ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 山口県阿武町/選ばれるまちをつくる -森里海と生きる町、阿武町の地方創生の取組-

山口県阿武町/選ばれるまちをつくる -森里海と生きる町、阿武町の地方創生の取組-

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年12月19日更新

阿武町の漁村風景と日本海沿いを走る赤い列車

▲阿武町の漁村風景と日本海沿いを走る赤い列車​​


山口県阿武町

3224号(2022年12月19日)
阿武町役場まちづくり推進課 課長 藤村 憲司

 


阿武町の概要

 阿武町は、本州最西端の山口県北部の日本海側に位置し、海岸部は北長門海岸国定公園に属し、町内全域が阿武火山群により形成されており、萩ジオパークとして日本ジオパークに指定されています。この恵まれた豊かな自然と、本町の基幹産業である第一次産業を中心とした暮らしは、森里海の恵みを享受することで成り立っており、今春には、NPO法人「日本で最も美しい村」連合にも加盟しました。

 阿武町内の方からこれからも阿武町に住みたい、阿武町外の方からも阿武町で住みたいと「選ばれる町」となるために、夢と笑顔あふれる「豊かで住みよい文化の町」を目指して、さまざまなまちづくりを展開しています。そのなかでも、今回は地方創生推進事業を中心にご紹介いたします。

木与の棚田と鳴き砂の清ヶ浜  日本で最も美しい村連合ロゴ  

木与の棚田と鳴き砂の清ヶ浜​ ​              ▲日本で最も美しい村連合ロゴ​ ​     ​

漁船クルーズによるモドロ岬見学

漁船クルーズによるモドロ岬見学

 

人口定住策

 全国的にも課題となっている「人口減少」は本町においても深刻な問題で、1万人いた人口が今では約3千人あまりに減少しています。しかし、人口減少を受け入れて、それを如何に緩やかにしていくかということで、本町では効果的な定住策を講じ、いち早く取り組んできました。

21世紀の暮らし方研究所の様子​ ​     1/4worksプロジェクト参加者と農家さん  

21世紀の暮らし方研究所の様子​ ​        ▲1/4worksプロジェクト参加者と農家さん​ ​     ​

 今や当たり前となった「空き家バンク制度」は、本町では2006(平成18)年に試験運用を始め、翌年には制度化し、2021(令和3)年度までに、145件の物件登録、128世帯296人もの方が制度利用により移住されました。その間にも、町内には不動産業がなく、町営住宅もしくは空き家が主な住まいの選択肢であったため、空き家リフォーム補助制度の導入やDIYによる空き家利活用モデルの提案、家のエンディングノート「家の未来帖」の作成などさまざまな形での住まいの提案も行ってきたことも、移住者増加のみでなく、まちの景観や機能の維持等にもつながっています。

 さらに、近年の地方創生の流れのなかで、2015(平成27)年10月に第1次阿武町版総合戦略「選ばれる町をつくる」を策定し、阿武町内外からまちづくりに参加できる「21世紀の暮らし方研究所(通称ラボ)」が推進主体となり、8つのプロジェクトを進めてきました。住まいをテーマに空き家の利活用を、しごとをテーマに阿武町ならではの働き方を探求し提供することを、ひとをテーマに町民とまちとの接点を増やし、愛着と誇りを育むことを、それぞれ取り組んできました。

 なかでも、しごとをテーマとした「1/4works(よんぶんのいちわーくす)プロジェクト」は、1つの定職に就くのではなく、短期間の仕事を組み合わせて小さく・短く働くことを進める取組です。この取組は、本町の基幹産業である第一次産業には季節や収穫量に応じた期間限定の仕事が多く存在していますが、高齢化で働き手不足となっていることから、都市部からの若者による援農の仕組みを取り入れようとするものです。本町の特産品でもあるスイカやほうれん草、梨等の農繁期に人手が足りない農家の方が手を挙げ、参加者募集の説明会にも出向いて全国から広く参加者を募っており、滞在場所や移動手段の確保など参加者への生活支援を行っています。また、援農を通じて地域と関わり、阿武町の暮らしを知っていただくことも趣旨の1つとなっています。2018(平成30)年の初年度は、募集2農家、参加者2名でのスタートでしたが、5年目の今年度は募集5農家、参加者13名で、取組当初からこれまでに3名の方が実際に移住されています。

 以上のように、まずは、住民のまちづくりへの機運醸成や活躍の場所づくり、新たな仕事をつくる仕組みづくりなどのソフト面の事業を中心に実施してきました。​

まちづくりの次ステージ

 2020(令和2)年度からは、第7次阿武町総合計画を策定し「選ばれる町をつくる」を基本構想とするとともに、同年、第2次阿武町版総合戦略「森里海と生きる町」を策定し、阿武町の地方創生も次のステップへと進んでいます。
​ 全国道の駅発祥の地であり、まちづくりの核で玄関口でもある「道の駅阿武町」に隣接する町有地の有効活用、そして、さらなるまちの活性化のため、(株)スノーピーク地方創生コンサルティングの監修により「まちの縁側拠点施設ABUキャンプフィールド」を2022(令和4)年3月にオープンさせました。

ABUキャンプフィールド​  
ABUキャンプフィールド​ ​​
林業家が使用するチェーンソーでのスウェーデントーチづくり体験  
1/4works林業家が使用するチェーンソーでのスウェーデン トーチづくり体験 ​     ​

 この施設は、これまでの地方創生の取組や民間事業者からの提案によるマーケットサウンディングを契機として、道の駅だけで留まっていた人や経済の流れを町内に引き込むため、本町の自然環境に恵まれた立地から、アウトドア関連での交流人口増加及び町の基幹産業である第一次産業の生産物の集まる道の駅の売上向上について取り組む拠点として整備されました。
​​
阿武町の獲れたての魚を使った魚さばき体験

阿武町の獲れたての魚を使った魚さばき体験

 
オープンまでの2019(令和元)年度から2021(令和3)年度までは、まちの交流拠点により町外からの人の流れを町内につくる「まちの縁側推進プロジェクト」と、第一次産業を振興する「森里海新たなしごと創出プロジェクト」を始動させ、町内外からの交流人口増加と消費拡大、町内産業の活力向上の両輪でのプロジェクトに取り組みました。プロジェクトのなかで、調査やモニタリング等を実施しながら、「まちの玄関口」である道の駅から、交流人口を増加させるために人の滞在性を高め、第一次産業をはじめとする産業活力の向上のために物の消費を向上させることを目指し、縁側のようにゆっくり腰をかけ阿武町を感じることのできる「まちの縁側」の施設整備計画を進めていきました。
 この施設では、キャンプやイートインによる滞在性の確保と、それに加えたカフェやテストキッチンにおける地域内生産物のPRや消費拡大を図っていきます。その他にも、町内での第一次産業など阿武町の暮らしの体験プログラムを開発、実施していくことで、施設滞在のみで終わらず、町内全体へ「人、物、お金」の流れをつくり、それらの地域内循環を実現させる施設とすることを目指しています。さらに、地元産品のそろう直売所や温泉もある国道沿いの道の駅に隣接という利便性を最大限に活かすべく、キャンプ用品のレンタル事業も行うことで、手ぶらでもキャンプを楽しめ、気軽に阿武町暮らしを体験できる施設となっています。

1日海士体験プログラム2022

1日海士体験プログラム2022​

 
2021(令和3)年12月には、阿武町初の民間観光組織「阿武町観光ナビ協議会(通称:あぶナビ)」も設立され、町内の第一次産業従事者を中心とした19の会員で構成されており、施設を活動拠点に、主として体験型の観光振興にあたり、独自の商品開発や販売を戦略的に展開していく予定です。

 多くの来訪者と地域内生産物が集まる道の駅とこの施設とで相乗効果を図り、人を滞在させ、消費を拡大し、阿武町内へ「人、物、お金」を循環させる地域内経済循環を推進し、自立した安全安心なまちとなり、誰からも「選ばれる町」となるべく、さらなる地方創生へ取り組んでまいります。​

希少な和牛「無角和種」

 日本で和牛と認められているのは、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種という4品種です。そのなかでも山口県のみで200頭しか飼育されておらず、割合にすると和牛全体の飼育頭数の0・01%という希少性を持っているのが「無角和種」で、阿武町でその70%が飼育されています。

 無角和種が1920(大正9)年に誕生してから、山口県阿武郡地域では、角が無いこと、粗食に耐えよく育つこと、性格が温厚なことが理由となり役牛として重宝されてきました。人とともに暮らし、働いてきた牛であり、その営みが田畑の景観を守り、持続可能な暮らしを生み出してきました。しかし、農耕機械の普及、サシの入った霜降り牛肉への嗜好の変化、安価な輸入牛肉の台頭により、赤身肉に特徴がありサシの入らない無角和種はかつての人気を落とし、その結果、全盛期には9、790頭いた無角和種は一気に減少しました。

 阿武町の歴史に根付いた希少な品種の和牛でありながら、減少の一途をたどる無角和種をどうにか守っていこうと、1994(平成6)年に山口県、阿武町を含む近隣市町村、農協らが会員となって「無角和種振興公社」が設立され、阿武町に事務局と飼育現場を設置し、地域内の無角和種を集約し、誕生から出荷までの一貫生産が行われています。

世界で200頭しかいない無角和種(西台放牧場)  無角和種をおいしく食べる焼き方が学べる肉焼き講座  

世界で200頭しかいない無角和種(西台放牧場) ​ ▲無角和種をおいしく食べる焼き方が学べる肉焼き講座 ​     ​

 そして、無角和種のブランド化を2020(令和2)年度から「無角和種との出会い創出プロジェクト」として取り組んでいます。

 東京の有名店シェフとの連携によるテストマーケティング、地域内での試食会の開催等を通して付加価値付けと認知度向上に取り組み、無角和種は阿武町にとって食を通じたツーリズムのほか、地方創生の役割を果たす要素として位置付けられ、移住者である「地域おこし協力隊」の若者の活動とともに取り組むなど、地域一体となっての振興が進められています。​

 妊娠した牛を春から秋までの間、畜舎から放牧場や耕作放棄地に放牧したりと、草を食べてもらうことによって、土地の景観保全と環境保全に役立っています。

 また、牛舎の敷材(床に敷く素材)におがくずを使用し、糞尿とともに、堆肥を製造し、地域の農家に利用され、野菜や牛が食べる飼料用作物の栽培にも役立つなど、耕畜連携の取組も積極的に行われています。

 ほかにも、地域の小学校等と連携し、子どもたちの食育として「無角和種を学ぶ」ための授業や給食等を通じて、阿武町の未来を担う子どもたちに向けて、無角和種の希少性や美味しさを伝えながら、郷土愛を育む活動も行われています。そのほか、子どもたち以外の地域住民へ、無角和種のおいしい食べ方を教える「無角和種食べ方講座」を実施し、水分の多い赤身肉である無角和種の肉は、熱を通しすぎると硬くなってしまうため、それに合わせた調理法を伝え、おいしく食べてもらう機会を増やしています。無角和種の町内消費を増やし、地域内経済循環も生み出しています。

 また、最近では、対象は地域内外を問わず、ABUキャンプフィールドを出発点とした「無角和種堪能ツアー」を開催し、無角和種の焼き方を実践しながら伝える肉焼き講座と生産現場を見学する牧場ツアーをセットとしています。

 現在、ABUキャンプフィールドを拠点とし、さらなる町内の経済循環を促すことを目的とした「地域内経済循環促進プロジェクト」が進行中です。地域通貨の導入、木の駅の立ち上げ、あぶナビの機能強化等、これまで行ってきたプロジェクトによって固めてきた足場に土台をしっかりと構築していく予定です。

阿武町役場まちづくり推進課
​課長 藤村 憲司