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鳥取県日南町/守り、活かし、受け継ぐ、持続可能な森林のまち 日南町

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年10月17日更新

SDGsの理念を発信する日南町役場庁舎内のアンブレラスカイ

▲SDGsの理念を発信する日南町役場庁舎内のアンブレラスカイ​​


鳥取県日南町

3217号(2022年10月17日)日南町役場農林課 荒金 太郎

 


1.日南町の概要

鳥取県日南町は、中国山地のほぼ中央、鳥取県南西部に位置する町で、人口4、188人、高齢化率53・1%(令和4年7月末住民基本台帳)という過疎、少子・高齢化が進む典型的な中山間地域です。平成の合併はせず単独町制を選択、人口最少県である鳥取県の中で、1番高齢化率の高い町であり、町面積の9割を森林が占めている自然あふれる地域となっています。農林業を町の基幹産業とし、標高の高い地域ならではの朝晩と日中の気温の寒暖差を活かした、食味値の高いお米やトマト等の農産物の生産振興に注力しています。

また、古くから「たたら製鉄」により雇用と所得を確保し、森の恵みを享受しながら、ひとつの時代を築きあげてきました。「たたら炭」として、その化学変化を司る重要な役割を果たす用材のナラ、クヌギ等の雑木は、町内の天然林から豊富に供給されてきました。その後、安価な洋鉄にシェアを奪われ「たたら製鉄」は途絶えることとなりましたが、戦後、町内の天然林伐採跡地には、スギ、ヒノキ等が植林され、山林の6割を占める人工林となりました。現在、それらの多くが伐期を迎え、間伐材を中心に成される10・6万㎥の搬出は多くの雇用を生み、鳥取県の年間素材生産量の約1/3を占めるに至っています。しかしながら、人口流出や高齢化といった社会背景もあり、子々孫々へと受け継がれてきた山林の荒廃も散見され、町の主要産業である林業の再編は一刻の猶予もない状況となっています。

日野川の森林(もり)・木材団地

日野川の森林(もり)・木材団地

 

2.森林を“資源”として使い切る

町の財産である恵まれた森林資源を余すことなく活用する取組として、木材を“使い切る”ことで新たな循環型林業を構築し、林業の持続的な成長を目指しています。木材の流通、加工、販売を目的として平成18年度に整備された「日野川の森木材団地」には、LVL(単板積層材)製造工場の株式会社オロチを中心に、年間12万㎥の林材が集まる林業拠点があります。その一方、林業労働者の高齢化、人材不足が深刻であり、林業後継者の育成・確保が喫緊の課題となっています。搬出材積の拡大、林業後継者の育成を図るため、平成21年度から「林業研修生制度」を創設し、林業従事者の確保に努めてきました。これまでに19人が研修を受講、8人が町内に定住という一定の成果は出ているものの、社会情勢の変化により研修生のニーズも多様化し、現状の研修カリキュラムのみではそうしたニーズに応えることができない状況となっていました。

また、町内では木材を活用した新たな産業も生まれています。家具や建物を解体した際に捨てられる木材を使った寄木細工や廃園となった保育園を拠点として、寄木のアクセサリーやSDGsをイメージした寄木のバッジ(17種類の木材を使用し、着色せず“木”本来の風合いを活かした無垢のバッジ)です。また、幼少期に誰もが1度は使用したことのあるサクラクレパスの創業者が日南町出身であり、白谷工房とサクラクレパス社がコラボした寄木の木製ケースも製作し、ふるさと納税の返礼品として活用しています。

SDGsをイメージした木製バッジ

SDGsをイメージした木製バッジ>

サクラクレパスとのコラボ商品

サクラクレパスとのコラボ商品>

3.全国初、町立での林アカデミーの開校

平成29年度、林野庁の「林業成長産業化地域創出モデル事業」による選定を受け、林業後継者の育成・確保といった課題を解消すべく、令和元年度に全国初の町立林業アカデミーを開校しました。昭和54年に開校した島根県立農林大学校に続き、中国地方では2校目となる林業学校となります。

林業アカデミーの校舎は、廃園となった保育園を改修して整備。学生が技術習得や演習を行う演習林は、日本最大の668haを誇り、環境・生態系に配慮したFSC認証林となります。校舎から演習林までの道中、わずか10分程の道のりではありますが、学生が交代で運転することで、中山間地域で生活する運転技術も自然と身に付けることができます。1年制のカリキュラムで、定員10人。アカデミーの専任教員を中心に、鳥取大学や島根大学、森林組合など産官学15団体の支援をいただきながら、実践的な実地研修及び講義を通じ、地域から信頼される林業の担い手の養成を図っています。

本校の特徴は、「学生を全国から募集して いること」、「就職先を日南町に限定していないこと」が挙げられます。例えば日南町の林業アカデミーで学んだ後、生まれ育った地域に戻り、林業従事者として活躍することを可能としています。その理由として、全国のいわゆる優良林業事業体であっても人材が不足し、後継者不足や担い手不足といった理由から経営が継続できない事例も多く存在しており、こうした全国の課題に対応すべく、日南町で学んだことを全国に持ち帰り、それぞれの地域のフォレストマネージャーとして、日本林業全体の発展に寄与してほしいとの願いを持っています。令和3年度末までの3期生は、延べ27名が入学し、19名が県内就職(うち、13名が日南町内の林業事業体等への就職)しています。令和4年度においても12名が入学し、現在学びを深めています。町内で就職した学生は、地元の森林組合や林業事業体で林業を担う人材として活躍しているとともに、地域の祭りごとや自治会組織への加入など、高齢化が進行する地域の維持・存続に欠かせない貴重な担い手として活躍しています。また、学生たちは林業実習、講義を受けるのみならず、町が推進する「生涯木育・森林教育」の指導者としても活躍しています。自ら学ぶことを子どもたちに伝えることで、客観的に物事を捉えるスキルや、地域内での交流、子どもたちをサポートすることで「森を護る者」としての自覚を持ち、学生たちはアカデミーを巣立っています。

林業アカデミー入学式

林業アカデミー入学式

木育・森林教育

木育・森林教育

4.森林の力を活かし、脱炭素社会の実現へ

2050年ゼロカーボンシティの宣言を行っている日南町。森林の持つ多面的な役割の中で、近年注目されているのが「脱炭素化」に向けた取組です。本町においては脱炭素社会の実現に向けて、企業と連携したJ-クレジット制度の取組に注力しています。J-クレジット制度とは、省エネルギー機器の導入や森林経営、バイオマス発電等の取組による二酸化炭素の温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度であり、創出されたクレジットは、低炭素社会実現へ向けた目標達成や、カーボン・オフセット等、さまざまな用途に活用することができます。

日南町では、恵まれた森林を「資源」として活用し、かつ持続可能な森林整備のための財源を確保するため、環境に配慮した森林整備を行うことが条件となる国際規格FSC認証を取得した町有林302haを対象に、6、604tのクレジットを平成25年度に取得。販売当初は制度の認知不足もあり、年間に数件、20~200tほどの販売に留まっていましたが、平成30年に転機が訪れました。制度に賛同する企業数も増加し、クレジットの販売量も625tと激増。以降、令和元年度に529t、令和2年度に658tと好調を堅持し、令和3年度においては、単年度で販売件数が100件を超え、販売量も1、974t(約17、000千円)と、過去最高の販売量となっています。その要因として、地球温暖化対策や脱炭素といった環境意識の高まり、またSDGsやESG経営といった企業の意識変化も追い風となっていると考えられますが、山陰合同銀行や鳥取銀行、米子信用金庫、第一生命保険鳥取支社等の地元金融機関とのコーディネート契約によるサポートも大きく影響しています。地元企業との結びつきの強い地方銀行の支援により、購入企業の裾野が広がっており、こうした地域金融機関とタイアップした販売戦略は、内閣府地方創生SDGs金融表彰や、総務省ふるさとづくり大賞、NIKKEI脱炭素アワード大賞受賞等、全国の優良事例として注目されています。クレジットの販売収益は、循環型林業の実現を目指すべく、民有林も含めた町内林の新植の財源として活用しており、林業アカデミーを卒業した学生らがJ-クレジットによって民間企業からいただいた財源をもとに新植の作業を行っています。

鳥取県知事も同席して行われたJ-クレジット売買契約調印式

鳥取県知事も同席して行われたJ-クレジット売買契約調印式

環境貢献型道の駅「にちなん日野川の郷」

環境貢献型道の駅「にちなん日野川の郷」

カーボンオフセット協力金として、すべての商品に 1品1円を付与

カーボンオフセット協力金として、すべての商品に 1品1円を付与

カーボンオフセット協力金として、すべての商品に 1品1円を付与

5.お買い物で森を守る、全国初の道の駅

平成28年にオープンした日南町の道の駅「にちなん日野川の郷」は、全国初の二酸化炭素を排出しない「環境貢献型道の駅」として運営しています。これは、道の駅で使用する電気やガス等を二酸化炭素排出量に換算し、町が所有するJ-クレジットでカーボン・オフセットすることで可能となっています。鳥取県内でも15番目、中国地方でも100番目の道の駅となることから、特異性をもった道の駅の運営を目指し、「環境にとことん配慮した、二酸化炭素排出ゼロの道の駅」としてオープンすることとしました。

また、道の駅で販売するすべての商品を寄付型オフセット商品とし、1品につき1円の寄付金を付与し、お客様からお預かりした寄付金をもとに年度末にJ-クレジットを購入することで、お買い物をすることで間接的に二酸化炭素の排出削減に貢献することができる仕組みを設けています。寄付額は年額で約20千円を超えており、現在、全国でも同様の取組を導入しようとする道の駅も現れています。

6.SDGs未来都市として、日本の30年先を見据える

令和元年7月、基幹産業である林業を基軸とした「第一次産業を元気にする~SDGsにちなんチャレンジ2030」をテーマに、SDGs未来都市に選定されました。日本が直面する過疎、少子・高齢化といった課題に正面から立ち向かい、日南町の取組が「日本の30年後の姿を創る」という自負を持ったまちづくりを行うため、産学金官の多様なパートナー、ステークホルダーと連携し、新たな経済循環を促す取組を推進していきたいと考えています。

日南町が取り組む環境の力を活かした持続可能なまちづくり、脱炭素社会の実現を目指す町の取組が県内外の教育機関から着目され、小・中・高校や大学等の修学旅行やSDGs学習の教育拠点として多くの児童・生徒が来町しています。また、都市部の大学との連携も積極的に進め、都市と地方の交流、「観光」から「環境」教育の誘致等も行っており、町民と関係・交流人口が集い参画し、環境の力を活かした町の成長へ向けた新たな息吹をもたらしています。

折しも、新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻、急激な金利変動等、VUCAの時代と言われる変革の時代において、多くの課題や気づきが浮き彫りとなりました。課題は発見し、解決していくことで、町の新たな成長へとつながります。

自然あふれ、ゲンジボタルとヒメボタルが同時期に同じ場所で鑑賞でき、また国の特別天然記念物であるオオサンショウウオも町の至るところに生息しています。こうした農村風景、環境を守り、活かし、受け継ぐ、持続可能なまちづくりの実現へ向け、町民総活躍の「創造的過疎のまちづくり」への挑戦を引き続き実践していきたいと思います。

日南町役場農林課 荒金 太郎

高校生によるSDGs修学旅行の受入。廃材 を活用した寄木細工のワークショップ

高校生によるSDGs修学旅行の受入。廃材を活用した寄木細工のワークショップ

高校生によるSDGs修学旅行の受入。 200年生の杉林での森林教室

高校生によるSDGs修学旅行の受入。200年生の杉林での森林教室