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千葉県鋸南町/廃校の学舎を都市と農村の交流拠点に~遊休施設の利活用~

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年7月1日

道の駅保田小学校の外観

道の駅保田小学校の外観


千葉県鋸南町

3085号(2019年7月1日) 鋸南町地域振興課まちづくり推進室


鋸南町の概要

鋸南町は、千葉県・房総半島の南西部安房郡に位置し、北に富津市、南に南房総市、東に鴨川市が隣接し、西は東京湾に面しています。面積は45.19㎢で海岸線近くまで山が迫っており、町の大部分が山間部となっています。北には「日本一の大仏」や「地獄のぞき」で有名な日本寺のある標高329mの鋸山がそびえており、この鋸山の南に位置することが「鋸南」という町の名称の由来ともなっています。

町の主要産業は農・水産業と観光業であり、農業では特に食用ナバナと花卉栽培が盛んです。特に日本水仙については「日本三大群生地」の1つということもあり、12月から2月上旬まで町内のいたるところで水仙の芳香が漂います。さらに「日本一の桜の名所」を目指し、町民一丸となって頼朝桜(河津桜)をはじめ、様々な桜の植栽に力を入れ、現在町内全域で約1万8千本もの桜が植栽されており、春を先取りする2月から4月下旬まで楽しめます。加えて、「見返り美人」で有名な浮世絵の祖、菱川師宣の生誕の地であり、小林一茶、夏目漱石ら歴史上の文人たちも愛した文化の里でもあります。

アクセスとしては、JR内房線、国道127号線、富津館山道路が南北に走り、東京方面からは東京湾アクアラインを経由して車で約90分であり、年間を通じて広く首都圏から観光客を集客しています。

取組の背景、経緯

全国の自治体と同様に鋸南町も人口減少と少子高齢化が進んでいます。平成初期の人口は、平成2年の国勢調査時には11,696人、子どもの年間出生数が72人でしたが、平成31年1月1日現在では7,879人、子どもの出生数は30人未満となっています。平成27年度の国勢調査時には人口減少率が10.3%と県下1位、高齢化率は43.45%と県下2位の高さとなりました。このため、主要産業である農・水産業従事者の高齢化と後継者不足は顕著であり、深刻な課題となっています。

加えて、平成の大合併の際には、自主自律(立)という大きな決断をしました。このような状況から、公共施設の統廃合についてもいち早く協議を始め、特に教育施設については、町内に3校あった小学校を平成26年3月までに1校に集約する計画で進めてきました。しかし、地域コミュニティの場、避難所など多様な顔を持つ学校がなくなるということは、その喪失感から地域の活力の減退を生み、それが町全体へ波及して町全体の元気がなくなってしまうのではという危機感がありました。そこで、町に人と仕事を呼び込む「町民のステージ」をつくり、地域を元気にするため、また、廃校を活用して新たな交流の場をつくることを目標に新交流拠点、「都市交流施設整備事業」が動き出しました。

取組の内容

小学校跡地の活用案については、高い高齢化率から「介護施設や高齢者住宅をつくった方が良い」や、「校舎を壊して商業施設をつくった方が良い」など各種意見が出されました。どの案も町の課題解決のために必要なものですが、自律(立)を選択した鋸南町の起死回生の一大事業という位置づけから、「守り」ではなく外から人を呼び込む「攻め」の姿勢で、新交流拠点をつくるということになりました。

この方向性を決めるにあたっては、町民からのアイデアがきっかけとなりました。その内容は、学校施設跡地の有効活用についてのアイデアで、町の総合計画の策定にあたり、様々な行政課題に対し町民から自由な意見を取り入れるために設置された「策定懇話会」の中で提案されました。小学校の統廃合については、3校あった保田小、勝山小、佐久間小の内、平成20年に勝山小と佐久間小は統合して勝山小となり、残りは保田小と勝山小の統合でした。どちらを利活用するかについては、交流拠点という性質から住宅地にある勝山小より、富津館山道路のインターチェンジからすぐ近く(200m)であり、東の鴨川市に抜ける主要地方道鴨川保田線に接している保田小の方が、交通の要所に位置しており地理的に有利である点や、大規模改修により耐震化がされており、校舎を使うことができるという点から保田小を活用するということになりました。校舎をそのまま使うことについては、使い勝手の面などで反対意見もありましたが、毎年全国で何か所も新しい「道の駅」やショッピングモールなどの商業施設が誕生している中で、人口1万人を下回る小さな町が他と同じようなものをつくれば、最初は良くてもすぐに埋もれてしまうのではないかということと、他の人がやらない目新しさを求めるという視点が校舎を活用するという方向性の後押しになりました。

小学校時代の保田小学校

小学校時代の保田小学校

全体の整備費用としては、約13億円となりました。財源については、農林水産省の農山漁村活性化プロジェクト支援交付金(当時)を主に、国、県に各種補助をいただいた結果、町の負担としては約5億円となりました。

施設の方向性が決まり、財源のめども立ったとなれば、次は建物の設計・工事です。設計については、小学校の校舎を利活用するにあたり、「校舎を残す」、「防災機能を残す」ことを条件に全国からアイデアを募りました。しかし、「鋸南町」という漢字を見ただけでは読めない、またどこにあるのかわからないような小さな町が全国にアイデアを募ると言っても、どうやって全国の設計者の方々に手を挙げようと思ってもらえるかが課題でした。そこで、著名な建築家の方々を審査員に迎えての公募を行いました。これが想像以上の反響を呼び、全国から37者の応募があり、どれも素晴らしい提案で、小さな町の事業に大きな関心を抱いていただいたことに驚き、感謝しました。

このため、急きょ一次審査を通過した6者の二次審査を、町の公民館にて公開プロポーザル方式で行うことにしました。これにより、町民の方々の関心も高まり、町外に対しても本事業が注目されるきっかけにもなりました。審査の結果、学校の雰囲気を残しつつ、新たな防災拠点の提案をされたN.A.S.A.設計共同体(5大学「早稲田・法政・工学院・横浜国立・日本女子」・4事務所)を選定しました。主な提案内容としては、校舎2階の教室を緊急時には避難所に転用できる宿泊室として、体育館は地元の野菜、花などの特産品を揃える直売所として活用するなど、随所に小学校の面影を残すものでした。

公開プロポーザルの様子

公開プロポーザルの様子

設計の次は工事です。何もない所に新しい建物をつくるのとは違い、築50年の校舎を改修するため一筋縄ではいきません。一部解体を進めていると、アスベストが発見されたものの撤去する予算がないなど、他にも様々な問題により工期は遅れ、開業は当初予定より約8か月遅れました。

施設の整備を進めるのと並行して、「道の駅」の登録にも動き出しました。すでに町内には「道の駅」きょなんがあり、保田小学校が「道の駅」登録となると間隔が2.2kmと当時日本一短い距離とのことでしたが、宿泊等で差別化を図ることにより、千葉県内で26番目の「道の駅」として登録、さらに重点「道の駅」候補にも選定されました。

実は、「道の駅」の申請時には「道の駅」の名称は決まっておらず、(仮称)ほた小学校として申請手続きがされていました。施設名称を決定するにあたっては、「公募すべきだ」という声があったりもしましたが、小学校の校舎をそのまま使っているのだから名前も漢字もそのまま「保田小学校」が自然なのでは?となりました。しかし、そもそも「小学校」という名前を教育施設以外に使用して良いのか?という疑問が出てきます。国交省に問い合わせると、基本的に国交省は申請されればその名称で受理するが、前例がないため文科省の見解が必要とのことでした。結果として、保田小学校は教育施設ではなくなっているので違法ではないとのことで、晴れて「鋸南町都市交流施設・道の駅保田小学校」となりました。

(仮称)ほた小学校(重点「道の駅」候補選定証)

(仮称)ほた小学校(重点「道の駅」候補選定証)

施設の特徴的なところは、2階建ての校舎の2階に、教室を前後に分割し2部屋とした簡易宿泊室が計10部屋あり、災害発生時には間仕切りのある避難所として活用できることです。小学校時代には無かった太陽光発電設備と蓄電池、非常用電源としての自家発電機を設置して防災機能を強化しました。校舎前面には町民、交流客の方々のたまり場として使える「まちの縁側」を増築し、災害時には450名を収容可能です。

教室を活用した簡易宿泊室

教室を活用した簡易宿泊室

そして最大の特徴は、施設全体を通して「学校の雰囲気」を随所に残していることです。教室は黒板やランドセルを入れるロッカーを残し、理科の実験器具などの教育備品を展示し、学習机や椅子も再利用しています。公立の小学校の備品を再利用することで、コストの削減になるだけではなく、全国のどこの方が来られても懐かしさを感じることができ、施設の魅力UPの効果が出ています。体育館は直売所「里山市場きょなん楽市」となりました。この愛称は町内の公募により決定しました。直売所へは町内の農家さんを中心に組織される出荷組合により、新鮮な野菜や花が出荷されています。また、地元の業者さんも弁当やお菓子などの加工品を出品しています。校舎棟1階には地元の飲食店を中心としたテナントが入居しており、給食メニューが楽しめます。

随所に残る小学校の雰囲気

随所に残る小学校の雰囲気

テナントで食べられる給食メニュー

テナントで食べられる給食メニュー

現状と今後の課題

当初の客数、売上の目標は既設の町内の観光施設をベンチマークに、客数27万人、売上2億7千万円と設定しましたが、施設名称などの目新しさから開業日当日より、テレビ、新聞の各種メディアに取り上げていただいたこともあり、売上額は目標数値を半年で達成して1年間で6億円、レジ通過客数は30万人、来場者推定は60万人超と目標を大幅に超え、オープン景気後の現在もこの数値を維持しています。また、施設の効果としては、雇用者数が約50名、出荷組合の会員数が約200名、町内業者数約20社と多くの方々がこの施設を活用しており、地域の活性化につながっています。さらに、「鋸南町」、「保田」という地名が全国に広がりました。

今後は、保田小学校に隣接した旧鋸南幼稚園跡地、プール跡地等の未活用の周辺施設もあるため、周辺整備も進めながらリピート来校をしていただける方々が増えるよう、ハード面、ソフト面共に発展をつづけ、その中から鋸南町に住む方々が増えてくるように取り組んでいきたいと考えています。

大勢のお客さまで賑わう

大勢のお客さまで賑わう