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熊本県相良村/“相性が良くなる村”で進める豊かな村づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年11月11日更新

 

清流川辺川と雨宮の森

清流川辺川と雨宮の森


熊本県相良村

3101号(2019年11月11日) 相良村長 德田 正臣


相良村とは

熊本県の南部に位置する相良村は、豊かな自然に恵まれ、古い歴史と伝統が息づく人口約4、600人の小さな農山村です。北部は、標高400mから1、300mの山岳が連なって広大な山林を形成しています。

また、村の中央には川辺川が北から南へ貫流しています。国土交通省により、平成18年調査から13年間連続で、最も水質が良好であると評価された清流です。村の中流域から下流域にかけて平野が拓け、水田や畑が広がる典型的な農業地帯となっています。

産業は農林業が主で、特産物は、米・茶・栗・いちご・メロンなどです。その中でもお茶は、県内一の生産量を誇り、村人が800年以上も前から守り継いできた村の宝です。

相良700年の歴史(日本遺産認定)

相良村を含むこの人吉球磨地域(10市町村)は、鎌倉時代から明治維新までの約700年間にわたり、「相良氏」が治めた全国でも珍しい地域です。相良氏は民衆の文化を尊重しつつ、寺社に都の建築様式を用いるなど新たな技術も取り入れ、歴史的・文化的価値が高い社寺や仏像は信仰の対象として大切に受け継がれてきました。

この「相良700年」に受け継がれた文化財や風習、地域の歴史を結びつけて紡がれた物語(ストーリー)が、日本の文化・伝統の魅力を伝えるものとして、2015年度に熊本県第1号の日本遺産に認定されました。

十島菅原神社(国指定重要文化財)

十島菅原神社(国指定重要文化財)

相性が良くなる村

相良村の村名は「相良氏」に由来しますが、それだけではなく、昭和31年に川村と四浦村の2つの村が合併する際、「相携えて良くなるように」との思いが込められて名付けられたものです。

相良村では現在、村自体のブランド化(自治体ブランド化)を図ることで、農産品など村の資産の価値向上や地域活性化を目指しています。村としてブランド化を進めるにあたり、統一感を持たせるために用いているのが村名にちなんだ「相性が良くなる村」というキャッチコピーで、「愛」をテーマにした村づくりを進めています。

もともと村内には夫婦橋や夫婦杉、恋人の丘など、愛にまつわる名所が点在しており、よく見ると村の地形も縦長のハートの形をしています。

相良村の「相良」は「愛」を意味します。「愛」は男女だけでなく、親子、友人、事業者同士の関係なども含むものです。

相性が良くなる「夫婦橋」

相性が良くなる「夫婦橋」

恋人の丘

恋人の丘

村人の「愛」が本物の宝物をつくりだす

相良村ではブランド化事業の一環として、2016年度から講師を招いて商品開発会議を開き、相良ブランドの新商品のコンセプトやPR方法を考える村の事業者を支援しています。会議では、アクティブラーニング(能動学習)の手法を商品開発に取り入れ、さらに他事業者とのコラボで新たな価値を生み出しています。会議を重ねるごとにアイデアに磨きがかかり、これまでにない村の宝物が次々と誕生しました。

ブランドの確立を目指すうえで目標にしたのが、地域の特産品や素材を利用した商品の魅力を競う「にっぽんの宝物コラボグランプリ」への挑戦です。

参加した事業者は、このグランプリを通じて出会った全国の事業者と積極的にコンタクトをとるようになりました。その「出会い」がきっかけとなって、お互いの知識を吸収し、自分の商品に磨きをかけ、そのひとつひとつが本物の村の宝物へとつながっていきました。

その結果、商品開発を始めてわずか1年あまりでしたが、シンガポールで開催された、外国人が審査する「にっぽんの宝物グランプリ世界大会」で、見事相良村のお茶がグランプリを獲得するという快挙を成し遂げました。

さらに、相良村では国境を越えた地域と地域の結びつきも進めています。それが、フランスの「セント・ヴァレンタイン村」との交流です。

商品開発会議でコラボの可能性を探る参加者

商品開発会議でコラボの可能性を探る参加者

一通のメールが物語の始まり

2013年に「相性が良くなる村」のコンセプトを掲げてから2年、これまで夫婦橋や恋人の丘など「相性が良くなるスポット」のPRや、ブライダル事業との提携などを行ってきました。メディア露出が増え認知度は一気に高まりましたが、もうひと押し、新たな起爆剤となるものが必要と感じ、「愛」をテーマにした海外との連携を模索し始めました。

そのような時、運命的に出会ったのが、フランスの中央に位置し「フランスのハート」と呼ばれるセント・ヴァレンタイン村です。


広大な平野にたたずむ小さな村

ヴァレンタイン村の人口は300人弱、広さは村の両端を、歩いて15分ほどで行き来できます。しかし周辺に広大な平野を有し、春には菜の花、夏にはヒマワリが咲き誇ります。その花々の油や、フランスの家庭料理でよく使われるレンズ豆を主に生産しています。

フランスの中央に位置するセント・ヴァレンタイン村

フランスの中央に位置するセント・ヴァレンタイン村


世界中の「愛」が集まる村

村名の由来は、キリスト教における恋人たちの守護聖人、聖ヴァレンタインの遺物が12世紀に発見されたことから。これを受け、村では「愛」を柱に村づくりが行われています。

村の随所に「愛の画家」レイモン・ペイネの壁画などが見られ、愛にあふれる景観を演出しています。また、毎年2月に開催され、来年で56回目を迎える「ヴァレンタイン祭」は、世界中から5千人以上のカップルが訪れる村の一大行事です。

村にあるレストランとブーランジェリー(パン屋)は日本人が経営しており、スタッフも全員日本人です。村唯一のレストラン「Au14Février」(日本語で「2月14日」の意味)はミシュラン1つ星を獲得した名店で、本場のフランス料理や、7月の七夕には寿司などの日本料理も振る舞われています。ヴァレンタイン村は、実は日本にとてもなじみ深い村でした。

相良村職員が、現代の赤い糸である「インターネット」で運命的に出会ったヴァレンタイン村は、相良村のまさにお手本となる「愛の村」でした。すぐに村職員は行動を起こしました。

ハートがいっぱいのヴァレンタイン村

ハートがいっぱいのヴァレンタイン村

ヴァレンタイン村唯一のレストラン「Au 14 Février」

ヴァレンタイン村唯一のレストラン「Au 14 Février」

この「愛の村」と友好関係を築き、愛を軸に据えた村づくりを一緒に行いたい、と想いを込めた一通のメールをヴァレンタイン村に送りました。

すると、すぐにヴァレンタイン村から1通の返事がきました。日本の小さな村から送ったメールが、ヴァレンタイン村のピエール・ルッソー村長に届き、共感を得ることができたのです。なんと1年後の2016年9月には、ルッソー村長の相良村訪問も実現しました。

相良村を訪れたルッソー村長は、食や伝統文化、茶畑、川などの自然景観にとても感銘を受けた様子でした。

ルッソー村長の相良村訪問

ルッソー村長の相良村訪問

両村の「愛」が国をも動かす

その後、日仏両村の交流がスタートしました。「日本のセント・ヴァレンタイン村」を目指す相良村は、ヴァレンタイン村との交流記念として、ヴァレンタイン村と同じ日に、ヴァレンタインデーを祝う「ヴァレンタイン祭」を企画。住民や学生が参画する企画会議で準備を進め、イベント当日は県内外から多くの家族やカップルが来場し、たくさんの「愛」を感じる1日となりました。

世界中からカップルが訪れるヴァレンタイン祭

世界中からカップルが訪れるヴァレンタイン祭

世界中からカップルが訪れるヴァレンタイン祭

また、この日をもって相良村は「セント・ヴァレンタイン村在日事務所」として認められ、同村公認の訪問記念証や結婚証明書が発行できるようになったのです。

訪問記念証

訪問記念証

それからお互いの距離はさらに縮まり、姉妹都市締結に至るまでに時間は要しませんでした。外務省や総務省の後押しも受け、2017年11月、パリ市内の在フランス日本国大使公邸において姉妹都市協定締結の調印に至りました。

調印式では、木寺昌人駐フランス日本国特命全権大使の立ち合いのもと、両村長は協定書に署名しました。

調印した協定書を掲げる木寺大使・德田村長・ルッソー村長

調印した協定書を掲げる木寺大使・德田村長・ルッソー村長

相良村の德田正臣村長が「愛というテーマの中で、様々な交流を通して、お互いの村民の幸福につなげたい」とあいさつをすると、ルッソー村長は「相良村の、お互いに分かり合うことを大事にするという考えに共感している。德田村長と頑張っていきたい」と応えられました。また、木寺大使は「愛と相互理解がもたらした姉妹都市関係が、結婚生活のように喜びの中でも苦しみの中でも、長く良好に続いていくことを確信している」と祝福されました。

現代の赤い糸である「インターネット」が、遠く離れた両村をつなげ、さらに国を巻き込んだ大きな事業に発展しました。

ヴァレンタイン村在日事務所(相良村役場)

ヴァレンタイン村在日事務所(相良村役場)

世界の「愛の村」を目指して

「愛」というキーワードで結びついた2つの村。ヴァレンタイン村と歩む相良村の物語はまだまだ始まったばかりです。

熊本県では、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」の開催を前に、ラグビーワールドカップ2019と女子ハンドボール世界選手権大会の2つの世界大会が開催されます。

期間中、スポーツ関係者はもちろん、メディアや応援者など、世界中から多くの人が熊本に集まります。この絶好の機会を活かし、相良村への誘致企画を行うなど、ヒトの交流を推進し、子どもたちに夢を与え、将来世界で活躍する「グローカル(グローバル+ローカル)人財」の育成を目指します。

また、相良村には茶摘みや川遊び、いちご狩りなど魅力的な体験(コト)があるため、インバウンドを視野に入れた体験企画により、コトの交流も進めていきます。

モノの交流については、まずはヴァレンタイン村のレストランを中心に相良村の高品質な農林水産物を供給し、資産の価値向上を図ります。

そして両者のつなぎ役として、JETプログラムや地域おこし協力隊などを活用して、幸福のきっかけとなる村づくりを進め、村民の幸福度を向上させるとともに、豊かな村づくりにつなげたいと考えています。

相良村とヴァレンタイン村の出来事は両国メディアの注目を集め、日本では全国紙を飾りました。認知度が向上した今、この歩みを止めてはなりません。「相性が良くなる村」が「愛あふれる村」に、そして「行ってみたい・住んでみたい村」へ。さらには「いつまでも住み続けたい村」になることを願って。