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熊本県高森町/情報通信基盤整備が町を変える!~コロナ禍で発揮されたICT教育の力~

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年11月23日更新

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▲右上「草原で放牧されるあか牛」、左上「観光客に人気のトロッコ列車」、左下「郷土料理の高
森田楽」、中央下「阿蘇のみに自生するツクシマツモト」、右下「パワースポット『高森殿の杉』」


熊本県高森町

3141号(2020年11月23日) 高森町長 草村 大成


野の花と風薫る郷

高森町は熊本県の最東端で、阿蘇山の南東部に位置しています。東西約22km、南北約17km、総面積175・06㎢で、人口約6、300人で古くから畑作や稲作、広大な原野を利用した畜産等が行われてきました。町域は世界一のカルデラである阿蘇外輪山によって東西に大きく2つに分かれています。

町の西端に南阿蘇鉄道の発着駅である高森駅をはじめ、行政や商工観光の施設が集中しており、人口の約80%がこの地域に集中しています。

東側は外輪山の外側で大分県や宮崎県と接しており、広大な山間部が広がっています。

また、観光立町を目指す当町には、大量の出水で中止となった旧国鉄のトンネルを利用した「高森湧水トンネル」やアニメの舞台となったことで多くのファンが訪れる「上色見熊野座神社」、またパワースポットとして人気の巨大な杉「高森殿の杉」、南阿蘇鉄道の「トロッコ列車」などの観光施設や、昨年国選択無形民俗文化財の指定を受けた高森のにわか(即興喜劇)が披露される「風鎮祭」など、豊かな自然と歴史や伝統が息づく町です。

 

風鎮祭で披露される「高森のにわか」

▲風鎮祭で披露される「高森のにわか」​

熊本地震からの創造的復興

南阿蘇地域のローカル鉄道である南阿蘇鉄道は平成28年の4月に発生した熊本地震で甚大な被害を受けました。南阿蘇鉄道は、地域の産業・文化・人と人とを結ぶ、重要な手段です。

現在までに南阿蘇地域への幹線道路は順次復旧し、観光客等を迎え入れる準備も徐々に整いつつあります。

南阿蘇鉄道も全線開通を目指して、一歩ずつ着実に進んでいますが、現在も部分運行を余儀なくされている状況であり、完全復旧には至っていません。

熊本県の蒲島知事が熊本地震からの復旧の目標として掲げられていることの1つに、「創造的復興」があります。これは、単に元の状態に復旧するだけではなく、地震前よりもさらに良くなることを目指すことです。そこで、南阿蘇鉄道の創造的復興として打ち出したのが、「都市圏アクセス30分台構想」です。

地震以前は、南阿蘇地域から都市圏まで、乗り換えを含めると、約1時間程度かかっていましたが、これが実現すると、乗り換えがなくなり、30分台で都市圏に行くことができるようになることから、移住・定住の促進、さらには、熊本空港からのアクセス向上による観光客の増加など、利用者の利便性が高まります。

地震発生から約4年半が経過しましたが、手探りの状態から知恵を絞り、地方のローカル鉄道が復旧するための大きな課題であった費用に関して、赤字鉄道の災害復旧費用を国が実質97・5%負担する、財政支援特例を制度化していただきました。

このことにより、今後、全国で多発する自然災害等で被災し、復旧を目指すローカル鉄道への後押しにもつながるものとなりました。

 

南阿蘇鉄道の被害状況の一部

南阿蘇鉄道の被害状況の一部

 

トロッコ列車

▲震災前の南阿蘇鉄道(トロッコ列車)​

高森町の教育の情報化

町内には小・中・義務教育学校が各1校あり、市街地にある高森中央小学校と高森中学校を「高森中央学園」として、山東部にある高森東学園義務教育学校を「高森東学園」としてコミュニティ・スクールに指定しています。「高森中央学園」は、カリキュラムを中心とした施設分離型小中一貫教育に取り組んでいます。「高森東学園」は、熊本県で最初の義務教育学校として平成29年4月に開校しました。義務教育9年間を「4・3・2」のブロック制とし、施設一体型小中一貫教育に取り組んでいます。

本町は人口構成、山間部を抱える地形など、民間業者が投資に見合う収益化が厳しい環境下にあり、平成23年まで光ファイバー網が未整備の状況でした。

そこで、平成23年以降、“人口減少を本格的に迎える局面であること”を念頭に置き、小さい町だからこそ必要な施策と捉え、整備の検討を始めました。

そして平成25年には、PFI的手法(民設・民営)を採用し、個人負担なく、町内全ての住宅・事業所・施設の軒先までインターネットとケーブルテレビの線を事業者がくまなく引き込む、全国ではあまり例のない取組を実施しました。

このように情報通信基盤が整備されたことにより、各学校のICT環境も整えることができることとなり、平成24年度から町内全てにおいて一斉に整備を進めてきました。

まず、各教室等(普通教室・特別教室・体育館)に電子黒板と実物投影機を配備し、各教科デジタル教科書(学習者用デジタル教科書も含む)を導入しました。

また、校務支援システムや教務支援システムにより情報化も進めました。

次に、各教室等に無線LAN環境を整備し、テレビ会議専用機の設置や教職員・児童生徒への1人1台のタブレット端末の導入も完了しています。

高森町の学校教育は、「高森町新教育プラン」(以下「教育プラン」と記述。)に基づいて展開されています。教育プランは、国際化・情報化・少子化等の課題を見据え「情報化・国際化への対応」と「ローカルオプティマムとナショナルスタンダードのバランス」をキーワードとして、平成24年3月に策定(平成31年4月改定)されました。

各学校は、文部科学省による教育課程特例校や研究開発学校として、国や県のさまざまな委託事業や研究指定等を受けて教育プランを推進してきました。特徴的な取組として、コミュニティ・スクールへの取組、英語教育・プログラミング教育を中心とした小中一貫教育の取組、高森ふるさと学を中心としたふるさと教育への取組、そして教育の情報化への取組等が挙げられます。これらの取組は全国的にも注目を集め、毎年全国各地の学校・教育委員会・議会等、さらには海外からも多くの視察を受けています。

「ふるさと高森」に誇りを持ち、夢と希望あふれる教育のブランド化を目指して「端末」・「ネットワーク」・「クラウド」をセットで整備するとともに、児童生徒一人一人にアカウントを付与し、個別最適化され創造性をはぐくむ教育ICT環境を提供しています。

各学校の受賞歴

▲各学校の受賞歴

コロナ禍における活用

こうした中で、この度の新型コロナウイルス感染症の流行により、本町でも令和2年3月から6月にかけて、感染予防対策として学校の臨時休校が行われました。3月の段階から遠隔教育実施事業として町単独で学校や家庭の環境整備を行い、遠隔による学習支援を実施しました。今まで積み上げてきた遠隔教育のノウハウを活かし、町内のすべての学校において「同時双方向型オンライン授業」を実施し、遠隔教育による実質的な指導の時間の確保に努めてきました。ほぼ100%の世帯で見ることのできるケーブルテレビを活用し、教職員による生活支援や学習支援を実施しました。

各学校ではベテランの教員も新・転任教員も同じスタートラインからオンライン授業ならではの教材研究や授業研究が始まりました。オンラインでの教師の話し方や児童生徒の発表、グループ学習の方法など、学校間で情報を共有しながら試行錯誤を繰り返しました。

また、テレワークによる在宅からのオンライン授業も行っています。6月に学校が再開してからも、ソーシャルディスタンスを保った協働的な学びなど、さまざまな場面で休業中の取組を活かし、オンラインを活用したウィズコロナの授業づくりを工夫しています。授業だけでなく3密を避けて生徒総会や集会、PTA総会などをオンラインで実施しました。資料をタブレットに送信することでペーパーレスや校務の効率化にもつながっています。

さらに、本年度は、児童生徒一人一人の習熟度にあわせたカリキュラムを選択して、ネイティブスピーカーとの1対1でのAll Englishによる英会話レッスンに取り組んでいます。

今後も感染拡大の状況により、オンラインでの子どもたちへの学習支援がいつ必要となるか、わからない状況です。本町は遠隔教育体制が整っているものの、コロナ禍における新しい生活様式への対応は初めての経験であり、学習への不安がないとは言い切れない状況です。

そこで“学びの機会”を手厚く確保するため、大手学習塾と契約し、家庭でできる受験対策として、ケーブルテレビを活用した大手学習塾の授業を受けることができる町独自の支援も実施しています。

 

遠隔授業

▲遠隔授業の様子

将来の子どもたちに誇れる町に

新たな取組として、地元新聞社と連携し、同時に同じ書籍や新聞資料等を最大500人まで閲覧できるタブレット図書館が運用を開始しました。これにより、各教科等の授業と連携した家庭学習の一層の充実が図られることになりました。なお、このタブレット図書館は、将来的には、児童生徒だけでなく町民全体へと展開していくことにしています。

また、情報通信環境の整備は、東京の漫画出版社(株)コアミックスの企業誘致につながりました。エンターテインメント業界の活力をまちづくりや地域における新しい産業の創出に取り入れるため、同社と「エンターテインメント業界と連携したまちづくりと地域の新産業創出の協同事業実施に関する協定」を締結し、地域経済振興、地域資源を有効活用した自立したまち・地域づくりに取り組むことに加え、漫画が「人」「社会」「ビジネス」を創造するエコノミーシステムを構築し、地域に新しい産業を創出するための取組に着手しています。

具体的には、同社が旧町営温泉施設を改修して漫画クリエーターやエンターテインメント関係人材の育成機関(漫画アカデミー)を設置します。そこに世界各国から日本で漫画関連への職を希望するクリエーターを集め、日本文化体験や漫画の勉強会を行う「くまもと国際マンガCAMP」をはじめ、国際交流イベントの開催、漫画から派生する産業(アニメ、CG、ゲーム、ホビー、映像等)の誘致を進め、「ソフトパワー」による地域活性化と地方創生を推進します。

また、現在進行中のプロジェクトの1つに「096k(おくろっく)熊本歌劇団」があります。これは、20代を中心とした女性だけで構成された劇団で、(株)コアミックスの超有名漫画(熊本が舞台)を原作に、観光客やマンガ・アニメファン等をターゲットに、劇場等で舞台公演を行い、併せて町のPRも担当します。全国からオーディションで選ばれた22名の劇団員は、11月から本町へ移住し、漫画アカデミーを拠点に、YouTubeやケーブルテレビによる地域情報の発信や、高齢者教室等での福祉事業との連携、小中高生の学校行事や課外活動と連携した「エンターテインメントによる人材教育」に取り組みます。

教育から新産業創出など、当町の強みである情報通信基盤を活かした、新たな地方創生として、移住・定住のモデルとなるような長期的な計画を進めてまいります。

 

2018年から開催しているマンガCAMP in 阿蘇高森

​▲2018年から開催しているマンガCAMP in 阿蘇高森​