ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 奈良県下市町/「らくらく」で、プラス10年イキイキ元気 働く老若男女が笑顔で集う町

奈良県下市町/「らくらく」で、プラス10年イキイキ元気 働く老若男女が笑顔で集う町

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年12月12日
地域住民の皆さんの集合写真

地域資源を使ったまちづくりが進んでいます


奈良県下市町

2983号(2016年12月12日)  下市町 地域づくり推進課


下市町の概要

下市町は奈良県のほぼ中心に位置する、東西9㎞、南北11㎞、面積62.01㎢を有する町です。割り箸発祥の地であり、また日本で最初の商業手形である「下市札」が発行されるなど、古くより吉野地方の主要商業地として発展してきました。町のおよそ8割が森林であり、全体に急峻な地形が多く柿を中心とする果樹農業と、森林資源を背景とする林業および割り箸や神具などの木工品製造が基幹産業ですが、両産業とも長期の価格低迷により苦戦を強いられています。

また、自然災害などの影響も相まって生産意欲の減退や、樹園地や森林の管理放棄や荒廃化が進んでいます。加えて、過疎化や高齢化も進行しており、これらの現状は町内山間地域のみならず、基幹集落においても深刻な問題となっています。

取組の動機と経緯

これらの課題に対し、真正面から向き合い、そして農山村を守り地域コミュニティの維持を目指す、それが「らくらくプロジェクト」の取組の始まりでした。

過疎化、高齢化に対する危機感は地域住民も強く感じており、中でも栃原地区は、問題意識の高い住民が多く、急激な高齢化と後継者難による地域社会の崩壊に対して強い危機感を募らせていました。

栃原地区は83戸の住民(当時)のうち、専業農家数が4割を占め、100haの柿畑を有する農山村地域です。地域内の柿畑は最大斜度20度を超える急斜面が8割で、農業経営の将来への不安は、地域住民の共通の課題でした。

そのような折、平成22年5月当時の栃原区長の元に奈良女子大学寺岡伸悟准教授(当時)、水垣源太郎准教授(当時)と、奈良県農業総合センター濱崎貞弘総括研究員(当時)が、共同研究事業計画の相談に訪れてきました。内容は、独立行政法人 科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RⅠSTEX)の「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」に応募してはどうかというものでした。栃原区長は本町にも相談し、町はプロジェクトへの協力を確認し、事業計画の策定等関係を深めていきました。さらに翌年には三晃精機株式会社の笹岡元信社長をメンバーに加え、1年をかけさらに緻密な情報交換・協力体制を組み平成23年10月には、「高齢営農者を支える『らくらく農法』の開発」プロジェクト(らくらくプロジェクト)を立ち上げました。

らくらくプロジェクトは、「農村地域の高齢者こそ我が国の地域対策の要である」との信念のもと、高齢で農業を諦めようとしている営農者が、さらに10年延長して、楽に楽しく、現役を続けられるようにすることを目標として計画しました。

らくらく農法についての画像

らくらくプロジェクトの内容

らくらくプロジェクトは、大きく分けて4つの取組から成り立っており、それぞれの取組の連携や協力によりプロジェクトを推し進めていきます。

4つのプロジェクトについての写真

1.「集落点検」

集落点検によって、栃原地区の地勢や土地利用状況、住民や栃原地区から他出した血縁者に関する情報などが収集・整理され、地区住民が地域の衰退防止・発展方策について議論する上での資料として提供されました。

特に営農の継続性や地区外へ出て行った元住民の動向といったデータは町としても調査を行ったことがなく、今後の町政の進め方に大きく寄与する情報となりました。

具体的な調査の内容として、営農の継続性についての調査では、農地毎の10年後の耕作予想をした農地マップを作成した結果、約三分の一の畑が10年後に消滅するかもしれない事がわかりました。また、同時に行った他出者についての調査では、その約97%が日帰りできる近隣に住んでいることがわかりました。

集落点検の様子の写真

さらに町では同プロジェクトの取組に触発され、奈良女子大学の指導のもと谷地区と平原地区でも集落点検を実施しました。地域の処方箋を作り町政に反映させる上で、大変貴重な調査方法を得たと考えています。

副産物として、寺岡准教授、水垣准教授らが引率する奈良女子大学の学生が、栃原地区を中心に町内の活動に参加・訪問することが、地域住民に大きな刺激を与え、その後の様々な取組への積極的な姿勢に繋がっていると言えます。

他出者についての調査結果の説明画像

2.からだ点検とらくらく体操(PPK)

からだ点検によって、頑健で柔らかい身体を維持していると思われていた高齢の農業従事者が、意外に体が硬く、力も一概には強いとは言えないことが明らかとなりました。このことは、営農を続けるために必要な条件を検討する上で貴重な資料となりました。

また、農作業で疲労が蓄積する箇所の特定と、その疲労を軽減・解消するために考案された「らくらく体操(PPK)」は、地域住民、特に女性の間で好評で、女性グループから体操を覚えて地域の高齢者等に普及していきたいという意欲を喚起することに繋がっていきました。

3.電動運搬車らくらく号

従来のエンジン式運搬車は操作が煩雑で、緊急停止などの安全対策も進んでおらず、現在でも高齢営農者が作業中に起こす事故原因のトップ3になっています。そこで三晃精機株式会社と国立奈良工業高等専門学校は、栃原のような急峻な地形でも、荷物を運んで確実に動作し、かつ高齢者でも簡単に操作が出来て危険時には難しい操作なしに確実に停止することが可能な新しい電動運搬車を試作しました。試作車は95歳の女性でも全く違和感を覚えず安全に操作することができ、栃原地区の柿生産者による試験運用でもその能力の高さが評価されました。

中でも、車輪の中にモーターを埋め込んだ「インホイールモーター」を用いた電動一輪車は生産者から高評価を得て、試験後もこのまま地元に置いてもらうよう強く求められました。そのため町としても電動一輪車の利用価値が高いと判断し、同機を購入し柿生産者に貸与することとしました。

4.柿葉のらくらく栽培技術の普及と販売先の確保

奈良県農業総合センターでは、「重くて大変な果実生産から軽くて楽な柿葉生産へ」シフトすることを骨子とした、柿の「らくらく栽培」技術を開発しました。また、奈良県特産の柿の葉すしを生産販売する柿の葉すしメーカー社長を柿葉生産者に紹介し、販売ルートの確立と生産振興を推し進めました。さらには、技術の普及と柿葉生産を広げていくための栽培展示圃場を栃原区内の柿畑に設けました。

柿の葉生産について説明した画像

柿葉生産は年々拡大し、平成24年は16万枚、25年は24万枚、27年には50万枚を超え、当初4人からスタートした生産者も、27年には15名まで拡大しています。拡大した要因として、柿葉の生産販売組織「農事組合法人 旭ヶ丘生産販売協同組合」が設立されたことが挙げられます。

さらに濱崎総括研究員からは和菓子業者の紹介、薬草などの栽培指導など、組合の安定的な経営の確立に寄与する活動を得て、組合として積極的な営業活動が続けられています。町としても、この取組が日本の未来、農村を守ることに繋がり、また様々な形で下市町に広げたいという思いから、「らくらくプロジェクト」に本格的に参加し、地域との密接度の高い施策の実現に動き出しました。

現状と今後の課題

現在、栃原地区における柿葉農家数は13軒(平成27年8月現在)、柿葉出荷枚数は平成24年16万枚、25年24万枚、26年28万枚、27年50万枚と年々増加しています。

若年者には柿の実の栽培を行ってもらい、年齢や地形等により柿の実の栽培ができなくなったときに柿葉づくりにシフトし、少しずつ柿葉生産者を増加させていくことにより、農村を守り、地域コミュニティを守ることに繋げていきたい。そして、日帰りのできる近隣に他出している約97%の人が定年を迎えたとき、帰りたくなる元気な地域づくりをめざして頑張っていきたいと考えています。

地域を元気にする取組は他地域にも広がりを見せています。この「らくらくプロジェクト」をきっかけに、町内平原地区や才谷地区において「下市町元気印集落支援事業」の認定を受け、地域で話し合いを行い事業展開に至っている例も出てきています。

平原地区においては平原区むらづくり委員会が主体となり、「みんなで取り組む、薬草とハーブの里のピザハウス」事業を展開。薬草とハーブを活用した地域づくりを住民全員が参加できる体制で進めることにより、多世代間でコミュニティや生きがいが生まれ、地域が誇る資源を使うことによる頑張りとさらなる地域愛が生まれています。

平原地区での取り組みについて紹介した画像1

他にも各家庭や地区の耕作放棄地を活用したハーブ栽培、そのハーブを加工したハーブティーの販売、またハーブや地元の農作物を活かしたピザハウスの整備・運営など、これらを地域住民で行うことにより、地域コミュニティの維持や地域の魅力発信にも繋がっています。

今後、事業を無理なく楽しく継続していくためには、少しの儲けが重要となっており、ピザハウスへの来訪者の増加、ハーブティーのさらなる販路拡大などの課題に取り組もうとしています。

平原地区での取り組みについて紹介した画像2

また、才谷地区においては「集会所がゲストハウスに 自治会のお・も・て・な・し」と題した、自治会によるゲストハウスの運営が始まっています。過疎化・高齢化により目的地として来訪者がいない地域であった才谷地域に、地域交流の推進により人を呼び込み、その来訪者が魅力を語り、そして住民もその魅力とそこで暮らす価値に気づき、地域に「誇り」を持つというサイクルを目指し展開している事業です。

ゲストハウスの様子の写真

平成26年には、このような取組が評価され、栄誉ある「プラチナシティ(※)」に認定されたところです。また、この取組は奈良女子大学のCOC+採択へとつながりました。今後、下市町や奈良県のみならず、日本全国における高齢化や人口減少は顕著となり、営農放棄の拡大や、地域コミュニティの低下や崩壊は喫緊の問題であると考えます。下市町が取り組んでいるこれらのプロジェクトが、町内にもさらに拡大し、日本全国で展開されることを期待しています。

プラチナシティのロゴ画像

※プラチナシティとは

アイディア溢れる方策などにより地域の課題を解決し、「プラチナ社会」実現に向けた取組によりプラチナ大賞運営委員会等から各賞を受賞した自治体(現在22)です。(プラチナ構想ネットワーク