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秋田県藤里町/「幸せを感じられる地域づくり」~ふじさとReデザインプロジェクト~

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年11月26日

小岳からの白神山地世界遺産地域

小岳からの白神山地世界遺産地域


秋田県藤里町

3062号(2018年11月26日)   藤里町長 佐々木 文明


 

藤里町の概要

昭和38年、町制施行により「藤里町」が誕生。平成の大合併で全国市町村の合併が進むなか、平成15年度に単独立町を選択し、現在に至っています。平成25年11月に迎えた町制施行50周年を契機に、更なる発展と創意工夫による地域資源を活用した独自の町づくりを目指し、各種事業に取り組んでいます。

藤里町は秋田県の北部に位置し、面積は約282㎢、人口は3、315人(平成30年7月住民基本台帳人口)の町です。青森県との県境一帯は標高1、000mを超える山々が連なり、県境にまたがるように白神山地が広がります。世界遺産条約に基づく自然遺産に登録されている遺産地域の秋田県側はすべて藤里町の行政区域内です。

産業面では、従来の農林業、商工業、観光、サービス業などに新たな付加価値を付け、地域に根ざした基幹産業を推進しています。また、白神山水、白神まいたけ、白神牛、白神ラム、白神ホゲット、白神ワイン、白神りんどうなどオール白神による「白神ブランド化」を目指しています。

藤里町の人口は、平成27年の国勢調査では1、215世帯の3、359人で、昭和35年に比べて361世帯(23.06%)、5、283人(61.13%)減少しています。

これまでの総人口の推移と国立社会保障・人口問題研究所による将来人口の推計結果を統合した将来人口の見通しによると、本町は12年後の2030年には2、402人で現在(3、315人)より913人減、27.5%の減少率と推計され、さらに2040年には約54.9%減の1、820人になると推測されています。

人口減少の要因としては、少子高齢化、産業基盤の脆弱化による働く場の減少、若年層の町外への流出などが挙げられます。これまで、藤里町まちづくり計画や過疎地域自立促進計画に基づく事業の積極的な実施により、社会基盤については一定の水準を確保しているものの、町全体としての人口減少、少子高齢化には歯止めがかからない状況です。

人口減少、少子高齢化がより一層進むことで、集落などの地域の活力の低下、地域経済の衰退など様々な問題が増えると懸念されています。

全国的に人口減少社会に直面する中で、本町の人口が増加に転じることは難しい状況にありますが、将来にわたり本町が持続ある町づくりを進めていくうえでは、町民、地域、事業者、団体及び行政などが共通の認識の下で危機感を持ち、喫緊の課題として人口減少を最小限に止める対策に取り組まなければなりません。

地域に対する想いの再生

本町は昭和40年代まで鉱山と林業を基幹産業としていましたが、高度経済成長期の都市一極集中という社会への対応が遅れ、働く場の減少、人口減少へと繋がっていきました。

人口減少により、地域活動の縮小や住民が交流する場の減少、また、地域を振り返り、地域・地元の魅力に気付く機会が少なくなっている現状にあり、さらにはその魅力に対して体験する場がなかったことで、地元への愛着の希薄化、町の魅力の情報発信不足などが生まれてしまいました。

“町の魅力とは何だろうか?”

普段目にする何気ない景色。土器が出土する数千年も前に先人が移り住んでいた土地。風土は人を育み、山や川との暮らしが作られ、現在の藤里町がデザインされてきました。

「ふじさとReデザインプロジェクト」は、藤里町に暮す価値や誇り、想いを再生し、共感から自ら動く人材が育つ地域再生を目指す取組です。世代を超えて愛着が持てる最適なエリア(景観・住み続けたい町の姿・暮し方)をソフト面・ハード面など多様な視点から考えます。

プロジェクトを通じて地域の魅力を再発見することにより郷土愛を育み、また、訪れた町外の方々にはその魅力を体験していただき、その体験を発信していただくことで、町内外の「人・モノ・コト」が行き交い、新たな賑わいが生まれることを期待しています。

人・モノ・コトがつながり絶えず循環するエリアをデザインし、町の人口ビジョンによる2040年の「人口目標:2、000人」で暮らしやすい空間、幸せを感じる場所をつくることを目指し、次の施策を展開しています。

 

□Reデザイン委員会(町づくり委員会)

□実験・体験の場づくり

□想いの発信・共有づくり

□長期エリア構想づくり

□起業家育成による仕事づくり

Reデザイン委員会

“誰かではなく、自分たちでちょっとずつ。できることからやってみよう”

Reデザイン委員会(住民+地域おこし協力隊)は、藤里町から委嘱された委員により組織され、地域を自分ごととして考え、行動する委員会です。

ディスカッションを行い、藤里の魅力はなにかを考えていきます。また、ワークショップやイベント・コンペティションなど、人と人との関わりをつくり、町の情報を発信することで、町をReデザインしていきます。

委員会の取組は、長年愛された食堂(空き店舗)のリノベーションコンペの運営から始まりました。

町の中心部にあるこの食堂は地域の会合、懇親会と交流の場という役割を果たしてきました。食堂の閉店と共に失われた人々が集まる灯りの再生と地域に対する想いの再生を図り、話し合いは進められました。

町内の若者ら10人によるReデザイン委員会を6~7月に5回開催、5年後の使われ方のイメージや欲しい設備・機能などを検討し、委員の意見を踏まえて、町が募集要項を取りまとめました。要項には、新たなコミュニティの交流拠点として再生し、若者が人とつながる面白さを感じ「語り、考え、動く」を形にできる場となることや、懐かしさと楽しい価値観が交差するまちあかりスペースとなることを願う、Reデザイン委員の想いが込められました。

「使い手に灯りがともり、行き交う人々もぬくもりを感じるまちあかりスペース」をテーマに、デザイン案の全国公募が行われ、国内外93作品の応募がありました。

最優秀賞に選ばれた作品を基に改修に着手し、新たなコミュニティの交流拠点“かもや堂”として再生しました。

現在は、地域課題を解決するためのワークショップの場、語らい・想い・共感をつくる場、また、お試しショップなどのチャレンジもできる自主的で創造的な活動ができる場として、利用者から親しまれています。この取組は、地方創生事例集“小さな拠点・地域運営組織版”に事例として取り上げられました。

リノベーションにより「かもや堂」として再生

リノベーションにより「かもや堂」として再生

Reデザイン委員会ワークショップ

Reデザイン委員会ワークショップ

想いの発信・共有づくり

地域の豊かさ(人・モノ・暮らし・地域資源)を発信する。映像・雑誌制作にも取り組んでいます。

雑誌づくりでは、地域おこし協力隊を中心に住民編集部を募集し、プロのライターのアドバイスや支援を受けながら、町の人や暮らしの楽しみ方が分かる雑誌を制作しています。「ゆっくりと自分のペースで進んでいく」という意味を持つ方言を雑誌のタイトルにした、年1回発行の“とんじこんじ”と、月刊誌“とじこじ”を制作しています。

どちらの雑誌も町の人にこれまでの人生を語ってもらい記事に残す“聞き書き”を軸にしています。その中では、町の変化、自然や風土のこと、自分の祖父や祖母のことなどが語られています。それらはそのまま今の藤里町を作り上げてきた歴史そのものでもあります。聞き書きの話し手は自らの人生を振り返る良い機会となり、読み手である次世代の人たちにとっては新たな道を模索するときの指標の役目となることを願っています。

「藤里町とはどんな町なのか」の答えに、こんな人たちが住む、こんな暮らしがある町です、と答えることができる雑誌になっていますので、是非読んでいただきたいと思います。

雑誌“とんじこんじ”

雑誌“とんじこんじ”

月刊“とじこじ”

月刊“とじこじ”

映像づくりでは、FujisatoREC(フジサトレック)という映像に関するプロジェクトを実施しています。藤里町に関する映像を動画サイトに投稿することで、誰もが参加できる映像のコンペティションになります。プロの映像作家や首都圏大学の協力を得ながら進めており、投稿された作品はその年度のプロモーション動画として編集され公開されます。映像は全国移住ナビのサイトからご覧いただけます。

この取組によりできた映像・雑誌を通して町内外の取組への共感者を増やし、また、町民の地元への愛着を生み出すことを期待しています。


FujisatoREC 野外上映会

FujisatoREC 野外上映会

プロモーション動画

プロモーション動画

長期エリア構想づくり

人口ビジョン2040年の人口2、000人で暮らしやすい空間をデザインするため、Reデザイン委員会と首都圏大学、専門家と連携したエリアデザインに平成28年度から取り組んでいます。

初年度は町中心部を対象に景観基礎調査の実施とエリアデザイン形成方針を作成しました。景観基礎調査では、調査対象エリア内全ての建物(979棟)の外観を目視により調査し、建物用途や構造、屋根・外壁の色彩等を項目ごとにまとめ、景観資源と景観阻害要因の抽出を行いました。また、Reデザイン委員会におけるワークショップを通じて、景観基礎調査の調査結果の報告や景観スポットの修景整備・活用方法、エリアデザインの形成方針についての意見・要望等を把握しました。これらを踏まえて、エリアデザイン形成方針を次のとおり作成しています。

 

●景観の将来像

 「白神山地の麓で後世に引き継がれる景観を創る」

●景観づくりの方針

 ・自然環境を尊重した景観づくり

 ・活き活きした営みが感じられる景観づくり

 ・藤里町らしい愛着のある景観づくり

●エリアデザイン構想

 ・修景スポットの修景整備

 ・回遊路の修景整備

 ・ルールや助成による景観誘導

 

2年目は、エリアデザイン構想に掲げた3つの取組を基本に、フィールドワークやワークショップによる意見聴取等、計7回のReデザイン委員会を開催しエリアデザイン構想10か年計画を策定しています。

起業家育成による仕事づくり

本町ではかつて基幹産業であった林業、農業の衰退に加え、誘致企業の撤退・倒産等により、町内での雇用の受け皿が不足しており、町外の職場に依存している状況にあります。

また、町の小売店・飲食店は平成8年に55店舗あったものが、平成28年には25店舗と、20年間で半減しています。(藤里町商工会調べ)

外部要因に左右される企業誘致に頼らず、地元での起業・創業が求められていますが、恵まれた地域資源を活かす技術や人材が少ないことから、地方での起業を目指す人材を呼び込むとともに、住民の起業意欲を掘り起こし、伴走型の起業支援体制を構築すること等を目標とした「藤里町ローカルベンチャー推進事業」に取り組んでいます。

白神山地がもたらす地域資源を活かした、ここでしかできない仕事づくりと、それを担う起業家人材の育成に取り組み、小さくとも自立した起業群が複層的に立ち上がる場所を目指すことにより、町内の仕事創出、さらには外からの二地域居住・移住にもつなげていきたいと考えています。

まずは、町で起業やなりわいづくりを行いたい人を受け入れ、長年にわたり支えていくことのできる地域の受け皿・土壌を作ることを第一の目的として、次の事業を進めています。

 

1.地域における事業の推進及び起業者サポート体制の構築

2.受け入れ有力候補先として、第三者への事業承継希望者の掘り起こし及び広報活動

3.町の方々を対象に時代の流れやこれからの働き方を学ぶ機会の提供

4.町内の若手女性を対象に「女性+起業・なりわい」をテーマに体験型の勉強会を開催

 

エリアデザインフィールドワーク

エリアデザインフィールドワーク

最後に

これまでご紹介した事業に一体的に取り組むことで、地元住民の町への愛着を育み、将来の町づくりを住民が考え、つくるきっかけとなることを期待しています。

そして、人・モノ・コトがつながり絶えず循環するエリアをデザインし、町の人口ビジョンによる2040年の「人口目標:2、000人」で暮らしやすい空間、幸せを感じる場所をつくることを目指して事業を展開していきたいと思います。