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和歌山県上富田町/住民が誇りを持ち、住み続けたい町へ

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年10月15日

上富田町の町並み

上富田町の町並み


和歌山県上富田町

3057号(2018年10月15日)  上富田町長 奥田 誠


 

町制施行以来60年間 人口が増え続ける町

平成29年、日経BP社のネットニュースに、「人口が増え続けるまち、上富田」という記事が掲載されました。昭和33年に町村合併が行われて、上富田町が誕生して以来約60年間人口が増え続けています。なぜ上富田町で60年間人口が増えてきたのか、という疑問にこたえるよう、施策の流れを説明させていただきます。


上富田町は、総面積57㎢と、車で走ると約15分で通り抜けてしまう非常にコンパクトな町です。人口は約1万5、500人です。古くから熊野詣の入り口ということから「くちくまの」と呼ばれ、八上王子跡、稲葉根王子跡が平成28年10月に世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に追加登録されました。国道42号と国道311号の分岐点にもなっており、紀南地方の交通の要衝となっています。

世界遺産に登録された八上王子(左)稲葉 根王子(右)

世界遺産に登録された八上王子(左)、稲葉 根王子(右)

 

さて、1970年代、団塊の世代が中卒高卒で就職のために東京など大都市に移動をしていた頃、人口1万人弱の上富田町は、企業誘致に取り組んでいました。地元特産の梅を活用した飲料水メーカー、アパレル、ベアリングなどの製造業各社に進出していただき、約430名の雇用を確保することができました。

雇用の確保、それが人口増加の要因その1です。

町の第1次総合計画で「農業の町」をキャッチフレーズに農業振興に取り組んできましたが、昭和63年からスタートさせた第2次総合計画では、「農業と商工業の調和のとれた田園工業型の町」にシフトチェンジしました。1990年代、団塊ジュニアの世代が就職する時期に入り、約6万坪の企業団地を造成しました。28社に購入していただき、約270人の雇用を生み出しました。

また、「福祉の町上富田」として、南紀支援学校や、はまゆう支援学校の誘致も行いました。この学校誘致により多くの教諭の方が町内に住居を構えてくれています。

加えて、農業振興です。上富田町の基幹作物は梅とみかんですが、上富田ブランドとして新たな付加価値をつけるとともに、梅採り体験やみかん狩り体験など消費者との交流を実施しています。しかし、近年の需要の減少や価格の低迷を考えると、梅・みかん以外に複合的な農業経営をめざすことも必要になってきています。

梅採り体験

梅採り体験

 

人口増加の要因その2は、住環境のよさです。

1960年~70年代にかけて、民間業者と町がそれぞれ大型の宅地造成に取り掛かりました。その後も、官民それぞれが宅地造成や住宅団地の建設を実施しています。住宅団地480戸、宅地造成1、500区画 約8、000人分の住宅が確保されています。

また、本町は診療所や、コミュニティバスも運行し、大型スーパーが出店されるなど生活する上で非常に便利な地域です。よく、移住した方々には、「ほど良い田舎」と言われ、利便性の良い環境の中で田舎の良さを堪能していただいています。


人口増加の要因その3は、スポーツと健康対策です。

本町は、平成10年からの第3次総合計画で「健康で生きがいのある町づくり」を謳い、スポーツと文化活動の拠点として、上富田スポーツセンター、上富田文化会館を建設しました。以降、実業団の野球チーム、ラグビートップリーグ、Jリーグやなでしこジャパンなどの合宿を誘致し、地域の活性化と交流によるスポーツ振興を図っています。平成8年からは紀州口熊野マラソン、13年からはプロ野球ウエスタンリーグ公式戦も実施しています。また、弁当業者が力をあわせて、栄養バランスに配慮した上富田スポーツセンター弁当を開発しました。年間2万食の売り上げを目指しており、町内でお金がまわる仕組みとなっています。

口熊野マラソン

口熊野マラソン

 

町民自身もスポーツに親しんでいます。町内のいたるところにトリムコースが設置され、気軽にジョギングやウォーキングができます。平成8年には、総合型地域スポーツクラブとして「SEACA(シーカ)」が設立され、誰でも色々なスポーツに親しむことができます。また、平成29年9月にオープンしたスポーツサロンは、地域住民の健康増進や介護予防の拠点としての期待が高まっています。

その他、家に閉じこもっている高齢者も歩いていける範囲でお茶や食事を楽しめる、まちかどカフェの取組を始めました。また、町内にある和歌山県立熊野高校の生徒が社会福祉協議会の職員と一緒に、一人暮らしの高齢者宅を訪問する活動をしています。高齢者が健康でいることで、健康寿命を伸ばすこと、介護保険給付費の伸びを抑えることに繋がります。

まちかどカフェ

まちかどカフェ


人口増加の要因その4は、子育てと教育環境の整備です。

平成23年に始まった第4次総合計画では、「みんなが学んで花ひらく口熊野かみとんだ」をキャッチフレーズに、生涯学習に力を入れています。乳幼児の段階からブックスタートや図書館での読み聞かせに親しんだり、小学生が、地域のお家に泊まって学校に通う「通学合宿」の取組や、中高生が町の未来を語る青春シンポジウムを行ったりもしています。また、本町の成人式は、中学生が司会進行や企画を行うユニークなものです。

ブックスタート事業

ブックスタート事業

地方創生の取組

最後に地方創生の取組です。1つ目は、くちくまの熱中小学校(大人の社会塾)を中心とした人材育成です。山形県高畠町及び各地の熱中小学校と連携して、地方創生人材の育成を行っています。

熱中小学校とは、受講者の個人的な知的欲求を満たすだけでなく、ICTを利活用した起業・創業へのアプローチ、ビジネススキルアップ、また観光開発や地場産業の振興など、地域づくりのノウハウの伝授や課題解決に至るまでの学びの場になります。熱中小学校のネットワークをつくり、講師陣や受講生を相互に派遣・参加させることで、人材育成はもとより、地方への人の流れや仕事を創出し、連携による相乗効果、新たな価値の創造、さらに効率性を追求した実効性ある事業推進を図ります。本町においても、「稼ぐ力」(所得の向上)とともに、文化や自然を地域資源として活用した特産品や体験旅行のメニューづくりとその担い手育成が求められており、その育成の場として、くちくまの熱中小学校を開設しています。

地方創生の取組2つ目は、スポーツ合宿に軸をおいた旅行会社、南紀ウエルネスツーリズム協議会の設立です。

上富田町は平成7年に上富田スポーツセンターを開設し、平成8年に第1回口熊野マラソンを開催。第3次総合計画で掲げた将来像である「健康で生きがいのある町づくり」を目指し、スポーツを中心とした地域づくりをスタートしました。また、サッカーJリーグの柏レイソル(19年)やセレッソ大阪(20年)、なでしこジャパン(24年)等の日本のトップチームがキャンプで利用するなど、全国的な知名度も向上し、合宿人数も増加してきました。

27年には上富田町スポーツ観光推進協議会を設立し、行政と観光協会、商工会、企業(ホテル民宿・食事・弁当)が連携し、スポーツ合宿を受け入れる環境を整備しました。

29年、これまでの取組を加速し、人口減少社会、高齢化社会に立ち向かう地域づくりのために「(一社)南紀ウエルネスツーリズム協議会」を発足しました。

同協議会は、「健康」をテーマに、上富田町民の健康と、町外からのお客様を健康にする役割を担い、地域から必要とされる存在となるべく、活動をスタートしています。事業として、上富田スポーツセンター、上富田スポーツサロン、和歌山スポーツトラベルの3つを展開しており、「ウエルネス(広い健康観)」の観点から、それぞれの事業が連携し、上富田町民と町外の皆様を健康で充実した生活を送れるようにサポートしています。

熱中小学校

熱中小学校

今後のまちづくり

以上、本町の取組をまとめてみますと、まず、働く場所、仕事が人を呼び込みます。とはいえ、本町にはまだまだ魅力的な職場が少ないのが現状であり、卒業後に県外に出る高校生が多くいることは改善すべき課題です。働く場所を見つけたら、次は、住むところです。住むところが確保できれば、子育て環境と教育環境、そして、健康と生きがいです。やはり楽しくなければ住み続けることはできません。「豊かです 水も緑も人情も」は本町のスローガンですが、人のつながり、人の和が大きな財産になってきます。

これらの取組は、必ずしも役場が主導してきたわけではなく、企業や住民の皆さんとともに進めてきたものです。こうした住民や民間と行政との協働を今後も進めていくために、上富田町をいくつかの地区に分け、それぞれの地区が地域のことを考え、解決のために動いていく仕組みをつくることとしました。町内の市ノ瀬地区では、平成28年6月に地区まちづくり協議会を設立しました。行政に頼るのではなく、地域にある人材と資源、知恵を絞り、その中で地域を活性化していこうという取組です。


全国の地方が東京を目指すのではなく、地方の個性や魅力を活かしつつ魅力あるまちづくりを作っていくことが大切です。

様々な取組を通じて愛町心を育み、「上富田町がとても好き」と思う人を33・3%以上にしていく(平成27年実施のアンケートでは28・8%)。これが、これからの上富田町の将来ビジョンです。

田中神社

田中神社

 

町のマスコットキャラクターひょうたんせんぱい

町のマスコットキャラクターひょうたんせんぱい