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愛知県大口町/木造園舎建築による協働のまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年9月14日

新しい園舎

▲武家屋敷風に建てられた 北保育園の新しい園舎


愛知県大口町

3133号(2020年9月14日) 大口町長 鈴木 雅博


大口町の概要

大口町は愛知県の北西部に位置し、犬山扇状地の東南部に位置する「木の葉」の形をしたまちです。東西約3・6km、南北約6・1km、総面積は13・61㎢。海抜40mから海抜15mのゆるい傾斜になっており、地質は木曽川からの土砂の堆積による沖積層をなし、耕作に適したものとなっています。町の真ん中を北東から南西に向かって五条川が流れ、川の堤には「日本さくら100選」に選ばれている桜並木が続く、田園風景が広がる自然豊かなまちです。

一方で、昭和30年代から積極的に企業誘致を行ってきた結果、製造業を中心に、約670社を超える企業が町内各所に点在しており、人々の生活と産業、自然が調和した環境が整っています。

また本町は、国宝松江城を築城した武将、堀尾吉晴公の生誕地としても知られており、平成27年の松江市との姉妹都市提携以降、官民問わず多方面の交流が活発に育まれています。

 

~子どもたちの保育園を私たちの手で~

平成29年3月、本町に3園ある公立保育園の一つ「大口町立北保育園」が 新しく建て替えられました。この北保育園は昭和51年に建てられたもので、老朽化が進み、園舎の所々で修繕が必要となってきたことから建て替えをすることとなったものです。鉄筋コンクリート造りから木をふんだんに使って建て替えられた園舎は、自然のぬくもりとやさしい木の香りが 元気な子ども達を包み、癒しの場となっています。

この園舎の建て替えには、現場に立つ保育士の意見も多く反映されていることはもちろんのこと、子ども達の成長を願う、大勢の地域の皆さんの手により、約3年の歳月をかけて完成した、まさに「協働のまちづくり」を具現化した公共施設整備でありました。

施設整備の課題と取組

~保育の多様なニーズに対応する~

保育園の建設にあたっては保育環境の充実を第1に考えつつ、次のような点を課題として取り上げました。

⑴早朝・延長保育環境の充実

⑵母子通園 専用施設の設置

⑶子育て支援センターの設置

⑷地域住民のサロン的活用可能なスペースの確保

⑸環境に配慮した省資源・省エネルギーへの取組

園舎の特徴として、通常の保育園活動に加え、未就園児の保護者への情報提供や育児相談、出産を控えた方の産前・産後のサポートを図るための「子育て支援センター」の新設、就学前の心身に発達の遅れや心配ごとのある園児が、保護者と一緒に日常生活の自立に向けて通園する「母子通園施設」の整備など、子育てにやさしい環境づくりを目指しました。

さらには、地域住民が集い、保育園活動に参加し、園児と交流を深めることによる生きがいづくりの場、あるいは、憩いの場としての「ふれあいサロン」の設置、そして、施設が町の避難所として地域住民の身近な生活拠点となるようにも配慮しました。

園舎の設備については、愛知県の補助制度を活用し、太陽光パネルの整備や、温度変化が少ない地下水を熱源とした空調システムを導入するなど、自然エネルギーを利用することで環境にやさしい省資源・省エネルギーの整備を決めました。

武家屋敷風の木造通路

▲玄関入口に続く通路。東屋は、雨が降る日などに雨具の着脱の場所ともなり、親子にやさしい造りとなっている

木造・武家屋敷風の園舎建設に決定!

~現場からの想い~

大口町は五条川の桜を代表とする自然豊かな町であります。本町の保育園では約40年前から木で作った手作りパズルをはじめ、けん玉や銭ゴマ遊びなどを保育の特色として取り入れてきたことから、日々、子どもたちと関わる保育士の中から、園児が最も自然を感じ、遊びの中からやさしいぬくもりが感じられる、「木と触れ合える園に」、「園舎を木造で」という意見が多数持ち上がりました。


~町長の想い~

1つ目、「子どもの記憶に残る保育園を」。

6歳までの記憶は、一生残るもの。木をふんだんに使った自然のぬくもりあふれる、環境に優しい保育園としたいという想い。

2つ目、「住んでいる土地の歴史を大切にする心を育てたい」という想い。

北保育園が立地する大口町中小口地区には、室町時代後期の長禄3年(1459年)、武将 織田広近によって築城された小口城の城址があります。

東西約50間(約90m)・南北約58間(約105m)の曲輪に2重の堀と土塁が廻らされた形状であったとされ、戦国時代には犬山城の支城としての役割を果たし、城下町として栄えたという話も伝えられています。

本町の歴史的文化を後世に継承したい、この地で育つ子どもたちが、自分たちの住む地域の歴史に想いを馳せるきっかけとなる建物としたいという想いから、保育施設としては非常に珍しい「武家屋敷風」の外観が提案されました。

保育士や町長、関係するそれぞれの想い、そして社会的背景から、北保育園建て替え構造は「木造」、外観は「武家屋敷風」にすることに決まります。

 

広々とした廊下

▲幅3mの回廊。広い回廊は、天候に左右されることなく遊びの場として利用できる他、地域の方との交流の場としても利用されている

 

遊戯室

▲遊戯室。天井が高く造られ、風通しがよく、光が入るよう設計されている。地域の指定避難所としても活用される。

「住民・企業・行政」が協働して取り組んだ園舎建設

~「木こりプロジェクト」 立ち上がる~

北保育園建て替え事業がもち上がった際、町内に本社を置くタイム技研(株)より、「所有林の間伐材を利用してもらってよい」とのお話をいただきます。

タイム技研(株)は、平成15年11月に創立25周年を記念して岐阜県関市武儀町の山を購入。7万坪ある広大な森林を「21世紀創造の森」と名付け、環境保全や社員の体力増進と親睦のために役立てておられ、月に2回、ボランティアの社員で行っている間伐作業ででる木を町に寄付したいという、願ってもないタイミングの申し出でした。

本町はこの申し出を有難く受け止め、山の立木を活用させていただくこととなりましたが、その決め手の一つに「協働のまちづくりの精神」があります。

これは、遡ること約20年前の平成12年、地方分権一括法が施行されたことを契機に、昭和の大合併時における教訓を再確認しながら、「自主自立の精神を掲げ、参画と参加の協働のまちづくり」をスローガンに掲げ取り組んできた中、今回の木材の提供は好機となりました。全ての材料を市場において調達するのではなく、伐採や木材の引き出し等、材料の調達に地元企業や住民、行政が参画する、まさに「参画と参加の協働のまち」ならではの保育園建設を目指す、大口町で初めての大規模な取り組みが持ち上がります。

この構想を形にするため、平成26年6月、役場職員5名からなる『木こりプロジェクト』が結成され、『企業、住民、行政が一つになってみんなの「想い」がつまった保育園づくりを目指そう!』という理念を実現するべく活動を開始しました。


~園舎完成を目指し「木こりプロジェクト」活動開始!!~

木こりプロジェクトでは、この事業に広く参加を促すための仕組みづくりや、丸太の搬出方法などをタイム技研(株)とともに検討を重ね、平成26年12月からタイム技研(株)の社員の皆さんをはじめ、住民・保育士・行政職員が力を合わせて丸太の搬出作業を開始しました。

参加者全員が一丸となり、1本、そしてまた1本と、雪が降り積もる厳しい状況の中、声を掛け合って懸命に運び出しました。

3年間で運び出された丸太は、なんと232本。丸太は集成材等として生まれ変わり、遊戯室や玄関、渡り廊下、子育て支援センターの、目に触れる箇所で使われることとなりました。

そして、平成29年3月、みんなの想いが形となった北保育園舎が完成しました。

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複数人で丸太を引っ張る様子

▲伐採した丸太の搬出作業​

園舎完成と木育の充実

玄関にそびえるのは、「21世紀創造の森」の樹齢150年超えのヒノキを伐採した原木の「シンボルツリー」です。

園舎は木造平屋で 約2、150平方メートル。雨天でも体を動かせるよう、幅3mの回廊がまっすぐ延び、芝生の園庭(50mトラック)を四角く囲んでいます。木材は、タイム技研(株)からの提供分と愛知県豊根村、岐阜県中濃森林組合及び愛知県産材を活用し、あわせて 540㎥を使用、総工費、11億2、300万円をかけての工事となりました。

 

玄関

▲玄関にそびえる 樹齢150年超のヒノキを加工した「シンボルツリー」

 

  • 秋の遠足

園舎の建設中から、毎年、町内3園、約120名の年長児が、丸太を切り出していた山「21世紀創造の森」に秋の遠足に出掛けさせていただいています。

遠足の実施にあたっては、タイム技研(株)の安全第一に考えた周到な準備とご協力のおかげで、木の伐採見学や運搬体験、森の散策、葉っぱや木の実の収集など、山と自然ならではの体験を満喫しています。中でも、チェーンソーを使い、大きな木を伐採する様子は迫力満点で、子ども達からは大きな歓声と拍手が沸き起こります。

この森での体験は、子どもたちの忘れられない貴重な思い出の1ページとして心に残るとともに、園舎へ戻ったとき、また自然への想いが膨らむものと思っています。

 

遠足

▲年長児が「21世紀 創造の森」に遠足に出掛け、目の前で大きな木が伐採される様子を見学

 

遠足2

▲力を合わせて、伐採したヒノキの運搬体験!!​

 

  • 山に木を ~植樹体験~

令和元年10月には、平成27年より「21世紀創造の森」へ伺うようになってから5年目を迎えました。

山の環境保全のためには間伐作業が大切なことを学びましたが、木を育む大切さを学ぶことも必要とタイム技研(株)からお話をいただき、初めて山に植樹をすることとなりました。

平成26年、本町内で、100年以上前から自生する桜が3本見つかり、この木が本町古来の桜であることに着目。クローン技術により培養することに成功し、「おおぐち観鋭桜」と命名されます。

この桜の苗木を園児たちの手で植樹することになり、準備した6本の小さな苗木に土をかけ、大きく立派に育つよう、みんなで願いを込めました。

こうした体験全てが「木育」として、子どもたちの健やかな成長へと繋がっていくと感じています。

園児による苗木の植樹

​▲園児による苗木の植樹​

受け継がれる地域との交流

北保育園は、これまでも地域の方々との交流を深めてきましたが、新しい園舎に設けられた「ふれあいサロン」は地域の方の活動拠点となり、ふれあい遊びなど保育園活動への参加、木造園舎のメンテナンスや園庭の芝刈り、草引きといった作業を自主的にお手伝いいただくなど、世代を超えた交流が活発に行われています。

このように、木造園舎建築による協働のまちづくりの実践により、新園舎が地域交流の場を担い、より一層、保育園と企業・地域の結びつきが強められ、地域全体で子どもを育てる意識の醸成が図られています。

また、令和元年には、本町2件目の木造園舎「大口町立西保育園」を増築し、さらなる保育環境の充実を図ってまいります。

 

園舎を拭く様子

園舎の油拭き。地域の皆さんに園舎の柱や床・壁の油拭きをお手伝いしていただいているところ

後記

~たくさんの感謝‼ ありがとう~

北保育園 園舎の建設において、数々の場面で支援いただいたタイム技研(株)が、『21世紀創造の森の活動から生まれた住民・企業・行政の連携による保育園づくりと木育の推進』と称した活動事業が評価され、『2020愛知県環境賞』を受賞されました。

また、全ての保育室・回廊の腰板に愛知県豊根村産のスギ材が使用されていることなどから、本年5月、県産の木材を活用した建物に贈られる、『あいち木づかい表彰 最優秀賞(知事賞)』を本町が受賞しました。