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石川県宝達志水町/「町の魅力」は住民の誇りが生み出す ~宝活(宝達志水を楽しくする活動)プロジェクト~

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年1月11日

 能登半島最高峰「宝達山」からの眺望

▲能登半島最高峰「宝達山」からの眺望


石川県宝達志水町

3145号(2021年1月11日) 宝達志水町主任 田上 諭史


1 宝達志水町の概要

宝達志水町は、石川県のほぼ中央に位置し、能登半島の玄関口として多くの観光客が行き交う、海と山に囲まれた人口約1万3、000人のまちです。

西部は日本海に面した砂浜で、日本で唯一、車で走れる砂浜である「千里浜なぎさドライブウェイ」は全国から多くの観光客が集まる人気の観光スポットです。2016年には、トリップアドバイザーのトラベラーズチョイスで、日本の人気ビーチランキングにおいて第1位に選ばれています。

千里浜渚ドライブウェイ

​▲千里浜なぎさドライブウェイ

 

また東部には能登半島最高峰、標高637mの「宝達山」を頂に、宝達丘陵帯とよばれる里山が連なっており、人々の暮らしを支える豊かな水源涵養林となっています。特に、宝達山については、林野庁の「水源の森100選」に選ばれていることから、自然環境と水の豊かさの象徴的な存在です。

宝達山の伏流水が流れ出る平野部では、お米をはじめ、多種多様な野菜が栽培されるだけでなく、スモモ・ぶどう・桃・いちじく・りんご・柿などのフルーツが季節ごとに地域の食卓を彩ります。中でも、ぶどうといちじくは町の特産品として特に人気があり、毎年の初競りで1房100万円以上の価格がつく高級ぶどう「ルビーロマン」や、高品質の黒いちじく「黒蜜姫」は、地域のブランド商品として注目を集めています。

ルビーロマン

▲ルビーロマン

黒蜜姫

▲黒蜜姫

2 地方創生と「宝のまちブランド推進事業」

平成26年、いわゆる「増田レポート」の問題提起を受け、国では「まち・ひと・しごと創生法」と「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定されました。当町においても地方版総合戦略というカタチで、5カ年計画の宝達志水町総合戦略が作成され、その中に位置づけられたテーマの1つが「町のブランド化」でした。

ちょうどその頃は、東洋経済が発表している「住みよさランキング」が話題となっており、特に石川県内では、数自治体が毎年ランキングトップ10入りするなど、注目度が高い時期でした。中でも当町に隣接するかほく市が住みよさランキングに常にランクインしていることもあり、当町においては、町の知名度ということ以上に、町のブランド化が意識されていた時期でした。

そうした流れを受け、総合戦略事業の1つとして、町をブランド化する「宝のまちブランド推進事業」が位置づけられました。

3 町のブランド化とはなにか?

「宝のまちブランド推進事業」をスタートさせる中で、まずぶつかった壁は「町をブランド化するとはどういうことか?」「町を魅力的にするとはどういうことか?」という事業以前の問題でした。ブランド化とは、「差別化」であり、「独自性」の確立です。そのうえで、消費者がその商品やサービスを欲しいと思う突出した魅力を磨き上げることで成されます。

商品やサービスのブランディングにしろ、コーポレートブランディングにしろ、魅力を突き詰めて戦略的に発信していくということに変わりはありません。では、魅力的な町とはどんな町なのか?このことを考え抜いたとき、「住民が自分の住む町を愛している町」が町として一番魅力的なのではないかという結論に至りました。いわゆる「シビックプライド」です。

4 「宝活=宝達志水を楽しくする活動」の誕生

こうして「宝のまちブランド推進事業」では、住民のシビックプライドを高めるプロジェクトを推進することで、町のブランド化を図ることになりました。ただ、事前調査を行ったところ、住民のシビックプライドは想像以上に低いことがわかってきました。これは想定外のとても重要な課題が見つかったと思いました。

シビックプライドの低さは、町外への転出の増加につながる重要な要素です。当然、移住などの転入にも影響します。ただ、いきなり町の人に「自分の町を誇りに思いましょう」と言って簡単に解決するものではありません。時間はかかりますが、地道に町民自身に宝達志水町の魅力を知ってもらうことから始める必要がありました。

こうした経緯から、まずは町民に、町にはこんな魅力があるのだということを伝えるプロジェクトである「宝活」を立ち上げました。宝活とは、「宝達志水を楽しくする活動」の略で、地域みんなが関わり合いながら、楽しく宝達志水町の魅力を分かち合おうという意味合いが込められています。

事業としては、町内の魅力的な事業者や活動団体などを取材し、その魅力を発信するWEBメディアのような場をつくったり、まちづくりに関心の高い住民が集まって、自分たちがやりたいことをやっていく「宝活クラブ」というプラットホームをつくったりしながら、少しずつ魅力づくりに取り組んできました。

宝活WEBページ

宝活WEBページ

宝のお仕事自慢

▲宝のお仕事自慢

 

特に宝活クラブについては、行政としても大きな収穫が2つありました。1つは、この小さいまちに、まちづくりに関心が高い人材が何人も存在していることが明らかになったこと、2つ目は、その人たちが一同に会し、協力し合える体制ができたことです。

宝達志水町は、現在52の地域集落で構成されています。集落の規模は数世帯の小さな集落から500世帯を超える大きな集落まで多様です。そして集落ごとに独自の文化を有し、運営方法もさまざまです。特に、集落の祭りへの住民の思いは深く、一種のアイデンティティにも似た感覚があることから、当町において地域コミュニティといえば、この一つ一つの集落を意味します。このこと自体はとても大切なことですが、一方で「まちづくり」といった広域的な概念になると、集落を越えて人がつながるという機会は、それまでほとんどなく、こうした背景が広域的なまちづくりにつながらない要因としてありました。そういった点で、宝活はとても大きな役割を果たしたと受け止めています。

5 宝活の挫折

このように話を進めると、とても良い事業のように伝わるかもしれません。しかし、どんな事業にも失敗はつきものです。実際、宝活は途中で頓挫してしまいました。原因は、行政組織として、手法や役割を共有しきれなかったことにあります。

宝活がやろうとしてきたことは、いわゆるタウンプロモーションです。民間企業では既に一般となっているWEBメディアの運営や、ユーザー巻き込み型プロモーションの手法を採用していました。しかし、行政においてはこうした手法はまだまだ浸透しておらず、組織内で理解されるのが難しかったということが主な原因でした。そして、そうなってしまった最大の理由は、目的や意義、手法について明確に言語化できず、組織内で共有しきれなかったことにあると考えています。

実を言えば、走りながら事業を進めていた当時は、今ほどには事業の目的や手法等についても理解できていませんでした。「WEBメディア」や「巻き込み型プロモーション」という言葉も知らず、地方創生にとにかく取り組まなければならないという気持ちだけで進めていたように思います。結果として戦略としては浅かったということです。

けれど、こうして過去の失敗を改めて振り返ることで、失敗した根本的な原因が明らかになったことは、むしろ大きな収穫だと今は受け止めています。

宝活クラブ

​▲宝活クラブ​

6 シビックプライドの向上に向けて

前述したように町民のシビックプライドを低いままにしておくことは、町の地方創生にとって大きなマイナスであることに変わりありません。今一度、タウンプロモーションやシビックプライドについて戦略を練り直し、再度取り組もうと考えています。

大切なことは、目的や意義を明確にし、目標に向かって一歩一歩進んでいくことです。一度は失敗しましたが、今度は組織として継続的に取り組むことができる仕組みにしていきたいと思っています。失敗を恐れず、トライアンドエラーを繰り返しながら「住民が誇りを持てる町」というビジョンに向けて進んでいきたいと思っています。