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高知県中土佐町/海と山と川の力を活かす~攻めと守りのまちづくり~

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年11月4日

 

中土佐町の町並み

中土佐町の町並み


高知県中土佐町

3100号(2019年11月4日) 全国町村会事務局


中土佐町の概要

中土佐町は、高知県中西部に位置し、人口6、823人(2019年3月31日時点)、面積193.28㎢の町です。平成18年に旧中土佐町と大野見村が合併して誕生しました。

町は、太平洋に面した海岸部(旧中土佐町地域)と山々に囲まれた海抜300m以上の台地部(旧大野見村地域)に分かれています。旧中土佐町地域は北西および西南に山嶺が連立し、その尾根の先端は土佐湾に突出して岬となり、壁状の海岸線を形成しています。これらの山嶺に源を発する数本の中小河川が土佐湾に注ぎ、河口域は漁港、河川流域には平野が散在して耕地をなしています。漁業の町として全国的に有名で、特にカツオ漁が古くから栄えています。一方旧大野見村地域は、日本最後の清流四万十川の上流域に開けた地区であり、地区内を蛇行する四万十川が地区をほぼ東西に二分し、その両岸に耕地が開け、集落が点在しています。こちらは林業や工場誘致により発展してきた地域です。このように中土佐町は、清流四万十川、緑豊かな山野、青い海、土佐湾に展開するリアス式の海岸線など、変化に富む風致を備える自然環境に恵まれた町です。

“攻め”のまちづくり

●漁業~カツオの町

旧中土佐町区域にある久礼地区は、太平洋沿岸部の土佐湾が大きく湾入した地点にあり、平成23年2月に漁師町としては全国初の重要文化的景観に選定されました。

久礼の港「久礼港」は、中世から近世にかけて、四万十川流域を中心とした領域各地で生産された物資を、関西方面へ搬出する重要な港の一つとして発展してきました。また久礼港はカツオ漁の港として全国に名をはせ、昭和53年より16年間、青年誌「ビッグコミック」で連載され、昭和55年には映画化もされた青柳裕介氏作の漫画「土佐の一本釣り」の舞台にもなりました。

また、町おこしの一環として、官民共同で取り組む「かつお祭」を平成2年から毎年開催し今年で30回を数えました。漁業と観光を結び付けた「カツオの町」としての戦略を展開しています。

久礼港所属の漁船は現在、大型カツオ船(乗組員約20名)が2隻、小型漁船(乗組員8名)が5隻です。

大型漁船は、2月ごろ久礼港を出た後、九州、小笠原諸島、グアム近辺、宮城県気仙沼、北方領土付近といったルートを、約9か月をかけて廻ります。漁の特徴は、冷凍でなくすべて生鮮水揚げのみであることです。

一方、小釣りと呼ばれる小型漁船は土佐湾周辺で漁を行い、翌朝6時半に始まる久礼漁協でせり落とされた新鮮な生カツオはその日のうちに食卓に上ります。生のカツオは鮮度が落ちやすく、これは地元ならではの特権ともいえることで、一般的にはなかなかおいしい生カツオが食べられません。そこで町では、全国の皆さんに本当においしいカツオを味わっていただくために、スラリーアイスという氷点下のシャーベット状の氷を用い鮮度を保ったままお届けするシステムを開発し軌道に乗せるべく現在取組を進めています。

さて、カツオ漁の町として栄えてきた中土佐町ですが、近年は漁業者の高齢化と後継者不足が課題となっています。実際、現役の漁業関係者は100人足らずにとどまっており、担い手不足を解消するため最近ではインドネシア等の東南アジア国籍の乗組員が増加、町の重要産業を支える担い手として活躍しています。

久礼港

久礼港

●林業~ヒノキの町

旧大野見村区域の大野見地区は91%が山林に覆われ、清流四万十川の上流域という条件を活かした農林業が盛んな地域で、町が文化的景観として選定するなど美しい景観をたたえています。また早くから精密機械工場や縫製工場の誘致を行ってきた地域でもあります。

林業についてはヒノキの林野率が60%を占め、この資源を活かす独自の取組として、平成23年の町立久礼中学校校舎の新築に際し、地場産材(県産材100%、うち町産材75%)を使用しました。使用した材木は、主たる構造材として樹齢100年物のヒノキを530本使用。肘木工法と呼ばれる伝統的な建築方式を用いた他、アリーナの天井部には鉄骨やRCではなく木材で支えるラメレルーフという木の強さ、美しさを前面に出した特殊構造になっています。この校舎は、平成23年木材利用優良施設コンクール(木材利用推進中央協議会主催)において林野庁長官賞を受賞しています。

木造校舎化の狙いには、①木の香り・吸音性により子どもたちの心を癒すこと、②調湿性能により居住性を高めること、③温暖化防止への貢献、④地場の森林の整備促進、⑤地域経済への貢献等があります。ぬくもりと開放感あふれる校舎を見学していると、生徒の皆さんが、大きな声で挨拶してくれます。

この久礼中学校の木材を調達したのが中土佐町、土佐市、須崎市、津野町の4市町で構成される「須崎地区森林組合」です。管内の森林面積は3、300ha余。うち人工林は約11、900haです。組合の林業従事者は比較的若い年齢構成であり、現在は経営体質の強化に力を入れています。

久礼中学校アリーナ

久礼中学校アリーナ


●賑わいの町

⑴鮮度抜群!大正町市場

久礼大正町市場は、アーケード街に露店や飲食店が軒を連ねる中土佐町を代表する観光拠点の一つです。その歴史は、明治時代中期までさかのぼり、漁師のおかみさん達が魚を露店で売り出したことが起源となっています。大正4年、付近が大火に見舞われ消滅の危機に瀕しますが、大正天皇からの多額の寄付金により復興を果たします。住民は大正天皇に感謝の意を込めて、地名を地蔵町改め大正町として現在に至っています。

平成に入ると景気の後退に伴い市場は徐々に活気を失っていきますが、商店街の皆さんと行政が一体となり、カツオの町の台所として活気のあった往時の賑わい復活を目指します。平成15年、その取組が、リニューアルオープンへとつながりました。

抜群の鮮度を誇る鮮魚や干物、野菜、果物、惣菜等が新鮮かつ求めやすい価格で店頭に並んでいるほか、魚介を提供する食堂、観光パンフレットの配布やガイドツアーの案内など、中土佐町の魅力を発信する拠点の一つとして、平日はもとより、週末は特に大勢の人々の活気で賑わっています。

久礼大正町市場久礼大正町市場

久礼大正町市場

⑵買う・遊ぶ・食べるがそろう「道の駅なかとさ」

平成29年7月、久礼港の隣にオープンした「道の駅なかとさ」は、町の最新の観光スポットです。コンセプトは、Shopping(買う)、Eating(食べる)、Amusement(遊ぶ)、それぞれ頭文字とSea(海)をかけあわせた、「SEAプロジェクト」として長年の構想を経て実現した事業です。

道の駅が立地する場所はかつては漁港でしたが、計画段階で東日本大震災が発生するなど紆余曲折を経て開業にこぎつけました。南海トラフ地震で予想される津波対策として高台への避難路を設けるなど、防災対策にも配慮した設計となっています。

開業以来、8か月でレジ通過者が累計25万人を達成、1年半経過後の平成31年1月下旬には累計50万人を突破しました。この間の売上額は約5億3千万円を計上するなど経営状態も良好です。

来客層は、ファミリー層を主なターゲットとし、8割が県内からの来場者ですが、四国・中国地方からの来訪者も多く、働くスタッフもそのほとんどが町内に暮らす人々です。

この道の駅はそれぞれの店舗が独立した戸建てになっているのが特徴で、木造平屋建てならではの賑わい感の創出と、イニシャル・ランニングコストの低減に繋げています。

旗艦店舗である地域産品や活魚を販売するマルシェには、観光案内所や赤ちゃん休憩室、ボルダリングなどキッズスペースが設けられています。その他、テナントショップとして新鮮な魚介類を扱う浜焼きレストラン「海王」、食パンが大人気のパン屋「パン工房 岩本こむぎ店」、地元のイチゴ農家のお母さんたちが作るスイーツとイタリアンのお店「風工房」等が出店しています。中でも「風工房」は平成9年に、ケーキ作りをしたことがないイチゴ農家のおかみさんたちが約2年間修業を積み、本格的なケーキショップを開店し、当時センセーションを巻き起こしたお店で、「道の駅なかとさ」のオープンに伴い移転しました。農家の女性が経営するケーキ屋という話題性もあり、メディアでも度々取り上げられるなど、県内外からの人々を呼び込む人気スポットとなっています。屋外には子どもたちが楽しめるミニ新幹線やプール、ドッグラン、芝生広場等があり、幅広い来場者のニーズに合わせた施設を完備しています。

道の駅なかとさ道の駅なかとさ

道の駅なかとさ

“守り”のまちづくり

【先進的な防災対策~必ず助かる命を守る】

南海トラフ地震は、南海トラフやその周辺における地殻の境界を震源とする地震で、南海地震や東南海地震、東海地震等が含まれます。国が平成27年に公表した南海トラフ地震の長期評価によれば、M8~9クラスの今後30年以内の地震発生確率は、70%程度となっています。中土佐町内の最大震度は6弱以上、一部地域では震度7とされています。最大津波は22mと非常に大きくなっており、地震発生から沿岸部の早い場所では15分、久礼や上ノ加江の住宅が密集する市街地では20分前後で浸水が始まると予想されています。

「第2次中土佐町総合振興計画」(平成29年3月)の策定段階で実施された住民アンケートの中で、「中土佐町に力をいれてほしい施策」では「防災」が最も多く、災害に備える施策への高い関心が示されました。

このため、中土佐町では、南海トラフ地震をはじめとする防災対策をソフト対策(逃げる対策)、ハード対策(避難を助ける対策)の双方から、最重点課題として取り組んでいます。特に津波対策については、①「揺れたら逃げる」の徹底、②安全に避難ができる環境づくり(避難困難地の解消・揺れ対策等)、③地域で取り組む防災対策(自主防災活動の活性化)、④防災拠点の強化(役場庁舎・消防庁舎等の高台移転)を基本方針としています。

⑴全国最大級の津波避難タワー

具体的な防災対策の一環として、中土佐町では、全国最大級の津波避難タワーを2か所、整備しています。それぞれ「純平」、「八千代」と名付けられたタワーは、高さが20m近くあり、最大級の揺れや津波にも耐えうる強固な作りとなっています。第1号タワーについては、観光客が多く集まる周辺観光施設の駐車場から津波避難タワーまでの歩道橋を設置し、避難人数400人を想定。タワー内の倉庫には、保存水やインスタント食品、毛布、簡易トイレといった避難生活物資が3日分備蓄されています。その他、手巻き式ゴンドラや雨水貯留装置、太陽光発電システムもあり、24時間常時開放しています。

また津波避難タワーは、防災施設としてだけでなく、観光スポットとしても位置づけられます。平成23年に「久礼の港と漁師町の景観」として漁師町で初めて国の重要文化的景観区域に選定されたことを受け、第1号タワーはベージュを基調とした優しい色合いで外装を塗装、タワー内部には木の格子が付けられるなど、周囲の景観に配慮する構造となっています。町のランドマークとしての役割も担うタワーの海抜20mから臨む太平洋と漁村の眺望は圧巻です。

津波避難タワー

津波避難タワー

⑵公共施設の高台移転等事業

さらに、現在、町を挙げて取り組んでいるのが、防災拠点となる役場庁舎や消防庁舎と保育所の高台移転事業です。これは南海トラフ地震・津波への備えとして、現在久礼地区にあり、浸水想定のある役場庁舎・消防分署・保育所を令和2年度末までを目標に高台移転するものです。

この計画は平成22年度から検討を開始し、有識者による検討委員会を経て計画を策定、移転先となる高台の造成が平成29年度から始まりました。平成30年12月からは役場庁舎の建築に着工、平成31年度からは消防庁舎、保育所の着工を開始しています。保育所は町の宝である子どもたちへの環境に配慮した木造平屋建てとなっています。

移転先の高台は、中心市街地にも近く、また、災害発生後の復旧・復興の面から国道56号に近接する地点を選定しました。久礼小学校と同中学校は近接していますので、保・小・中が一体となった理想的な教育環境が実現するとともに津波指定避難所となっており、役場、消防といった町の司令塔とも連携が図られる取組となっています。

工事が進む移転地区

工事が進む移転地区

未来への懸け橋

中土佐町は、海、山、川からもたらされる豊かな資源と環境を活かした、農山漁村の魅力のすべてを満たした町です。同時に、厳しい自然の猛威に果敢に立ち向かおうとしている町でもあります。そこには、地域をこよなく愛し、次代を担う子どもたちへ町の将来を託そうと懸命に考え、行動する人々の営みがあります。

公共施設の移転地区にこの春、新しい橋が完成しました。「久礼未来橋」と名付けられた橋の命名者は、久礼小学校に通う竹田心菜さん(写真)です。

将来を担っていく純真無垢な子どもたちが、将来にわたって誇りと希望をもって歩んでいくことを象徴するかのような未来への懸け橋の開通に人々の期待が寄せられています。

「久礼未来橋」命名者の竹田心菜さん(左)

「久礼未来橋」命名者の竹田心菜さん(左)