ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 奈良県明日香村/「民家ステイ」から始まる 地域イノベーションの推進

奈良県明日香村/「民家ステイ」から始まる 地域イノベーションの推進

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年2月15日更新

 棚田の風景

▲棚田の風景


奈良県明日香村

3149号(2021年2月15日) (一社)大和飛鳥ニューツーリズム  明日香村商工会 明日香村役場​


明日香村の概要

明日香村は、奈良盆地の南東部に位置し、面積24・10km、人口5、471人、高齢化率39・1%の小さな村です。(12月末現点)

本村は、6世紀末から7世紀にかけての約100年間、日本の都が置かれ、聖徳太子による「十七条憲法の制定」、中大兄皇子と中臣鎌足による「大化の改新」の舞台として、律令国家体制の礎が形成された、日本のはじまりの地です。

村内には、古墳や史跡などの歴史的文化遺産が数多く点在します。代表的なものでは、埋葬者が蘇我馬子ではないかとされる「石舞台古墳」や日本最古の「飛鳥大仏」、国宝指定された「キトラ古墳壁画」などです。

また、日本の棚田百選に選ばれた稲渕棚田や、5ヶ所ある国営飛鳥歴史公園などの自然的環境が、歴史的文化遺産と一体となって美しい景観を形成していることが挙げられます。

現在、令和4年3月に本村の財産が多く点在するコースを走る飛鳥ハーフマラソンの開催や、令和6年夏頃を目標とした飛鳥・藤原の世界遺産登録などを目指して取り組んでいます。​

民家ステイ事業の始まり

本村をはじめとする飛鳥地域では、平成23年からホームステイ型民泊による国内外からの体験型教育旅行受入事業がスタートしました。

明日香村商工会青年部が中心となり、「明日香ニューツーリズム協議会」を設立し、その後、事業の広域化に伴い、平成25年に「飛鳥ニューツーリズム協議会」と改称、平成30年に「一般社団法人大和飛鳥ニューツーリズム」として法人化しました。

大和飛鳥ニューツーリズムは、本村を中心として奈良県内の広域エリアで事業を順調に拡大し、国内外から教育旅行・修学旅行生を年間約6、000泊(内インバウンドが30%~50%程度)受け入れ、日本の国がはじまった地での体験型教育旅行『民家ステイ』を全国に広めています。

残念ながら、新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年12月までの受け入れは見合わせとなりましたが、体験による学びを求める声は多く、次年度以降の受け入れについて、対策を講じながら調整を進めているところです。

インバウンド交流

▲インバウンド交流​

農業体験

▲農業体験​

事業スタート時に苦労したこと

民家ステイのホストファミリー確保が一番の課題でした。募集告知等での反応を待ってみても、受け入れ先として自ら手を挙げていただける方は見つからず、事務局が〝このご家庭なら受けていただけるのではないか〟と思う方々に、アプローチしては、何度も断られるということを繰り返し、ホストファミリーを地道に確保していきました。

また商工会会員や地域の諸団体など、あらゆるルートからコンタクトをとり、何度も説明を重ねて、民家ステイのセミナーを受講していただくといった過程を経て、信頼関係を築いていきました。民家ステイのホストファミリーによる受け入れを行うにあたり、このような一連の作業を繰り返して、1軒ずつ確保していきました。まさに「民家ステイのホストファミリーの確保に王道なし」です。

 

民家ステイで学べること

民家ステイは、子どもたちがホストファミリーの普段の生活の中で、家族のひとりとして過ごすプログラムです。共同調理や団らんなどを通して、人間関係を築きながら社会性を養うことを大切にし、また、様々な体験は、交流するための手段であると考えています。

教育民泊実施団体は、全国各地にたくさんありますが、自然体験学習や社会体験学習に加え、実物に直接ふれる歴史学習ができることは、古代の遺跡が点在するここ大和・飛鳥地域ならではの体験です。歴史を知り、学ぶことは、よりよい未来を創造する礎になることから、当地を選んでくださる学校がたくさんあるのではないでしょうか。

収穫体験

▲収穫体験

受入家庭による歴史ガイド

▲受入家庭による歴史ガイド

 

また、持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標である「SDGs」に対応する学びが、民家ステイの中にはたくさんあります。

本村では、次に掲げるターゲット目標を設定し、教育旅行で「SDGs」を実践できるよう提案しています。

「民家ステイ」におけるSDGsターゲット目標 = 教育旅行でSDGsを実践 ※

(1)田舎の暮らしに触れる=日本の未来の課題に触れ社会を知る ※【住み続けられるまちづくりを(11.4)】
都会では埋もれてしまっている問題(社会課題)が地方では、既に顕著化されています。景観保全のメリット
やデメリットを学び、持続可能な地域づくりを考えます。


(2)日本の歴史/ルーツを知る=自分/地元を知る(事前・事後ワークシートでより深い学びを)※【質の高い教育をみんなに(4.4)(4.7)】
本村についての情報を事前に収集・整理してから、課題を見つけ、民家ステイ当日を迎えます。自身の住む地
域と比較することで、地元に対する新しい気付きが芽生えることがあります。さらに、事後に振り返りの時間を
取ることで、体験だけではない「身につく学び」となります。


(3)食べること(食べた物)=生きること(今の自分) ※【飢饉をゼロに(2.4)つくる責任つかう責任(12.8)】
日常生活・学校生活の中で、子どもたちが調理をする機会が減少しています。「民家ステイ」中に、調理し片付
けまですることで、食に対する関心をもっと持ってほしいと願います。食事を作ってくれる人への感謝の気持ち
が芽生えたり、食わず嫌いが直ったりすることもあります。

 

人と人を繋ぎ、ミライを創る体験を当地に残していくために…

村民がホストファミリーとして本事業の担い手になることで、地域の横のつながりが深くなったり、新規移住者と在住者の交流が盛んになり、住み続ける喜びにつながったという声をたくさん耳にします。

また生徒の目を通して見る地元は新鮮で、地域の魅力を新たに感じたり、自分たちが住む土地に誇りを持つようになったというホストファミリーも多くいます。

交流人口を増やすだけではなく、関係人口の促進にも自然とつながる本事業は、まさに住民満足度向上と地域経済活性化を両立するものであると実感しています。

日本の国がはじまったこの地で、新しい家族に出会う「民家ステイ」には、ひとりひとりの子どもたちが、その家族と共に「ほんもの」を体験し、人と人とのつながりの大切さに気付いてほしいという願いが込められており、“新しくできた明日香の家族に、また会いに来てほしい”と想いながら、いつも子どもたちを迎え、送り出しています。

いつか、その子どもたちの誰かが、本村に移住・定住し、共にこの事業に関わってくれる日が来ることを楽しみに、事業推進に努めています。

 

​​食事づくりも一緒に体験

▲食事づくりも一緒に体験

古民家リノベーション事業へのつながり

民家ステイでは、多くの国内外からの中高生が修学旅行や野外活動の一環として、地域住民との交流を目的に滞在しています。その流れの中でインバウンド来訪者も急増しており、地域内においてFIT(個人層)の需要開拓への気運が高まっていきました。

そのような中、国内FIT及びインバウンド来訪者をメインターゲットとする古民家をリノベーション活用した宿泊施設の整備運営へとつながっていきました。

代表的な施設について、以下の通りご紹介します。

(1)アスカゲストハウス

築110年の古民家をリノベーションしたゲストハウスです。日本最古の本格的寺院と言われる「飛鳥寺」の創建当時の境内に位置し、周辺には飛鳥時代の歴史的遺跡や国営飛鳥歴史公園などが点在する、歴史と自然にあふれる魅力的な環境に立地しています。

主にバックパッカーなどのインバウンド来訪者をターゲットとしており、料金プランもリーズナブルです。古民家の古き良き風情を残しつつ、複数の男女別シャワー及びトイレの設置、スタッフの英語対応やWi-Fi完備、オプションでの食事提供など、ゲストにとって快適な空間を提供することを徹底しています。

 

●アスカゲストハウスの開業まで

空き家をリノベーションした宿泊事業の立ち上げを目指し、対象物件の選定と資金調達の検討を始めました。

対象物件の選定については、地域貢献への意識が高い家主の協力を得ながら行いました。

事業全体の資金調達については、バランスのとれた資金調達手段を検討し、クラウドファンディングや国補助金及び地元の金融機関融資を活用しました。いわゆる「ふるさと投資」としての取り組みです。事業の実施主体は村内の若手事業者が出資した株式会社が担いましたが、ふるさと投資の要件である金融機関からのプロパー融資の実行、補助金を含めた資金調達手段の組み合わせについては大きな労力が伴い、行政・民間事業者・商工会などの連携がなければ事業遂行は困難だったと考えています。

 

アスカゲストハウス(蔵個室)

▲アスカゲストハウス_蔵個室

 

(2)あすか癒里の里 森羅塾

ターゲットを富裕層とする一棟貸しの古民家宿です。

1日1組限定で、最長31時間のロングステイが可能で、本村をじっくり堪能したい方に最適です。


●あすか癒里の里 森羅塾の開業まで

資金調達は、国及び奈良県の補助金で、金融機関融資等を活用し、村内の民間事業者が運営しています。

現在の持続可能なビジネスモデル確立までには3年程度の期間を要し、古民家宿泊施設の整備自体がゴールではなく、スタートであると認識することの重要性を示唆してくれた事例です。

今後に向けて

民家ステイと古民家リノベーション施設には、共通して「持続可能」というキーワードが大切です。そのためには、資金調達手段の多様化、事業や対象物件に関する絶え間ないビジネスモデルの見直し、公民連携の推進等が非常に重要な視点であることは明白です。

今までの取り組みを成功と捉えるのではなく、反省すべき課題を抽出し、より高い目標を達成するという決意をもって、持続可能な地域づくりに取り組んでいきます。

また、新型コロナウイルス感染症が観光業や飲食業等に多大なる影響を及ぼしている中、経済再建をどう図っていけるのか、予測できないところではありますが、中長期的なウィズコロナやアフターコロナの傾向を先読みしつつ、世界遺産登録を見据える新たな観光戦略を策定していくことが必須であると考えています。