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徳島県那賀町/林業の再生へ向けて

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年5月24日

那賀町の山林風景

▲那賀町の山林風景


徳島県那賀町

3160号(2021年5月24日)林業振興課


1 那賀町の概要

那賀町は、平成17年3月1日、丹生谷地域と呼ばれる徳島県那賀郡の五町村(鷲敷町、相生町、上那賀町、木沢村、木頭村)が合併して誕生しました。徳島県の南部に位置し、北西部には標高1、000m以上の四国山地、南部には海部山脈などがそびえ、一級河川の那賀川が町域のほぼ中央を西から東に貫流しています。また、可住地は那賀川の沿川とその支流の谷合に点在しているのみで、ほとんどが急峻な山地で形成されています。

面積は69、486haと県内で二番目に広い面積を有していますが、約95%が森林で、その森林面積の約78%が人工林です。

このように那賀町は、森林資源に恵まれていることから、古くより杉を主体とした林業が盛んであり、「木頭杉」のブランド名で良質な木材を供給してきた那賀川上流域一帯は「木頭林業地帯」として250年にわたる林業生産の歴史を有しています。そこから切り出された良質な木材は、那賀川下流から京阪神地域等に運ばれ、木材消費の需要を支える一大産地として活況を呈していました。

 

2 過疎化と林業の衰退

那賀町の人口は、昭和55年の14、360人に対し、平成27年時点で8、343人まで減少しました。また、15歳以上の人口比率をみると、65歳以上の人口比率が平成に入って急激に増加し、平成27年時点で生産年齢人口(15歳~64歳)を上回りました。

また、人口減少とともに林業就業者数も昭和55年の860人に対し、平成17年では、139人まで減少し、それに比例し木材生産量も昭和55年当時は152、250㎥であったが平成17年には、50、819㎥まで減少し、基幹産業であった林業の衰退が深刻な問題となっていました。

​​​素材生産量

 

3 林業マスタープランによる目標の数値化

平成17年頃より徳島県の林業プロジェクトで、高性能林業機械の導入による森林作業道を活用した搬出間伐が推奨され、町でも林業事業体での高性能林業機械の導入が進み、平成22年には、土木業者11社が組合員となった協同組合も組織されました。特に私有林の多い本町は、森林所有者の世代交代も進み、森林管理の相談先が分からない、また、林業事業体も世代交代した森林所有者の探索が困難となったことにより、森林整備が進まず未整備の森林が増加傾向にありました。

このような中、平成23年に町内の森林所有者をはじめ、林業事業体、町議会、徳島県、林業公社、森林組合そして町で組織する「那賀町林業活性化推進協議会」が設立され、林業の課題解決に向け、それぞれの立場での意見を交わし、10年後の目標として木材の素材生産量を年間20万㎥とし、それに携わる林業従事者を250人確保することを重点目標とした「那賀町林業マスタープラン」を策定しました。この目標は、単純に1㎥の木材生産において、仮に1万円の経済効果があるとすると、計画当初の素材生産量が約5万㎥ですから、換算すると5億円となりますが、これを20万㎥まで増やすことで20億円となり、15億円の経済効果が生まれ、木材加工など影響する産業を含めると莫大な経済効果が生まれるというものでした。

計画策定当時は、かなり非常識な大きな目標とも思いましたが、目標は大きな方がやり甲斐があるという意見もあり、この重点目標が設定されることとなりました。

協議会の様子

▲協議会の様子

 

那賀町林業マスタープラン重点目標

▲那賀町林業マスタープラン重点目標

 

4 町が森林管理を受託!

その目標を達成するためのさまざまなアクションプラン(実行計画)の中で、所有・管理・施業を分離し、森林所有者と林業事業体を繋ぐ役割を果たす新たな機関を組織し、森林所有者の山林所得の向上や町内林業事業体の経営の安定化により、新規林業事業体の創出を促し、再び林業を町の基幹産業とすることで、活性化を図ることが盛り込まれました。

この重点目標を達成するための中心的役割を担う組織として、町の林業振興課に外部から森林整備に精通する森林組合と林業公社の職員を招き入れ、「森林管理受託センター準備室」(後に森林管理サポートセンターと改名)を設置し、運営していくこととなりました。発足当時の職員数は12名で、その内訳は、役場職員2名、森林組合職員6名、林業公社職員4名の構成となりました。また、業務分担としては、役場職員が補助及び予算・決算事務を森林組合職員が森林境界明確化事業と搬出間伐事業事務を林業公社職員が森林作業道や林業に関する実態調査等の事務を受け持つこととし、森林施業等の事業を執行するための予算については、役場の一般会計で行うこととなりました。

事業の進め方としては、森林境界明確化事業で私有林の森林境界を明らかにし、森林所有者と町による森林経営管理受託契約により、森林経営計画を策定しました。その後、森林作業道開設事業や搬出間伐事業を外部発注し、森林整備を進めました。

今振り返ってみても、町が森林所有者から森林管理を受託して間伐等の施業を行うことは、町にとっても経験のない未知の業務であったことは明らかで、不安と難解な問題が山積した毎日だったことを思い出します。事業実施設計書の手法や各種様式の作成、森林調査や測量、事業精算方法等の数多くの難題がありましたが、関係団体の協力を得て、一つ一つ問題をクリアすることができました。

森林管理サポートセンター

 

5 担う役割を見直し

このように問題と不安を抱えながらスタートした森林管理受託事業は、平成28年度までに森林境界明確化の事業面積6、684ha、森林作業道開設延長43、378m、搬出間伐事業305ha(搬出総材積29、382㎥)を実施しました。

このような中、町内の森林は高林齢化が進み、50年生を超える森林が大半を占め、主伐・植栽・保育で森林再生を行う、本来の林業サイクルを取り戻すための整備方針も打ち出され、町で行っていた間伐を中心とした森林管理受託については、平成26年度をもって森林組合へ移行しました。

しかしながら課題は尚も山積しており、地籍調査が進んでいない森林は、所有境界の不明箇所も多く、施業へと繋ぐための森林境界明確化事業や木材生産量拡大へ向けた新たな生産システムの検証、次世代の林業を担う後継者の確保や育成等についての取組に重点を置くこととなり、平成27年度より町職員を中心とした「森林管理サポートセンター」と組織名称を変更し、これらの課題解決に向けた新たな取組を始めることとなりました。

その取組の中で、特に林業の担い手確保は深刻な問題として浮かび上がり、林業事業体の若手職員で結成された「山武者」の協力を得て、町内外から林業に興味を持つ参加者を募り、3日間を通して高性能林業機械を使った林業体験会や、移住・就業相談会を行う「林業体感3DAYS」を継続して開催しています。

また、平成29年度には、拠点となる「林業ビジネスセンター」を新築し、町の林業振興課(森林管理サポートセンター)や森林組合、徳島森林づくり推進機構(旧徳島県林業公社)などの林業関係団体をこの施設に集約しました。そして、同年度に実施した木育スタート宣言により、木育広場を設置するなどの施設整備を行いました。

那賀町林業ビジネスセンター

​​▲那賀町林業ビジネスセンター

 

林業ビジネスセンター内の木育広場

▲林業ビジネスセンター内の木育広場

6 経験を活かしたさらなる飛躍

令和元年度からは、国から交付される森林環境譲与税により低炭素社会の実現に向け制度化された森林経営管理制度が始まりました。これは、町が主体となって森林所有者(私有林)の意向を聞き、未整備森林について町が計画的に間伐等により森林整備を進める制度です。この制度を実施するにあたり、前段で述べた私有林の森林管理を受託していた経験がたいへん役立ったと思います。

最後となりますが、この「那賀町林業マスタープラン」が策定されるまでの町の取組は、これほどまで林業現場に深く関与する機会は少なかったように思います。「林業マスタープラン」の策定により、深い視点で林業の本質的な課題を直視することができるようになり、引き続き森林・林業をより身近に感じ、森林所有者、林業事業体、そしてそこで働く林業に従事している方々等、林業という産業に関わるすべての人が、将来に向け夢と希望を持てるよう、全力でサポートしていくことが重要だと考えています。今後も、幼少期からの木育に始まり、森林や木をより身近に感じて森林環境を保全しつつ、那賀町にある再生可能な森林資源をフルに活用することで、地域の活性化を促進するとともに、林業の振興を図ってまいりたいと考えています。