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埼玉県伊奈町/平成の町普請!伊奈備前守忠次公の志を継いだまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年8月3日

伊奈氏屋敷跡内の頭殿権現社

▲伊奈氏屋敷跡内の頭殿権現社​


埼玉県伊奈町

3128号(2020年8月3日) 埼玉県伊奈町長 大島 清


伊奈町の概要

伊奈町は埼玉県の中南部にあり、都心から約40㎞圏内に位置しています。東西に2・5㎞、南北に7・5㎞、面積14・79㎢の概ね楕円形で標高8m~18mの沖積層、洪積層からなる肥沃な平坦地です。

古くから農耕が営まれ、江戸時代には徳川家康に仕え、家康の国づくりを支えた代官頭の一人である、伊奈備前守忠次公が行った治水事業や新田開発によって発展しました。

昭和18年に小室村と小針村が合併する際、伊奈氏にちなんで伊奈村と命名し、昭和45年に伊奈町となりました。昭和58年には東北・上越新幹線の開業にあわせ、その高架を利用した埼玉新都市交通伊奈線「ニューシャトル」が開業し、町内に5つの駅が誕生しました。これにより交通の便が良くなるとともに、土地区画整理事業の施行により良好な環境の住宅地が供給されたことに伴い、人口は大きく増加しました。平成22年の国勢調査では、人口の増加率は県内1位、全国でも5位と町は大きく変貌を遂げました。平成29年の年齢別人口は、19歳以下が全国では17・0%のところ21・7%、逆に60歳以上は、全国では34・5%のところ27・6%と若年層割合が高く、活気ある町でもあります。

豊かな自然と特産品

都市化が進む一方で、町内には豊かな緑の景観を呈する雑木林が多く存在し、美しい田園風景を形成する農地(水田、畑地、果樹園)の面積は町域面積の約3割を占めています。このほか、緑のトラスト保全第13号地に指定された「無線山・KDDIの森」周辺(樹齢80年以上の桜並木)に代表される緑豊かな自然や埼玉県内最大のバラ園等が貴重な緑地空間となっています。

町制施行20周年を迎えた平成2年には、町民連帯と潤いのある情熱的なまちづくりに限りない希望を与えてくれる花として、町の花を「バラ」に指定しました。その後、町制施行記念公園内にあるバラ園の拡張を年々行い、現在では約1・2haの敷地内に400種類5、000株を超えるバラが植えられており、その規模は県内最大です。5月上旬から6月上旬にかけて見頃を迎える春バラのシーズンにはバラまつりを開催し、令和元年度は5万8千人を超える観光客が訪れました。

伊奈町は、古くから梨、ぶどうなど果樹の産地として知られています。埼玉県が育成した大玉系梨品種である彩玉の中でも、糖度13度以上、重量500グラム以上の品質・栽培基準を満たしている「黄金の雫」と名付けたブランド梨は、百貨店や町のふるさと納税返礼品として人気があります。

町制施行記念公園(バラ園)

▲埼玉県内最大 町制施行記念公園(バラ園)

忠次プロジェクト推進協議会 始動

伊奈町には、町名の由来となった伊奈備前守忠次公がかつて生活していた伊奈氏屋敷跡があり、昭和9年には埼玉県指定史跡となりました。史跡周辺は地域住民の方のご協力もあり、昔ながらの自然風景が残されていますが、有効的な活用については課題となっていました。

そのような中、平成22年に伊奈町町制施行40周年記念・忠次公没後400年記念事業として、伊奈町商工会が「忠次シンポジウム」を開催しました。

これを機に、忠次公の遺徳を偲び、町の誇りとしてその名を広く永く後世に伝える目的で、有志により、平成23年に「伊奈備前守忠次友の会」が発足しました。

これにより文化的な活動が一層盛んになり、「この活動を伊奈町の活性化につなげたい」との地元住民からの要望も高まり、平成28年には官民協働による史跡周辺を起点とする新たなまちづくりを目的とした「忠次プロジェクト推進協議会」を立ち上げました。この協議会は、一般社団法人伊奈町観光協会を事務局とし、地元住民の方や商工会など町の様々な団体により構成されており、国の地方創生推進交付金を活用し、官民協働で忠次公を観光資源としたまちづくり事業を進めることになりました。

伊奈氏屋敷跡図

現在の伊奈氏屋敷跡​

伊奈氏リーフレット

▲伊奈氏リーフレット​

にぎわいの創出

忠次プロジェクト推進協議会発足後、最初に取り組んだのが、史跡周辺の散策路整備事業です。史跡周辺を当時の面影が残る土塁等を見て歴史を感じながら歩いていただける観光スポットとするため、平成28年から3年間で、地域住民や町外からの参加者延べ618人の方にご参加いただき、ウッドチップをまくなどして1、220mの散策路を整備しました。

散策路整備の様子

▲町内外からの参加者による散策路整備の様子

そして、平成30年には忠次公の歴史認識をもっと多くの方に深めていただくために、史跡の頭殿権現社周辺を会場に「第1回忠次公レキシまつり」を開催しました。

伊奈丸山大合戦と称したチャンバラやさつまいも掘り体験のほか、ミニライブ、地元野菜の直売や農産物加工品の販売なども行い、地元農家と地域住民及び町外からの参加者総勢約700名が交流し、にぎわいを創出しました。

また、伊奈町産米を利用した農商工連携商品の開発を行い、日本酒や忠次せんべいを商品化しました。さらには伊奈町産米の消費拡大の目的につながる“米”(マイ)レシピコンテストを行いました。どれも素材の魅力を活かしたオリジナリティーあふれる美味しい作品が発表され、最優秀賞の「殿様カレーライスパン」をはじめとする入賞作品は、レシピカードにして公共施設等に配布し、伊奈町産米のPRを行いました。そのほか、忠次公イメージソングの作成や町外からの参加者を募った町内モニターツアー、忠次公の業績など歴史的見識を深める講演会などを実施しています。

 伊奈氏三代(日本酒)

▲伊奈町産米「彩のかがやき」を利用した伊奈氏三代(日本酒)​

レシピコンテストの様子

▲伊奈町産“米”(マイ)レシピコンテストの様子​

忠次プロジェクトから新たな農業の道へ

忠次プロジェクト推進協議会の活動から新たに動き出した農業の取組としては、農家の有志による「伝統野菜伊奈のらぼう菜栽培会」が発足し、伊奈氏ゆかりの伝統野菜の栽培普及を始めました。のらぼう菜とは、江戸時代後期に伊奈忠次公の子孫である伊奈忠宥公がその種子を江戸近郊の村に配布し普及させたことによって、天明の大飢饉から人々を救ったと言い伝えられているアブラナ科の野菜です。町の新たな特産野菜として町民に浸透していくよう、のらぼう菜を使ったレシピを紹介するなど、PRを展開しているところです。

伊奈町の農業は、1ha未満の小規模農家が多く、また、農業従事者の高齢化が進み、現在の担い手だけでは対応しきれない状況があります。それが全国的にも社会問題となっている、遊休農地問題です。伊奈町も例外ではなく、増えつつある遊休農地に頭を抱えていました。

そんな現状を打開するべく、大針地区の農家団体である大針直売組合の協力のもと、その遊休化した水田で稲作を再開させる農地再生事業を平成30年度からスタートしました。官民が連携して、雑草が生い茂り荒れ果てた田んぼの再生に立ち向かった結果、秋には念願の稲穂が実り、無事にお米を収穫することができました。このお米は農地再生の軌跡の証、「奇跡の米」として販売を行い、多くの方に好評をいただきました。

今年は埼玉県のブランド品種「彩のきずな」を用い、特別栽培農産物米を生産し、学校給食に供給するとともに、将来は忠次米としてブランド化を計画しています。さらには大針地区をモデル地区とし、小規模経営を改善すべく中間管理事業を活用した規模拡大の動きが始まりました。同地区の3分の2にあたる18・5haが集約化され、将来は大型機械の導入を可能とするため、今後畦畔除去を行う予定となっているなど、農業振興の活性化が期待されます。

これらの忠次プロジェクト推進協議会と伊奈町の農業等の活動が評価され、令和元年11月18日、第58回農林水産省表彰行事のむらづくり部門において、関東農政局長賞を受賞しました。

のらぼう菜

▲伊奈氏ゆかりの「のらぼう菜」

いま、伊奈がおもしろい!

伊奈備前守忠次公という、徳川家康の信望も厚く、関東から東海にかけて河川改修、治水、新田開発、街道の整備等を行い、民衆の生活を安定させ江戸幕府の財政基盤を築いた偉人が我が郷土伊奈町にいたということを誇りに思います。次代を担う子どもたちにもこの事実をしっかり理解していただき、埼玉県指定史跡に指定されている伊奈氏屋敷跡を大切に保存し守っていってもらいたいと考えています。

伊奈備前守忠次公の名は、全国的にはまだまだ知名度が高いとは言えないため、これからも忠次プロジェクト推進協議会による各種事業を加速化させ、ゆくゆくは伊奈家とゆかりのある、埼玉県川口市や茨城県つくばみらい市と連携をとりながら、さらに顕彰を深め是非ともNHK大河ドラマの実現を図りたいと考えています。

令和2年11月1日、伊奈町は町制施行50年の節目を迎え、現在様々な記念事業を実施しています。これからも町民が安心して暮らせるよう「災害に強いまちづくり」に取り組み、「町民の誰もが笑顔で暮らせる」まちづくりを進めていきたいと考えています。そして「いま、伊奈がおもしろい!」「これからも住み続けたい」「日本一住んでみたい」と思っていただけるような町の創造に向けて全力投球してまいります。