▲上空からの道志村
山梨県道志村
3131号(2020年8月31日) 道志村長 長田 富也
道志村は山梨県の東南端、神奈川県との県境に位置し、東西28㎞、南北4㎞の木の葉の形をした細長い村です。村の面積の93・7%は山林で、標高は国道413号線の神奈川県相模原市との県境から山中湖村境の山伏峠では800mの差があり、村の東と西では季節も1ヶ月違うという特徴を持っています。村の中央を流れる道志川は100余りの枝沢からなり、水質は極めて良質で地域住民はもとより横浜市の上水道水源として古くから利用されている一方、渓流の釣場として、地域の潤いの場として村の大切な財産となっています。首都圏と富士山の間に位置する道志村は、都心から70㎞圏内と近く、新宿から車で90分の距離にあり、村を走る国道413号は首都圏と富士北麓地域への通り道として、夏には多くの観光客で賑わっています。村内にはさまざまな特色あるキャンプ場が約30ヶ所あり、大自然の中のキャンプ場地帯として多くのアウトドアファンから人気を得ています。
横浜市とは水が取りなす縁で古くから水源地としてさまざまな友好交流事業を行ってきました。平成16年には、両市村との間で「友好・交流に関する協定書」が交わされ、道志水源林ボランティア事業・道志村自然体験学習・道志水源林間伐材活用事業・みずの里から横浜へ~探検ツアー~等の事業を通して都市との友好交流を行っています。平成28年9月には、「横浜市の水源地 道志情報館 水カフェどうし」を横浜市内に開設し、両市村の関係、水源地の自然環境、村の特産品、観光案内など情報提供を行い、多くの横浜市民に村の魅力を発信するとともに、人口増加に向けての移住案内を行っています。
▲横浜市内の「横浜市の水源地 道志情報館 水カフェどうし」
道志村は明治22年の村制施行以来一度も合併することなく、令和元年には村政施行130年を迎えました。先人の残してくれた、資源、財産を活用しその時代にあったさまざまな取組を展開してきたわけですが、国際化、情報化、高齢化などの著しい進展により、いろいろな物や情報が身近にあふれる今日、本村を取り巻く社会環境もまた、高齢化、少子化など行政全般にわたる新たな対応が求められています。
村の人口は昭和30年には3、372人でしたが、平成27年度国勢調査時の人口は1、743人と60年余りで半減し、人口減少問題は深刻な状況です。こうした状況に対処するため、村では古き良き伝統文化を守りながら、新しい感覚を積極的に取り入れ、バランス良く移住・定住施策を進めています。中でも、子育て世帯の移住・定住者には住まい、子育て支援、学校教育等の手厚い支援を行い、子育て環境の創出に取り組んでいます。また、若者のライフスタイルに合わせた自由な働き方を自然美豊かな本村で実現していただくため、令和元年10月に公共施設を活用したサテライトオフィスを開設しました。
道志村では平成28年8月に移住支援センターを開設しました。以前、道志村地域協力隊として活動していた隊員が活動終了後、村内において森林環境関係の法人を設立し森林整備、木質バイオマス等の取組を行っています。この法人に移住支援センター業務を委託しています。法人関係者は全てが移住者で、子育て中の人もいます。また、移住にあたって、道志村の生活環境、生活習慣等を熟知したうえで移住を決めており、生活に不便なところの克服方法もしっかりとつかんでいます。こうした人たちが、村での生活経験を活かし、移住希望者に住居、子育て、学校教育、仕事等の情報提供、SNS、ホームページ等により移住に関する情報発信、移住ツアー等のイベントの開催、首都圏においての移住相談会の開催等に取り組んでいます。
▲道志村移住支援センターの学校案内
▲道志村移住支援センターが実施した移住ツアー
道志村では、子育て世帯の移住支援とし、移住経費助成、住宅購入補助、住宅家賃補助、村外通勤費助成等といった経済的支援を行うとともに、移住後も移住支援センタースタッフが村での生活の相談、子育てサークルの紹介、移住者・地域住民との交流会等アフターサービスにもしっかりと取り組んでいます。子育て支援として、出生から高校3年生までの医療費の無償化、出産祝い金、乳幼児健康診査の支援、小・中就学祝金、学童保育所どうしっこの運営、高等学校等就学に対する助成事業のほか、今年4月には、「子育て世代包括支援センター」を設置し、道志村国民健康保険診療所に小児科専門医を配属して、きめ細かい乳幼児健診・子育て指導や相談・「どうしつぼみっこくらぶ」を定期的に開催し、お母さんたちが楽しく交流し、健全な育児支援や、つぼみっこ(子ども)の友達作りを行い、村の重要課題となっている少子化に対応した子育て環境の充実を図っています。
▲つぼみっこくらぶの様子 クリスマス会
こうした取組の成果として、以前は、1~2人の子育て世帯がほとんどでしたが、複数人の子育て世帯も増え、わずかではありますが出生率が上昇しており、また、子育て世帯の移住者はほとんどありませんでしたが、ここ数年は夫婦と子供2~3人世帯の移住が数世帯ありました。子育てをしやすくし、豊かな自然の中で健やかに子育てのできる環境を創出することにより、乳幼児から児童生徒数を増やす取組として行っています。
小学校については、過疎化・少子化などにより児童数が減少し、小規模化・さらに複式学級へと移行する傾向にあり、平成11年度に4校を1校に統合しました。統合当時は児童157人でありましたが、現在は59人に減少しています。中学校は昭和49年に統合され、現在の生徒数は37人です。
平成25年度には、小中学校の校舎に耐震上の課題があったことから、校舎整備検討委員会を設置し、検討を行ったところ、同委員会からの答申として「中学校敷地に地元の木材を利用した小中一体型校舎」として、建て替えることが示されました。その後、中学校の敷地に地元木材を多様に使用した、ぬくもりのある校舎建設が行われ、平成29年4月から小中一体型校舎で、児童・生徒が同じ屋根の下で学校生活をスタートさせました。校舎中央に多目的ホール・図書館・パソコン室を配置し、小中学校で共用スペースとして使用しています。また、体育館・グラウンドについても一つの施設を小中学校で使用しています。
▲道志小中学校(小中一体型校舎)右側 小学校・左側 中学校
▲図書室(共用スペース)
道志村は村づくりの基本方針を「教育・文化の推進」として、「豊富な自然環境や小規模小・中学校の利点を活かし、きめ細かい指導や個性的で特徴のある教育推進」を掲げています。小学校では、村の資源を活用した間伐体験や横浜市水道局水源林管理所での水源地の大切さを学習し、横浜訪問では道志川の水が横浜市の上水道水としての重要な役割を果たしていることや「赤道を超えても腐らない水」として、横浜港から航海に出る船の飲用水として使用されていることなどを学びます。また、横浜市の小学校と交互訪問し、交流を行っています。中学校では、道志川の水質調査、村内事業所での職場体験、ICTを活用して、村の強み・弱みを発見し、地域課題解決策を検討する「道志中RESAS講座」、芸術鑑賞として毎年「劇団四季」公演鑑賞を実施しています。このほかにも、小学校6年生・中学校全学年に東富士七里太鼓保存会メンバーから和太鼓の指導、中学校2年生は村の伝統芸能「おきゅうだい」の指導を受け、伝統芸能の良さを理解し、それを受け継ぎ、運動会・学園祭・村民体育祭等で披露しています。
▲村民体育祭での太鼓の披露(中学校)
令和元年10月に、新たな就業場所の確保や産業の活性化を図るとともに、交流人口や移住者の増加につなげるため、道志村サテライトオフィスを開設しました。施設は、オフィススペースとコワーキングスペースがあり、情報通信設備環境が整備されています。また、施設前には芝生広場、テニスコートがあり、子育てしながら新しい働き方、ライフスタイルを自然豊かな環境の中で創出できる施設となっています。働き方が多様化する中、自由な働き方を実現していただきたいと思います。
▲サテライトオフィス コワーキングスペース
▲サテライトオフィス オフィススペース
人口減少対策は、多くの地方自治体が抱える問題です。都市からの若者の移住に、その地域の生活環境、地域資源、そこに住む人を財産ととらえ、その地域にあった生活環境整備を行うとともに、近年、今までに経験のない記録的豪雨により、河川の氾濫、土砂崩れ等により甚大な災害が発生しています。こうした災害に対応できる防災対策を行い、そこに住む住民が、安心・安全に末永く住み続けられる地域づくりが大切だと思います。今後も道志村では、古き良き伝統文化を守り、新しい感覚を積極的に取り入れ、バランス良く移住・定住施策を進め、「豊かな自然の中で健やかに子育てのできる環境の創出」に取り組んでまいります。