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福島県南会津町/「南郷トマト」×「スノーボード」~南郷トマト100年産地を目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年2月8日

 南会津町の風景

▲南会津町の風景


福島県南会津町

3148号(2021年2月8日) 南会津町長 大宅 宗吉​


南会津町の概要

南会津町は、福島県の南西部に位置し、東西43km、南北38km、総面積886・47㎢で、その約92%が森林で占められています。南は栃木県那須塩原市・日光市に隣接しており、東北地方の南の玄関口となる地域です。

かつては、会津西街道の宿場町として栄え、現在でも行政、経済、教育、医療、福祉など南会津地方の中心となっています。

自然豊かで、世界的にもまれな台形状の山頂湿原を有する尾瀬国立公園田代山をはじめ、国指定天然記念物駒止湿原など、原生のままの貴重な自然が多く残っています。

気候は、夏は朝夕しのぎやすく、冬は厳しい豪雪地帯で、多いところでは積雪が2mを超えるところもあります。この冷涼な高原性の気候のもとで生産される農産物や、清らかな雪解け水で醸造される地酒は、非常に味が良いと高い評価を得ています。

観光では、毎年7月22~24日に開催される「会津田島祇園祭」が830余年の歴史を誇り、神事として行われる豪華絢爛な花嫁行列「七行器行列」は夏の風物詩として彩りを添えます。冬には、東北屈指のビッグゲレンデを有する「たかつえスキー場」、ハーフパイプの聖地としてスノーボーダーに人気の「南郷スキー場」、スキーヤーオンリーで有名な「高畑スキー場」、多彩なコースでファミリーに人気の「だいくらスキー場」と個性豊かな4つのスキー場で冬を満喫することができます。

人口は昭和30年の34、703人をピークに国の高度成長とともに若者を中心に都会への人口流失が進み、不安定な雇用環境により地元に残る若者が減少していることや少子高齢化の進行による自然減少が進む傾向にあり、現在では15、000人程度まで減少しています。人口減少は産業の停滞、集落機能の低下、後継者不足など生活全般にわたりさまざまな社会問題の要因となっています。

全国的な問題でもある高齢化や後継者不足が深刻化する昨今、当町においても次世代を担う若者の確保は最重要課題の1つであり、さまざまな取組を行っているところです。

近年、農業分野で、行政と農業者団体等が連携することで、Iターンによる担い手の確保・定住につながっている当町の取組について紹介いたします。

「南郷トマト」のブランド化

当町は、その地域特性を活かして水稲・アスパラガス・花き・夏秋トマトを主体とする農業生産を展開してきており、経営の発展を図るため施設園芸の導入が盛んとなっています。中でも夏秋トマトは「南郷トマト」のブランドで知られており、糖度が高く、実が引き締まったしっかりとした食感が特徴です。南会津特有の気候と高い標高、昼夜の寒暖差が「日本一の味と品質」と評判のトマトを生み出します。

昭和37年旧南郷村(現在の南会津町南郷地域)で初めて栽培が始まり、発祥の地「南郷村」にちなんで「南郷トマト」と呼ばれました。

鈴なりの南郷トマト

▲鈴なりの南郷トマト

 

平成19年1月に地域団体商標登録を取得し、「南郷トマト」の名称で販売できるのは、生産組合員が生産し、JAの南郷トマト選果場から選別出荷されるトマトのみとしてブランド化を図ってきました。ところが、直売所などで基準を満たさないトマトが南郷トマトとして売られている事例が後を絶たないことから、他の産品との差別化ができ、訴訟などの負担がなく、自分たちのブランドを守ることが可能な地理的表示(GI)保護制度登録を目指すこととなりました。そして、平成30年8月に福島県産として初めてGI登録されました。また、平成27年3月には、生産地の気象条件等を最大限に活用して高品質のトマトを生産していることや、徹底したブランド管理等が評価され、南郷トマト生産組合が日本農業賞の集団組織の部において大賞を受賞しました。

さらには、平成23年に起きた福島第一原発の事故による風評が続く中、改めて50年の歴史を持つ南郷トマトを守るため、令和元年9月にJGAP団体認証を取得し、これからの50年も安全・安心で消費者が求めるトマトの安定供給ができる産地を目指しています。

南郷トマト選果場の様子

▲南郷トマト選果場の様子

 

箱詰めされた南郷トマト

▲箱詰めされた南郷トマト

「南郷トマト」の新規就農者受入

平成2年に旧南郷村で初めて首都圏等に南郷トマト栽培者を募集し、Iターン就農者を受け入れてから、新規就農者の育成のため試行錯誤をしながら受入体制を整備してきました。現在は、生産組合・JA・町・福島県南会津農林事務所など関係機関・団体が連携、役割分担をし、それぞれの分野で支援を行っています。平成21年から令和2年までの南郷トマトでの新規就農は35世帯で、うち17世帯がIターンとなっています。

近年の就農者のきっかけは「スノーボード」で、スノーボードの聖地として全国的に知られる南郷スキー場に来ていた若者が、冬期間スキー場で働く南郷トマト生産者と知り合い、夏はトマト栽培、冬はスノーボード三昧といったライフスタイルに魅力を感じ、移住して南郷トマト栽培を始めるケースが多くあります。「南郷トマト」×「スノーボード」での就農者が増えるに従い、口コミによりさらに就農者が増えています。

【スノーボードをきっかけにした就農の流れ】

・ 冬期間の収入源としてトマト農家の多くがスキー場で働く

・ スキー場で仲良くなった常連客に自分のライフスタイル・南郷トマトの魅力を伝える

・興味を持った人が町やJAに就農相談に行く

・南郷トマト生産者として就農(移住)

南郷スキー場とスノーボーダー

▲南郷スキー場とスノーボーダー

相談窓口・面談の実施

新規就農希望者に対しては、生産組合・JA・町・福島県南会津農林事務所の4者による就農相談や面談を行っています。就農希望者の中には、技術や知識はもちろんですが、自己資金を全く持たず、相談に来る方も多くいらっしゃいます。面談では、農業の厳しさも伝え、生産組合のルールや、行政の補助制度等をしっかり説明し、就農意思の確認を行っています。


【生産組合の主なルール】

・収穫したトマトの規格外品以外の全量をJAに出荷。

・規格外品を「南郷トマト」の名前で販売してはいけない。

・苗は、生産組合共同育苗の苗か生産組合が外部委託した苗のみ(品種を統一することや病害虫などの持ち込みリスクを減らすため)。


また、特徴的なのは、離農を防ぐため、親族等2名以上での就農を条件化していることです。かつては、1人での就農も受け入れていましたが、1人だとどうしても作業が間に合わない、作付面積が拡大できない、思うような収入が得られないといった悪循環に陥ってしまい、最終的に離農し、地域から出て行ってしまったという苦い経験がありました。

現在では、夫婦での就農者が増え、離農するケースも少なくなっています。

就農前の研修の実施

就農後速やかに収益を得られるように、就農前1~2年間は、生産組合が指定した先進農家で研修生としての徹底的な実務研修を義務付けています。ここでは、研修生はトマトの栽培技術だけではなく、地域社会のことを学び、地域の人々とのつながりづくりを行います。先進農家は、これからの産地のことを考え、損得なしに研修生を受け入れており、研修生にとっては、この地域の「里親」のような存在となっています。

この期間、研修生は国の支援制度「農業次世代人材投資資金(準備型)」または、町の「新規就農者支援事業(研修業務補助金)」により生活支援を受けることで研修に打ち込むことができ、技術の習得につながっています。

就農後の支援

○技術面のサポート

研修が終わると独立し就農するわけですが、やはりまだまだ未熟であるため、指導班(生産組合、JA、県農業改良普及員等)を組織し、栽培経験が浅い人を中心に、1週当たり2回の巡回指導を実施し、確実な技術習得を支援しています。

 

○資金面のサポート

資金面では、就農初期の収入が不安定な段階においても国の「農業次世代人材投資資金(経営開始型)」(最長5年)または、町の「新規就農者支援事業(初度経営支援補助金)」(最長3年)を交付し、経営を支援しています。

パイプハウスやかん水設備などの初期費用については、国や県の各種補助事業を活用し、町も上乗せ支援を行っています。町独自の種苗代の補助、農業資材購入補助なども行っています。JAにおいても新規就農者向けの融資やサポートを行っています。

 

○住居面のサポート

住宅については、町の空き家の斡旋や、取得した住宅の修繕費を補助する「空き家バンク制度」や「住宅取得等補助」、I・Uターンで新規就農者が入居できる「新規就農者促進住宅(2戸)」の設置など支援を行っています。しかし、実際には、作業小屋や倉庫が必要なことや、斡旋した物件がほ場まで遠いなど、就農者の意向に沿う物件は少なく、生産組合や研修受入農家の斡旋により住宅を見つけることも多くあります。

作業の様子

▲作業の様子

結の精神

当町では、地域的なまとまりによる結束力も強く、何かあればすぐ助け合う体制が自然とできています。これは、雪が多く厳しい気象条件の中で育まれてきた地域独自の「結」の精神によるものでトマト栽培にも活かされています。農家は個々の経営ではありますが、生産者同士のつながりを大事にして、新規就農者も産地の一員、地域の一員であるという自覚をもって栽培していることが産地としてのまとまりを生んでいます。

除雪作業の 様子

▲生産者による雪に埋もれたパイプハウスの除雪作業の様子

南郷トマト生産者の皆さん

▲南郷トマト生産者の皆さん​

100年産地を目指して

こうしたIターン就農者の増加は、南郷トマトの産地規模の維持拡大のみならず、地域にとっての農業後継者の確保・育成の一助となり、過疎化が続く当地域の活性化に貢献しています。

産地を守ることが地域を守ることに直結しており、生産組合・JA・行政が一体となり、「100年産地」を目指し、担い手づくりに尽力しているところです。