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島根県津和野町/ゆっくり街歩き、本当の津和野の魅力を伝えたい。~地域の文化歴史資源を活用した滞在型観光まちづくり~

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年10月14日更新

 

津和野城跡から見下ろした城下町。秋、雲海が晴れると街なみが現れる。

津和野城跡から見下ろした城下町。秋、雲海が晴れると街なみが現れる。


島根県津和野町

3097号(2019年10月14日) 津和野町長 下森 博之


津和野町の概要

津和野町は島根県の最西端に位置し、県境で山口県に接しています。島根県庁の所在地である松江市までは200kmで、SLやまぐち号が走るJR山口線、山陰の幹線道である国道9号線と岩国に繋がる国道187号線が交差し、古くから山陰と山陽をつなぐ交通の要所として栄えました。

面積は約307㎢、東京23区の約半分と広く、総面積の91%を山林が占め、令和元年7月末現在の人口は7、333人、世帯数は3、506世帯(住民基本台帳)となっています。

平成17年、旧津和野町と旧日原町が合併し、新津和野町となりました。津和野地区は津和野城跡から望む中心部に城下町の風情を色濃く残し、文豪森鷗外や思想家西周など明治維新を支えた先人を数多く輩出した、歴史と文化が香る「山陰の小京都」として有名です。観光客入込数としては昭和54年に150万人を超えたときをピークに、その後減少に転じましたが、今でも90万人の観光客が訪れる県西部最大の観光地です。

日原地区は古くから天領として栄え、一級河川水質日本一に6度輝いた清流高津川が流れており、良質な天然鮎やツガニ漁も盛んで、ミシュランガイド東京の一つ星を獲得したこともある料亭の本店も拠点を構えています。また、ブナの原生林が広がる島根県内最高峰、安蔵寺山の水系を中心にわさび、タラの芽など山菜の栽培も行われ、天然のイノシシ肉など山川の恵みも数多い自然豊かな地域です。

清流高津川の天然鮎かけ

清流高津川の天然鮎かけ

日本遺産第1号認定「津和野今昔~百景図を歩く~」

「地域の文化歴史資源を活用した滞在型観光まちづくり」という観点から述べますと、最近では平成27年4月、文化庁が新たに制定した「日本遺産」制度の第一号認定18地区のひとつとして、本町の「津和野今昔~百景図を歩く~」が認定されたことがあげられます。日本遺産とは、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを評価するものです。

「津和野今昔~百景図を歩く~」は、幕末の津和野藩の風景等を記録した絵図「津和野百景図」にある藩内の名所、自然、伝統、芸能、風俗、人情など、絵画と解説100枚から物語が始まります。明治以降、不断の努力により町民が開発から街の風情を守るとともに、新しい風潮に流されることなく、古き良き伝統を継承してきたこと。さらに、百景図に描かれた当時と現在の様子を対比させつつ、往時の息吹を感じ、街並みを散策できるストーリーを評価していただきました。これは、決して百景図、そのものが日本遺産ではないということなのです。

しかし、その一方で日本遺産の認定は単純に前述のストーリーだけではなく、甚だ手前味噌ですが、戦略的に積み上げてきた町の取組があってこそ実現したといえます。

津和野百景図「十七 祇園會鷺舞」江戸末期の様子

津和野百景図「十七 祇園會鷺舞」 現在の様子

津和野百景図「十七 祇園會鷺舞」江戸末期の様子(上)、現在の様子(下)

文化歴史資源を多層的に活用する体制の構築

まず、町教育委員会では平成20年から、道ばたの地蔵に至るまでデータを蓄積させた文化財の総合的把握を行い、平成22年、「津和野町歴史文化基本構想」を策定しました。続いて平成25年、津和野地区の貴重な城下町の街並みを面的に保存整備活用する計画として、「津和野町歴史的風致維持向上計画」の認定を受けました。現在、日本遺産の認定には、歴史文化基本構想もしくは歴史的風致維持向上計画の策定が必須条件となっています。

同じく平成25年、城下町津和野、橋北地区において、歴史的な街並みを保存すべく、「重要伝統的建造物群保存地区」の選定を受けました。このように様々な計画策定により多層的に整備を行う体制を整え、歴史的建築物を保存活用できることとなりました。

民間から起こった空き家対策の動き

この気運はやがて民間からも起こることとなり、平成22年、町商工観光課に対して若手商工業者有志から「空き家の増加、老朽家屋の倒壊について対策を講じたい」との協働の打診がありました。その後、京都の建築コンサルタントを交えて、ワークショップなど検討を進め、平成24年2月、官民協働による「津和野町まちなか再生推進協議会」が発足することとなります。

同協議会の活動は「空き家等を活用することで、観光等に資する施設を整備すること。また、体感プログラムを商品化することで、観光客が町内を回遊し、長時間の滞在を目指し、観光サービスの運営体制を確立すること」を目的としました。

本町の観光における弱点は、まさに今も昔もこの滞在時間の短い通過型観光であるということなのです。中堅旅館等の廃業や労働力不足による自主規制など宿泊可能総量の減少もあり、全町では年間100万人を超える観光入込客がありながら、宿泊客数は3万4千人弱であるという数字が、それを如実に表しています。

そこで、まず取り組んだのは、空き家を改修整備し、観光客に一棟貸しする新たな宿泊システム、町家ステイの具体化でした。候補物件を探す空き家調査、さらには新聞折込み等による公募を行い、複数の候補物件を選定、同協議会の中で活用案を議論しました。しかし、私有財産に公的資金を投入する上での貸借条件、宿泊業者との調整、物件に関する所有者、周辺住民の思い入れなど議論は長期に及び、時には地域の反発もあり、計画が頓挫した物件もあります。

町家ステイ戎丁 改修前

町家ステイ戎丁 改修後

町家ステイ戎丁 改修前(上)、改修後(下)

(一社)町観光協会が運営する町家ステイ

第一号物件は社会資本整備総合交付金の空家再生事業を活用し、平成25年に改修工事に着手。しかし、昨年制定された民泊新法の議論に先んじた、住宅の一棟貸しと旅館法との解釈に相違が生じたため、関係機関と協議し、追加修正を行う必要もありました。そんな紆余曲折を経て、第一号の「町家ステイ戎丁(えびすちょう):5名定員」は平成27年2月にオープンする運びとなったのです。

開業に向けては、指定管理者を町観光協会へ委託することで利益を広く観光振興に活用すること、旅館法の簡易宿所の認可を受けること、泊食分離を原則とし町内飲食業への波及効果を狙い、かつ宿泊料を高価格帯に設定することで、既存の宿泊業者とはかぶらない、新たな顧客層の発掘を目指しました。

平成28年には第2号物件「町家ステイ上新丁(かみしんちょう):10名定員」がオープンし、現在2棟の運営を行っています。高価格帯ながら、とても古い住居とは思えないハイスペックなモダン和風テイストと、スタッフのきめ細かな対応もあり、最近ではリピーターも増えてきました。間接的経費を含めると利益が生まれるまでには至りませんが、平成30年度実績で宿泊者数328名、2年連続前年度比150%を超える増加となり、津和野旅館組合にも加入するなど観光協会事業収入の一角を占めるまでになりました。

町家ステイ上新丁 居間から庭の風景

町家ステイ上新丁 居間から庭の風景

空き家活用と図書館移転による賑わい創出拠点「かわべ」

その後の取組として同協議会から派生した官民協同組織により、平成26年より日原地区の中心商店街に賑わいを取り戻すため、古民家母屋・蔵3棟を改修した多目的施設と図書館・カフェ棟の移設・新築による拠点エリアの構想がスタートしました。町家ステイと同様に社会資本整備総合交付金の空き家再生事業を活用し、さらに地方創生推進交付金事業、農山漁村振興交付金の農泊推進対策事業、過疎債など事業実施に導入しています。

こうして、本年9月1日、清流高津川に隣接した日原にぎわい創出拠点「かわべ」は本格的なオープンを迎えることとなります。観光地である津和野地区とは異なり、地域住民を中心とした日常的な活用と幹線国道からも展望の効く地の利を生かしたイベント等の非日常的な活用により、域外との人的・経済的な交流を目指した運用を考えています。現在、城下町「津和野地区」と天領「日原地区」、さらにもう一つの天領「畑迫地区」を繋ぐ観光プランを創るため、実証実験、サイン整備も継続的に進行中です。

「かわべ」プレオープン 高津川ミズベリングイベント

「かわべ」プレオープン 高津川ミズベリングイベント

文化歴史資源を活用し通過型観光からの脱却

また本町の歴史遺産の一つである乙女峠はキリシタンの殉教の地として有名であり、毎年5月、津和野カトリック教会の信者が中心となって「乙女峠まつり」を開催し、全国の信者などたくさんの参列者が訪れます。このたび、乙女峠において明治政府による改宗政策の弾圧により殉教した37名の信者に関して、信仰の高さとその聖性を認めるため、バチカン市国にあるローマ教皇庁より列福・列聖調査の開始許可がおりました。今後、調査と審査を経て、認定が確実視される中、正式に決定すると、津和野がカトリック教による「聖地」の一つとして世界に認知されることとなります。認知された後は、全世界から多くの信者が巡礼の旅に来町されることが予想されるため、インバウンド対応のインフラ整備やおもてなしの向上がさらに必要となっております。

このように地域の文化資源を活用した滞在型観光に取り組むべく、宿泊機能の向上や日本遺産を核とし、日本遺産コンシェルジュ・ガイドの育成、四季折々の様々なまち歩きプラン、体験プランの開発も急がねばなりません。こうして、津和野町観光の弱点である滞在時間の短さ、通過型観光を克服し、ゆっくり滞在いただいてこそ判る、本当の津和野の魅力を伝えていきたいと考えています。

キリシタンの歴史遺産「乙女峠」が世界的な聖地に

キリシタンの歴史遺産「乙女峠」が世界的な聖地に・・・

 

参考
・津和野町日本遺産HP(https://tsuwano100.net/facility/
・(一社)津和野町観光協会町家ステイHP(http://tsuwano-stay.jp/)
・日原にぎわい創出拠点 かわべHP(https://nichiharakawabe.jp/about/