▲川西町の風景
山形県川西町
3156号(2021年4月12日)川西町長 原田 俊二
原風景が息づくまち
川西町(人口14、643人、面積166・60㎢/令和3年2月末日現在)は、山形県の南部、置賜地方の中央に位置し、周囲を吾妻、飯豊、蔵王、朝日の山々に囲まれた豊かな自然が息づく町です。
米沢盆地独特の気候と風土から、草木が芽吹く春、暑さ厳しい夏、色とりどりに森が染まる秋、雪深い冬など四季の彩りに育まれた昔ながらの原風景が残っています。
明治11年(1878)、川西町を訪れた英国の女性旅行作家イザベラ・バードは、その著書「日本奥地紀行」の中で、町の風景を「鍬で耕したというより鉛筆で描いたように美しい」と称え、いくつもの農作物が植えられた大地の眺めを「実り豊かに微笑する大地であり、東洋のアルカディア」と書き記しています。
四季折々の気候と肥沃な土壌から、「つや姫」「雪若丸」「はえぬき」を代表とする水稲を主産業とし、県内でも有数の米どころです。また、町の南西部に広がるなだらかな丘陵地帯は、「米沢牛」の主産地として県内一の繁殖牛生産と肥育の地域内一貫生産体系が確立されています。
平成2年、「緑と愛と丘のあるまち」の創造をめざし、フレンドリーヒルズ構想を策定、人と人、地域と地域が出会う「であいの丘」、憩いの場でふれあう「ふれあいの丘」の二つの丘を整備し、それぞれの丘が有機的に結び会う地域間交流の拠点づくりを進めてきました。
平成6年にオープンしたフレンドリープラザは、人と人との「であい」を育むまちの文化交流の拠点で、図書館、ホール、交流スペースが一体となった多目的施設です。図書館には、本町出身の井上ひさしさんから寄贈を受けた約22万点の蔵書が収められている「遅筆堂文庫」が開館されています。同文庫には、付箋が貼られたままの本や生原稿など、作家の息づかいを感じることができる場所となっています。
井上ひさしさんは、多感な幼少時代を川西町(小松地区)で過ごし、昭和47年に直木賞を受賞され、全国に多くのファンを生み出されました。また、劇団「こまつ座」を旗揚げし、フレンドリープラザでは定期的に公演が行われています。平成22年には、井上ひさしさんの功績を紹介する展示室を開設し、円柱を利用した本棚「本の樹」には、全国のファンから井上作品が集まりました。
遅筆堂文庫の開館と同時に開校した「生活者大学校」は、井上ひさしさんが校長として開催、毎年、さまざまなテーマを多彩な講師陣と参加者が熱く語り合い、多くの感動を産み出してきました。井上さんが他界された今でも同大学校は継続開催されています。また、毎年4月には、井上ひさしさんを偲ぶ「吉里吉里忌」を開催し、井上さんの功績を顕彰し未来に語り伝えています。
▲フレンドリープラザ/本の樹
観光交流の拠点である「川西ダリヤ園」は、昭和35年に日本初の観光ダリア園として開園し、4haの敷地に、650種、約10万本の色鮮やかなダリアが咲き誇り、訪れる人々を魅了しています。町では、ダリヤ園一帯を「ふれあいの丘」として、人と人、人と自然がふれあえる憩いの場に位置づけし、地域間交流の拡大に取り組んでいます。
ダリヤ園に隣接する高台には、温泉宿泊施設の「浴浴センターまどか」があり、入浴やレストランなど、ゆったりと心地よい時間を過ごすことができます。平成30年には、浴浴センターと町営小松スキー場に隣接して、36ホールの公認コースを有する川西ダリヤパークゴルフ場を整備し、健康増進と合わせた新たな交流施設として賑わっています。また、ダリヤ園の東にある置賜公園では、置賜地域最大級のハーブガーデンを備え、「いやしの広場」として訪れる人々にさわやかなひとときを与えています。
▲日本一の川西ダリヤ園
毎年8月16日、27日に行われる「小松豊年獅子踊」は、山形県の無形民俗文化財に指定されています。踊りの起源は平安時代とされ、豊作を祈念する踊りで、江戸時代に米沢藩の厳しい財政事情から豊作の年だけ踊ることが許されたことから、豊年獅子踊りと呼ばれるようになったと伝えられています。花笠をかぶった早乙女に先導され、3匹の獅子が太鼓と笛と歌に合わせて踊り、クライマックスでは、獅子が火の輪に飛び込み一気にくぐり、観衆から大きな歓声と拍手が湧き起こります。火の輪をくぐる獅子舞いは全国でも珍しいとされています。
豊年獅子踊り以外にも、町内各地の神社には黒獅子の踊りが受け継がれ、例大祭では黒獅子の華麗な舞が行われています。
7月下旬には、子どもたちが提灯を持って町内を練り歩く「虫送り」が行われ、農作物の五穀豊穣を祈願する夏の伝統的な祭りです。
また、お囃子屋台がまちを巡行する商宮律があります。これは、京都祇園の流れをくむ県内でも珍しい民族芸能として行われ、この祭りが終わると暑かった夏の終わりを告げます。
このように、町内には数々のお祭りが次世代に受け継がれ、その中で町民同士の交流と郷土への愛着心が育まれています。
▲県無形民俗文化財/小松豊年獅子踊
町は、平成16年に「川西町まちづくり基本条例」を制定しました。この条例は、地域内分権による自主自立のまちづくりを進めることを目的に、町民と行政がまちづくりの考え方やまちづくりの仕組みを共有し、お互いの役割分担と協力を定めたものです。人口減少や高齢化の進行により、コミュニティの希薄化が課題となる中、永く培われてきた地域の助け合い「結」の精神を維持継続し、町民と行政が一体となった「協働のまちづくり」を推進しています。
地域では平成21年度から、従来の地区公民館を交流センターに移行し、各地区で住民主体の「地区経営母体」が組織され、交流センターの運営や地域課題の解決に向けて、地区計画を策定し、特色のある地域づくりが進められています。
町では、協働のまちづくり地域支援交付金を交付するほか、行政職員の地域担当制、各地区間の情報共有や課題解決に向けた協議会の設置など、自主自立の地域づくりを支援しています。
主な取組として、従来の社会教育事業である運動会やスポーツ交流、花いっぱい等の環境活動に加えて、自治会や自主防災組織の運営、子どもたちの見守りや交通安全、健康づくりや高齢者サロン、除雪ボランティア、四季に応じた祭りや賑わいづくり、担い手等の人材育成に取り組まれています。また、産業振興によるコミュニティービジネスや婚活事業、放課後児童クラブや買い物支援の運営など、地域を超えて活動が展開されている地域もあります。こうした住民主体の地域づくりの取組は、全国的にも高く評価されており、現在では、町内すべての小中学校でコミュニティースクールが導入されるなど、子どもたちを地域で支える体制が構築されています。
関係人口を拡大し、移住・定住を推進するため、町の暮らしや魅力を発信し、町民と都市住民との多様な交流のきっかけづくりから、移住・定住をコーディネートする中間支援組織として、平成22年に「やまがた里の暮らし推進機構」を設立しています。同機構は、町の「暮らし」に着目し、地域資源を活用した交流事業や情報発信、空家バンクと連携した移住希望者の相談と体験ツアーを実施するなど、町民や地域とのつなぎ役として、関係人口の拡大に取り組んでいます。特に、在来品種である「紅大豆」をはじめ、町内で35種類もの多彩な「豆」が栽培されている特色を活かし、「豆のあるまち」をキーワードに情報発信と交流事業を展開しています。代表的なイベントでは、東京都上野桜木あたりを会場として、例年、十二月初旬に「山形かわにし豆の展示会」を開催し、「お茶のみ」や「わら細工」など、町の「暮らし」を体感できる交流の場を設営し、町を知り、興味を持つきっかけづくりに取り組んでいます。今では、会場地の町内会や周辺の飲食店の方々との協力も深まり、イベント期間には、賛同いただいた飲食店で町の食材を使ったメニューや商品が提供されています。また、イベントをきっかけとして、企業とのマッチングにより新商品が開発されたほか、町への体験ツアーの企画、参加者から移住に結びつくなど、都市住民をつなぐ特徴的な交流事業となっています。
令和2年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、対面での交流が難しいため、オンラインによる交流イベントを8回開催しました。町内のおもしゃい(楽しい)方々の出演により、参加された方々からは好評で、町の魅力が十分に伝わる企画となり、新たな交流ツールとして今後充実していきます。
この取組については、令和3年3月、地域の素晴らしさや新しいチャレンジを広く多くの方々に伝える表彰制度である「2020年度ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」において、新しい生活スタイルの推進と地域活性化への貢献を評価いただき、「特別賞」を受賞いたしました。
▲山形かわにし豆の展示会/上野桜木あたり
かわにし未来ビジョン(第五次川西町総合計画/平成28年度~令和7年度)及び「川西町まち・ひと・しごと創生総合戦略」のリーディングプロジェクトとして、メディカルタウン整備事業を推進しています。
本町は、県南部の置賜地域の中心に位置し、町の北部には、置賜地域の保健医療の中核となる「公立置賜総合病院」及び「県立救命救急センター」が立地しています。さらに、病院周辺は、置賜地域の主要な複数の国道が交差し、現在、新たな高規格道路が整備、結節が進められており、地理的優位性が高い地域となっています。
町では、この病院周辺を医療・住宅・商業が融合した「メディカルタウン」を整備、形成し、子育て世代の定着や健康長寿社会の実現とともに、雇用促進や地域経済の活性化を図り、定住人口の創出と交流人口の拡大をめざしています。
▲メディカルタウン整備計画
人口減少や少子高齢化は、社会全体の大きな課題です。「川西町まちづくり基本条例」に基づく「町民参画」と「情報共有」による町民と行政が連携する「協働のまちづくり」は着実に前進していますが、若者が定着し持続性のある町を建設するためには、「協働」をさらに成熟させ、老・若・子・男・女誰もがまちづくりの担い手として関係を深めながら、「共」に新しい時代に「挑戦」・「創造」し、まちづくりを発展させる「共創のまちづくり」が必要です。
近年、激甚化・頻発化する自然災害や新型コロナウイルスなど、予測できない出来事が多発しています。今後、より困難な状況に遭遇しても、培ってきた人と人のつながり、助け合いの「結」の精神を受け継ぎながら、住む人が「誇り」を持ち、訪れる人が「憧れ」を抱くまちづくりをめざします。