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福岡県広川町/足下の宝を磨き、挑戦を続ける地方創生―ひろかわ新編集プロジェクト―

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年3月6日

広川町の遠景

▲広川町の遠景​​


福岡県広川町

3231号(2023年3月6日)
福岡県広川町長 渡邉 元喜

 


1.広川町の概要

 広川町は福岡県南部、久留米市・八女市・筑後市に囲まれた、面積が約38㎢、人口約2万人のコンパクトな町です。豊かな自然に恵まれ、古くから農業が盛んな町で、あまおう(いちご)、ぶどう、梨、桃等のフルーツをはじめ、西日本一の生産量を誇るガーベラのほか、菊やユリ等の花が特産です。丘陵には美しい茶畑が広がり、香り高い八女茶の産地でもあります。

 また、古くからものづくり文化が根付き、中でも国の伝統的工芸品に指定されている綿織物「久留米絣」の工房は広川町に集中しています。藍染手織や動力織機で織りなす美しい反物は、着物だけでなく洋服、小物等に幅広い製品として愛用されています。最近は「もんぺ」がリブランディングされ、その風合いの良さと柄の多様さから、多くの若者の人気を集めています。そのほか、和風建築を彩る竹細工「八女すだれ」の生産地でもあり、国内外から高い評価を得ています。

 町の中心部には、国道3号と九州自動車道が走り、広川インターから天神・博多、福岡空港まで1時間圏内という地の利もあって、通学、通勤圏内であるほか、インター周辺には工業団地や新産業団地が整備されています。

 このように、広川町は都市と農村、農業と工業、伝統と革新とが調和するバランスのとれた町です。

2.広川町の地方創生「ひろかわ新編集プロジェクト」

 広川町でも、今後の人口減少は避けられないと考え、平成27年度から「広川町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、地方創生に取り組み始めました。中でも重視したのは「若年層の女性をターゲットにすること」と「地域資源をフル活用すること」でした。

 そもそも地方創生のきっかけを作ったのは、若年女性の社会移動率に着目し、地方の「消滅可能性」にまで言及した民間レポートでした。そのため、女性が働きやすく、子育てしやすい環境を作り、女性に選ばれる地域になることは、地方創生に当初から組み込まれたテーマであると考えていました。

 また、「まち・ひと・しごと」と表現を変化させても、仕事づくり、住まいの確保、地域コミュニティーとの協働に関する施策は、以前から取り組んでいるものです。そのため、地方創生ブームで話題になったよその事例に飛びついたり、この町の歴史や文化とは異なる文脈を探したりせず、地域資源を活用すべきと考えていました。

 そこで、町内の農家さんや伝統工芸の職人さん、商工会の若手会員等、地元で活躍しているキーマンに集まってもらい、町の課題を共有して、私たちに何ができるか自由に話すワールドカフェを開催しました。そこで生まれたアイデアが「おしゃれオトナ女子の聖地」づくりで移住促進プロジェクトでした。

広川町の人口ビジョンと人口推計

広川町の人口ビジョンと人口推計

 これは、「久留米絣」を「伝統工芸の織物」という枠から一度外し、テキスタイルやファッションの文脈で捉え直して、20代~40代女性(オトナ女子)をターゲットにした魅力的な拠点づくり、地域づくりに取り組もうというもの。くわえて情報発信を強化して、オシャレな場所というイメージを獲得し、交流人口から定住人口の確保につなげようという狙いがありました。

 このプロジェクトのように、私たちの足下にあるモノやヒトの魅力に気づき、その見せ方を変えたり、これまで出会っていなかったもの同士を組み合わせたりして、新しい価値を生み出す取組を総称して「ひろかわ新編集プロジェクト」と名付けました。身近にあるおいしいフルーツや野菜、美しい織物が暮らしの中に溶け込み、豊かな暮らしを支えている。そんな日常の価値を最大化しようとする試みこそ、地方創生の本質と位置付けたのです。

久留米絣

久留米絣

3.人と人、アイデアを結ぶアトリエ「Kibiru(キビル)」

 「ひろかわ新編集プロジェクト」の拠点施設として、平成29年、地域で使われなくなった集会所をリノベーションし、ものづくりのアトリエ「Kibiru(キビル)」がオープンしました。キビルとは、地元の方言で「結ぶ」という意味。人と人、アイデアとアイデアが結ばれる出会いの場所になるように、との想いが込められています。

 キビルには、職業用ミシン、ロックミシン、刺繍ミシン等の洋裁設備が完備されているほか、デザインソフトが入ったPC、カフェ営業ができるキッチンもあります。時間単位の使用料金を支払えば、誰でも使用できるので、デザインや裁縫等の仕事を持ち込めます。

 また、技術を身につけたい人が服作りを学ぶ講座を開催したり、デザイナー向けに、税理士による講座や弁理士による知的財産に関する講座等も開催したりしました。

Kibiru(キビル)

「Kibiru(キビル)」

 これらのイベント企画や運営は、地域おこし協力隊が担いました。彼らは、それぞれファッションやテキスタイルのデザイン、現代アートを学んだ若者たちで、関東や関西から移住して参画してくれました。

 キビルを通じて、それまで全く接点のなかった若者が、徐々にこの町を訪れてくれるようになりましたが、新たな課題も浮き彫りになりました。

 久留米絣は、織物になる前の糸をくくって染め分ける「先染め」の技法で精緻な柄を生み出します。その工程は30以上もあり、その魅力を深く理解するには時間がかかります。しかし、町内には旅館もホテルもなく、長期滞在する場所がないため、遠方からの訪問には高いハードルがあったのです。

4.わが家のように過ごせるゲストハウス「Orige(オリゲ)」

 そこで取り組んだのが、町直営のゲストハウスづくりでした。数多くある空き家の1つを町が借り上げ、滞在交流できる施設を作ろうと考えたのです。さらに、町の定住支援員として地元の人が常駐し、移住相談にも対応しようと考えました。

 町が提示した空き家の借り上げ条件は、簡易宿泊所としてリノベーションしたうえで10年後に返還することと、賃料は固定資産税相当額とすることでした。賃料収入は期待できないものの、管理に困っていた人から数件の応募があり、元々農家で倉庫が併設された大きな一軒家を選定しました。

 平成30年、リノベーションを終えた空き家は「移住定住相談センター兼滞在交流施設Orige(オリゲ)」としてオープンしました。

 オリゲとは、地元の方言で「私(俺)の家」。滞在中はわが家のようにくつろいでもらい、町の魅力に存分に触れてほしい、という願いが込められています。シングルルーム、ツインルーム、ファミリールームを設け、旅行者でも地元の人でも誰もが利用できます。ウッドデッキでつないだ倉庫は、広い空間を生かした多目的スペースとして、アーティストの展示会や絣織元の撮影スタジオとしても活用されています。

 移住希望者であれば、安価な料金で10日間程度滞在できる「お試し居住」も受け入れています。絣織元でのインターンと組み合わせた「ワーキングステイ」制度もあり、そのほか、地域おこし協力隊によるアーティスト・レジデンス事業や、海外の学生の研修受け入れ事業を実施するなど、多彩な交流拠点となっています。

 キビル、オリゲの運営は、令和2年度から指定管理者による運営となりました。指定管理者となったのは、キビルの開設に伴い地域おこし協力隊として移住し、任期後も定住して起業した山本誠さん。移住当事者としての経験を生かし、オリゲでの移住相談やキビルではカフェ運営等、地元で活躍するキーマンになりつつあります。

Kibiru地域おこし協力隊(第1期)と定住支援員

地域おこし協力隊(第1期)と定住支援員

移住定住相談センター兼滞在交流施設「Orige(オリゲ)  Origeでのイベント   

移住定住相談センター兼滞在交流施設「Orige(オリゲ)
Origeでのイベント ​     ​

 移住希望者であれば、安価な料金で10日間程度滞在できる「お試し居住」も受け入れています。絣織元でのインターンと組み合わせた「ワーキングステイ」制度もあり、そのほか、地域おこし協力隊によるアーティスト・レジデンス事業や、海外の学生の研修受け入れ事業を実施するなど、多彩な交流拠点となっています。

 キビル、オリゲの運営は、令和2年度から指定管理者による運営となりました。指定管理者となったのは、キビルの開設に伴い地域おこし協力隊として移住し、任期後も定住して起業した山本誠さん。移住当事者としての経験を生かし、オリゲでの移住相談やキビルではカフェ運営等、地元で活躍するキーマンになりつつあります。

5.移住促進と雇用創出の融合「ひろかわ繊維産地の未来づくりプロジェクト」

 キビル、オリゲを拠点として、交流人口は確実に増えました。繊維産業を目指す若者向けに、産地の職人からテキスタイル素材について学ぶ講座「ひろかわ産地の学校」を開催するなど、事業の幅も広がりました。それらが功を奏し、繊維産地で働くために移住した人もいて、一定の成果も見えました。

 とはいえ、その流れはまだまだ小さく、地域の活力を引き上げるには、もっと多くの人材が必要です。

 一方、雇用の受け皿となる繊維業界はいずれも小規模で、労働条件も含めて、若い世代が働き続けるには課題もあります。

 そこで、久留米絣を含む産地全体の魅力で収益力を強化し、若い世代の雇用拡大を図るため、「ひろかわ繊維産地の機能強化事業」に取り組むこととし、これまでのキビル、オリゲを拠点とした事業と融合させて「ひろかわ繊維産地の未来づくりプロジェクト」を新たに立ち上げました。

 その直後、思いもよらぬコロナ禍が襲いましたが、それでも危機感を強めた若手の絣職人、卸商の動きに呼応し、技術面で支えようと工業大学の教員も参画。金融やブランディングの専門家も加わり、それぞれの視点から、産地の未来について議論を繰り返しました。

ひろかわ産地の学校

ひろかわ産地の学校

ビジョンについて話し合う様子

ビジョンについて話し合う様子

ネイティブテキスタイル産地プロジェクト表紙

ネイティブテキスタイル産地プロジェクト表紙

 そこで最終的にまとまったのが、久留米絣広域未来ビジョン「ネイティブテキスタイル産地プロジェクト」です。行政だけでなく、商業組合や工業組合が果たすべき役割が再認識され、組合主体で新たなイベントを開催するなど、地域ぐるみで新たな挑戦が始まっています。

 今後も全国のたくさんの方に「はぜる」での保育園留学を体験していただき、子育ての充実と厚沢部町との超長期的な関係人口を創出していきたいと思います。

 今、ひろかわ新編集プロジェクトは、行政主体の枠を超え、地域が主体となる取組へと波及しています。これからも、足下の宝を磨きながら、新たな価値を生み出す編集作業を続けていきたいと思います。

広川町長
渡邉 元喜