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岩手県紫波町/町の担い手である民間と市民が稼ぎ域内経済循環を生む

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年11月12日更新

小空から見たオガールエリア 広場の両側には大規模施設5棟が建ち並ぶ

小空から見たオガールエリア 広場の両側には大規模施設5棟が建ち並ぶ


岩手県紫波町

3061号(2018年11月12日)    紫波町長 熊谷  泉


 

紫波町の概要

紫波町は岩手県のほぼ中央、盛岡市と花巻市の中間に位置し、総面積は238.98㎢、人口は33、200人の町です。中央部は盛岡のベッドタウンとして、宅地分譲により社会増となっている一方、東西の農村地帯では自然減が進み、人口は微減で推移しています。

中央部を流れる北上川沿いから奥羽山脈の麓までの西部にかけては豊かな水田が広がり、北上高地に抱かれた東部ではりんごやぶどうといった果樹栽培が盛んな農業を基幹産業とする町です。紫波の母なる山「東根山」の麓には、ラ・フランス畑から湧き出た「美人の湯」で知られる「ラ・フランス温泉館」があり、東部には特産であるぶどうに付加価値をつけるため、第3セクター「紫波フルーツパーク」を設立し、自園自醸ワインを製造しています。

また、紫波町は酒の町でもあります。国内最大規模の杜氏集団である「南部杜氏」の発祥の地として知られており、現在も多くの町民が農閑期となる冬期間、酒造りのために全国に出稼ぎに行きます。町内には4つの酒蔵が存在し、一昨年から「SAKE TOWN SHIWAプロジェクト」として、学生のインターン生と各蔵のコラボにより新しい魅力づくりに取り組んでいます。

▲「南部杜氏発祥の地」紫波の蔵元4者

「南部杜氏発祥の地」紫波の蔵元4者

「森林・有機・無機」循環型まちづくり

紫波町は、平成12年(2000年)に「100年後の子どもたちに紫波の環境をより良い姿で残す」ことを誓った「新世紀未来宣言」を発表しました。その後、町民の環境に対する意識はいっそう高まり、翌13年には「循環型まちづくり条例」を制定し、住民、関係団体、事業者、行政が一体となって循環型まちづくりに取り組むこととなりました。現在では「資源循環」「環境創造」「環境学習」「交流と協働」の4つの観点により、各種の施策を展開しています。

総面積の58%を森林が占める町では、森林資源循環の取組として、小学校、保育園、駅舎、役場庁舎などは、町産木材を活用し地元建設業者が施工した木造建築となっています。また有機資源循環としては、堆肥製造施設「えこ3センター」が稼働しており、町内で盛んな畜産業から発生する家畜の排せつ物や、学校給食に代表される事業系食品残さなどを約3カ月かけて完熟堆肥にして販売し、元気な土づくりによる地産地消を推進しています。無機資源循環としては、早くから3R運動やごみの分別徹底を進めてきました。さらに、第14期を迎えた「環境マイスター養成講座」や町・住民・企業の協定に基づく「企業の森づくり活動」など、様々な環境学習や環境創造の取組が交流と協働のもとで展開されています。

町産木材で建築された紫波中央駅舎

町産木材で建築された紫波中央駅舎

公民連携による公有地活用 オガールプロジェクト

平成19年3月、当時の町長が議会で「公民連携(PPP、Public Private Partnership)によるまちづくり元年」を宣言して以来、紫波中央駅前都市整備事業「オガールプロジェクト」に取り組んできました。「成長」を意味する方言「おがる」とフランス語で「駅」を意味する「ガール」を掛け合わせ、町が持続的に成長する願いを込め「オガール」と命名されたのです。

■紫波町公民連携基本計画

JR東北本線の紫波中央駅は請願駅として、平成10年3月に開業しました。町は駅前の土地10・7haを28・5億円で取得し公用・公共施設整備を図ろうとしましたが、財政難により約10年に亘って塩漬け状態となっていました。

そんな状況下で、町内建設会社役員の岡崎正信氏がキーマンとなり、公有地を活用した公民連携による整備の可能性を模索することとなったのです。岡崎氏を中心とした市場調査と、町が100回にわたって重ねた市民との意見交換を基に策定したのが紫波町公民連携基本計画です。開発理念は「都市と農村の暮らしを愉しみ、環境や景観に配慮したまちづくりを表現する」とし、役場庁舎や図書館の整備と民間の経済開発の方向性を示しました。なお、この計画を議会に議決いただいたことも推進力となりました。

開発前の紫波中央駅前町有地

開発前の紫波中央駅前町有地

 

■オガール紫波(株)とデザインガイドライン

町有地10.7haの整備は、民間に委ねる形で進めました。平成21年6月、自治体出資法人「オガール紫波(株)」を設立。町とオガール紫波(株)は協定を締結し、最も適切な担い手が事業推進の役割を果たすこととし、地域経営的な視点から総合的な調整・プロデュースを共同で行うこととしました。

オガール紫波(株)は町の代理人として、岡崎氏を中心に民間の投資誘導を図ると共に、もう一つの役割としてデザインガイドラインの策定を担いました。デザイン会議(清水義次委員長)を設置し、都市計画、ランドスケープ、情報デザイン、建築の各分野の第一人者が意見を出し合い、民間感覚による美しいまち並みの整備を図りながら、オガールエリアの価値を高め、維持していくルールを決めたのです。

 

■身の丈で造り、稼ぐ要素を取り入れた複合開発

オガールエリアには昨年度、オガール広場を挟んだ事業街区に5つの事業棟が全て完成しました。施設をご紹介しますと、平成23年4月にオープンした岩手県フットボールセンターに始まり、同24年には図書館と民間施設による官民複合施設オガールプラザ、続いて民営によるバレーボール専用アリーナとホテルの合築であるオガールベース、国内最大級の木造の役場庁舎、小児科やベーカリーなどが入居するオガールセンター、そして平成29年4月に開園したオガール保育園と、約9年をかけて公用・公共施設と民間施設の立地による複合開発が図られました。

原動力となったのは民間に投資いただいたことであり、各事業者が市場から資金を調達し、身の丈に合った仕様で施設を整備し、しっかり稼いでいく体制を構築していることです。町が運営する図書館は「町の産業に寄与する」をコンセプトとし、集客装置としての役割を果たしています。

オガールエリアは昨年度、96万人の来場者を数えました。このエリアではスポーツや市民活動といった目的を持ってチャレンジする人のほか、買い物や通院、図書館といった日常的な目的で利用する人など、様々な人に利用いただいています。さらに、イベントやBBQが開催され、つながりを生む場にもなっています。

まちづくりの主役は民で、官は後方支援の役割を担ってきたと言えます。官は民が稼ぐための土壌をつくり、民にしっかり稼いで税金を納めていただくことで公共空間と公共サービスを維持していく。来場者にとっては、官民の敷地の区別はあまり関係ありません。官民が連携し、エリアの魅力を創り、維持する取組が価値を生んでいると言えるでしょう。

 

オガールエリアの複合開発

オガールエリアの複合開発

町の産業に寄与する紫波町図書館

町の産業に寄与する紫波町図書館

ビアフェストで賑わいをみせるオガール広場

ビアフェストで賑わいをみせるオガール広場


域内経済循環を目指す紫波型エコハウスの普及

「オガールタウン日詰二十一区」は町が制度をつくり、地元企業が稼ぐ仕組みです。町はデザイン会議にアドバイスをもらいながら、紫波型エコハウス研究会を組織して地元工務店等と断熱・気密性能を高めて消費エネルギーを抑えた住宅を、町産材を使って施工するという基準を決めました。実地検証するためモデルハウスを建てて、エコハウスの施工技術も取得してもらいました。町は56区画の宅地を、町内指定事業者(現在13社)が紫波型エコハウス基準を満たす住宅を建築するという建築条件を付けて直接分譲しています。地元工務店が施工することにより建築費用の約7割が地元に落ちると言われています。

そして何より、快適で健康に暮らしています、という嬉しい住民の声があります。今ではオガールタウン外に紫波型エコハウス基準の家を建てたい、という建主もいるようです。

また、オガールエリアには、民間が森林資源を有効活用した木質チップボイラーでつくった熱を、配管を通じて役場庁舎やオガールベース、オガールタウンに供給する地域熱供給システムを構築しています。オガールエリアは、地域資源を活用しながら、地元企業と域内経済循環を目指した循環型まちづくりの集大成とも言えます。

町産材を使い断熱気密に優れた紫波型エコハウス

町産材を使い断熱気密に優れた紫波型エコハウス


日詰リノベーションまちづくり

公民連携基本計画では、遊休公有不動産を活用したオガールから、複数の小さな遊休民間不動産が存在する日詰商店街地区までを公民連携開発区域としています。

同地区は、頑張っている商業者がいるものの、往時の賑わいにはほど遠く、後継者も少ない状況です。そこで、新しい事業者を誘導し、空き店舗などを活用して、小さいながらもこれからの時代に即した事業を展開する「日詰リノベーションまちづくり」に平成27年度から取り組んでいます。

行政の役割はリノベーションスクールなどを通じた学びの場の提供です。民間主導で事業を立ち上げ、行政は後方支援を行う。これはオガールにも通じています。昨年度あたりから、地元で活躍する人と他所から来て起業する人が共同で取り組む事例が出てきました。田舎であるからこそ人のつながりが大事であり、そのつながりや出会いから希少性の高い事業が生まれ、それが集積することでエリアの価値が高まっていく。その効果が生まれ始めています。

リノベーションしてオープンした「はちすずめ菓子店」

リノベーションしてオープンした「はちすずめ菓子店」


おわりに

町は困り事があったからこそ公民連携を選択し、オガールは民間の市場原理に沿って作られてきました。そして民間と市民が活躍し賑わいが生まれ、エリア価値が高まってきました。その根底には、町の資源・人材を活用し、域内循環を図る循環型まちづくりがあります。

町の担い手は民。市民と民間です。縮退社会を迎えるにあたり、これまでのやり方が通用しないと言われています。身の丈でつくること、稼ぐ仕組みを考えること、地域資源を掛け合わせて新しい価値を創出することが求められています。この公民連携による新しい価値づくりを町内全域に広め「住みたい、住み続けたい」という選ばれる町を目指していきます。