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島根県西ノ島町/人の力が主役となったまちづくり~「人の集う島」を目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年10月3日更新

隠岐を代表する世界一級の景勝地「国賀海岸」。大迫力の大絶壁は海抜257mで「摩天崖」と呼ばれる

▲隠岐を代表する世界一級の景勝地「国賀海岸」。大迫力の大絶壁は海抜257mで「摩天崖」と呼ばれる​​


島根県西ノ島町

3215号(2022年10月3日)島根県西ノ島町長 升谷 健

 


西ノ島町の概要

島根半島から北東へ約65㎞、日本海に浮かぶ隠岐諸島は大小180余りの島々から成り立つ群島型離島です。

この中で人が住む島は西ノ島(西ノ島町)、中ノ島(海士町)、知夫里島(知夫村)、島後(隠岐の島町)の4つで、島後に対して西ノ島、中ノ島、知夫里島の3つをあわせて、島前と呼び、大きく2群島に整理することができ、それぞれの島で1つの町村を形成しています。

西ノ島町は島前の3島のうち西ノ島を占め、面積約56平方キロメートル、人口2、788人(令和2年国勢調査)を有し、隠岐郡内の4町村では隠岐の島町に次ぐ2番目に大きな町です。

島の成り立ちが火山島で平地が少なく、外海側は日本海の厳しい風浪により形成された断崖絶壁や、巨大な岩の「架け橋」の通天橋など大自然が創り出した雄大な景色を堪能することができる隠岐を代表する景勝地として多くの観光客の方が訪れています。

内海側は、集落の背後に急峻な山が連なり、入江は天然の良港となり、古くから漁業を中心に発展してきました。

中でも、まき網漁業の生産額が大きなウエイトを占めていますが、船団で組織的に行われるまき網漁業は乗組員の高齢化と人員不足が課題となっていました。平成7年から事業主、JF、町が連携し「漁師になりませんか?」「漁師ほどおもしろい仕事はない」をキャッチフレーズに、全国から漁船員の募集を行う取組を続け、現在では、全乗組員の約半数を占めるまでになっています。

その他にも広大な放牧地を活用し、低コストで素牛生産を行う自営就農者への支援、全国に先駆けて本町で初めて成功した岩ガキの養殖を軸にした新規自営漁業者への支援等、町の持つ資源を活かした定住対策に約25年前から取り組み続け、Iターン者とその家族を含めた人数は約500人余りにのぼり、人口の2割以上を占めるまでになるなど一定の成果を上げています。

こういった産業の担い手の確保を進める一方で、住民の余暇の過ごし方が次第に大きな課題となっていました。

岩ガキの養殖

岩ガキの養殖

 

住民とつくりあげる図書館の誕生

人口3千人を切る町では幅広い世代が余暇の時間を過ごせる施設は限られています。こういった背景から、これまでのアンケート調査等で住民の方が整備を望む公共施設の上位にあった図書館の建設に取り組むこととなり、図書館の建設段階から、月に1回、図書館をテーマにした「縁側カフェ」と呼ぶワークショップを開催しました。

縁側カフェには図書館に関心のある住民は誰でも参加することができることとしました。そのため高校生から高齢者まで、幅広い世代が集まり、図書館にあったら良い設備や備品・図書館の開館をPRする方法・開館イベントでやってみたいこと等さまざまなテーマを設定し、提案を受け付け、意見交換を行いました。

縁側カフェでの意見交換の中から西ノ島町で初めて生まれる図書館には、基本的な図書館機能に加え、「コミュニティ」を育てる機能が必要との意見が多かったことから、整備する図書館のコンセプトは西ノ島の暮らしを支えるまちの居間「西ノ島みんなの家」となりました。

小さな島だからこそお互いの顔が見える安心感を大切にし、ひとつ屋根の下に集まって、「情報」や「もの」、そして「ひと」に出会う場所となること。この町に暮らす人々を支え、旅立った人々をつなぎ、そして訪れる人々を温かくもてなす場として、コミュニティをつなぎあう図書館となることを目指しています。

また、西ノ島には同じ名字が多いため、古くから名前ではなく屋号で呼び合う習慣が残っており、そこで図書館にも「いかあ屋」という屋号がつけられました。「いかあ屋」=「行かぁや」は、標準語で言えば「行こうよ」という意味で誰もが行きたくなるような場所になってほしいという思いが込められています。「いかあ屋に、いかぁや(行こうよ)」と、誰でも呼びやすく、西ノ島らしい愛称となっています。

最大5万冊収蔵可能な書架を備えた「メインライブラリー」に加え、大人がゆったりと本を読む「書斎」、アートや工芸等西ノ島町にゆかりのある作家を紹介する「つながりギャラリー」、お料理とものづくりの部屋「縁側キッチン」、お茶を飲みながらくつろぐ「縁側カフェ」、中高生の未来を考える本と郷土資料の部屋「みらいのへや」等の施設を備えた「西ノ島町コミュニティ図書館いかあ屋」は平成30年7月に開館し、既に8万7千人の方が来館されています。

西ノ島町の人口はおよそ3千人。この図書館がいかに多くの人に利用されているのかはこの数字が示しています。

海・家・本の3つの要素を組み合わせたロゴ

海・家・本の3つの要素を組み合わせたロゴ>

「西ノ島町コミュニティ図書館いかあ屋」全景。平成30年7月開館

「西ノ島町コミュニティ図書館いかあ屋」全景。平成30年7月開館>

「いかあ屋」における活動

外観と館内。右下から「メインライブラリー」「縁側キッチン」「縁側カフェ」

外観と館内。右下から「メインライブラリー」「縁側キッチン」「縁側カフェ」>

また、いかあ屋では開館以来、地元の高校生やボランティアの方と連携し、絵本の読み聞かせの会等子どもの読書環境を整備する事業を積極的に行い、仮装や図書館の飾りつけ等をするハロウィンイベントをはじめ子ども向けの各種活動等、地域の子どもたちへの図書館サービス事業を事業の中心として取り組んでいます。

図書館という静かなイメージを抱かせる場所でありながら、にぎやかにできる子どもの居場所づくりが評価され、「令和4年度子どもの読書活動優秀図書館文部科学大臣表彰」に選ばれました。

縁側カフェでの意見交換の中から西ノ島町で初めて生まれる図書館には、基本的な図書館機能に加え、「コミュニティ」を育てる機能が必要との意見が多かったことから、整備する図書館のコンセプトは西ノ島の暮らしを支えるまちの居間「西ノ島みんなの家」となりました。

毎月開催される縁側カフェには、開館から4年経つ今でも多くの参加者が集まります。

「やってみたい」「〇〇ならできる」といった声も多く、これらの参加者の想いや考えがなるべく図書館の運営やイベント等で実現するように努めた結果、縁側カフェの参加者たちに「やりたいと思ったことが実現できる。」という期待や「自分たちのやったことで人が喜んでくれる。」という達成感を持ってもらい、次の活動へつながる好循環が生まれているのではないかと思います。

読み聞かせの様子

読み聞かせの会の様子>

「人の集う島西ノ島」の実現に向けて

最近では漁業や農業等に関心を持ち、離島での暮らしに興味を持つ人々が増加し、都会で暮らす方々の中に田舎(離島)思考が広がっていると言われています。住居と仕事を確保し、UIターン者の増加を図りながら、そこに、住みやすさや子育てのしやすさをプラスアルファすることが、人口減少問題に歯止めをかけていくうえで必要だと考えています。

雇用創出の取組として、平成30年度から都市部のソフト産業の企業誘致を行ってきました。コロナ禍を契機に地方でのサテライトオフィス開設の動きの後押しもあり、東京都にあるIT企業1社の進出が決定し、令和4年7月から町内に事務所を構え営業しております。引き続き、この取組が地域経済の活性化や若年層にとって魅力のある就労の場の確保となるよう誘致を進めていきます。

町内には産婦人科医がおらず出産できないため、町外での出産に際して宿泊費の助成や町外通院に係る交通費の助成、保育料の大幅な軽減、高校終了までの子どもの医療費無料化等を実施しています。また、妊婦検診助成、保険が適用されない体外受精や顕微授精の特定不妊治療費についての助成も行っており、経済的負担を軽減するために少子化・子育て支援は特に町の重点施策として取り組んでいます。

これまでの移住・定住対策のさらなる取組を進めるとともに、縁側カフェを一例とする住民の方々と連携し「人の力」が主役となったまちづくりを進めることにより、総合戦略で定める町が目指す姿である「人の集う島西ノ島」の実現に向け取り組んでいきます。

また、一方で結婚から出産、子育てと進んでいく流れの中で、相談・支援体制の充実が重要なポイントです。病児保育等保育サービスの充実を図るとともに子育て支援センターや子育てサロン等の子育て家庭や妊娠中の方の交流の場を設けるなど、子育て環境の整備に取り組んでいます。
西ノ島には豊かな自然と連綿と受け継がれた文化があります。そしてこの島の魅力を語ることのできる人々が暮らしています。心豊かな島の人々が笑顔で西ノ島と世界をつないでいく。そんな未来を期待しています。

島根県西ノ島町長 升谷 健​

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