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和歌山県紀美野町/夢と活気のある町に~ここにしかない地域の"宝"を次代に継承する~

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年7月30日

みさと天文台上空に広がる天の川 

みさと天文台上空に広がる天の川


和歌山県紀美野町

3048号(2018年7月30日)  全国町村会 広報部 山中 理沙


紀美野町の概要

大阪から車で1時間半ほど、和歌山県北部に位置する紀美野町は平成18年1月1日に旧野上町、旧美里町が合併して誕生した。人口は9,069人(平成30年4月末現在)、総面積は128.34平方キロメートル。うち森林が75%、農地が10%を占めており、丘陵地や段々畑では柿や山椒、みかん等が栽培されている。町には数多くの文化財があり、そのうち桃山時代の建築様式が残る野上八幡宮、県下最古の泉福寺の梵鐘は国の重要文化財に指定されている。

町の中央を流れる清流貴志川は6月にゲンジボタルの乱舞が見られ、夏には川遊びや釣りを楽しめるスポット。町の北部にはパークゴルフやキャンプのできるふれあい公園、満天の星が美しいみさと天文台、南部には秋のススキが美しい生石高原と、豊かな自然が広がっている。

町は、平成28年に観光PR動画「最高の"ない"がここにある」を公開。電車やスーパー、ネイルサロンなど何もないことを逆手に取り、町の魅力をアピールしている。翌年に第2弾として公開した「訪日外国人観光客"0"の町」は(公社)日本広報協会主催の平成30年全国広報コンクールで、特選に次ぐ第一席を受賞した。そんな紀美野町の現状や取組を、取材した方々に焦点を当てながら紹介していく。 

ホタルの乱舞

ホタルの乱舞

伝統産業を継ぐ

高野山麓の民家の一室。引き戸を開けると目に飛び込んでくるのは、壁一面に所狭しと並ぶ数々の箒たち。"棕櫚箒製作舎"と書かれたここは西尾香織氏が手掛ける棕櫚箒の工房だ。部屋の片隅には銅線や木の皮、繊維の束等の材料が揃い、中央に作業スペースが設けられている。

町には棕櫚と呼ばれる、ヤシのような木が随所に生えている。樹皮が腐りにくく丈夫なため、古くから箒や縄など日用品の材料に使われてきた木だ。町の周辺は、昭和まで棕櫚皮と棕櫚製品の全国一の産地として知られていたが、需要の減少や上質な棕櫚の消失等により、現在は中国から輸入している。

棕櫚箒職人の西尾氏は元々広島県の出身で、旅行で和歌山県を訪れた際に風土に魅せられ、その後同県に移住したという。この道を選んだきっかけは、「郷土資料で見た棕櫚箒が忘れられなかった。別の仕事を持っていたため、しばらく迷っていたが、当時師匠は高齢で後継者が一人もおらず、誰かが継がなければこの技術が失われてしまうという危機感、そして何より棕櫚箒の奥深さと魅力に惹かれて始めた」と語る。今では県内で西尾氏を含めて3名ほどが伝統的な棕櫚箒を作っている。

"一生に3本あれば足りる"といわれるほど丈夫で長持ちする棕櫚箒は和歌山県の伝統工芸品でありながら、町の小・中学生にもあまり知られていないという。「箒のことを知って欲しいし、使って欲しい。子ども達が歴史を学べる場所を作りたい」と言い、箒についても、「柄の部分は県内日高町の黒竹を使用しているため、昔のように原材料全てを県内産で揃えて作れたら」と語る。

棕櫚箒職人は、一般的には10年修行してようやく一人前になるといわれるが、修行をすれば誰でも一人前になれるとは限らず、なれたとしても収入は安定しないという。「後継者がいなければこの産業はどうなるか分からない。住んでいる地区も高齢化が進んでおり、今後10年でこの地域がどうなっていくのだろうかと考えることもある。それでも、自分が生きている間はここで箒作りを頑張りたい」と想いを語る。   

棕櫚箒製作舎には大小様々な箒が並ぶ

棕櫚箒製作舎には大小様々な箒が並ぶ

棕櫚の木

棕櫚の木

星ふる里

美しい星空が見られることから「星ふる里」といわれる紀美野町。中でもみさと天文台は全国有数の天体観測所で、月明かりの無いよく晴れた夜空では肉眼でも天の川を楽しめる。天文台では季節にあわせてイベントを開催したり、開館20周年を迎えた2015年には2組が結婚式を挙げたりと、様々な仕掛けにより近年では広域メディアで取り上げられることも多い。夜の観望会では駐車場が足りなくなることも珍しくないほどの人気スポットになっている。

内部には県内最大の口径105cmを誇る大型望遠鏡があり、観望会では実際に覗いて天体を観察できる。台長の山内氏によると、さらに大きい口径の望遠鏡を持つ天文台は全国にはあるが、この大型望遠鏡に収まる直径1m超えの大型鏡は"現代の名工"に認定され、鏡面精度日本一で知られる研磨職人、苗村敬夫氏が手がけた貴重な逸品で、さらに大きいものは四国に1つあるのみ。苗村氏は高齢で現役を退いており、後継者がいない事から、今後この大型鏡は文化財的な側面を持つものになっていくという。

天文台では、「みさと天文台友の会」スタッフや町内のカフェ等の協力のもと、観望会の実施やイベント運営、情報発信等を行っている。今年4月からは常勤スタッフを増員し運営体制を強化しているほか、県外からの教育旅行生を受け入れるなど、さらなる観光客増加に向けて動き出している。  

まちづくりを支える移住者

週末になると多くの人で賑わう場所がある。老朽化のため取り壊し寸前だった築90年の米蔵を、町内で農業を営む紀州マルイチ農園の北裕子氏が改修し、リノベーションをしたというカフェ「くらとくり」だ。外壁には農協のマークが残り、白壁の店内は米蔵の面影や木のテーブルが温かみのある空間を作っている。

くらとくりでは3店舗が週末のみ営業している。その1つ、カフェ「hontana」オーナーの本田裕美氏は、紀美野町にUターンしてカフェをオープンした。「改装した納屋にキッチンを付けて好きなことを始めたら、色々な方が"私もやりたい"と手を挙げてくれた。紀美野町へ来るまではお隣さんが何をしているかを気にすることはなかったが、ここへ来て横のつながりができ、みんなで力を合わせてやっていこうという考え方になった」と話す。周りに同世代が多く、一緒にイベントを開催することもあるという。「いいタイミングで町に帰ってこられた。今は地区の中で色々とやっているが、他の地区や地域とつながればもっと大きいイベントができるはず」と語る。

くらとくり外観

くらとくり外観

町への移住者は現在70世帯。NPO法人「きみの定住を支援する会」が相談窓口として移住希望者をサポートするなど、町は地域と協働で移住・定住の推進に力を入れている。寺本町長によると、「移住希望者は増えているが、町の習慣やどんな生活をするのかといったことをきちんと理解した上で来て欲しいとの思いから、受入れには時間をかけている」とのこと。これまで移住後に町から離れた世帯は数組にとどまっており、町をあげての支援体制や、「紀美野町においでよ」と受入れに積極的な住民の存在が定住率の高さに表れているのだろう。

きみの定住を支援する会

きみの定住を支援する会

町は地域おこし協力隊の受入れにも積極的である。平成22年度から採用を開始し、現在は5名が活動している。その一人、水島千絵氏は現在2期目で、小川地区の地域団体「小川の郷づくり会」とともに直売所と古民家の運営、地区報の編集等を行う。紀美野町は米や野菜、果物など何でも栽培できる土壌があるためか、穏やかで気さくな町民が多いという。町の課題については、「空き家が多いが、町内に不動産業者がないため個人間での契約が必要だったり、仏壇があるため改修ができなかったりと壁もある。ただ、町外に通勤できるアクセスの良さがあるため、もっとスムーズに家を借りることができれば、特にファミリー層にとって住みやすい地域ではないか」と話す。

小川地区にある小川の郷直売所

小川地区にある小川の郷直売所

地域の和、人とのつながり

<手作りの安心・安全な味を伝承>

町の高齢者比率は44.2%(平成27年国勢調査)で、県平均の30.9%を大きく上回る。数字で見ると高齢化の先進地とも言えるが、朝早くから農作業をするおじいちゃんや、山道で颯爽とバイクを走らせるおばあちゃんなど、元気な高齢者が多いのが現状だ。

中でも一段と元気なのは、平均年齢71歳の生石加工グループである。同グループは、地元産の農産物を原料とした"おいしいもん"作りに励んでいる。大福、金山寺味噌、山椒みりん漬け、ブルーベリージャムなどすべて手作りで、果物の栽培もしているという。「柚子は手で搾ったものをポン酢に、余った部分は皮だけ細かく刻んで、砂糖や味噌を加えて柚子みそにしている。状態のいい皮はマーマレードに使っている」と、一つ一つにこだわりや工夫がつまっている。町でイベントがあれば出店したり、菓子やこんにゃく作りなどの"ほんまもん体験"の受入れをしたりと、日々精力的に活動している。

「田舎カフェ」に参加する生石加工グループ

「田舎カフェ」に参加する生石加工グループ

 

<生涯元気でいられる地域に>

「この歳まで生きとるんも運やな」 
そんな笑い声が響くのは、長谷地区の集会所。「サロン楽笑」の活動風景だ。

町では現在46箇所の地域サロンが活動している。地域サロンとは住民が気軽に集まって交流する場で、健康に関する講座や健康チェック、料理や手芸等地区ごとに自由にメニューを決めて活動している。多くのサロンでは椅子に腰を掛け、おもりを使って体を動かす「いきいき百歳体操」が取り入れられている。高知県高知市が介護予防事業として開発した体操で、町内でも広まっている。今年3月には紀美野町と隣の有田川町で体操、意見交換等を行う交流会を開催し、参加した住民からは「他の地域の活動を知ったり、話を聞いたりして励みになった」との声が聞かれた。

サロンコーディネーターによると、高齢化や人口減少により町内の地域サロン参加者や活動は減少傾向にあるという。活動のメニュー作りも難しく、ボランティアで引き受けてくれる講師探しにも苦労しているとのこと。それでも、「回覧板等を利用して自主的な運営・参加をしてもらえるよう、工夫をしている。決まったメニューをするのも良いが、集まって話をするだけでも介護予防になる。集会場に来ることがまず大事」と地域サロンの必要性を訴える。

誰かと関わりを持つことで元気になったり、何かあったときに助け合ったり、高齢化の進む地域では"人とのつながり"が大きな役割を果たす。今後はいかに活動を継続していくかが課題である。  

サロン楽笑の活動風景

サロン楽笑の活動風景

次代に続くまちづくり

人口減少や高齢化、鳥獣被害、所有者不明土地や空き家の増加等、町の課題は他の自治体と同じく様々である。一方、地域サロン事業の実施、農産物や加工品等の生産・販売等、高齢者を中心とした活動や、UIターン者による飲食店の運営、産業の活性化等、住民が進んでまちづくりに関わっている。「観光客を呼び込みたい」「ゲストハウスを開業したい」「産業を続けていきたい」「100歳まで生きたい」それぞれの夢や想いが人とのつながりを生み、町全体に活気をもたらしている。

「人が少ない分みんなが顔見知りで、どこでも安全。家の近くの畑も子どもの遊び場になる。泣き声を気にせず過ごせるし、声を掛けてくれるおばあちゃん達が多く、本当の孫のようにみんなに可愛がってもらっている」そう話すのは子育て中のお母さん。おばあちゃんは、「何もないけど、空気は美味しいし、山も川もある。夜にはきれいな星も見られる。みかんに柿に、美味しい食べものはたくさんあるよ」と笑顔を見せる。若者は少なく都会的なものはないが、美しい自然があり、町を支える人々がいる。小さな町だからこそ一人ひとりの役割があり、誰もがまちづくりの主役なのである。

ここにしかない豊かな資源(地域の"宝")を守り、発展させていくために、紀美野町はこれからも住民や地域と協働し、次代へと続くまちづくりを進めていく。   

秋のススキが有名な生石高原

秋のススキが有名な生石高原

秋のススキが有名な生石高原

山間から望む町並み