高山右近フェスタ キャンドルナイト
大阪府豊能町
3066号(2019年1月14日) 豊能町長 池田 勇夫
大阪府豊能郡豊能町は大阪府の北端部に位置する町です。町の面積は34.47㎢で、標高600ⅿを超える北摂連山に囲まれた自然豊かな町です。北は能勢町と京都府亀岡市、東は茨木市、南は箕面市、そして西は兵庫県川西市に接しており、大阪、京都、兵庫という三つの生活圏が交差しているところです。
町域中央部は妙見山を主峰とする標高600~700mの山脈が縦断し、町域が東西に分断されています。山間地という本町の地勢上、まとまった平地は少なく、元々は小集落が点在する典型的な山間農村でしたが、昭和40年代からの大規模宅地開発によって住宅地としてその姿を大きく変え、大阪市内の中心部まで直線距離で30㎞という立地条件を活かして、大都市近郊のベッドタウンとして発展してきました。
明治22年、市町村制が施行され、本町は当時の余野村、川尻村、木代村、切畑村、野間口村が合併し東能勢村に、そして昭和30年に高山地区を編入し、翌31年、東能勢村と吉川村が合併しました。昭和33年には牧・寺田地区を編入、そして昭和52年町制が施行され「豊能町」となり現在にいたっています。平成29年には町制施行40周年を迎えました。
町を代表する著名人は、戦国時代に信長・秀吉に仕えて活躍したキリシタン大名高山右近です。本町高山地区はこの右近の生誕地で、幼少の頃、右近はこの地で過ごしています。右近夫人も本町余野地区の出身です。平成28年には高山右近の列福を契機として、町民有志の寄付により右近夫妻石像が高山地区に建立されました。
高山右近夫婦石像
この高山地区では、毎年10月に右近を顕彰して「右近フェスタ」が開催されています。この右近フェスタでは、余野地区から右近夫人花嫁行列が行われます。夜には、付近の棚田に数千本のキャンドルが灯され、その幻想的な風景はフェスタの大きな見どころとなっています。
右近フェスタ・花嫁行列
高山右近関連史跡以外にも、歴史的な産物は豊富にあります。本町は、「みかげ石」を産出する石の町で、産地ならではの特色として町内各所のいたるところに石仏等の石造物がみられます。なかでも、多尊石仏と呼ばれる特徴的な石造物は当地域に集中しており、石仏の探訪に絶えず観光客が訪れています。
本町は、棚田が広がり、川のせせらぎや風の音が聞こえる「いなか」の風景が広がる地域と、整備された住宅地が続き、自然と調和した「まち」の風景が広がる地域、というふたつの顔を併せもった町です。本町の魅力は、実に様々です。みどりあふれる山々には軽やかな音を立てながら流れる川があり、四季の移ろいに合わせて様々な表情をのぞかせる棚田があるなど、自然のオアシスが暮らしのすぐ隣にあります。多くの石仏をはじめ寺社・仏閣、キリシタン関連遺物など貴重な歴史文化が時を超え、町のいたるところに存在しています。
余野十三仏
農産物では、地域名である「高山」の名を冠したなにわの伝統野菜「高山牛蒡」や古くからの伝統を守りながら作られてきた加工品、新たに健康食品として注目されている野菜「ヤーコン」の栽培など丹精込めて作られた食の豊かさも魅力のひとつです。
自然に囲まれての暮らし、町の中でのくらし、暮らしに求めるものは人それぞれですが、多様なニーズに答えることができるのも豊能町ならではの特徴で、自然も、歴史文化も特産も、そして「いなか」と「まち」の暮らし方も豊能町の魅力となっています。
豊能町は、北摂山系に囲まれた高地であるため、朝夕の寒暖差も激しく、また、空気や水も澄んでいる地域です。このような町の特性を生かした特産品が昔から生産されています。
江戸時代から栽培されていると伝わる「高山牛蒡」と「高山真菜」は、なにわの伝統野菜に認証され、その歴史ある特産を守り伝えています。
近年では、全国的に健康への意識が高いため、豊富な栄養素を含むヤーコンの栽培に力を入れるなど、これまでの歴史や伝統を守りつつ、新しい特産品の生産にも取り組んでいます。
・高山牛蒡 江戸時代から栽培されている牛蒡で、香りがよく、柔らかいのが特徴。太いものは中が空洞になるため、そこに肉などを詰め込む、詰め物料理に向いています。
・高山真菜 アブラナ科葉菜類の一種。北摂山系の山々に囲まれた高地で厳しい冬の寒さに耐える野菜です。「真菜漬け」として多くの人に親しまれています。
高山真菜漬
・ヤーコン ヤーコンは南米アンデス地方原産の根菜。フラクトオリゴ糖やポリフェノールを多く含み、生活習慣病予防などに効果があるスーパーフードです。本町の特産品として多くの農家が栽培しており、ヤーコンを元にしたお茶やサイダー、サプリメントなどの商品化も進んでいます。
・大吟醸「右近」 本町出身のキリシタン大名高山右近が福者に認定されたことを記念に誕生した銘酒。昼夜の温度差が大きい山間部の地勢を活かして生産した豊能町産のキヌヒカリ米を100%使用した純米大吟醸で、そのさわやかな味わいが好評です。
ヤーコンサイダー(左)と大吟醸酒「右近」(右)
現在、日本全体で、急速な少子高齢化等による人口減少が問題となっています。特に、地方では、人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる、という負のスパイラルに陥るリスクが高くなっています。このような状況のなか、人口減少に歯止めをかけるとともに、それぞれの地域で住みよい環境を維持し、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくため、国は「まち・ひと・しごと創生法」を制定し、地方はまち・ひと・しごと創生に総合的に取り組むこととされています。
本町においても、1995年をピークに人口の減少がはじまり、今や全国や大阪府を上回るスピードで人口減少と高齢化が進んでいます。また、今後もその傾向が続くことが予測されており、全国に先がけて国が示唆する様々な問題に直面する「厳しく困難な未来」を迎える恐れがあります。この来るべき「厳しく困難な未来」を変えるため、「豊能町総合戦略」を立ち上げました。
人口減少・超高齢社会は、住民生活や経済・雇用・まちづくり、行政運営など様々な分野において、多くの負の影響を及ぼすことが懸念されています。しかし、一方で、人口の変化については、長期的に一定の傾向を予測することができ、何らかの対策を講じることが可能です。
このような現状を踏まえ、本町では、行政や地域住民、事業者など多様な主体が一丸となり、これまでの仕組み・考え方を変革するとともに、様々なアイディアや創意工夫を通じて「人口減少・超高齢社会」の対策のため、総合戦略において、「地域ぐるみの定住促進」、「農×観光戦略」、「つなぐ・つながる「場」をつくる」、「地域による戦略の推進」という4つのアクションプランとして取りまとめました。
これらのアクションプランのそれぞれに関与する課題に「シティプロモーション」があります。シティプロモーションは地域の魅力を探し出し、地域イメージとして確立させるためのものですが、先ほど述べてきたような豊能町の魅力はまだ多くの人に伝わっている状況ではありません。このことから、本町においてこのシティプロモーションはアクションプランを実施する上での重要な項目であると考えます。
「定住人口の拡大」は重要ですが、本町でのシティプロモーションは、「町に対する住民の熱量を高める」、つまり「豊能町ファン」を増やしていくことを、まず第一段階として行っています。
その取組のひとつが、平成28年度に始まった「豊能町 魅力発掘隊」の活動です。
この「豊能町 魅力発掘隊」は、豊能町の魅力を再発見するためのプロジェクトメンバーで構成されています。このメンバーを公募したところ、総数79名の応募があり、その中から本町住民9名、町外住民4名の計13人のメンバーを選定しました。豊能町の住民をコアメンバーとすることで、住民目線で豊能町の魅力を発掘していけるだけではなく、シティプロモーションの推進に欠かせない住民の関与と協力を促すことが可能となります。また、町外の住民にも参画してもらうことにより、町の魅力を客観的な目線で確認できるとともに、町外へと町の魅力を発信していく際に、本当に町外の住民に響く魅力なのかを判断するベンチマークとしての役割も担います。
第2回のワークショップでは、メンバー各人が持ち寄った豊能町の魅力を「ヒト」「トコロ」「モノ」「コト」「カコ」に分けて、その魅力を組み合わせて「豊能町で幸せになるストーリー」を創作し、そのストーリーをもとに、ツアーモデルを企画。第3回は現地での体験ツアーを開催、メンバーで情報を共有し「魅力」を体験していただきました。当日は、ツイッターやインスタグラムなどで、ツアーの様子をリアルタイムで情報発信するとともに、SNSでの情報拡散も行いました。第4回では豊能町のブランドメッセージの原案作成に取り組み、何度も議論を重ね「くらしを手づくり 大阪豊能町」「心が色づく 大阪豊能町」「こころうるおう 大阪豊能町」という3つのメッセージ(案)に絞り込みました。
平成29年には、「魅力発掘隊」の発展として「トヨノノレポーター」を公募しました。これは豊能町の魅力を再確認し、さらに向上させ、住民の生活の利便性や町の活気を維持・向上していく取組です。移住者の増加、観光等での訪問者の増加だけでなく、地域内外の人々の豊能に対する思いを醸造し、豊能町ファンを増やすことを目的としています。
レポーターは、豊能町の「当たり前の日常」を楽しみながら発見し、取材し、ポータルサイトを通じて魅力的に発信していきます。皆さんだけが知っている、気づく、そんな豊能町の一面を伝えるレポーターとして活躍してもらいます。
公募では、募集人員を大幅に超えましたが、皆様にご参加いただくこととなり、メンバーの年齢も10代から80代までと幅広く、学生の方、子育て中のおかあさん、最近豊能町に来られた方、長年豊能町に住んでいる方、豊能町外の方と、非常に多様なメンバーとなりました。活動は、プロモーションやブランディングの全体概要を知る講座がはじまり、続いて発信内容を企画する、そして専門的知識やスキルを得るためのワークショップを行いました。
シティプロモーションの効果としては、いまだ発展途上ですが、今回、ブランドメッセージ「曲がりくねって、ただいま。大阪府豊能町」を選定しました。また、このメッセージが定住や観光につながっていくように進めていきたいと考えています。
魅力発掘隊の活動
棚田の景観
ゆるキャラ「とよのん」
全国に先がけて、人口減少と高齢化が進み「厳しく困難な未来」が到来すると予測される本町ですが、行政や地域住民、事業者など多様な主体が一丸となって「総合戦略」をやり遂げることが、この困難を回避するための第一歩と信じています。
「これ」という特効薬のないなか、本町が今後この困難を回避することができるならば、本町のケースは都市近郊町村のあり方のひとつのモデルになりうるものと考えています。しかしながら、まだ道のりは遠く険しいものです。明るい未来を築くには、今後、何年にもわたり粘り強く継続して施策を進めていくことが肝要です。
皆様、折に触れて豊能町の動向にご注目いただくとともに、お近くに来られる機会がありましたら、是非、豊能町にお寄りいただきますようお願いいたします。