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広島県海田町/「暮らしやすさ」が実感できる持続可能なまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年6月29日

日浦山の山頂からの風景

▲日浦山の山頂からの風景。広島湾や広島市街を一望できる​


広島県海田町

3124号(2020年6月29日)  海田町長 西田 祐三


はじめに

この度、町村週報において海田町の取組について紹介をする機会をいただき、感謝いたします。

この原稿を作成している今、コロナウイルス感染症拡大防止のため緊急事態宣言が出され、本町においても住民の皆さまに外出の自粛等をお願いしているところです。

皆さまのお手元に本稿が届く頃にどのような状況になっているのか全く分からない中ですが、住民にもっとも近い行政である基礎自治体として、その責任の重大さを痛感する日々であり、これを読んでいただいている全国の首長の皆さんにも共通するところだと思います。​

町の概要~古代から現代まで、人々の営みが続いてきたまち、海田~

本町は、広島県広島市の東部に位置し、面積13、79㎢に、約3万人が暮らす非常にコンパクトな町です。

町の西側には海田湾が開け、北側と東西は、300m~600m級の山々に囲まれています。北側には日浦山という標高340mほどの山があり、1時間ほどのハイキングで大展望の山頂に立てることから老若男女を問わず人気の山です。山頂からは、広島湾や広島市街、街を取り囲む緑の山々の絶景が楽しめます。

また、海田の国道2号沿いをゆっくり流れ、海田湾に注ぐ川を瀬野川といい、住民や近隣の方々が気軽に水と親しめる人気スポットとなっており、年間を通じて河川敷でのウオーキングを楽しむ多くの方が訪れます。

町の歴史は古く、町内に点在する貝塚や古墳は、古代から中世の海田の様子を教えてくれます。中世以降は、主に農村として人々の暮らしが営まれていましたが、江戸時代に入り、近世の西国街道が整備されると、宿駅として栄え、戦後も交通の要衝として発展してきました。

旧千葉家住宅

▲宿駅の要職を勤めた旧千葉家住宅​

日本人初のオリンピック金メダリストを生んだまち

今年開催予定だった2020東京オリンピック競技大会・パラリンピック競技大会は、コロナウイルス感染症拡大のため延期となり、併せて聖火リレーの日程も再調整となりましたが、本町も聖火リレー実施市区町村の1つとして選定され、準備を進めていたところでした。

本町は、1928年アムステルダムオリンピックの三段跳で日本人初の金メダリストとなった織田幹雄氏生誕の地であり、本年4月に開館した織田幹雄記念館等を拠点に、町を挙げて聖火リレーの実施に向け準備を進めていました。

「今後、人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証として、完全な形で東京五輪・パラリンピックを開催」(安倍首相)できるよう、町としてもコロナウイルス感染拡大防止に努めていきたいと考えています。

織田幹雄記念館

▲織田幹雄記念館​(織田幹雄スクエア2階)​

まちづくりの取組~バックキャストとバックチェック~

私が大切にしている視点として、バックキャストとバックチェックという考え方があります。

バックキャストとは、未来のある時点に理想となる目標を設定し、そこから振り返って、今何をすべきかを考える方法のことです。我々自治体を取り巻く環境が厳しさを増す中にあって、理想像をしっかりと描き、そこに向かってどう進んでいくのか知恵を絞るという姿勢が非常に大切だと考えています。

また、バックチェックとは、過去を再評価し、今後の取組に活かしていくことであり、過去と未来との両方を見据えながら、まちづくりを進めていくことが今後ますます重要になってくると思います。

赤ちゃんが生まれるまち 海田

具体的な取組として、「かいた版ネウボラ」をご紹介します。

本町では安心して、楽しみながら子育てができるよう、町内の拠点施設の機能を強化した『かいた版ネウボラ』を設置し、母子保健コーディネーター(保健師)や子育てコーディネーター(保育士)が常駐し、妊娠中からお母さんの心配事などの相談に乗っています。

お母さんだけでなく、お父さんや家族の方にも参加してもらう機会を増やし、家族みんなで子育てする環境づくりに取り組んでいます。

また、昨年度からは、妊婦健診や子どもの健康診査などの結果を簡単に記録することができるスマホアプリを導入し、町からの情報をプッシュ型(送信者が受信者に通知をお知らせする)で届けることができる仕組みをつくりました。

この「ネウボラ」の取組は、多くの自治体で実施されていると思いますが、本町ではさまざまな相談等にきめ細かく対応することで、利用者の方々と職員とがしっかりと信頼関係を築くことが重要であると感じており、今後はいわゆる「ハイリスクアプローチ」に加えて、対象者全体に働きかける「ポピュレーションアプローチ」の仕組みを確立していきたいと考えています。

かいた版ネウボラ概要

▲かいた版ネウボラ概要​

ネウボラ活動風景

▲ネウボラ活動風景(お父さん講座)​

人口減少問題と地方創生​

人口の面から言えば、年代ごとのでこぼこがフラットになればなるほど、将来性のある持続可能なまちになっていくと考えています。

現在、本町では0歳から4歳の割合が上がっています。これはネウボラ施策を積極的にやってきた成果であると思います。

一方で、広島県全体では、人口減少が続いており、2020年には280万人を割る見通しとなっています。

人口減少問題は、我々基礎自治体にとって非常に大きな課題ですが、人口を増やすには市町村間で取り合うよりも、地域の強みを伸ばす中で、子どもが生まれ、育つ環境を整えることが大事だと考えています。

そうした中で、これからのネウボラの支援はどうあるべきか、職員とともに日々議論しているところです。

海田町住基人口と世帯の年毎推移

▲海田町 住基人口と世帯の年毎推移

今後の展開 ~情報の見える化~

​これからのまちづくりにおいて、状況に応じてさまざまな打つ手を考えていくことが必要ですが、私が1番大切にしているのが「情報の見える化」です。

私自身も数字に基づいた説明を心掛け、職員にも求めています。もちろん我々行政の業務には数字にできない部分も多いのですが、まず「数字で全体像を捉えること」、そして「数値の推移を把握」しておくこと、そして「住民の皆さんにわかりやすく示す(見える化)」ことが、今後ますます重要になってくると思っています。

「見える化」できるかどうかが、住民理解を得られるか、行政への信頼を得られるかに大きく影響してきます。

例として、本町の人口推移等をさまざまな角度から分析したものが表1です。

 

海田町の人口推移等を多角的に分析した図表

▲表1​ 海田町の人口推移等を多角的に分析した図表

人口推移だけでなく、健康寿命や要介護者の状況など、複数のデータを重ねて見ていくことで、次の打つ手が浮かびあがるとともに、住民への説明の際にもしっかりとした根拠を持って説明できます。こうしたデータは町の職員間でも共有できるようにしています。

もう1つの例として、先の豪雨災害のときの避難行動の状況等を示したのが、次の表2です。

 

西日本豪雨の際の避難行動の状況等

▲表2​ 西日本豪雨の際の避難行動の状況等​

 

これを見ると、3つの山があるのがわかります。子どもがいる世帯の避難率が総じて高いのです。ここからは、「子どもが逃げようとすれば、親や家族も逃げるのではないか」ということが見えてきます。

さらに、住民に状況を伝える際にも、データの提供による「見える化」は効果があると考えており、国や県等のご協力をいただきながら、町内を流れる瀬野川の水位や気象状況等をスマホから確認できる仕組みを作りました。さらに町内の危険箇所等の状況を映像で随時見られるようにしています。

 

町内の災害情報等の閲覧ページ

▲町内の災害情報等の閲覧ページ(海田町公式HPより)

 

こうして、必要な情報を正確に、タイムリーに伝えることが、避難率の向上という行動変容につながると考えています。

今後は、発災時に職員がタブレット等を持って現場に出向き、状況の報告や映像等を入力し、速やかに共有できるシステムを構築しようとしているところです。​

タイムラインの作成~記憶から記録へ~

本町では、災害対応等の業務について、日々の記録を残すことに徹底して取り組んでいます。町ではこれをTL(タイムライン)と呼び、記録を残し、共有できるようにしています。

この度のコロナウイルス感染症対応に当たっても、対策本部の開催、県及び関係機関等との協議、町内放送、ホームページでの情報発信内容など、全て記録に残しています。

これを見ることで対応状況が瞬時に把握できるとともに、記録に残して後日検証を行うことにより、町の危機管理能力の向上につなげていきたいと考えています。

おわりに代えて

●町花について

夏の日ざしの中で、太陽に向かって伸びるヒマワリの姿は、どんな困難にも負けず、明るく、健康でたくましいものです。夢と希望を秘めて発展する海田町を象徴する花としてヒマワリを町の花としています。

●町木について

大地にしっかりと根をおろし、大きな枝を広げたクスノキの姿は、雄々しく、どんな苦労をも受け止める風格があります。町民に安らぎを与え、海田町を象徴する木としてクスノキを町の木としています。


「良樹細根」という言葉もあるとおり、苦境のときこそ、普段は目に触れない部分を大切にし、やるべきことをきっちりとやり遂げることが、次のチャンスを生むと信じています。


全国町村の先進事例を参考にさせていただきながら、国・県等とも緊密に連携し、「暮らしやすさ」が実感できる持続可能なまちづくりを進めていきたいと考えています。​ ​

 

町木のクスノキ

▲町木のクスノキ。町民に安らぎを与える