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長野県小海町/風土を活かした持続可能なまちづくり~憩うまちこうみ「リ・デザインセラピー」~

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年9月19日更新

森の中で行うヨガ。深い呼吸で自律神経を整えてい

▲森の中で行うヨガ。深い呼吸で自律神経を整えてい​​​


長野県高森町

3214号(2022年9月19日)長野県小海町長 黒澤 弘

 


小海町の概要

小海町は長野県の東部に位置し、西側に八ヶ岳連峰、町の中心部には千曲川が流れる風光明媚な町です。夏の冷涼な気候により、白菜、レタス等の高原野菜の生産が盛んで、観光のシンボルである松原湖高原は、夏は避暑地として別荘地やゴルフ場の利用者が訪れ、冬は全面結氷する湖面でワカサギ釣りを楽しむ観光客で賑わいます。

これまでの取組

長野県小海町では、地域資源を活用した持続可能なまちづくり施策「憩うまちこうみ事業」を推進しています。

事業のきっかけは、平成28年度に町民有志を中心に発足したまちづくり協議会において、関係人口創出のための取組を模索する中で、全国的に課題となっていた働き方改革や企業の健康経営に着目したことでした。企業のメンタルヘルスケア対策として、ストレスチェックが義務化されたものの、実施後の具体的な改善策を見いだせない企業に対し、都市部にない豊かな自然を活用した研修等で来訪を促すことが、新たな関係人口の創出につながるのではないかと考えました。企業のニーズを満たしながら、町への経済効果をもたらす仕組みとして構築したのが、憩うまちこうみ事業の核となるヘルスツーリズムプログラム「リ・デザインセラピー」です。

「気づき」のための「リ・デザインセラピー」

忙しいとき、仕事熱心な人ほど自分自身のことは後回しにして、不調やストレスのサインに気づきにくい傾向があります。そんな「気づき」の感覚を養うために、自然の中で五感を刺激する「森林セラピー」をベースに、小海町の自然資源や食文化を活かした4つの要素〈リラックス、メディテーション、デトックス、コミュニケーション〉を持つプログラムを構築しました。複数のプログラムを体験してさまざまな角度からアプローチすることにより、変化をすぐに受容できない状態でも少しずつ自分のペースで感覚を開くことができる点も小海町のプログラムの特徴です。

メインとなる森のセラピーウォークでは、植物に触れ、香りを感じ、水の流れる音や鳥の声に耳を澄ますことで、自分の外側にあるさまざまな刺激に意識を向けるとともに、深緑の中でリラックスすることで自分の日常を振り返る時間を過ごします。

森の中で行うヨガでは、ゆっくり身体を動かしながら深い呼吸で自律神経を整えて、心と身体の状態に気づき、自分自身を内観する感覚(メディテーション)を体験します。

食事は、旬の野菜等を中心とした地産地消の食材をバランスよく摂取して腸内環境を整え(デトックス)、思考や睡眠に適したほど良い食事量を体感するきっかけになります。

滞在を通して感受性が豊かになった状態で、満点の星空の下、仲間と焚き火を囲めば、日常とは異なる視点や感性での話題が生まれコミュニケーションを深めることができます。

これらのプログラムについてはパッケージ化しておらず、企業のニーズや目的、日程に応じて柔軟に対応しており、他にもワカサギ釣りや農業体験、町民や役場職員との交流等リクエストがあった際も、オーダーメイドのプログラムとして提供できる体制を整えています。

地産地消の食材を使ったセラピー食

地産地消の食材を使ったセラピー食

地産地消の食材を使ったセラピー食

 

担い手は町民セラピスト

事業立ち上げから7年目となる現在、町役場の中に事務局を設置し、役場職員と地域おこし協力隊がプログラム構築や企業との折衝、スケジュール調整、新規の協定企業獲得に向けた営業活動を担当をしています。さらに、今年度から新たに「地域プロジェクトマネージャー」が加わったことで協定企業の新たな事業提案への対応やセラピープログラムの開発が期待されます。

各プログラムの担い手となる「セラピスト」は町民の公募制で、研修を重ねて基準を満たせばセラピストとして認定され、企業受入れの際には有償でセラピーを担当します。町民にとっては自然も文化も身近にある生活の一部ですが、来訪者と触れ合う中で改めてその価値を再認識して知識を深めるとともに、フィールド整備やごみ拾い等を積極的に行う中で、セラピスト同士の横のつながりもでき、新たなコミュニケーションの場としても機能しています。

深緑の中で行われるセラピーウォーク

深緑の中で行われるセラピーウォーク

 

町と企業とのコミュニケーション

事業当初より個人客のプログラム受入れを行っておらず、BtoBの事業として企業と町が協定を結び、「町と企業の協働による双方の活性化」を目指しています。令和4年3月末現在の協定企業は19社、関わり方は企業によってそれぞれ異なっています。新人やキャリア研修、経営会議、福利厚生等で来訪するほか、特産品の発送やふるさと納税の利用、企業主催による町内イベント開催等、多岐にわたっています。

また令和元年度には、松原湖畔の旧食堂の建物が、協定企業のニーズに応える形で、憩うまちこうみ拠点施設としてリノベーションされました。

森林プログラムのフィールドでもある松原湖畔での研修やリモートワークにも利用でき、企業の従業員の皆さまからは大変好評です。

働き方が多様化し、在宅勤務によるストレス対策や社員間のコミュニケーションが新たな課題となっており、今後の活用についてモニターツアー等を行いながら、企業との意見交換や試験運用を重ねています。

森林サービス産業モデル地域に選出

令和2年度には、国土緑化推進機構による森林サービス産業モデル地域に選定され、4泊5日の自然環境でのワーケーションを想定した効果測定を実施しました。アンケート形式による主観的回復感、活力感、生活習慣、睡眠状態の数値が滞在後には改善しており、生産性テストの評価も向上、不安抑うつ尺度および人生満足度尺度では、滞在2カ月後まで長期的に改善の傾向が見られました。

こうしたエビデンスは今後の利用に際して指標となることが期待されます。同時に、セラピーの効果を可視化するうえでも重要だと考えておりますので、引き続き利用者の皆さまにご協力いただきながら、測定データを収集し、各プログラムのさらなる質の向上を図っていきたいと思います。

拠点施設での企業研修風景

拠点施設での企業研修風景

 

憩うまちこうみのこれから

この事業をきっかけに新たな展開も生まれています。

協定企業の提案に端を発した「ワイン用ブドウ栽培」には、事業に携わる地域おこし協力隊を募集したところ20代の4名の地域おこし協力隊から応募があり、協定企業の従業員の皆さまと交流をしながら小海産ワインの醸造を目標に日々事業に取り組んでいます。また、都内のIT企業が支店をつくり、町内で使用されていなかった養殖場を整備してイワナの養殖を行う等、少しずつですが、町にも活気が生まれつつあります。

さらに、企業版ふるさと納税を活用して、ゼロカーボンシティに向けての施策を町とともに進めたいという企業も現れました。

コロナをきっかけにこれまで当たり前であった日常や価値観は大きく変わりました。これからの行政には、社会の変化に敏感となり、いち早く対応していくことが求められます。

今後は、これまでコロナ感染拡大の影響もあり開催できませんでしたが、協定いただいた企業の皆さまが一堂に会し、町をフィールドにした新しい取組の構築ができる機会を創出しながら、この事業のコンセプトでもあります「訪れる人すべてが憩えるまち」実現に向け、関係者と事業の拡充を進めてまいります。

小海町長 黒澤 弘

リノベされた憩うまちこうみ拠点施設

リノベされた憩うまちこうみ拠点施設