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熊本県五木村/「ひかり輝く五木村」~村民が主役の村づくりを目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年10月25日

クリアカヤック体験風景

▲全国一級河川水質日本一「清流川辺川」にて
(クリアカヤック体験風景)


熊本県五木村

3178号(2021年10月25日)五木村長 木下 丈二


五木村の概要

本村は、熊本県の南部にあたる人吉球磨地域の北部に位置し、北と西は八代市、南は多良木町、相良村及び山江村、東は水上村に隣接した村であります。

村全体が九州山地の脊梁地帯にあるため、標高1、000~1、500mの山岳が連なり、94%が山林であります。平坦部は非常に少なく、深い峡谷が縦横に走る急峻な地形を有しています。また、村の総面積は、252・94㎢(東西20・7㎞、南北17・5㎞)で、村の中央を南北に貫流している「清流 川辺川」は、国土交通省による「全国一級河川の水質調査結果」では、平成18年から15年連続で「水質が最も良好な河川」と評価を受けた清流を有する自然豊かな山村であります。

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川辺川ダム建設計画の経緯と人口減少

昭和38年から3年連続して発生した豪雨災害により、本村のみならず、球磨川水系流域の人吉市や八代市等においても甚大な被害(死傷者65人、家屋の全壊流失1、515戸、床上浸水3、707戸)が生じたことを契機に、昭和41年に建設省から洪水調節を主目的とした川辺川ダム建設計画が発表されました。

この計画は、本村の人口の約半分が居住する地域で役場等の主要な機能が集中する中心地も水没するものでありました。

計画発表以来、本村の存亡をかけた対策がとられてきましたが、長引くダム問題に起因する水没予定地域の村民の精神的疲労、高齢化に伴う生活再建への不安、本村の将来やダム建設の目的等から、平成8年10月に大局的な見地に立って“ダム建設やむなし”と苦渋の決断をし、ダム本体着工に対し同意を行いました。

以降、本村はダム建設を前提とした村づくりの取組を進めてきました。

しかし、平成20年8月、球磨川流域の一部首長がダム建設に反対を表明し、続いて、同年9月、熊本県知事もダム建設の白紙撤回を表明されました。さらに、翌年9月に、国土交通大臣もダム建設の中止を明言されました。こうした一連の表明により、ダム本体着工同意以降進めてきたダム建設を前提とした村づくりは、混沌とした状況となりました。

このような状況の中、喫緊の課題である本村の振興については、県と共同で策定した「ふるさと五木村づくり計画」に基づくソフト施策、平成23年6月の国、県、村の三者合意に基づく基盤整備に取り組んできたところであります。

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人口減少による村の対策

本村は、ダム建設計画と少子高齢化により、急速な人口減少が進んでおり、人口減少の歯止めをかけるための対策が急務となっております。

人口減少の対策として、村では移住定住人口を増加させることを第一義として取組を行っております。

近年では、生活環境意識の変化により、都心部から地方へ移住を検討される若年層の方が大幅な増加傾向にあり、本村においても全国各地より移住の希望の問い合わせが増加しております。令和2年度においては、移住・定住サイトへのアクセスが、約18、300件となっており、移住・定住支援サイトを活用した情報発信や移住・定住専門誌及び民間不動産情報サイトへの空き家バンク情報の掲載により、電話やメールによる移住の相談件数も一気に増加しております。

また、現地見学を希望される方には、住宅を含め村内各所を案内するとともに、地域の方と面会いただくなど、きめ細かな対応を行ったことで、過去最多となる18人の移住につながりました。

さらに移住専門誌で発表された「住みたい田舎ベストランキング」では上位にランクインするなど、移住先としての五木村の認知度の向上に寄与いたしました。

今年度においては、本村の自然環境の魅力や子育て支援生活に必要な充実した支援制度の周知を積極的に発信したうえで、空き家バンク登録数の増加を図るため、点在する空き家の発掘や空き家を有効活用した住宅整備等の検討を行うとともに、移住後の新生活に困らないような就業斡旋や地域コミュニティへの参加サポートの充実を図っていくこととしております。

引き続き地域おこし協力隊制度を活用し、地域の担い手として集落機能の維持と地域力の向上を図るため、外部人材を積極的に登用していくこととしております。

また、昨年、施行されました「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律」に基づき「マルチワークによる雇用の創出」によって、産業の担い手不足に悩む地域事業者と地方への移住を望む若者をつなぐ制度として、村内9つの事業者で構成する「五木村複業協同組合」を今年の6月に設立をし、9月30日には、熊本県より「特定地域づくり事業協同組合」として、熊本県内で初の認定を受けたところであります。

この「五木村複業協同組合」を設立したことにより、人材回帰の受け皿として雇用の創出はもとより、地域力の向上、地域活動への参画を通じて、地域おこし協力隊とともに地域の活性化の担い手として活躍をしてもらうことを期待しておりますとともに、村としましては、新たな働き方づくりに挑戦し、地域の魅力を高めていく組織に対しまして全面的な支援をしてまいります。

五木村複業協同組合創立総会

​​​▲五木村複業協同組合創立総会(村内9事業所)(令和3年6月4日)

 

渓流ヴィラITSUKIを拠点とした観光振興

従来、本村を訪れる観光客のほとんどが、日帰り通過型の観光でありましたが、宿泊客の増加を図るため、村では観光交流の拠点施設の要となる新たな宿泊施設「渓流ヴィラITSUKI」を平成31年4月にオープンいたしました。

緑の山々に囲まれた「清流川辺川」のほとりにある喧騒を離れてゆったりとした時間を過ごすことができるお洒落でラグジュアリーなコテージと周囲にはパンプトラックやスラックライン、ボルダリングなどのアクティビティを取り入れた「森の遊び場」を有する大自然を満喫できる施設となっております。

また、前方には「バンジージャンプ」のジャンプ台が望め、川辺川では川魚釣りやカヤックが体験できる施設となっており、「渓流ヴィラITSUKI」を拠点にアウトドア体験を実施するなど観光客の滞在時間の延長や村内各観光施設の回遊性の向上につながっております。

平成28年の熊本地震や、令和2年からの新型コロナウイルス感染症拡大、令和2年7月の豪雨災害の影響等、三重苦の中で、本村を訪れる観光客数は大幅に減少しましたが、観光振興における「渓流ヴィラITSUKI」の中核的な役割により、令和2年度の総入込客数は、12万4、000人と約3割減少(平成27年度と比較)したものの、宿泊客数は3、200人と約3割の増加となっています。

​​渓流ヴィラITSUKI 宿泊棟(外観)

▲渓流ヴィラITSUKI 宿泊棟(外観)

 

渓流ヴィラITSUKI 宿泊棟(内装)​​

▲放水路呑口完成イメージ図

 

 

幻の柑橘“くねぶ”を活用した産業振興

本村の耕作面積は、総面積の1%未満であり、認定農業者も3戸にとどまっております。また、現在は、高齢化が進み担い手及び後継者不足からくる耕作放棄地が問題となっております。

そこで、本村の地域特性を活かした兼業による生産が可能な作物を中心に、地域ならではの産品づくりに挑んでおり、道の駅などを拠点に集出荷の支援や情報発信等を行い、生産と販路をしっかり結び付け、併せて6次産業化・農商工連携による産品の高付加価値化に取り組んでおります。

特産化の中心として、現在は、五木村と鹿児島県の離島、沖縄県にわずかに残る「幻の柑橘」と言われる希少な地域資源である「くねぶ」を振興作物と位置づけ、「五木村くねぶ生産組合」を設立し、五木村、第三セクター㈱子守唄の里五木及び五木物産館出荷協議会が一体となって活動に取り組むことで、栽培・商品製造・特産化に向けた基盤づくりを目指しております。

商品としては、「くねぶシロップ」や「くねぶストレート果汁」等、実需者向けの商品化を図り、将来の多様な商品展開に備えた取組を行っており、期間限定ではありましたが、大手製菓業者「UHA味覚糖」の原料に採用され、「ぷっちょ幻のみかん味」として、全国販売が実現しました。

また、現在、利用している既存の成木に合わせ、新たに村営展示圃場を活用し、栽培指導を実施するなど幼木の栽培にも力を入れ生産拡大を図っており、令和8年には、現在の収穫量の約4倍となる8tの収穫を見込んでおります。

くねぶ果実

▲くねぶ果実

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葉枯らし天然乾燥材による産直住宅のブランド化

林業につきましては、国産材の価格低迷と鳥獣被害、特に鹿による食害・剥皮被害が林業経営の意欲低下を招いており、さらに林業従事者の高齢化及び後継者不足により、就業者数が減少傾向にありますが、林業は村の主産業であり、森林は有効な産業資源であります。

戦後植栽した森林は、40年を越えた民有林の人工林が89%を占め、伐期を迎えており計画的な伐採・再造林等を行う環境整備が必要です。

このような中、本村では、「働く場づくり」、「くらしづくり」、「ひとづくり」を強化し、安心して住み続けることができる「誇れるふるさと五木村」を目指しております。

今までの本村の林業は、切った丸太を市場を介して販売する木材流通が主であり、長引く木材価格の低迷で森林所有者の所得が減少し、山林の適正な整備が行われていない現状にあります。

そこで、森林による所得の向上と地域の活性化を促すために、五木産材の普及啓発に取り組んでおります。その中の一つとして木材の良さを伝えるために、現在、主流となっている乾燥機を使用せず、伐採した状態で葉枯らし乾燥しさらに製材後に天然乾燥させることで、本来の木材が持つ「色・艶・香り」が表現でき、強度・防腐にも優れるとされる「葉枯らし天然乾燥材」を、住宅建材として生産し使用する家づくりを、「産直住宅」として提案し活動しております。

この活動により、村内をはじめ県内外の関係者でのネットワークが、「五木ブランド」を確立させ、市場に左右されにくい新たな流通システムとなることで、森林所有者の所得向上を目指します。

森林経営者の経営意欲が向上することで、森林の多目的機能を発揮するための森林整備や森林資源の持続的利用体制の確立を図り、村が宣言した「森林で自立する村づくり」の実現に向け取り組んでおります。

①幻のみかん(くねぶ)ぷっちょ(UHA味覚糖)

▲①幻のみかん(くねぶ)ぷっちょ(UHA味覚糖)

 

②くねぶロールケーキ

▲②くねぶロールケーキ

 

③くねぶぽん酢 他くねぶ製品

▲③くねぶぽん酢 他くねぶ製品

 

④くねぶ唐辛子

​​▲④くねぶ唐辛子​​

 

 

川辺川ダム計画の再燃と今後の村づくり

本村においては、平成21年度から「ダムによらない村づくり」として、県と共同で策定した「ふるさと五木村づくり計画」に基づき、村の振興に取り組んできました。

特に、ダム建設の白紙撤回により未利用地となった広大なダムの水没予定地を活用するため、国から、民間事業者による営業活動も可能となる都市・地域再生等占用特例による指定及び占用許可を受け、水没予定地に交流拠点となる公園の整備や本村の特産品であるシイタケの栽培施設、ジビエとして活用するための鹿の解体施設を設置するとともに、観光施設であるバンジージャンプや宿泊施設の「渓流ヴィラITSUKI」を整備するなど、順調に観光客の増加に努めてきました。

しかし、昨年度の令和2年7月豪雨により球磨川水系流域を中心に昭和40年7月洪水を上回る甚大な被害が生じたことを受けて、同年11月19日、熊本県知事が緑の流域治水プロジェクトによる「新たな流水型ダム」を国に求めることを表明、国土交通省においても新たな流水型ダムの建設を前提とした基本設計及び環境アセスの着手、また、球磨川水系河川整備基本方針の変更及び河川整備計画の策定が進められています。本村においてはこうした国及び県の動きを受け、今まで取り組んできた「ダムによらない村づくり」から、再び「ダムを前提とした村づくり」に大きく方針転換をせまられているものの、未だ新たなダムの全容が示されておらず、今後、本村の振興をどのように進めるのかが大きな課題となっております。

五木村フェア2021

▲五木産葉枯らし天然乾燥材を使った産直住宅PR風景
五木村フェア2021 IN 阿蘇ミルク牧場に於いて

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