美しく咲き誇る幻の花「花かつみ」
愛知県阿久比町
3052号(2018年9月3日) 阿久比町長 竹内 啓二
愛知県知多半島のほぼ中央部に位置する阿久比町は、二三.八〇平方キロメートルの面積を持ち、穏やかに四季がうつろう豊かな自然に恵まれた町です。町の真ん中をふるさとの川「阿久比川」が流れ、昔ながらの恵みの川に生きる草花や虫たち。自然と共生できる“幸せ”は、私たちの自慢です。
藤原京から出土した木簡に「甲午年(西暦六九四年) 阿具比」と記され、米を送ったとされる記録が残ることから、少なくとも一三二〇年以上前の飛鳥時代から「阿久比」のルーツがあったといわれています。おいしい米「阿久比米」の産地として知られ、「米どころ」の町、「花かつみ」の町、「阿久比谷虫供養」伝承の町として、長い歴史と文化が息づいています。
現在の人口は二万八六八五人(平成三十年六月一日現在)。名古屋や西三河から車で三十分圏内、中部国際空港からは車で二十分圏内にあり、都市への交通利便性に優れた住みやすい町です。さらには近年行われた大規模な住宅地開発によって、町外から多くの方が移り住み、人口が増加しています。
平成二十七年国勢調査では、平成二十二年調査と比べ、県内の世帯増加率一位、人口増加率も二位となりました。
また、愛知県がまとめた『あいちの市町村民所得』で、平成二十七年度の経済成長率が県下トップとなり、元気のある町としても注目されています。
平成二十九年四月には、名古屋鉄道阿久比駅前近くに新庁舎が完成しました。この庁舎は災害時には住民を守る避難所として多目的ホールを併設しているほか、町の中心としてのランドマークと位置付け、住民をはじめ、多くの方が気軽に集まることができる複合型庁舎となっています。
今年は阿久比町が誕生して六十五周年。広い空と緑の多さ、子育てのしやすい環境と交通アクセスの良さを生かし、「子どもが豊かに育つ町」「子どもにも大人にも優しい町」として、安全で安心して暮らせるまちづくりを進めています。
平成二十九年四月に完成した新庁舎。完成式典は多くの方でにぎわった
町では、六月中旬に「花かつみ(花勝見)」が、鮮やかな紫色の花を咲かせます。諸説ありますが、阿久比町ではアヤメ科の多年草で、野花菖蒲(ノハナショウブ)のことを「花かつみ」と呼んでいます。
「花かつみ」は、松尾芭蕉が探しても見つけられなかった幻の花です。阿久比町には、室町時代に伯耆の国(現在の鳥取県中西部)から草木地区の下芳池に移植されたと伝えられています。
徳川家康の生母「於大の方」は、家康を生んだ後、坂部城主久松俊勝の妻として再嫁します。幼い息子と離れ、十五年間阿久比の地で暮らします。桶狭間の合戦に際し、家康は坂部城に立ち寄り、母との再会を果たしたとされています。於大の方は、家康の武運長久を願い “花かつみ”の「勝つ」という言葉に思いを託し、花かつみを仏前に捧げたと言われています(於大の方の遺髪墓と、息子と夫の無事を祈って阿弥陀経を写した血書が、阿久比町洞雲院に残されています)。
昭和六十二年には下芳池周辺の工業団地造成に伴い、池の北側に「花かつみ園」が設置され、今では約二五〇〇株にまで増えました。一年のうち花が咲き誇るのは、六月上旬から中旬にかけてのわずか二週間ほどですが、花かつみ保存会の皆さんの花の手入れや地道な取り組みにより、毎年来場者の心を打つ、美しい紫の花を咲かせています。
古くから米の町として知られる阿久比町。温暖な気候と肥沃な水田で生産された「阿久比米」はおいしい米として高く評価されています。
平成十一年、第五回環境保全型農業推進コンクールで農林水産大臣賞を受賞した「れんげちゃん研究会」がつくる阿久比米「れんげちゃん」は、秋に田んぼへ種まきしたレンゲを春にすき込んで肥料とする「レンゲ農法」を用いています。食への安心を求める消費者ニーズに合わせて、農薬を可能な限り少なくした安全安心な特別栽培米です。
米どころとしての農業のほか、阿久比町は明治期から繊維工業が盛んな町でした。住宅街の中に町工場が数多く見られ、ガチャガチャと綿布を織る音が響いていました。時代とともに工場の数は減少しましたが、繊維関連のほかにも新しい企業の進出が増えました。積極的に企業誘致も行い、周辺に大型スーパーや飲食店が増えるなど、町のにぎわいや活性化につながっています。
現在では、市場や関連企業への輸送面などの利便性から、自動車関連企業やQRコードを開発した情報関連企業をはじめ、全国で路面表示や道路標識など道路環境の整備を行う企業、全国シェアナンバーワンの屋根瓦の企業、伝統製法を受け継ぐ老舗醸造業など、さまざまな産業が町の発展を支えています。
町や県、国の文化財に登録されている貴重なものが阿久比町には数多くあります。
毎年、四月上旬から下旬にかけて町内四地区で繰り広げられる「山車絵巻」。勇壮な山車の曳き回し、からくり人形、三番叟など華麗な伝統芸を披露します。精緻を極めた彫刻、金糸銀糸で彩られた水引幕なども大きな見どころです。「動く芸術品」である五台の山車は、阿久比町指定文化財となっています。威勢のいい掛け声や囃子の音とともに春の訪れを告げます。
平安時代から伝わる「阿久比谷虫供養」は、農作業の犠牲になった虫たちを供養するために念仏を行ったことが始まりとされる民俗信仰行事です。「知多の虫供養行事」として無形民俗文化財に県指定(昭和五十八年)され、現在は十三地区の持ち回りで毎年秋分の日に行われます。戦乱の世に何度か中断されても、根強く先人たちの力でよみがえった「虫供養」は、町の誇る伝統行事です。
石坂山蓮慶寺の「本堂」「大門(山門)」「土塀」は平成二十五年に国登録有形文化財に登録されました。本堂は二百年以上の歴史があります。古くから山車の制作にも携わっていた地元「横松大工」が本堂の棟梁であった記録が棟札に残ります。「二重折り上げ格天井」と呼ばれる格式高い建築様式が用いられ、この頃の本堂としては大規模なものとなっています。
人々の手で受け継がれているのは文化財だけではありません。阿久比町が誇る豊かな自然、そこに生きる草花、虫たちも住民によって守られてきた町の宝物です。町が保護している板山高根湿地には貴重な自然環境が残り、体長二cmほどの日本最小のハッチョウトンボをはじめ、東海地方にしか生息していない絶滅危惧Ⅱ類のシラタマホシクサなど貴重な昆虫や植物が生息しています。
町指定有形民俗文化財に登録されている山車
県指定無形民俗文化財に登録されている「虫供養」
初夏の訪れを告げるように、夕暮れに淡い幻想的な光の舞を見せてくれるホタルも町の宝物です。美しい自然環境でなければ生存しないといわれるホタルは、環境のバロメーターとして重要な役割を果たしています。ホタルの生息できる環境を後世に残していくことは、私たちに課せられた大切な使命です。昭和五十八年から自然環境保護を推進するために「ホタル飛びかう住みよい環境づくり」を目指して、ヘイケボタルの分布調査や保護などの活動に取り組んでいます。
平成元年には環境庁(現環境省)が「ふるさといきものの里」全国百十九カ所を選定し、阿久比町は「ホタルの里」として選定されました。日本一のホタルの里を目指す全国の自治体の集い「ほたるサミット」にも毎年参加しています。
町のマスコットキャラクター「アグピー」も町のPRのために活躍中です。丸くて愛らしい顔と、光るキュートなお尻が特徴のヘイケボタルです。平成十五年六月に阿久比町制五十周年記念ほたるサミットあぐいのキャラクターとして誕生しました。平成二十六年には生誕十周年を迎え、特別住民票の交付を受けたれっきとした阿久比町民です。
六月はホタルの季節。美しい光の舞があちこちで見られる
毎年十一月初旬には、町内が“菊薫る秋”となります。緑あふれる公園「ふれあいの森」で、町民が丹精込めて育てた菊を多くの皆さんに観賞してもらう菊花展が開かれます。内閣総理大臣賞をはじめ数多くの賞が設けられ、昭和六十二年には国土庁監修「全国市町村なんでも日本一事典」で、住民参加型の菊花展では日本一と認められました。
会場では各地区で厳選された力作の菊が大輪の花を咲かせ、所狭しと飾られ、美しい菊が皆さんを魅了します。昭和五十五年から続く展覧会では、作り手の菊への飽くなき情熱が感じ取れます。
美しい菊が見る人を魅了する「みんなの菊花展」
阿久比町の魅力を町内外の皆さんに伝えるため、「阿久比プレイガーデンプロジェクト」を展開しています。
町を知ってもらうきっかけをつくるため、スペシャルムービー『あぐいで、あそぼう。TRICK MOVIE in AGUI TOWN』を制作しました。都会では味わえない町の魅力を、子どもたちが自由に遊び、元気よく走り回る姿で表現しています。
阿久比町の魅力を紹介するスペシャルムービー
町の魅力を感じてもらい、町内の方にも、愛着を高めてもらえるよう、屋外での上質な料理体験を演出する「あぐいっしょクッキングスクール」や「青空図書館(ブックガーデン)」、「アグルマーケット」などの事業を進めています。
「アグルマーケット」は、ボランティア団体で企画運営され、若い親子連れから年配の方まで、人と人との繋がりの場を提供し、役場庁舎周辺が多くの人でにぎわうイベントです。このイベントは、ボランティア団体を町が財政的に支援する「住民税1%町民予算枠制度」わくわくコラボ事業に採択され、ほかにも町民の方が企画した事業が年間を通じて行われ、協働のまちづくりを進めています。
人気イベント「あぐいっしょクッキングスクール」
これからも阿久比町は、更なるステージに向け、名古屋(N)と阿久比(A)と三河(M)を結ぶNAMトライアングルによる町の発展を目指し、名古屋、三河に近い利便性を最大限に生かしながら、緑豊かな自然を守りつつ、豊かに暮らせるまちづくり『田園町富』をスローガンに進んでいきます。
自然の豊かさを悠久に守り続け、交通アクセスに優れた良好な子育て環境のベッドタウンとして、定住促進を図り、全ての住民が「この町で、笑顔は大きくなる」を実感していただけるような、「みどりと共生する快適生活空間・あぐい」を目指します。