▲日本渚百選にも選ばれた白砂青松「弓ヶ浜」
静岡県南伊豆町
3142号(2020年12月7日) 南伊豆町 商工観光課
南伊豆町は、静岡県東部にある伊豆半島の最南端に位置し、東西11・5km、南北9・7km、総面積は109・94㎢北東は下田市、北西は松崎町に接し、東を相模灘、西を駿河湾、南は太平洋と三方を海に囲まれています。伊豆半島最南端の石廊崎などの景勝地を有する海岸線には、「日本の渚百選」「快水浴場百選」にも選ばれた白砂青松の弓ヶ浜海岸、徳川14第将軍家茂公が嵐を避け、船を停泊した子浦など、その総延長は57・4kmにもおよびます。また、天城山から連なる山々は、広葉樹の自然林が多く、水源から海に至るまで本町内で完結する青野川流域に点在する集落の里山として、古くは薪炭生産や農用林としての重要な役割をもつなど、深いかかわりを持っています。これらの自然環境は、本町にたぐいまれなる観光資源を与え、町の将来像を「光と水と緑に輝く南伊豆町」として掲げている本町は、富士箱根伊豆国立公園に属する一大景勝地となっています。
気候は、年平均気温が16・9℃(平均値)、年降水量は1、852・85mm(平均値)と年間を通じて温暖な土地で、令和2年10月1日現在の人口は8、044人、世帯数は3、905世帯を数えます。
本町における地域社会の形成は、下賀茂日詰遺跡の発掘調査などから、弥生時代に遡ることができ、この遺跡には弥生時代から平安時代におよぶ先人の社会活動の跡がみられます。江戸時代には、徳川家康によって幕府直轄地に指定され、農業と漁業を中心とした農村社会を築いてきた歴史があります。
また、地域形成において特徴的なのは、東西を結ぶ海上交通路の要所に位置するところから、リアス式海岸と天然の良港を有する風待港として栄えた経緯があり、東西の文化を取り入れた独自の文化と活発な地域社会を維持してきたことから、妻良・小稲地区など、多くの集落には、独自の伝統芸能が保存され古くから開けた地域でありました。
明治22年、町村制の施行により、南崎村・竹麻村・南中村・南上村・三坂村・三浜村の南賀6ヶ村が誕生し、天然の良港を利用した半農・半漁の海岸地区、温泉を中心とした下賀茂地区、それに山村地区とそれぞれの特色を持った村から成り立っていました。その後、昭和30年7月、町村合併促進法に基づいて6ヶ村が合併し、現在の南伊豆町が誕生しました。
▲青野川沿いに約800本連なる「河津桜並木」
平成29年度から取り組むサテライトオフィス誘致事業「南伊豆るプロジェクト」は、「誰もが望んでいるが実現していない課題解決としてのサテライトオフィス」を目指し、本町の魅力を活かしたライフスタイル・ワークスタイルを創出し、若者の就職時の転出を抑えるとともに、U・Iターン者の転入を増やすことを目的として事業をスタートしました。本町にはない「若者が憧れる仕事」に取り組む企業や、都市部在住の若者(フリーランスなど)を誘致することで、新たな仕事や雇用の創出、地域資源情報(ヒト、モノ、コト)の発信など、本町にとって新たな価値の創造や地域活性化を目指しています。
「南伊豆るプロジェクト」事業全体の取組方針をまとめた「南伊豆町サテライトオフィス誘致戦略」では、「サテライトオフィス誘致を通して10年後に実現したい南伊豆町」という誘致ビジョンを掲げています。誘致戦略の具体的な項目としては、「誘致ターゲット企業」、「事業推進体制」、「誘致目標」などを定めています。
誘致ターゲット企業については、地域の子供達向けに「将来働きたい仕事」に関するアンケート調査を実施し、アンケート結果をもとにした6つのカテゴリと業種を設定しました。例えば、地域プロデュースにつながる広告・デザイン関連、地域の子供たちの学びにつながる教育関連など、本町の魅力発信や人材育成につながる業種を選定しました。
次に、事業推進体制においては、行政・地域住民・企業誘致に関する専門家を中心とした体制を構築しています。その中でも特に重要な役割は、地域住民で構成されるNPO法人伊豆未来塾が担う「誘致コンシェルジュ支援制度」です。NPO会員には農業者、漁業者、観光関連事業者、移住者などのさまざまな立場の町民が参画し、会員自身が地域内で活動をしている地域プレーヤーであることから、本事業にとって重要な「地域の人」としての役割を担っています。また、同法人は町の移住・定住施策における「現地案内人」としても活動し、地域内外の人と人とをつなぐ役割を担っており、そこで培ったノウハウやネットワークは、誘致コンシェルジュ活動にも活用できるコンテンツとなっています。
誘致コンシェルジュとしての活動内容は、視察前オンラインミーティング、滞在スケジュール作成、訪問先との調整、滞在時の随行などがあり、初めて本町を訪れる方々にとって、来町前の情報収集や滞在中のスムーズな視察が可能になるなど有効な支援となっています。
これらの手法によって事業を進めてきた中で、本町には令和2年10月時点で2社のサテライトオフィス企業が進出をしています。ここからは進出企業による地域ビジネスの事例をご紹介いたします。
◯誘致戦略
▲ターゲット企業
株式会社ジェイアンドユーが制作したフリーペーパー「職・漁師」では、普段知ることのできない漁師の世界、その魅力について本町の暮らし、食、環境と共に発信する媒体として全7号が発行されました。伊勢海老漁、金目鯛漁、海士漁、高足ガニ漁、イカ漁と、一言で漁師といってもさまざまな形があります。フリーペーパーに登場した漁師一人一人の仕事に対する想い、こだわり、誇り、その方を支えるご家族の様子など、「漁師の日常=地域の魅力」として発信できる一冊になっています。
また、漁師が獲った魚などを直送する「推し漁師サービス」、特集食材を使用したオリジナルレシピ開発、職・漁師オリジナルグッズ販売など、フリーペーパー発行をきっかけとしてさまざまな地域ビジネスを形にされました。
今後は、これまでに構築した地域とのネットワークや、町内にかまえるコワーキング施設を活用し、これから本町を訪れる企業やワーケーションユーザーに向けて、地域とのマッチングやコワーキングスペースの運用に取り組まれます。
▲漁船に搭乗して漁の様子を撮影
※スポカン会議とは「Spot light on the Local Company」の略。
▲オンライン形式によるスポカン会議の様子
本町に初めて視察やワーケーション利用で訪れる方々は、本町のことを知らないことが多い中、本町を知っていただくための効果的な手法としては、地域資源を活用し、生活をされている「地域の人」とのつながりをつくることです。地域の人とのコミュニケーション機会を創出し、地域の人たちの日々の暮らしである「日常」に触れていただくことで、本町でしか伝えられない地域の魅力に触れていただけると考えています。これまでにおこなった交流事業としては、漁師による地魚の加工体験、町民との海岸清掃活動、町長との意見交換など、さまざまな地域の人との交流ができる機会を提供してきました。これらは、本町の素晴らしい魅力や価値を知ることができる機会であり、かつ、参加者にとっての「非日常体験」として、新しい視点、経験、学びにつながっています。これからも地域の貴重な資源である地域の人とのつながりを大切にして事業の推進に取り組んでいきます。
▲地魚の加工体験の様子
第6次南伊豆町総合計画では、人口減少、少子高齢化という厳しい現実に直面している中にあっても、定住人口の維持を図りつつ、定住する町民のみならず、本町に継続的・積極的に関わりを持つ町民以外の人(=関係人口)も含めた、新たなまちづくりの主体が、相互理解のもと協働して地域づくりに取り組んでいくことを目指しています。「南伊豆るプロジェクト」によって町に関わる人たちについては、地域の人と協働したまちづくりに取り組む人材としての活躍が期待されます。今後も、地域との関係性を大切にしながら、企業誘致やワーケーションの促進によって、多くの人に本町を訪れてもらえる「持続可能な南伊豆スタイル」の確立を目指し、「南伊豆るプロジェクト」の推進に取り組んでいきます。