実りの多いまち「しちのへ」
青森県七戸町
3096号(2019年10月7日) 七戸町 地域おこし総合戦略課
七戸町は、青森県の東部に位置し、県庁所在地の青森市や観光名所の十和田湖がある十和田市と接する内陸部の町です。面積は337.2㎢で、西側一帯は国有林野で標高1、000mを超える八甲田山系が連なり、山麓から伸びる丘陵は高低差が少なく、田畑が広がっています。令和元年7月1日現在の人口は15、577人、高齢化率は39・7%、世帯数は6、820世帯です。
七戸は「しちのへ」と読み、青森県の南部から岩手県の北部にかけて一戸から九戸まであります。「戸」が付く地名の由来は諸説ありますが「牧場の木戸があった場所」「蝦夷平定の際に残した守備兵の駐屯地(柵戸)」などと伝えられています。
年間平均気温は約10℃と冷涼で、なかでも6月から7月には「ヤマセ」という低温で霧雨を伴った太平洋側からの風が吹くため、夏でもクーラーが要らない日があります。
町には国道が東西南北に走り、主要地方道や県道が放射線状に近隣自治体へ延びているほか、町の中央部にはJR七戸十和田駅があり、新幹線で東京駅まで乗り換えなしで約3時間と、交通条件に恵まれています。
JR七戸十和田駅で「しちのへはやぶさPR隊」に会えるかも
歴史としては、縄文時代の史跡二ツ森貝塚があり多数の土器、石器、獣骨等が発掘され、大規模な集落が形成されていたことが分かっています。また、室町時代に築かれたと伝えられる七戸城は安土桃山時代に敗戦で取り壊されましたが、江戸時代には城内に盛岡藩の代官所が設置されました。現在、跡地は柏葉公園になっており住民の憩いの場として親しまれ、眼下に広がるまち並みは昭和レトロな雰囲気が残り、商店街を歩くとノスタルジックな気分になります。
昭和初期は交通手段として馬車が使われ、バス停留所の前で馬が立ち往生してバスが運行できずにいるユニークな写真もあります。ほかに、馬頭観音が祀られていた花松神社、茅葺屋根の南部曲家育成厩舎、G1制覇の競走馬を輩出している諏訪牧場、年2回開催される馬力大会、特産品の駒饅頭など、人と馬とが身近に暮らしていた文化が感じられます。また、古くから名馬の産地として知られ、青森県最大の催しである平成29年のねぶた祭りでは、源平合戦で有名な宇治川の先陣争いで功をもたらした馬「生唼」を題材に「七戸立」として山車が披露されました。
古くから身近に馬がいたことを今に伝えるユニークな写真
肥沃な土壌に恵まれた町の基幹産業は農業で、米、にんにく、長芋、トマトを中心に様々な畑作物が栽培され、道の駅しちのへは所狭しと並べられた新鮮な野菜を求めるお客様で賑わっています。また、金子ファームの「NAMIKI牛」は平成28年度全国肉用牛枝肉共励会・和牛牝牛の部で最優秀賞に輝き、非常に高い評価を得ているほか、牧場内にある店舗では搾りたての牛乳を使ったジェラートが人気です。
肥沃な土壌に恵まれ、味が濃い新鮮な野菜が採れます
また、安永6年(1777年)創業の(株)盛田庄兵衛では、杜氏が青森県産米と東八甲田の高瀬川水系の伏流水を用いて丁寧に仕込み、地元住民から愛され続ける地酒を提供しています。さらに、2019年の全米日本酒歓評会で金賞を受賞するなど、輸出も視野に入れた取組をしています。
このように、歴史と文化が深く、自然に恵まれ新鮮な食材が豊富な七戸町ですが、人口減少と高齢化が進み、平成26年に日本創生会議が公表した将来推計人口では2010年から2040年までに人口の半分である約8、900人が減るという消滅可能性自治体に位置付けられました。右肩下がりの人口ビジョンに危機感が増したため、地域を取り巻く諸問題を解決することを目的に、七戸町総合戦略に基づいた事業を矢継ぎ早に実施し、特に移住者や関係人口を増やす取組に注力しています。
七戸町の移住施策は20~40歳代をターゲットとしており、新婚・子育て世帯への民間賃貸住宅家賃補助や、新築住宅補助の若者加算等、手厚くサポートしています。また、中学生までの医療費や給食費の無償化のほか、児童館も無料で利用できます。
安心して子育てができる環境づくりに取り組んでいます
このように様々な子育て支援や移住施策を展開しているものの、それぞれ担当課が別のため町のWebサイトは統一感が無く、また、情報を得るには項目毎にページを開かなければなりません。移住検討者にとってユーザビリティが悪いサイトは、一度見に来た後はリピートしないことが容易に予想されたことから、移住・定住に関する取組を一元化したポータルサイトを立ち上げることとしました。
サイトのタイトルは「にじのフモトでナナイロぐらし」。七戸町の数字の「7」は「ラッキーセブン」など縁起が良い印象があり、また、町総合戦略では「物質的な豊かさよりも心理的な豊かさ」をキーワードにソフト面の充実を最優先事項として捉え「やりたいことが実現できるまち」を目指すこととしています。これらを移住・定住に向けたストーリーとして仕立て「虹の麓にはお宝が埋まっているという言い伝えがある。七戸町で七色の虹のように多彩に輝いた暮らしを送って欲しい」という願いを込めてネーミングしました。
ポータルサイトには笑顔あふれる写真を多数掲載し、見ているだけで楽しくなる工夫をしています。移住・定住支援のほかに、実際にU・Iターンしてきた子育て中のお母さん、開業医、新規就農者、美容師といった様々な方の声を動画とともに掲載しています。
移住者の笑顔あふれる「ナナイロぐらし」をサポートします
移住支援の取組として、はじめに移住動画の配信や首都圏セミナーへ積極的に参加したところ、移住希望者にとって「仕事」と「住まい」が最も大事で、次いで地域の移住者の受け皿が必要だと分かりました。七戸町はこうした受け入れ体制が十分とは言えないので、やるべきことがたくさんあります。
課題解決には行政だけではなく町民の協力も必要となります。そこで、先ず、地域のイベント等で精力的に活動している古屋敷賢治さんと、人口が減り続けている現状と移住の取組等について率直に意見交換したところ「最近は世代間交流が少なくなっていると感じる。また、よそからやってきた人と地域との橋渡し役も必要で、引っ越してきた誰もが安心して町で暮らせるようになれたら最高だと思う。一緒に楽しく過ごせると良いね」というご意見をいただきました。
そこで、町の魅力の紹介や移住の相談をボランティアで行う「しちのへ移住サポーターの会」を平成30年1月に立ち上げました。代表は古屋敷さんに担っていただき、メンバーはUターンしてきた農家や商工会青年部長等の熱意を持った若手で構成しました。1年目は、移住者と地元住民が触れ合う機会を創出することを目的に、地元食材を使ったBBQや、近くの漁港で採れた魚介類のさばき方講座等、数多くのイベントを開催。交流を深めながら会への加入を呼びかけたところ、現在、協力者・協力店を含めてメンバーは50名を超え、町民主体で移住を推進する機運が高まっています。
「しちのへ移住サポーターの会」が移住者と地域住民との交流を深めます
サポーターの会の設立と並行して、移住相談と情報発信をメインに活動する「しちのへ暮らしコンシェルジュ」も導入しました。ヨソモノ視点で七戸町を客観的に見ていただくことで、地元の人にとっては当たり前すぎて気づかない地域資源の発掘や、実際の移住体験を基にした相談対応が可能になるという考えから、コンシェルジュはIターン者を対象に、地域おこし協力隊員を募集しました。東京都から家族で移住した花松美佐さんと栃木県出身の葛生悦子さんが平成30年4月から活動しており、2人とも積極的に地域へ入って気づいたことをSNSで紹介しているほか、サポーターの会の事務局として移住希望者とメンバーとの橋渡し等をしています。
「しちのへ暮らしコンシェルジュ」が移住のご相談に応じます
また、セミナーや相談会などでは伝えきれない地域の魅力や町民の温かい人柄を感じていただくことを目的に「しちのへ暮らしわんつか体験住宅」も運営しています。「わんつか」は方言で「少しだけ」という意味で、最長7泊8日まで無料でご利用いただけます。今年度、わんつか体験住宅の利用者が移住した事例もあり、徐々に効果が出てきていると思われます。
「わんつか体験住宅」は最長7泊8日無料でご利用いただけます
相談窓口へいらっしゃる方は、最初、移住に向けて漠然と様々な疑問を抱えているので、詳しくお聞きしながら整理するところからはじめます。
仕事は基本、ハローワークで検索することになりますが、実際にどのような職場環境でどのような方が働いているのか等はネット上ではわかりませんし、障害者雇用に関しては専門的な視点での支援が必要かもしれません。
また、七戸町の住まいに関するデータは、残念ながらネットで検索してもあまり出てきません。町内に空き家は増えていますが、所有者が誰で売却・賃貸希望の物件なのか、すぐに住める状態かどうかといったこともわかりません。さらに、移住者交流会でも「家族で住める不動産が見つからない」という声があり、参加者全員が「移住の壁」と感じていることがわかりました。実際に移住を希望してもマッチングせず、近隣自治体へ住む方もいます。
そこで、町では空き家バンクを運用し固定資産税納税通知書の封筒で登録を促しているほか、サポーターの会のメンバーから住まいや仕事に関する情報を提供していただくこともあります。
相談者からは他にも、保育園や小・中学校、子どもの習い事のことから、隣の市への通勤で朝の交通渋滞を回避できる裏道のことまで、色々なことを聞かれます。即答できなかったり、ネットだけでは調べられなかったりすることは、口コミで情報を収集することもあります。今後もネットワークを広げ、地道にデータを蓄積し、移住希望者にとって最適なプランを提示できるように努めていきます。
七戸町は、若者が進学や就職で都市部へ行くとなかなか戻ってこないという状況ではあるものの、町民からは「住むには良いところだよ」と現在の生活に満足している声も聞かれます。生産年齢人口の縮小に歯止めをかけ、持続可能な地域づくりを目指し、町民一丸となって取り組んでいきたいと考えています。
私たちの活動に興味を持っていただいた方はWebサイト「にじのフモトでナナイロぐらし(https://www.7iju.jp/)」をぜひご覧ください。