▲三宅町野球グローブ100周年記念事業オープニングイベント
奈良県三宅町
3209号(2022年8月8日)
三宅町外部人材アドバイザー 宮武由佳
奈良県磯城郡三宅町は、人口は6、661人(2022年3月現在)、面積は4・06平方キロの全国で2番目に小さい町。大阪・京都等の都心部と山間地帯の中間にあり、それぞれにアクセスしやすい「ちょうどいい田舎」です。
自称・おもてなし発祥のまち
三宅町は、自称・おもてなし発祥の町です。その起源は飛鳥時代に遡り、聖徳太子が法隆寺建立のために「飛鳥京」から「斑鳩(いかるが)の宮」を往来していた道「太子道」が、町の中心を通っています。「法隆寺街道」とも呼ばれ、生活道路として人々に利用され、現在は町道70号線として活用されています。
道沿いには、聖徳太子にまつわる伝承が多く残っており、その足跡を辿ることができます。太子道の北端にあるのが屏風杵築神社。「屏風」という地名は、当時の村人が屏風を立てて聖徳太子を接待していたことから名づけられたそうです。また、その向かいにある白山神社には、聖徳太子が休憩をするときに腰をかけていたと伝わる「腰掛石」があります。
こうしたおもてなしの心は、時代を超えて三宅の人々の心に受け継がれています。社会福祉の父として知られている僧侶・忍性さんは、鎌倉時代に三宅で生まれました。ハンセン病患者や貧民等の社会的弱者と呼ばれる人々の救済に生涯を捧げたことで有名です。忍性さんの思いは今にも息づき、現在の三宅町でも子どもたちの見守りやガイド等、ボランティアの精神が根付いています。
グローブ生産100周年
三宅町では、地場産業として革製品製造業、特に野球用グローブ・スパイク等のスポーツ用品の製造が盛んです。2021年には、グローブの生産が三宅町で始まって100周年を迎えました。節目を記念して実行委員会をつくり、工場を訪問して職人の手仕事を間近で見ることができる「オープンファクトリー」等のイベントを開催しています。三宅町出身の元プロ野球選手・駒田徳広さんには、トークイベントに参加していただきました。また、現メジャーリーガーの筒香嘉智さんを支えるスパイクやシューズは、三宅町のメーカーから生まれています。
▲グローブの写真
▲100周年記念イベントの写真
三宅町では、町の未来を一緒につくっていく役場職員の採用にあたって、2021年、ビジョン・ミッション・バリューを制定しました。採用応募者や役場職員だけではなく、住民さんにもしっかりと伝えています。
ビジョン「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」
住民の方が自分らしく夢に挑戦し叶えられる町を目指していく、という思いが込められています。自分らしい状態とは、住民の方が自由に生き方を選べる状態のこと。やりたいことを叶えるとき、夢を追いかけるとき、何らかのしがらみにとらわれることがない状態です。1人ひとりの「やりたい」の実現を、町ぐるみで応援する。そうすることで町が元気に魅力的になる、そんな未来を描いています。
ミッション
「伴走者」であり「共創者」として
ミッションは、ビジョン実現における肝であり、住民の方と三宅町役場との約束です。役場職員は住民の1番近くで、伴走者として寄り添い、ときには同じ速度で、同じ歩幅で、隣に並んで走ったり、ときにはペースメーカーとして引っ張ったり励まし合ったりして切磋琢磨し、一緒にゴールを目指す存在でありたいと思っています。
バリュー「対話」「挑戦」「失敗」
バリューは、ビジョンとミッションの実現のため、三宅町役場が大切にする行動指針です。まず、「対話」は役場職員のDNAだといえます。全国で2番目に小さい町だからこそ住民の方との距離が近く、町は対話から常に変化してきました。1つの施策として、町長と住民の方とが直接対話できる「タウンミーティング」を定期的に開催し、住民の方から意見やアイデアをもらい、町政に活かしています。
また、公務員の世界では、失敗が許されず挑戦を良しとしない雰囲気があったり、通常業務が忙しく挑戦する時間の余白がなかったりと、挑戦しにくい現状があります。そこでバリューに「失敗・挑戦」を加え、挑戦をした結果の失敗を糧に、成長できる組織を目指しています。バリューを人事評価に含め、職員同士が「バリューにそった仕事ができているか?」と会話をして、仕事の仕方を見直すきっかけにもなっています。
▲ビジョン・ミッション・バリュー
三宅のまちづくりの特徴として、ビジョン・ミッション・バリューに共感する仲間が町内外から集まり、まちづくりを進めていることがあげられます。昨今多様化する住民ニーズに対応するためには、今までとは異なる新しい手法にスピード感をもってチャレンジしていかなければなりません。しかし、行政だけでは、人材や予算等のリソース不足が壁となってしまうのです。そこで、町の想いに共感してくれる民間企業と手を組み、官民連携を積極的に進めています。
まず、少子高齢化の問題に直面している三宅町で特に力を入れている、子育て支援についてご紹介します。
24時間いつでも専門医に相談ができる「オンライン診療」
町内には小児科がなく、隣町に車で片道約15分かけて行かなければならない現状があります。ですので、働きながら子育てをしている方が時間内に受診するには、仕事を休む必要があります。また、夜間の急な体調の変化には対応し切れず、安心して子育てをできる環境とは言えません。
そこで、24時間いつでも相談ができる仕組みをつくりたいと考え、2020年3月、株式会社Kids Publicと提携。LINEや電話で気軽に産婦人科医・助産師・小児科医に相談できる「産婦人科オンライン」「小児科オンライン」を、住民の方は無料で利用することができます。2022年4月からは、妊娠中・授乳中の状況をふまえた薬の情報検索ができるシステム「妊娠と授乳のくすり案内ボット くすりぼ」の提供も開始。安心して妊娠や出産、子育てができる仕組みづくりにつながっています。
森田浩司町長も利用者の1人です。「ある夜、息子の体に湿疹を見つけてメールで写真を送ると、1時間後くらいに専門医から回答があり、とても安心した」と、サービスの品質の高さを実感しています。予約をしておけば、専門医と直接テレビ電話で話すこともできます。利用いただいた方への調査では、満足度は100%と非常に高い結果に。住民の方の子育て支援になくてはならないサービスです。
保護者の負担軽減と、保育士の業務改善につながった「手ぶら登園」
保育園を利用する際、保護者は名前を書いた紙おむつを自宅から持参し、使用済みの紙おむつを自宅に持ち帰らなければなりませんでした。保護者からは「汚れたおむつを持って帰るのは困る」という声や、コロナ禍では、園から持ち帰るものを通じて家庭に感染を広げてしまうのでは、という問題意識がありました。
そこで2020年7月、コロナ対応の臨時交付金を活用し、BABY JOB株式会社が運営する紙おむつ定額制サービス「手ぶら登園」を、公立園では全国で初めて導入。保護者の負担や衛生面のリスクをなくすことができました。
保育士からは「業務にかかる時間が短縮でき、おむつの取り間違いという混乱もなくなったので、とても助かっている」という声があがっており、業務改善につながっています。また、この取組の当事者ではない年配の住民の方から、「良い取組なので継続してほしい」と2年連続でご寄附をいただくという嬉しいできごともありました。
今年度からは、ふるさと納税の寄附金の一部を活用しており、町外からも三宅の子育て環境を応援していただいています。また現在、渋谷区をはじめ全国でも導入が進んでおり、全国で2番目に小さい町から、子育てを応援する取組が広がっています。
ドローンを活用した農薬散布の実証実験
農業分野でも、行政が伴走者となって取組が進んでいます。2020年夏、全国的にトビイロウンカという害虫の水稲枯死被害が広まり、三宅町においても町の6割の圃場で被害がありました。そうした中、農業委員会会長から相談を受け、行政として何か支援をできないか検討し議論を重ねた結果、実証実験的にドローンを使って農薬を散布することに。農家の方たちへの農薬の啓発、協力要請を行ないました。効果を測るにはまとまった範囲での散布が必要だったため、農業委員や自治会で地権者の異なる田んぼのとりまとめを行なってもらい、2021年、町内6地区において、各地区1ヘクタール程度のエリアについて、ドローンでの農薬散布を実行しました。
1000平方メートルほどの一般的な田んぼで、3、4時間かかっていた農薬散布が5分で完了しました。低コストで効率的な農薬散布を実現。農家の方には、周囲と協力して農作業をすることで効率化ができることを実感していただけました。今後は行政主導ではなく、町全体で農業を支える仕組みができると期待しています。
交流まちづくりセンター「MiiMo(みぃも)」を拠点に新たな官民連携を
2021年12月、三宅町役場庁舎前に交流まちづくりセンター「MiiMo(みぃも)」がオープンしました。MiiMoは、三宅のビジョン・ミッション・バリューを体現する場所。「三宅町の将来を育むまちの拠点」をコンセプトとして、公民館や図書室、学童保育等の機能を兼ね合わせており、交流が生まれる仕掛けがたくさん詰まったMiiMoで新たな官民連携の取組も今後、加速させていきたいと考えています。
MiiMoを拠点に行なわれるまちづくりの活動の1つ「MiiMo子ども会議」では、小中学生がMiiMoや三宅町でやりたいことについて話し合います。会議で「駄菓子屋さんをやりたい」という話になり、その原資について、登録制のシェアキッチン「MiiMo食堂」の皆さまから「売上を使ってほしい」と提案があり、費用を捻出しました。MiiMo内で循環型の経済システムが生まれ、MiiMoで子どもたちの夢を叶えることができたのです。
MiiMoをハブとして世代を越えた交流が生まれ、町が元気になり、住民さんが自分の夢を描き挑戦していく。三宅町は、日本一、夢を叶えられる場所を目指しています。
▲町長の子育ての様子
▲ドローンを活用した農薬散布
▲miimo写真
▲みぃも駄菓子屋1
▲みぃも駄菓子屋2
今後も三宅町は、ビジョン「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」の実現に向け、1人ひとりが「自分ごと」でまちづくりに取り組んでいきます。まちづくりの主体はあくまで住民の方であり、行政は応援する立場。住民、民間、行政それぞれに役割をもって、町の未来をつくっていく。そして皆が一体となるとき、大きなエネルギーが生まれ、三宅のビジョンが実現できると思っています。