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佐賀県基山町/ちょっと古くて、ちょっと新しい町・基山~住む人も、来る人も誰もが輝く町、「オール基山」を目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年1月13日

 

基山山頂から町内を望む

基山山頂から町内を望む


佐賀県基山町

3105号(2020年1月13日) 基山町長 松田 一也


基山町の概要(紹介)

基山町は、佐賀県の東端に位置し、佐賀県鳥栖市、福岡県筑紫野市、小郡市に隣接する佐賀県の東の玄関口です。

基山町の人口は17、390人、世帯数は6、889世帯(2019年3月末日)、面積は22.15㎢と小さな町ではありますが、古くから古代官道や長崎街道などの主要道があったところで、現在でも、町の東側にJR鹿児島本線、それに並行して国道3号、さらにその東側には九州自動車道が走っています。また、町の西側には鳥栖筑紫野道路、南端には大分自動車道が通り、町の20~30km圏内には福岡市、佐賀市、久留米市などがある九州の大動脈の結節点として、通勤・通学に便利な地でもあります。

基山町の歴史を振り返ると、町を代表する山・基山と、令和で話題の大宰府との深い関係を忘れることはできません。665年には、大宰府を唐や新羅の攻撃から守るために朝鮮式古代山城・基肄城が、基山の中腹に築城されました。この基肄城は現在、国の特別史跡として認定されています。また、基山には、大宰府長官であり令和の梅花の歌で注目を集めた大伴旅人も足繁く登山しており、この基山において、旅人本人と友人二人が詠んだ三首の歌が万葉集に収められています。また、日本書紀には、基山町が日本の植林発祥の地との記載があり、基山の山頂には、その記念碑があります。

基肄城があった基山山上

基肄城があった基山山上

もう一つ、基山町の歴史を語る際に特筆すべきことは、江戸時代及びその前後の273年間、対馬藩の統治下にあり、いわゆる飛び地だったということです。黒田藩と鍋島藩という二つ強国に挟まれ、独自の文化や風土を醸成し、新しい産業や制度等を生み出していったことが、現在の基山町の姿にも大きな影響を与えていると考えられます。とりわけ、対馬代官所初期の副代官である賀島兵助公は、10年間の赴任期間中に、貧困対策、防災・防犯対策、産業振興などで、大きな成果をあげたことから、住民の尊敬と感謝を一身に集め、命日には、現在も、基山町が祭主となって賀島祭がとり行われています。

以降の基山町の新しい動きを考える時には、急激なベッドタウン化による人口増と、その後の停滞期、そして、今後の新たな展開についてをあわせて分析する必要があります。

まず、基山町の人口は、工場立地及びその住宅供給が始まった昭和40(1965)年代後半から少しずつ増加していきます。平成(1989年)の時代になり、大規模団地の造成が一段落するまで、福岡のベッドタウン化が一気に加速して、人口が急増していきます。そして、人口のピークが平成11(1999)年5月に訪れます。その後、平成28(2016)年5月までの17年間は、年間100人ペースで人口減少が続き、その過程で、消滅可能性都市の佐賀県ワースト2に位置づけられました。しかし、地方創生への取組の中で、移住・定住施策や子育て支援施策に加え、産業振興施策、また、ひとり親世帯や一人暮らしの高齢者世帯等に対する福祉施策や健康増進施策を積極的に展開していくことにより、人口減少に歯止めがかかり、この3年間は転入人口が転出人口を上回る社会増状態が続いています。

今回は、それら多数の取組の中から、エミューとSGKについて、ご紹介したいと思います。

取組の紹介

○育メン鳥エミューで地域活性化

その有する歴史や豊かな自然、地理的な優位性などにより、基山町は平均的な、コンビニエンスな町として発展してきたために、ある一定の認知度はあるものの、インパクトが弱く、「九州自動車道上の基山パーキングエリアには立ち寄ったことはあるが、実際に町内には足を踏み入れたことがない」等の、通過点からの脱却が大きな課題でした。

移住・定住人口増につなげるためには、まずは、交流人口、そして関係人口を増やしていくことが重要です。そんな中、打ち出された一つの施策が、「エミュープロジェクト」でした。エミューとは、オーストラリアを原産とした飛ぶことのできない鳥類で、性格は温厚で環境変化に強く、ダチョウに次いで2番目に大きな鳥です。抱卵や雛の養育に雄が大きな役割を果たすことから、育メン鳥としても有名です。エミューの取組が始まった2014年当時、町内では、農家の高齢化や担い手の減少により、中山間地での耕作放棄地対策が課題となっていました。そこで、民間企業の提案により耕作放棄地で、4羽のエミューの飼育を試みたところ、生い茂る雑草はエミューの食糧となり、エミューの糞尿により土は肥沃し、耕作放棄地の管理負担も軽減され、周辺にイノシシ等の有害鳥獣が寄り付き難くなるという忌避効果も副産物となりました。

また、見た目が奇抜で、あまり聞き慣れない名前の「エミュー」は、テレビ、新聞等のマスコミに大きく取り上げられることになり、基山町の名前の印象度や認知度アップにつながりました。特に、町民や基山出身者に対するインパクトは強く、会話の中にエミューの話題があがることも増えました。

その後、エミューの肉を使ったレトルトカレー、エミューから抽出したオイルを使用した化粧品、毛根から2本にわかれた羽を使用した縁結びのストラップなどの開発に取り組み、2015年には、その中核の推進組織としての農業法人「きやまファーム」が誕生しました。2016年には、地域ブランドをつくり、地域経済の活性化を進めるためにエミューをふるさと名物として定めたところ、中小企業庁の「ふるさと名物応援宣言」で認められるとともに、農林水産省の農業白書にも、その取組が掲載されました。

エミューによる地域活性化(エミューシンポジウムのようす)

エミューによる地域活性化(エミューシンポジウムのようす)

○二つの(ダブル)ジビエ

このような民間企業及び農業法人の活動と努力により、4羽からはじまったエミューの飼育は、2017年には100羽を超え、交配から孵化まで基山町内での自立が可能になってきました。また、大学等との連携の中から、栄養効果が大きいエミューの肉や、高付加価値のあるエミューオイルに対する期待が高まる中で、町内の飲食店でのエミュー料理の提供も始まり、好循環の兆しが見え始めましたが、この循環の輪に不足しているものが、エミュー肉の解体施設でした。食品衛生法の許可をとった施設での処理肉でなければ市場に出せないので、エミューの解体施設が不可欠でした。そこで、基山町では、2018年4月、エミューの解体施設を開設し、エミュープロジェクトの循環を完全なものとして、その活用を加速させました。これが、一つ目のジビエです。

基山町には、もう一つのジビエ問題がありました。それが、イノシシです。基山町の山間部ではイノシシによる作物被害に苦しめられており、山林の手入れや有害鳥獣対策を行うことを目的に、地域住民による自主防衛組織が立ち上がり、猟友会による積極的な有害鳥獣駆除も行われていましたので、駆除後のイノシシについても活用ができないかと考えられていました。この問題を、エミューと一緒に解決するため、解体施設に2種類の解体ラインをつくりました。地域のいくつもの課題を解決するエミューと、有害鳥獣として駆除されたイノシシ、この二つのジビエを「ダブルジビエ」として活用し、さらに町の活性化につなげようと発足したのが、ダブルジビエプロジェクトです。

○基山町は人材の宝庫、人生100年時代のモデル地域

全国的に進む高齢化は、本町においても例外ではなくその進行が加速しています。特に、平成初期のベッドタウン化時代に基山町に転入されてきた方々が、一気に高齢化を迎えます。そのような中で、経験豊かなシニア層を「S(す)G(ご)K(か)(Senior Makes Great Kiyamaの略称)」と称し、積極的にまちづくりに参加してもらい、その豊富な経験や知識を活かして、地域力の底上げを図るために、2015年12月にSGKプロジェクトが立ち上がりました。このプロジェクトは、人生100年時代の中で、セカンドライフにおける地域貢献と生きがいの創出、健康志向の向上を図ることを目的としており、豊富な経験、知識や技術をもつシニア層がSGKに登録し、地域が抱える課題に対して登録者の中からマッチングを行い、課題解決を図っていく仕組みです。現在SGKは、SGKプラザを拠点に、5つの部会にわかれて活動しています。

 

2018年4月に開設したダブルジビエ解体処理施設

2018年4月に開設したダブルジビエ解体処理施設

エミューの肉を使用した料理や商品

エミューの肉を使用した料理や商品

①健康づくり部会

シニア世代が健康な生活を送れるよう、正しい食事・運動・生活習慣等について様々な専門家の講演・セミナーや運動教室を開催して健康年齢を維持することを目標とした事業を行っています。主な事業として、日々の生活習慣に密着した専門的な助言と、基礎体力の維持向上のためのトレーニング法の指導と実践に取り組んでいます。

②寺子屋部会

小・中学校教育の課題に対し教育委員会や学校教育関係者と解決に向けた補助活動を行っています。主な事業として、毎週水曜日に「放課後ひろば」を実施し、放課後の児童や生徒たちが集う場の提供や見守り活動、宿題補助を行っています。また、時期に応じて様々なイベントを実施するなど、多世代交流の場も設けています。

③シニア就労支援部会

シニア層の就労意欲の維持・向上と地域活動の推進を目標に事業を推進しています。主な事業として、SGK農園(貸農園)の管理や、地区から依頼された除草作業を行っています。

SGK寺子屋部会が実施する「放課後ひろば」のようす

SGK寺子屋部会が実施する「放課後ひろば」のようす

④企業支援部会

基山町の発展に貢献する地域企業を応援しています。そのために基山町及び近隣の企業を直接訪問し、その経営や技術等の高度化のため、個別企業の持つ経営や技術的課題を把握し、これらの課題解決を支援することを目標に事業を行っています。

⑤きやの里部会

SGKの顔として、またJRけやき台駅前の「賑わい」及び「全世代間交流の場の創出によるコミュニケーション」の醸成を目標に各種事業を企画・運営しています。主な事業として、平日の10時から16時の間、カフェの営業と地産農産物の販売を行っています。また、金曜日夕方の居酒屋営業など、様々な企画を実施しているほか、四季折々のイベント(端午の節句・夏祭り・桃の節句・カフェ開店記念日等)の開催、12月にはイルミネーションの飾りつけを行っています。

 

○自らまちづくり(広がるSGK活動)

現在、SGKでは、これらの活動に加えて、地域の高齢者の方を対象とする通所型サービスBを開始し、登録者が実施主体者となり、自主的な通いの場を設けて、体操や軽い運動を行い、地域のシニアたちがシニアを支援する体制も整えています。また、運送会社と連携して、近隣地区を限定とした配送業務の支援にも取り組み始めました。

SGKきやの里部会が実施するイベント「歌声喫茶」のようす

SGKきやの里部会が実施するイベント「歌声喫茶」のようす

これまでの経験を通してできることを提供し合いながら、まちづくりを進めていくことは、SGKの登録者たちの生きがいにもなり、町全体の気運を高めていくことにもつながっています。

今後は、NPOや一般社団法人などの法人化を見据えながら、活動に収益性を持たせ、町の補助金等に頼らず活動を継続させることで、自らの手でまちづくりができることを目指しています。

小さくても輝く・誰もが輝く町、「オール基山」を目指して

基山町では、これらのプロジェクトを含めて、現在、他にも数多くの地方創生プロジェクトにチャレンジしています。主要なものをあげると、高齢者と子供たちが同じ場を共有して、料理や木工等を一緒に体験する「多世代交流センター」事業や、スポーツや文化活動等が盛んで、各種の九州大会等が頻繁に開催されるため、その参加者を対象とした「基山町合宿所」事業があげられます。

また、本年7月に、子育て世代・若者向けPFI方式基山町地域優良賃貸住宅である「アモーレ・グランデ基山」30戸の完成・全入居が終了したほか、2週間の移住体験が無料で行える「移住体験住宅」事業をはじめとした各種移住・定住施策は、多くの成果をあげています。

さらに、昨年10月、役場庁舎内に設置した「基山町子育て世代包括支援センター」では、子育て及び育児に関するワンストップの相談窓口として、多くの相談実績と問題解決につながっており、昨年12月に設置した「無料職業紹介所」では、きめ細かな独自の求人・求職情報を揃えて、高齢者や女性を中心に多数の就業マッチングの実績をあげています。

今後は、子育て支援の推進のための、新町立保育園と子育て交流広場及びママさんの職業紹介機能もあわせ持った「基山っ子みらい館」や、小学3年生以下を対象とした公立の「病後児保育所」がオープン予定です。

保育所機能と就労支援機能を併せ持つ「基山っ子みらい館」(イメージ)

保育所機能と就労支援機能を併せ持つ「基山っ子みらい館」(イメージ)

また、これら基山町の地方創生の動きに呼応する形で、企業や住民の皆さん方の取組も活発化しています。具体的には、本年7月には、農業関係ではライチの観光農園がオープンしたほか、ブルーベリーや苺の観光農園や、農家カフェがスタートしています。今後の農産加工場や農園レストランの動きとあわせて、基山町は一大短期滞在型農業エリアになる可能性が大きくなっています。また、町内に多数ある神社・仏閣においての観光等への取組も活発化しており、ご朱印はもとより、寺修行や寺カフェなど、神社・仏閣巡りプロジェクトの検討が進んでいます。さらに、基山町にある、陶器、靴、服、ガラス細工、木工、小物、酒等の手作り職人の皆さん方が、「基山職人の会」を結成し、体験型教室の開催をはじめ、滞在型観光の一翼を担う勢いです。

これらの動きは、基山町の交流人口と関係人口を確実に増やしつつあります。今後はさらに、基山町の地方創生の取組と、住民、企業等の皆さんの取組をマッチングしながら、多方面から施策を講じることで、基山町は、町の規模は小さくても、どんな世代にも住みやすく、来る人誰もが輝き、活躍できる、「オール基山」のまちづくりを目指します。