国直の夕日
鹿児島県大和村
3049号(2018年8月6日) 大和村長 伊集院 幼
本村は、鹿児島県本土と沖縄県をつなぐ南西諸島の奄美大島中西部に位置し、東シナ海に面する人口1,497人の山岳地形の村です。
気候は亜熱帯性海洋性で年間平均気温21度、平均降水量3,000mmで四季を通じて高温多湿です。平成29年3月7日に奄美群島国立公園の指定を受け、村内の58.1%を特別保護地区・第一種・第二種・第三種特別地域が占めるなど、希少で特徴的な自然環境を有し、国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギや、天然記念物のオーストンオオアカゲラなど貴重な固有種も多く見られます。
また、大和村では耕地面積が少ないために自然・地形条件を活かしたスモモ・タンカンを主とした果樹生産による、「果樹の村(フルーツビレッジ)」を推進しており、成果での取引期間が短いスモモにおいては、通年流通できるようにジャムやジュースの商品開発を民間主導で実施し、近年では現地でしか味わえないソフトクリームを販売しています。
「スモモ(花螺李:からり種)」については、日本一の生産を誇り、皇室献上の栄誉も賜ったことから、各農家の生産意欲の向上にもつながっています。
このほか、奄美の気候的特徴を活かした熱帯果樹として人気のマンゴーやパッションフルーツの生産も増えています。
特産品のスモモとパッションフルーツ(左)と、
スモモ・タンカンを使ったソフトクリーム(右)
奄美大島では集落のことを「シマ」と呼びます。シマの背後には神山と呼ばれる山があり、シマの海のはるか彼方には、豊穣をもたらす神の住む国「ネリヤカナヤ」があると信じられてきました。山を越えれば方言が変わり、海を越えれば風景も変わる。いつまでも変わることのないシマの人々の思いはシマ唄となり、文化となり後世へ伝えられてきたのです。自然と寄り添い、敬い、恵みを頂く暮らし。小さなシマに息づく大切な暮らし。大事なものを積み重ねてきたシマが大和村にはあります。
奄美大島における基幹作物のサトウキビは、大和村大和浜出身の直川智翁がもたらしたものです。慶長の時代に航路にて琉球へ渡る途中、台風に遭い難破し中国の福建省に漂着した川智翁は、そこで、黒糖の製法を目にして、栽培方法と黒糖の製法を密かに学び、キビの苗3本を柳行季の二重底に隠し命がけで持ち帰ったと伝えられています。当時中国では、異国人にサトウキビの栽培技術を教えることはもちろん、持ち出すことも禁止されている中での行動でした。
その苗を大和村戸円の磯平に植え、慶長15年に国内初の黒糖製造に成功し、奄美大島の基幹作物として今なお受け継がれています。
黒糖製造の始祖と呼ばれる直川智翁を祀った「開饒神社」には、今なお大島本島内外から黒糖製造業者や、黒糖焼酎の蔵元など、多くの方が訪れています。
開饒神社
本村の人口は平成30年5月末現在で1,497人と、鹿児島県内では下位から3番目に少なくなっています。若年者率(15~35歳)は全国平均の21.4%に比べ12.3%と低く、高齢者率(65歳以上)は全国平均の26.6%に比べ38.9%と高い比率であると共に、人口減少率も平成22年国勢調査比でマイナス13.3%と県内ワースト2位となっており、定住人口を増やすことが課題となっています。
高齢化率の高い村において、福祉の現場では本人の主体性が社会による制限を受けていた経緯があり、地域住民と共に住みよい村づくりを進めるため、「①住民自身が考える場を提供」「②住民を見守り必要に応じて行政が介入」「③必要な活動費用は団体設立時に支援」「④目的の共有化」「⑤住民活動の普及」「⑥活動者同士の交流会開催支援」などを行った結果、村内の各集落に「地域支え合い団体」が設立されました。
特色ある地域の資源に着目し、目標を具体化する動機づけと資金提供、地域住民の支え合いシステムをカタチにした事で、高齢者における「生きがいづくり」や、地域における相互の支え合いなどが実現しました。人口減少・少子高齢化に直面している本村は、30年後の日本の姿だと言われており、今後福祉活動の国内モデルとなるのではないでしょうか。
津名久支え合いグループワンコインランチ
移住定住促進の施策として、「新築住宅助成金」「住宅改修助成金」「出産祝い金」「育児助成金」「育児助成金就学援助」「乳幼児等医療費助成(高校生まで対象)」「高校生通学バス定期券助成」「島内専門学校通学助成」等を展開しています。施策全てに共通する理念を「大和村に居住する全ての村民がその利益を享受する」ことと位置付けており、外から移住者を呼び込むだけではなく、「子育て環境の充実」を図ることで「大和村に住み続けたいと思う気持ち」や「村民幸福度」を熟成することが定住促進に繋がると考えています。
しかしながら島内には大学がなく、多くの高校卒業生が進学や就職によって奄美大島を離れ、新たな居住地で生活を続ける事が人口流出の主な原因となっています。
子育て環境の充実や、地域支え合い活動によるソフト面での充実は図られてきましたが、更なる施策として「利活用可能な空き家」の活用を実施して住宅を確保し、U・I・Oターン支援にも力を入れており、人口減少対策そしてソフト・ハード両面からの受入れ体制の構築を図っているところです。
出産祝い金
「奄美大島・徳之島・沖縄北部・西表島」の世界自然遺産登録を目指すなか、村内国直集落において観光NPO法人「TAMASU」が平成27年に村内において設立されました。ドラマや映画のロケ地等にもなった風光明媚な国直集落における活動が注目を浴び、テレビでも多く取り上げられ、その宣伝効果の大きさと、奄美大島へのLCC就航も後押しして、村を訪れる方が近年増えています。村としても受入れ体制を充実させるため、体験観光を主としたフリーツアーへの対応や、民泊の推進等、観光を村内における新たな産業とすべく官民で連携し取り組んでいるところです。
※TAMASU(タマス)とは、奄美大島に伝わる「たます分け」と呼ばれる習わしから得た名称。漁労や狩猟で得た獲物を神に捧げ感謝した後、関係者全員で平等に配分するという習わしで利益の共有を意味し、NPOの基本理念となっています。
TAMASUトビウオ漁
大和村は、世界自然遺産のコア地域として推薦されている湯湾岳を有する自然豊かな村で、手つかずの自然が多く残され、その景観は海岸や、観光施設等はもちろん、海沿いに延びる県道などいたるところで楽しむ事ができます。海・山・風を体感することで癒やされる来訪者も多く、住民は自然に対する畏敬の念と静かな感謝の心を持ち、訪れた人々を温かく迎え入れます。また、大和村は全ての集落が西側の海に面しており夕陽が美しく、赤く輝きながら変化する夕空、そしてその中心に光り輝く夕陽は、子どもも大人も旅人も全ての人を魅了します。奄美の文化と自然が色濃く残る大和村へ、是非お越し下さい。
五穀豊穣を祈願する豊年祭
宮古崎(奄美群島国立公園)