(左) ​▲木質バイオマス発電設備により熱や電力に生まれ変わって村内へ供給される​​ ​(右)

5.再生可能エネルギー事業の取組


「百年の森林事業」を始めて以降、2013年(平成25年)3月に環境モデル都市、2014年(平成26年)3月にバイオマス産業都市、2019年(令和元年)7月にはSDGs未来都市に選定されました。林地残材を利用した木質バイオマス発電・熱供給を始め、小水力発電や太陽光発電等も含めたさまざまな再生可能エネルギーの取組を推進することで、中山間地域における脱炭素モデル地域の創造を目指しています。

木質バイオマス事業

村では、山に捨てられ、運び出すことができない林地残材を活用した木質バイオマス事業により、地域への熱供給と自立型発電の取組を行っています。​​

2014年(平成26年)、薪ボイラーによる熱供給事業を開始。薪ボイラーの使用により、灯油の使用量を削減し、今まで使い道のなかった林地残材を活用することで、森林資源を地域内で循環させる仕組みを構築しました。事業の開始にあたっては、環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を活用。現在は村内3つの温泉施設で稼働しています。

また2017年(平成29年)には、木質チップボイラーを利用した地域熱供給システムを導入。村内の公共施設の暖房・給湯に利用され、庁舎・図書館・保育所・学校・介護施設へ熱を供給しています。

2019年(令和元年)には、木質チップを利用した小型ガス化発電設備も導入され、木質チップをガス化し、ガス化エンジンにより発電した電力は、自営線により介護施設等の村内の公共施設へ供給されるとともに、災害時は自立した電源として使用することが可能となりました。

村での木質バイオマス事業は、林地残材等の地域資源の活用、地元の事業体や会社の雇用による経済等の地域循環、そして「百年の森林事業」の恩恵を受け、長期的に取組を進めることができる持続性という3つをポイントに取り組んでいます。

 

取水口は定期的に流木等の除去が必要

第2水力発電所「みおり」の外観  第2水力発電所「みおり」の外観(左上)と内観(左下)  

第2水力発電所「みおり」の外観(右)と内観(左)。取水口は定期的に流木等の除去が必要(上)​

 

小水力発電事業

村内の水力発電所、西粟倉第1発電所「めぐみ」は1966年(昭和41年)から発電を開始しました。発電所より上流の吉井川及び大海里川から取水し、約1・8㎞の水路を通り、落差約69mの水力により発電を行っています。設備の老朽化が進行していたため、2013年(平成25年)に発電設備や水路などを対象に大改修を実施。2014年(平成26年)にFIT(固定価格買取制度)へ移行したことにより、売電収入は年間1、600万円から7、000万円へ大きく増加しました。​

これを受け、村では小水力発電を新たな再生可能エネルギー導入の起爆剤として、再投資を実施。2018年(平成30年)3月には、村の小水力発電事業を専業で行う「あわくら水力発電株式会社」を、村などが出資して設立し、代表には副村長が就任しました。

2021年(令和3年)6月には、西粟倉第2発電所「みおり」が稼働開始。吉野川の水を堰き止め取水し、水圧管路を通り、下流に設置された発電所へ送っています。水圧管は村道に敷設され、落差約71mの水力を利用し水車を回すことにより発電し、年間の売電収入は約5、000万円を見込んでいます。取水口部分には、上流から流れてくる流木等が詰まることがあり、定期的に除去が必要です。取り込んだ水にも流木等が含まれているため、除塵装置により除去したうえで水路に流しています。

また、2016年(平成28年)4月から稼働している影石水力発電所は、最大出力5kWのマイクロ水力発電となっており、災害時にはEV車の充電等にも活用されています。

太陽光発電事業

現在、村内6つの公共施設で太陽光発電事業を行っています。このうち、NPO法人岡山エネルギーの未来を考える会では、村民が建設協力金を出資する村民参加型の発電事業を2014年(平成26年)3月より開始。NPOを中核とし、村民による出資の他、地元の金融機関が融資を行うとともに、村は発電所を設置する西粟倉コンベンションホール(全天候型ゲートボール場)の屋根を無償で使用許可する等の事業協力を行っています。ここで発電した電気は中国電力へ全量売電されています。

家庭向けの再生可能エネルギー・省エネルギー設備導入支援

2013年(平成25年)度から「低炭素なむらづくり推進施設設置補助金」制度を導入し、村内の家庭における再生可能エネルギーや省エネルギー設備の導入に対する支援を行っています。

太陽光発電、太陽熱温水器、小水力発電等の再生可能エネルギー設備の導入の他、EV車や自然冷媒ヒートポンプ給湯器、省エネ型電気冷蔵庫買換を含む15の事業が対象となっています。

6.脱炭素先行地域としての取組

脱炭素先行地域とは、2050年カーボンニュートラルに向け、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含めてその他の温室効果ガス排出についても、2030年までに46%削減(2013年比)という政府の目標と整合する取組を、地域特性に応じて実現する地域であり、環境省により2022年(令和4年)度から選定が開始され、2023年(令和5年)3月時点で、全国46の地方公共団体が選定されています。

西粟倉村は、2022年(令和4年)4月に脱炭素先行地域に選定されました。民間企業や金融機関とタッグを組んだ「2050“生きるを楽しむ”むらまるごと脱炭素化先行地域づくり事業」を立ち上げ、公共施設や村営住宅等を対象に、太陽光発電等の再生可能エネルギー発電設備を導入していきます。また、村内に新電力会社を設立し、村内で生産されたエネルギーを、地域全体へ供給するシステムを整備。これによりエネルギーコストの地域外流出を防ぎ、雇用の創出や経済の地域内循環にもつなげる取組を行っていきます。

再生可能エネルギー発電設備の導入にかかる具体的な取組内容としては、村全域の公共施設や観光施設等において、既存の太陽光発電設備を活用する他、新たに屋根置きの太陽光パネルを設置し、電力の自家消費を行うとともに、蓄電池を設置し、電力供給の安定化を図ります。また、一部の施設については、ZEB/ZEH化や、冷暖房への地中熱利用等の推進にも取り組み、更なる再生可能エネルギーの供給の実現を目指していきます。

一方、村営住宅においては、公共施設と同様に屋根置きの太陽光パネルの設置を行うとともに、ZEH化や高効率な家電製品への買い替えを推進。その他、EVや小型モビリティも積極的に導入し、村内の交通手段の電動化を図っていきます。

森林資源等を最大限に活用した長年の村づくりを礎に、中山間地域における脱炭素モデル地域の創造を目指し、村全体での脱炭素化の実現に向け、舵を切っていきます。

7.おわりに

西粟倉村をはじめとした脱炭素先行地域はもちろんのこと、脱炭素化の取組を始めたばかりの地域や、これから始める地域も含め、意欲ある全国の町村において、それぞれの地域の特性を生かした地域脱炭素の取組が広がるよう、国の支援も含め、脱炭素地域社会の早期実現を期待しています。

西粟倉駅から望む村の風景

西粟倉駅から望む村の風景​

 

全国町村会 財政部​
  梅元 謙太・前田 夏樹​​