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長野県原村/小さな村に人が集まる村づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年3月29日更新

春農場芝生広場

▲八ヶ岳と親子​


長野県原村

3154号(2021年3月29日)原村長 五味 武雄


1 原村の概要

原村は八ヶ岳から諏訪湖の間に広がる高原(標高約900m~1、300m)に位置する村です。村役場の所在地は標高約1、000mにあり、これは全国1、700以上ある市町村の中で4番目の高さとなります。これほど高い位置にありながら、周囲は八ヶ岳、北アルプス、中央アルプス、南アルプスなどのさらに高い山々に囲まれており、村内に立てば360度どちらを向いても季節を映した雄大な自然を体感することができます。

生活面では一年を通じて降水量が少なく、湿度も低いため、さわやかな気候になります。夏は落ち着いた避暑地として都会からの人々で賑わい、四季折々に表情を変える八ヶ岳は常に心を和ませてくれます。涼しい夏の反面、冬の寒さは厳しいときがありますが、雪の量は心配するほどでもなく生活しやすい土地です。

村内は農業が盛んで新鮮な高原野菜を味わうことができ、中でもセロリは国内出荷量1位の生産地になります。観光で訪れる際には、まず自然が出迎えてくれます。そしてペンションなどの観光拠点をはじめ、天然温泉、歴史遺産と偉大な彫刻家清水多嘉示の作品を見られる八ヶ岳美術館など、ゆったりとした時間を過ごしながら文化に触れることで、ワンランク上の生活を感じることができます。

原村の歴史は古く、阿久遺跡などの縄文遺跡からは、多くの人々が昔から自然とともに生活していたことがわかります。この縄文文化の中で生まれ、県宝指定を受けた顔面装飾付釣手土器「火の女神フゥーちゃん」からは、愛らしい表情に当時から引き継がれている豊かさを感じられます。また、地域の伝統文化として国内で最も古い神社の一つ「諏訪大社」のお祭りに、1、300年以上の歴史をもつ「御柱祭」があります。原村はこのお祭りで直径1m、長さ17mほどの複数の御柱という巨木が「諏訪大社」に向けて進み始める「山出し」の出発地でもあります。

 

セロリ畑(八ヶ岳側)

▲八ヶ岳とセロリ畑

 

火の女神フゥーちゃん

▲顔面装飾付釣手土器「火の女神フゥーちゃん」​

 

2 原村の人口増加対策について

原村の人口は平成27(2015)年からなだらかな増加傾向で、人口水準を維持または微増で推移させており、人口増加対策については、今後も切れ目のない取組の継続が必要になると考えています。

人口増加対策において、本村が取り組むべき対策は二つの方向性があると考えています。一つは出生率を高めて出生数を増やすことで人口減少に歯止めをかけ、将来の人口構造を変えていくこと。もう一つは若者の流出や高齢化への対応として、若者Uターンの促進や恵まれた子育て環境を活かしてIターン転入者を定住につなげていくことです。

 

人口グラフ(原村) 

▲原村の人口推移(毎月人口異動調査)

 

3 地方創生事業を通じた移住促進について

本村は平成27(2015)年度から原村地域創生総合戦略での移住施策「地域の魅力発信による移住交流推進事業」として移住推進体制を整えてきました。


⑴広域連携による移住相談

村で開催している移住イベントは、諏訪湖周辺から八ヶ岳までの諏訪6市町村や八ヶ岳定住自立圏の広域で協力して開催することを増やしてきました。移住希望者の視点で見ると“八ヶ岳周辺”などの地域単位で移住先を探される方が多く、村としても就業先や商業施設など、村内にもありますが近隣市町まで含めて生活を考えることで、より多様な暮らしの相談に乗ることができると考えています。また、諏訪地域では諏訪圏移住相談センターという相談窓口を設けており、しごと、住まい、暮らしにワンストップで対応する取組も行ってきました。こうした広域のかかわりから、移住施策や住まいに関する圏域内での情報共有も、村の相談体制の強みになっています。近隣市町と協力しながら相談体制を強化することで、今後も地域の人口増加や活性化につながることを期待しています。


⑵田舎暮らし案内人による移住相談

村が単独で開催する田舎暮らし現地見学会や東京等での出張セミナーを含め、移住イベントでは相談ボランティアである「田舎暮らし案内人」が活躍しています。移住希望者が求める情報は多岐にわたり、行政だけで必要な情報を提供することには限界がありました。そこで、住居や就職・就農、生活環境、地域社会へのとけ込み方等の情報を提供できる体制づくりのために、住民等で構成するボランティアグループ「田舎暮らし案内人」を組織しました。広報等の募集により、当初15名の応募者へ、活動するために必要な心構えや知識を習得してもらった上で活動を開始しました。

移住希望者が心配することの一つとして「移住後に地域になじめるだろうか」といった相談があります。そのような方も、案内人と話すことで、移住先の村に人のつながりがあるという意識をもって移住の決断に進むことができます。実際に、地元住民の話を聞くことで安心感を作ることができ、そのつながりから移住される方は多くいます。現在は人員も入れ替わりつつ、21名の案内人が幅広く原村の魅力を紹介し、村の良いところや大変なところもしっかりと伝えながら移住相談を行っています。

令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で現地開催のイベントができない状況となりましたが、これを受けて、村の地域おこし協力隊と協力し、案内人の人物紹介を通じた魅力発信動画を作成しました。動画は次に紹介する移住推進ポータルサイトにて公開し、村をより深く知るきっかけにしていただいています。


⑶移住推進ポータルサイトと

移住体験・交流施設

平成27(2015)年度に村公式ホームページとは別に、移住関連情報に特化したホームページ「原村移住推進ポータルサイト」を立ち上げ、移住関連の行政情報、イベントや移住サポート、空き家バンク、移住者の紹介、地域おこし協力隊による原村ブログなど移住希望者が欲しい時に必要な情報を手に入れられるよう村の魅力を発信しています。

(原村移住推進ポータルサイト)

URL:https://www.hara-life.jp/

お試し居住の面では、地方創生拠点整備交付金を活用して移住体験住宅を整備し、運用しています。村開催のイベント等で移住相談をされた方を対象に、最大7日間のお試し居住をしてもらうことで、村内をさまざまな視点で見てもらいたいと考えています。この施設で疑似生活をしてもらい、住まい探しや仕事探しなどを視野に入れて、実際の環境を見たり感じたりしてもらうことが、移住への思いを膨らませながら将来の展望を開くきっかけになるものと考えています。令和3年3月現在では、新型コロナウイルス感染症拡大防止等の事情から運営を休止している状況ですが、収束後には改めて多くの利用者を受け入れられるものと期待しています。

体験住宅の利用者アンケートでは、例えばこのような声をいただきます。

「朝起きると体験住宅前の川が凍っていた。住んでいる地域ではそうした経験がないため驚いたが、雪の量は思ったほどではなく、家の中では身構えていたほどの寒さも感じずに生活できることがわかった。」

こうした感想から、実際に村内の住宅で生活をすることで、自分たちが許容できる“生活条件の変化”を見極める上で高い効果が得られていることがうかがえます。そうして気候を体感したり、村内の人々と接して環境や雰囲気を感じたりしていただくことが、安心して村への移住を決めることにつながっていると考えています。 

 

田舎暮らし案内人による移住相談

▲田舎暮らし案内人による移住相談「ふるさと回帰フェア2019」

 

体験住宅

▲原村移住体験・交流施設

 

4 『原村学』による若者Uターンのねらい

村内の教育施設は原小学校と原中学校の各1校があります。本村では高等学校や大学への進学等の際に、村外または県外に出て学ぶことが多くの生徒の流れとなっており、進学を機にその最終学歴地で就職して生活拠点を築き、村に戻らない人も多くなっています。そんな中、生徒がいずれ村外へ出た際にも、村の良さを知り自分たちが育った村を誇りに思ってほしいという想いを込めて『原村学』という学習を平成29(2017)年度から開始しました。

これまでにも中学校行事では、八ヶ岳登山や生徒が議会一般質問形式により模擬議会を行う中学生議会といった村を意識した活動がありました。しかし、これらはそれぞれ個々の活動として完結するものになっており、村との関わりを考える総合的なキャリア教育にまでは至っていませんでした。こうしたことから、『原村学』では各学習につながりをもたせて、中学校生活の3年間で一貫・継続した教育課程を実施することで、「原村の良さを知り、原村の自然や文化、産業、伝統に囲まれて育ってきた自分を意識し、将来のありようを、自信をもって表現できるようになる」ことを目指しています。

学習内容では、村へのUターン者である原中学校OBを招いての講演や、村内農家の方からワイン用ブドウによるワイン醸造を学ぶ選択科目など、地域に根差した人とのかかわりを通じて、村独自の個性を意識できるような学びを促しています。

『原村学』は移住促進の面においても重要であり、そのねらいは“村内の人々や文化を誇りに思う気持ち”を育てることにあります。いずれ子どもたちが成長の過程で村外へ出ていくとしても、新しい環境の中で昔学んだふるさとの独自性を再認識できることが、村ブランドの拡散やさらには自らのふるさと回帰にもつながるものと考えています。こうした将来に展望を持てる取組は、村の持続可能性を高めてくれるものと信じています。

村内のワイン用ブドウ

▲村内のワイン用ブドウ

 

5 人が集まる村づくりへ

村への移住者・定住者を増やすには、住むところや働くところはもちろん、移住先の環境やコミュニティとかかわりをもったときに、愛着をもってもらえるかどうかが重要になりますが、移住する年代の広がりや働き方の変化によって移住を希望する理由や条件は多様に広がっています。そうした多様な考え方に村が寄り添うには、求められる理想に合う点も合わない点も適切に伝えながら、希望に沿える条件を一緒に探していくことが大切と考えています。今年度は移住情報の発信を行うにあたり、新たな地域おこし協力隊を迎えました。これにより、行政的な視点だけでは成しえなかった多様な移住促進による村づくりも今後は行っていけるものと考えています。​

 

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▲原村地域おこし協力隊​

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