▲楢葉町の景観
福島県楢葉町
3171号(2021年8月30日)楢葉町長 松本 幸英
楢葉町は、福島県東部の太平洋に面した浜通り地方のほぼ中間に位置し、東西13㎞、南北11㎞、総面積103・64㎢、人口6、757人(令和3年6月30日現在、住民基本台帳人口)の町です。
北部には、隣接する町とまたがって東京電力福島第二原子力発電所が立地し、西に位置する阿武隈山系に水源をもつ木戸川と井出川が、町の中央部をそれぞれ東西に流れ太平洋にそそぎ、その中流域に農耕地がひらけ、集落が形成されてきました。
気候は、比較的寒暖の差が少なく、太平洋側に位置していることから積雪は年数回程度であり、降雨量も年間を通じて1、400㎜前後と少なく自然環境に恵まれた地域です。
当町は、平成23年3月11日に発生した東日本大震災による地震・津波に見舞われ、また東京電力福島第一原子力発電所事故によって、町全体が避難を余儀なくされ、平成23年4月22日から、許可なく町内に立ち入ることができない地域となりました。
翌年から、国直轄除染やライフラインの復旧など、社会生活基盤の復旧が進められ、平成26年5月29日には、町内で生活できる環境が概ね整うことを前提に、「帰町の判断」を表明しました。そして平成27年9月5日、ようやく楢葉町全域の避難指示が解除され、許可がなくとも町内に立ち入ることができるようになりました。
さらに、避難指示が解除されて以降、「楢葉町サイクリングターミナル」や「ならは天神岬温泉しおかぜ荘」など、既存施設の再開も果たし、平成30年6月には、生活に必要な機能を集約したコンパクトタウン「笑ふるタウンならは」内に、公設民営の商業施設「ここなら笑店街」と、翌7月には交流施設「みんなの交流館ならはCANvas」をオープン。平成31年4月にはプール付き屋内体育施設「ならはスカイアリーナ」等々、震災前以上の賑わいを創出すべく、復旧・復興に努めてまいりました。
しかし、震災から10年を迎えた現在でも、その影響は根強く残っており、震災前からの懸念事項であった人口減と高齢化は一層拍車がかかり、従来の地域コミュニティの再生が大きな課題となっています。
▲H23.3.11 押し寄せる大津波
▲H27.9.5避難指示解除セレモニー
▲生活に必要な機能を集約した「笑ふるタウンならは」
このような状況を踏まえ、令和3年3月に将来のまちづくりを展望した総合的な町政運営の指針として、「第六次楢葉町勢振興計画」を策定しました。
この計画は、「次世代につなげるまちづくり」「町民の連携と協働」「安全・安心な生活の確立」「広く外に開かれたまちの創造」を基本理念とし、まちの将来像として「笑顔とチャレンジがあふれるまち ならは」を掲げ、今後、当町が進むべき道筋を示しています。
ここでは、主な分野の取組状況、今後についてご紹介させていただきます。
①農業
水稲をはじめ、甘藷・タマネギ等畑作物、花きや畜産など、各分野で順調に再開・規模拡大が進んでおりますが、震災後、農業の担い手が大きく減少している状況であり、農地の集積と基盤整備による省力化を進め、特にカントリーエレベーター等の施設活用による効率的な農業経営をサポートしています。
水稲に加えて、収益性の高い新しい作物にも挑戦しており、特に甘藷(さつまいも)は、町と食品メーカーとが連携して、一大産地を目指しております。令和3年度から新たに約30戸の農家がさつまいもを育てるなど、その第一歩がはじまっています。
今後は、ロボット技術やICT(情報通信技術)を活用し、省力化・効率化や高品質・高付加価値化等の実現に向けたスマート農業の導入にも取り組んでまいります。
②商工業・新産業
商圏人口の減少を懸念する事業者も多く、商業施設を公設民営により設置し、商業事業者の帰還を促進し、集約化によって、町民の生活環境の向上にもつなげています。
また、既存の楢葉南工業団地においては、電気自動車など次世代の自動車に必要不可欠なリチウムイオン電池の原料となる水酸化リチウム製造会社など、最先端のエネルギー関連事業者が進出し、工業団地の再生を図っています。
さらには、地域経済の核となる新産業を創造するため、新たな企業の誘致を推進する産業再生エリアを令和3年度に整備し、太陽光発電用パネル製造事業者、ガラス加工メーカーの2社が進出しており、町民の雇用創出にも寄与しています。
今後は、福島イノベーション・コースト構想と連動した、廃炉事業への地元企業の参画など、一層の新産業創出を推進してまいります。
③観光
当町随一の観光資源である「天神岬スポーツ公園」は、太平洋が一望でき、広大な芝生広場、サイクリングコース、ドッグラン等があり、中でもキャンプ、バーベキュー場の利用者が増えております。
同公園内には、宿泊施設を備えた「楢葉町サイクリングターミナル」と、海を眺めることができる露天風呂を完備した「ならは天神岬温泉しおかぜ荘」があります。今後も、複合的な機能をもつ公園として整備し、さまざまなイベントの拠点となって魅力を発信することで、交流人口の拡大を図っていきます。
また、「道の駅ならは」は、道の駅では珍しい温泉施設を有しています。併設の物産館では、地元の朝採り野菜や花が店頭にならび、楢葉町産の酒米「夢の香」を使用した日本酒「楢葉の風」など、地元特産品や県内外のお土産品などを多種そろえています。
さらには、サッカーナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」と町内施設との連携を強化し、周遊型観光による交流人口の増加を目指します。
④教育
こども園・小学校・中学校が連携した12年間のきめ細かな教育によって、子どもの個性に応じた能力を引き出し、自らの将来を切り開く力を身につける、特色ある教育を推進しています。
こども園は、広い園庭とオープンスペースの園舎によって、のびのびとした保育を提供するとともに、早い段階から異文化に触れるため、ALT(外国語指導助手)が常駐し英語に親しむ遊びなどを実施しています。
小学校、中学校では国のGIGAスクール構想に先立ち、「1人1台の情報端末」を実現するとともに、小学校・中学校それぞれにICT支援員を配置するなどICT教育に注力しています。
外国語教育では、幼児期から中学生までALT(外国語指導助手)による授業等を行い、国際化社会に対応した人材の育成に努めています。
中学校では地域振興をテーマに、生徒自らが商品の企画・販売を行う模擬会社を設立し、実学を通じて起業家精神を学ぶキャリア教育を推進しています。
今後、ICTを活用した家庭教育・放課後学習の支援、メンター制度の導入など、一人ひとりに対するより一層のきめ細かな取組を図ってまいります。
⑤生涯学習
震災後特に、ものづくりサークルや、日本舞踊、書道など、生きがいづくりにつながる各種のサークル活動が再開されてきました。今後さらなる生涯学習環境の再生が求められており、町民主催で運営する各種活動を支援していきたいと考えています。
また、「楢葉市民大学」を開校し、農業、スポーツ、書道、歴史、語学、合唱など、幅広い世代の町民が自由に参加できる講座を開催し「町民みんなが先生になる」という基本姿勢のもと、力強い人材の形成を進めています。
今後も、町民、町内居住者が参加し、自発的に学びを楽しみ、心豊かな毎日を過ごすことができるよう、生涯学習活動の活性化を図ってまいります。
⑥スポーツ
プール付き屋内体育施設「ならはスカイアリーナ」を整備し、「Jヴィレッジ」と連携し、地域のスポーツ振興に寄与しています。
今後は、新たに設立した「一般社団法人楢葉町スポーツ協会」によるスポーツコミッション事業を展開させ、スポーツを通じた地域振興を推進する体制を確立し、充実したスポーツ環境と各種観光資源を活かし、町内外から人を呼び込むスポーツツーリズムを推進していきたいと考えています。
⑦少子化対策
子育て支援として、喜びや楽しさを感じながら子育てができる環境づくりに取り組むととともに出産のお祝いとして、第3子以上1人につき30万円の出産祝金を支給しています。
また、子育て世代支援として、子育てに関しての情報発信や、関係機関との連携強化など、機能充実を図りながら、妊娠期から子育て期までの相談等を実施し、子育て世代への切れ目のない支援を実施しています。
これからは、さまざまな世代との触れ合いのため、高齢者から子どもまでが集まることのできる交流の場、つながりの場、伝承の場となる多世代共生拠点づくりを目指していきたいと考えています。
⑧移住・定住
現在、町民の帰還率は約6割まで回復しておりますが、帰還する方々は頭打ちの状態であり、かつ、高齢化率が高いといった課題が顕著化しています。
そのため、復興のさらなる加速化と持続可能な行政サービスを提供するとともに、移住・定住施策の充実による、居住人口の増加や、まちの賑わいの再生、産業基盤を担う人材の確保が必要となっています。
そのため、人口回復に向けて、新たな住民(特に若い世帯)を呼び込む魅力的なまちづくりの推進と、新たな住民を含めたコミュニティの再構築、復興を担う人材確保につながる、移住・定住促進施策について重点的に取り組んでいきたいと考えています。
▲プール付屋内体育施設「ならはスカイアリーナ」
▲甘藷収穫祭
▲天神岬スポーツ公園
▲天神岬でのキャンプ風景
▲楢葉産の酒米(夢の香)を使用した日本酒「楢葉の風」
▲こども園でのALT授業
▲R3.3.25東京オリンピック聖火リレー
当町は、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故により、大きな課題に直面しましたが、これまで、さまざまな方面からご支援を受け、今日の姿まで復興が進展してきました。
原子力災害から10年を経て、楢葉町は新しいステージに立って、新たな町勢振興計画のもと、人々の交流から生まれる、活力・生きがい・つながりをベースとして、地域の魅力を高めていきます。そして楢葉町のファンを増やし、移住・定住を推進しながら、魅力あるソフト事業に重点をおいた施策を展開し、「新生ならは」の創造に向けて、さまざまな分野で「チャレンジ」を続けていきたいと考えています。