半田山を望む桃源郷
福島県桑折町
3060号(2018年11月5日) 桑折町長 髙橋 宣博
桑折町は、福島県中通り地方の北部に位置し、阿武隈川の清流と緑豊かな半田山の自然の恵みを受けた総面積42.97㎢、人口約12,000人の町です。
古くは、仙台藩伊達氏の発祥の地、日本三大鉱山の一つと数えられた半田銀山、国内有数の養蚕地帯などとして時代を重ね、旧伊達郡役所など、先人たちによって築き上げられた歴史的財産も多く残されています。
町の基幹産業は農業で、桃・りんご・柿などの果樹栽培が盛んです。中でも、桃は特に上質で、平成6年から現在まで25年連続で皇室に献上されています。
また、桑折工業団地には、自動車部品製造業など約30社の優良企業が集積しています。高速交通網の整備が進んでいることから、工場増設などの動きも活発で、より一層町民の雇用の確保や地域経済の活力につながることが期待されています。
桑折町は、かつて交通の要衝地にある宿場町として、奥州・羽州街道の分岐点(追分)を有し、人・物・情報の往来で賑わいました。
現在、町にはJR東北本線(町内駅:桑折駅)及び東北新幹線(最寄駅:福島駅)の鉄路2線と、東北物流の大動脈である一般国道4号及び東北自動車道(最寄IC:国見、福島飯坂)の道路2本が町の中央部を南北に縦貫しています。
2年後の平成32年度中には東北中央自動車道(相馬福島道路)の本町区間(約2km)が開通予定であり、常磐自動車道や山形県方面へのアクセスが格段に強化されます。現代版“追分”として、縦横に広がりのある物流や観光周遊ルートの形成等に期待が高まっており、広域的な経済発展に資する、新しい土地利用や企業誘致の推進を目指しています。
しかし、その一方で本町の人口は、昭和30年の16,974人をピークに、近年は少子高齢化の進行や核家族化、若者の都市への流出等により減少しており、平成27年10月に策定した「桑折町まち・ひと・しごと創生人口ビジョン」の将来推計人口では2035年に10,000人を下回り、2060年には現在の半数程度まで減少することが予想されています。人口減少は、地域経済規模の縮小、行政サービスや地域活動等、町民生活への影響が懸念されることから、人口減少対策として、魅力的で住み良い町のブランドイメージ確立や、若者世代の移住定住促進など、各種施策に取り組んでいくこととしました。
国の重要文化財「旧伊達郡役所」
東北新幹線の上を通過する東北中央自動車道(相馬福島道路)の
本町区間の工事の様子(H30. 9月)
町のブランドイメージづくりのために取り組んだことの一つに「献上桃の郷」の商標登録の認定があります。
桑折町は上質な桃の産地として、平成6年から現在まで25年連続で献上桃の指定を受け続け、町産の桃「あかつき」が皇室へ贈られています。まさに、農家の方々の先進的な取組やたゆまぬ努力の賜物と言えます。これまでは、東日本大震災・原発事故災害など未曽有の大災害にも見舞われましたが、そのような状況でも農家や地域住民が協力して対策を講じるほか、町を挙げてセールス活動を展開し、乗り越えてきました。
こうしたなか、平成25年と平成27年には天皇皇后両陛下の行幸啓を迎え、震災からの復興を成し遂げた果樹園でかけていただいた労いと感謝のお言葉は、多くの農家や町民の励みになりました。
このことにより、上質な桃の産地としての自信が確固たるものとなり、「桑折ブランド」づくりの第一歩につながりました。町は、かねてから「献上桃の郷」の商標登録を検討していましたが、天皇皇后両陛下のご来町を契機に、その気運が一層高まり、平成28年4月に特許庁から商標登録認定を受けることができました。
献上桃選果式の様子
天皇皇后両陛下行幸啓記念碑
「献上桃の郷」の商標登録を契機に、町では本町産桃のブランド化を推進し、町のイメージアップと交流人口の拡大に努め、農家はもとより、町民所得の向上を目指しています。そのため、平成28年12月に策定した桑折町総合計画「献上桃の郷こおり創生プラン」では、【「献上桃の郷」展開プロジェクト】を重点プロジェクトとして位置付け、様々な施策を実施しています。
①6次化商品の開発
町振興公社では、季節を問わず上質な桃の香りと味わいを堪能できる6次化商品の一つとして、町産桃の主力品種である「あかつき」の果汁を75%使用した「至福の桃ソルベ」を開発しました。食の一大イベント「FOODEX美食女子グランプリ」で金賞を受賞したほか、「OMOTENASHI Selection(おもてなしセレクション)」で、外国人選定員による特別賞を受賞するなど、売れ行きも良く好評をいただいています。また、第2弾として、UHA味覚糖(株)と共同開発した「至福の桃グミ」も町産桃「あかつき」のジューシーな味わいを気軽に堪能できる商品となっており、手軽なお土産として人気となっています。
今後も、町産桃のブランド力向上と産地振興のため、新たな6次化商品を企画開発していきます。
献上桃の収穫時期の様子
( 上)桑折町の米「夢の香」と桑折町の水「金剛水」で仕込んだ
日本酒【純米吟醸うすにごり「momono」】、(左上)至福の桃ソルベ、(左)至福の桃グミ
②新たなロゴマーク制作
「献上桃の郷」の知名度を向上させるためには、PRイベントの開催やマスコミへの情報発信だけでなく、シティプロモーションの視点に立った取組の展開が必要となります。その取組の一つとして、本年3月に町の魅力を発信する新たなロゴマークを制作しました。デザインの提案者は東北芸術工科大学学長の中山ダイスケ氏で、前述の6次化商品「至福の桃ソルベ」や「至福の桃グミ」のデザインも手掛けた方です。今後は、このロゴマークを活用した情報発信により、町の財産である自然、歴史、文化、特産品等を「桑折ブランド」として確立していくとともに、町の知名度向上やイメージアップにつながるようなPRグッズの製作にも取り組んでいきます。
新たに作成した桑折町ロゴマーク
③農業振興活動拠点施設「Legare Koori(レガーレこおり)」オープン
本年4月24日にオープンしたこの施設は、農村部にある町立幼稚園統合後の旧園舎を改修し、農家と触れ合えるイベントや6次化商品の試作研究、観光案内など、多目的な利活用を図ることを目的とした施設となっています。
また、施設内のレストラン「Pizza Sta(ピザスタ)」では、四季の地場農産物をふんだんに使用した本格ピザが好評で、10月21日には来場者数が20,000人を超え、町内はもとより県外の方からも話題の人気スポットとなっています。
この施設は今、地方創生の好事例としても注目が集まっており、「食」の提供や「体験交流」、「地元農家と消費者のふれあいマルシェ」などといった活用を図ることで、より一層、地域活性化や交流人口・関係人口の拡大へつなげていきたいと考えています。
農業振興活動拠点施設「Legare Koori(レガーレこおり)」
桑折町の季節のフルーツと野菜を使ったPizza Sta(ピザスタ)の看板メニュー「ピザヨーチエン」
「桑折町まち・ひと・しごと創生人口ビジョン」の将来推計人口によれば、平成30年4月時点で、総人口が11,752人にまで減少すると予想されていましたが、実際は12,055人(住民基本台帳人口)と、予測を303人も上回ることができました。
町では、子育て世代が多い45歳未満の方々への移住定住に関連した補助制度として、「桑折町若者定住促進事業補助金」や「桑折町若者定住者向けJR通勤補助金」、「桑折町新婚世帯家賃支援事業補助金」を設置しています。昨年度の実績は、補助金を活用して住宅購入やリフォームをした方が、当初の予想を大きく上回る30件に達しました。総世帯員数で見ると115名の移住定住につながり、そのうち約半数は、県外からの移住を含む町外からの転入でした。
また、『桑折町まち・ひと・しごと創生総合戦略』策定以来、「子ども医療費の助成」や「多子世帯への保育所保育料、幼稚園授業料の減免」、「入園・入学祝の制服支給」や「給食費が幼稚園は無料、小中学校は半額」など、若者や子育て世代等のニーズに応えた施策を打ち出しており、こうした数々の施策が功を奏し、人口減少幅の抑制につながっているものと評価しているところです。
「 Legare Koor(i レガーレこおり)」を活用した親子交流イベントの様子
町の補助金を活用して県外から移住したご家族
桑折町総合計画では「みんなとつながり みんなが活躍できる 安心のまち桑折」を町の未来像に掲げ、「献上桃の郷」展開プロジェクトをはじめとする4大重点プロジェクトを中心に、各種施策を展開しています。
現在、桑折町では2021年供用開始を目途に新庁舎建設を進めています。この庁舎は、町民の安全安心を守る拠点として「災害に強い防災拠点」「町民が訪れやすい」「事務効率が良い」「桑折町らしい」「長寿命でコストが少ない」「町民の集いの場」といった6つの理念のもと、建物や部屋の配置等を計画しました。
本町は今、明るい未来を形づくる上で非常に重要な時期となっています。これからも、町の事業に磨きをかけ、それぞれが光り輝く「桑折ブランド」を確立し、町民とともに「住みたいまち、こおり」の実現に向けて一層力を入れてまいります。
8月18・19日に開催した野外音楽イベント「こおり満福まつり」
桑折町新庁舎本体の完成予想図