ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 北海道栗山町/ケアラー(無償の介護者)を地域で支えるために~市町村初の「ケアラー支援条例」の制定(令和3年4月)~

北海道栗山町/ケアラー(無償の介護者)を地域で支えるために~市町村初の「ケアラー支援条例」の制定(令和3年4月)~

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年11月15日

御大師山からの街並み

▲御大師山からの街並み


北海道栗山町

3180号(2021年11月15日)栗山町長 佐々木 学


1 栗山町の概要

栗山町は、北海道の中央部、空知総合振興局管内の最南部に位置する人口約1万1、300人のまち。札幌市や新千歳空港、苫小牧港からそれぞれ車で約1時間道の好立地にあり、アクセスの良さが魅力です。

また、国蝶オオムラサキ生息の北東限とされる自然豊かな地域で、基幹産業の農業では、水稲や小麦をはじめ、メロン、ばれいしょ、アスパラなど、道内有数の多品種の農産物が収穫されているほか、商業、工業もバランス良く発展しています。

 

 

2 地域の潜在力を活かしたまちづくり

栗山町では、「ふるさとは栗山です。」を合言葉に、地域の潜在力(地域の魅力・資源、町民力)を活かしたまちづくりを展開しており、若者移住にもつながる取組として、道内外からの「新規就農者」の積極受入を進めているほか、廃校を再生した「雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウス」を拠点に自然環境教育を推進するなど、地域の人・もの・ことを教育資源とした独自の「ふるさと教育」を展開しています。

また、本稿でご紹介するケアラー支援のほか、子育て支援の充実や、健康寿命延伸の取組など「福祉のまち・栗山」を目指した各施策も積極的に推進しています。

雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウス

▲雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウス

 

 

3 ケアラー支援のはじまり(ケアラー実態調査)

家族や近親者を介護する無償の介護者であるケアラーを地域で支えるために…。

栗山町が、ケアラー支援に取り組む一つの契機となったのが、町社会福祉協議会(以下「町社協」)が日本ケアラー連盟から協力依頼を受けたケアラー実態調査(平成22年、全国5地区の一つ)の実施でした。この実態調査の結果から、町内の全世帯の約15%(960世帯)にケアラーがいること、うち約60%が疾病などによる体調不良を訴えていることがわかりました。

また、ケアラーの多くが日常生活で心身の不安を抱え、また、将来に不安を感じていることもわかり、介護保険サービスだけでは解消できない問題として認識されました。

平成27年の2回目の実態調査ではケアラーの割合が約19%となり前回より4ポイント増加、また、「気づかいケアラー」(※)が8%いることがわかりました。令和2年の3回目の実態調査では、前回と比べてケアラーの割合に変化はありませんでしたが、「気づかいケアラー」が15%となり、前回より7ポイント増加しました。このような状況の中、介護形態も多様化(老々介護、就労介護、多重介護、遠距離介護など)してきており、ケアラー自身の生活・健康への影響はもちろん、医療費や介護費用の増大など、地域社会に与える影響も大きくなるものと想定されました。

以上のことから、栗山町では、将来を見据え、要介護者への支援のみならず、要介護者を取り巻く生活環境全体に視点を置き、全てのケアラーが心身ともに健康で働き、学び、人生を楽しむことができる環境を町全体で作り上げていくことが必要と考えたのです。

(※気づかいケアラーとは、「心や身体に不調のある家族や身の回りの人への気づかい」のみをしているケアラー)

​​​

 

4 実践を積み重ねる(ケアラー支援の取組10年)

栗山町では、過去10年以上にわたり、町社協が中心となり、ケアラー支援の観点からさまざまな事業を展開しました。

①命のバトン

ケアラーの声で多く聞かれた一つが、「自分が倒れたらどうしよう」という不安の声でした。そこで取り組んだのが「命のバトン」事業です。緊急連絡先、かかりつけの医療機関などの情報を記入した安心カードを円筒容器に入れ、冷蔵庫に保管して緊急時に備えるものです。町内会や民生委員の協力によりケアラー世帯だけではなく、一人暮らしや高齢者世帯にも配布をしています(約600本を配付)。

②在宅サポーター

「命のバトン」の配布世帯を定期的に訪問する「在宅サポーター」を育成し、話し相手や悩みごとの相談にあたっています。サポーターが得た情報は、町内会長や民生委員・児童委員、地域包括支援センターなどに提供されており、地域サポートの基盤の一つとなっています。

③宅配電話帳

介護などにより「買い物に行けない」「通院が大変」など、日常生活に不便や不安を感じている世帯が多いことから、町内商店などに呼びかけて「宅配電話帳」を作成し、全世帯に配布しました。

④熟年人材登録

熟年世代(50歳以上)の方に、これまで仕事や生活で培った技術や趣味活動を地域で活かしてもらうものです。元気な時から町民同士が交流することで、健康づくりや介護予防はもちろん、地域で支え合う関係づくりへとつなげる取組です。

⑤ケアラー手帳

ケアラーの多くが介護という縛りの中で身動きが取れなくなり、自分自身の体調にも気配りができない状態にあることから、ケアラーと地域をつなぐツールとして「ケアラー手帳」を作成しました。

手帳の内容は、全国の介護体験者の事例集に始まり、相談窓口や気分転換法の紹介、困った時のサービス早見表、ケアラーの体調チェック表、健康診断の記録、知っておきたい介護技術、つぶやきコーナー、訪問者メモなどで構成されています。

⑥まちなかケアラーズカフェ

「1週間以上、人と話をしていない」「介護の合間に息抜きできる場所があれば…」などの声がサポーターに多く寄せられました。ケアラーや一人暮らしの高齢者など、支える側も支えられる側も自由に集まり交流する地域のたまり場として、まちなかケアラーズカフェを開設しました(同様の施設が、町内に4カ所)。

⑦ケアラーアセスメント

ケアラーの体調などの変化を把握し、サービス提供などにつなげようと「ケアラー度」(心身状況を5段階で評価)を可視化しました。

ケアラー宅を訪問し、休息・睡眠の状況、支援してくれる家族の有無などを聞きとり、例えば、心身ともに健康な場合は、「ケアラー度1」(いきいき)、要介護者に手を上げそうになる状態だと「ケアラー度5」(へとへと)とするなど、第三者の目で評価しています。

⑧ケアラー支援専門員の配置

まちなかケアラーズカフェにケアラー支援専門員(通称:スマイルサポーター)を配置し、ケアラーへの相談支援のほか、リフレッシュ講座などの交流会を開催するなど、気軽に相談できる環境を整えました。

このほか、今般の新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ケアラー世帯や1人暮らしの高齢者世帯への安否確認や、不安や悩みごとの相談に応じる電話連絡を実施したほか、ケアラー支援相談専用ダイヤルを設け、スマイルサポーターによる常時の電話相談を始めました。

命のバトン

▲命のバトン

 

ケアラー手帳

▲ケアラー手帳

 

まちなかケアラーズカフェ

▲まちなかケアラーズカフェ

 

スマイルサポーター

▲スマイルサポーター

​​

 

5 ケアラー支援条例制定へ

前述のとおり、平成27年に実施した2回目のケアラー実態調査において、町内全世帯に占める「ケアラー」の割合が19%となり(前回比4ポイント増加)、また、約10年に及ぶケアラー支援の実践から、介護に対する町民の意識が高まり、同時に、介護経験のない方の8割が将来の介護に不安を感じていることが明らかになりました。

このことから、栗山町では、将来にわたってケアラー支援事業を継続する必要性を強く認識し、条例制定を目指すこととなったのです。

平成31年3月、町社協により、町内の福祉関係団体で構成する「栗山町ケアラー支援推進協議会」が設置され、これまでの実践活動を踏まえた条例化に向けた議論が進められました。そして、約1年間に及ぶ協議を積み重ねた結果、住民による条例素案が作成され、町に提出されるに至りました。

また、条例制定にあたっては「ケアラー」という言葉と、その意義に関する認知度のさらなる向上が課題となり、研修会・学習会の開催をはじめ、ケアラー支援の活動周知やイベント周知を行う定期の「ケアラー通信」を発行したほか、ホームページやSNSを活用するなど、さまざまな世代や目的に応じた広報活動の工夫を行いました。

​​​

 

6 令和3年4月に条例施行 ケアラー支援推進計画策定へ

以上の経過から、町議会における審議・議決を経て、「栗山町ケアラー支援条例」が令和3年4月に施行されました。

条例の基本理念は「ケアラーが孤立することのないよう社会全体で支える」ことであり、全てのケアラーが健康で文化的な生活を営むことができる地域社会の実現を目指すものです。

町の責務として、ケアラー支援に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための推進計画の策定と、 その施策に対し、広く町民参加の機会を提供することが義務付けされており、町民、事業者、関係機関それぞれの役割も規定されています。

条例制定は目的ではなく、10年の実践を未来につなげるためのもの。町では、条例に基づき、現在、令和5年度までを計画期間とする「栗山町ケアラー支援推進計画」の策定を進めています。

ケアラー支援条例の概要

▲ケアラー支援条例の概要

 

 

7 今後の課題ケアラー支援の拠点設置など

町と町社協は、計画策定における今後の課題として、主に次の3点を柱に据えています。

①拠点機能

相談支援、啓発事業、生活支援等を一元的に担う拠点として専門職員を配置した「ケアラー支援センターの設置」検討を進めること。

②生活支援体制

地域住民やボランティアによる見守りやごみ出し、除雪などの生活支援体制の拡充を図ること。併せて、ボランティア人材を養成し、有償ボランティア制度の拡充を図ること。

③アセスメント機能

過去に実施したケアラーアセスメントを継続し、データベース化するなど、個々のこまやかなニーズに対応していくこと(町社協の講習を受けた町民の「ケアラーサポーター」らによる在宅訪問等の強化が鍵となるもの)。

​​​​ケアラーサポーター養成講座

▲ケアラーサポーター養成講座

 

 

8 結びに…ケアラー支援条例が目指すもの

ケアラー支援条例は、本町が町社協とともに取り組んできたケアラーズカフェの設置や、支援専門員の配置など、10年に及ぶ活動の集大成として、また、将来にわたって誰もが安心して介護や看護ができるまちを目指すため、他市町村に先駆けて制定したものです。

介護者が高齢となり、その負担が孫世代にまで拡大している一方、生活様式や家族形態も多様化しています。そして、ケアラーは潜在化し、要介護者とともに引きこもり、孤立していく危険性があります。

現在、当事者や関係機関等に参画いただき、ケアラー支援推進計画の策定に取り組んでいますが、まちなかカフェの全町展開や相談支援窓口の一元化のほか、ヤングケアラーの早期発見・支援に向けた取組を進めるなど、引き続き、条例の基本理念である「ケアラーが孤立することのないよう社会全体で支える」仕組みづくりを進めてまいります。

また、この取組が全国に広がることを期待し、そして国や北海道が率先して法整備や支援をしていただけるよう、情報発信を続けていきたいと考えています。