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高知県津野町/域学連携事業による集落の活性化と担い手づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年12月5日
地域の方々と大学生の写真

地域の方々と大学生


高知県津野町

2982号(2016年12月5日)  津野町長 池田 三男


津野町の概要

津野町は高知県の中西部に位置し、東は須崎市、北は佐川町、越知町、仁淀川町及び愛媛県境、西は梼原町、南は四万十町及び中土佐町に接しており、東西28.1㎞、南北15.4㎞、面積は197.85㎢となっています。

本町の総面積の9割は林野で占められており、不入山を源流点とし日本最後の清流と呼ばれる「四万十川」と、鶴松森を源流点とし特別天然記念物のニホンカワウソが最後に目撃された「新荘川」が流れ、農用地及び宅地は、この2つの川沿いの緩やかな山裾を利用して点在しています。また、北西部には、日本三大カルストのひとつ「四国カルスト・天狗高原」から「鶴松森」を経る山並みが屏風のように連なっており、山から川まで自然豊かで四季折々の表情が素晴らしい地域です。

歴史的には、縄文時代からの形跡も残っており、室町時代には五山文学の双璧であります義堂周信和尚と絶海中津和尚を、幕末には土佐勤王党四天王の1人、吉村虎太郎など多くの偉人を輩出しています。さらに、歴史ある津野町には津野山古式神楽や花取踊りをはじめ、数々の伝統文化が継承されています。平成21年2月には、四万十川流域の文化的景観として、国の重要文化的景観の選定を受けるなど、歴史と文化が息づく町です。

天狗高原の写真

天狗高原

まちづくりの基本目標

本町は、豊かな自然環境を活かし平成17年からの10年間、町の将来像を「自然と共生する響動のまち」と定め、旧村の融合を基本にまちづくりに取り組んできました。これらの検証としての全戸アンケート等から、厳しい社会情勢により、基幹産業である農林業は低迷し、若者の流出と少子高齢化による人口減少は続いているものの、先人から引き継いだ豊かな自然環境や地域資源、伝統文化は守り継がれており、地域の誇りであることが分かりました。

少子高齢化などの社会情勢に抗いながら、この豊かな自然と貴重な地域資源、継承されてきた文化の融合を図り、魅力的かつ誇りを持てるまちづくりを進めるためには、地域住民の一人ひとりが情熱をもって活力ある地域づくりに積極的に関わることが求められています。

このことから、今後はより一層、町民と行政との協働、様々な団体と地域との協働によって、それぞれが持つ知恵や経験を持ち寄り、責任と役割を分担して、協働による地域課題の解決に取り組んでいく必要があり、平成36年度に向けた町の将来像を「~融合から飛躍へ~『風とともに地域きらめく協働のまち』」と定め、住民と行政とのパートナーシップによるまちづくりに取り組んでいます。

協定締結式の様子の写真

協定締結式

高知県立大学との域学連携協定締結

平成21年度に小学校が廃校となった3地区で、地域住民が地域づくりに積極的に関わる協働のまちづくりと、地域の拠点を核とした集落活動の仕組みづくりにとりかかりましたが、地域はハード整備に関心が向き集落活動まで話が進むことはなく、地域との間には手詰まり感が充満していました。

新たな切り口を模索する中、高知県立大学の先生が本町に在住している縁で連携を相談したところ、大学もフィールドワークに適した場を探しているとのことで話が弾み、平成26年3月、地域づくり、人材育成、産業づくりなどを目的として町と大学との包括連携協定の締結に至りました。

お試しカフェの様子の写真

お試しカフェの開催

域学連携事業の奥深さ

平成26年度は、四万十川裏源流清掃活動や茶畑ウォーキングなど地域主催行事のボランティアスタッフとして、まずは地域に高知県立大学を認知いただく活動から始めましたが、大学は平成27年度から、学生が地域課題について住民と共に学び合うことを目的とした地域学実習を必修化し、学生のフィールド活動を正規のカリキュラムに組み込みました。この取り組みにより、大学の地域教育研究センターが主体的に関わっていただけるようになり、集落づくり事業が加速的に進み始めました。

平成27年7月に白石地区で実施した2泊3日の地域学実習「地域のお宝さがし」では、実習内容はもとより、最後の別れ際に、学生と地域の方々が涙を流し再会を誓う姿を目の当たりにし、想定外の域学連携事業の奥深さを知ることができました。お互いの献身的な姿に学生は両親に思いをはせ、地域の方々はわが子の姿と重ね、その思いが次のステップへとつながりました。

地域のお宝さがしの様子の写真

地域のお宝さがし

集落活動拠点施設の運営の一つのキーポイントが「運営資金をどう稼ぐか」ですが、拠点施設に小さなエンジンをとの思いから、白石地区では域学連携事業でピザ窯作りに着手しました。屋根は周辺の間伐材で地域の方々がセルフビルドで、窯は学生と地域の方々が協働で作業し、学生は空き時間に間伐材の薪割りも行い、立派なピザ窯が完成しました。現在は、このピザ窯や周辺の自然環境を活用した里山体験として商品化できないかと、地域と学生が意欲的に取り組みを進めています。

ピザ窯作りの様子の写真

ピザ窯作り(白石地区)

さらなる関係深化へ

平成28年3月には大学が「今後さらに、継続的に地域に入っていくような関係をつくりたい」と、「津野町と高知県立大学の連携による地方創生を目指してー一緒に話し合おう津野町の未来」をテーマに、今後学生が入る予定の地区も含め住民と学生が集い、ワークショップを行い、地域の課題と学生のやりたいことのマッチングを図りました。

福祉の専門職を志す学生は、「傾聴ボランティアが大事だと思ってきたが、移動スーパーは買いたい物ではなく、買えるものしか買えない」という住民の生の声を聞き、「これからは地域がしたいことを知った上で、自分のしたいことをこちらから発信したい」そんな気持ちを強くしたと語ってくれました。

このように、学生たちは、地区を問わず異口同音に「企画段階から参加したい」と熱のこもった言葉を口にしていましたが、大学側は「盛り上がってもここで終わる可能性もある」と冷静な見方も示しつつ、地域に対して「企画段階から学生が入る意味は継続性。繰り返し学生が入り、地域とともに育っていきたい」と地域に呼びかけてくれています。地域の課題を協働でいかに解決策へと導けるのか。今後の活動の広がりに期待が集まっています。

高知県立大ワークショップの様子の写真

高知県立大ワークショップ

津野町の集落づくりには、森の巣箱がある

津野町の集落拠点づくりに対する基本方針は、公設民営で、運営は地域の独立採算性を基本としています。その理由は平成19年に全国過疎地域自立活性化の優良事例として総務大臣表彰を受けた廃校再生のパイオニア「森の巣箱」が町内にあり、開設以来町からの運営補助は受けずに独立採算を続けているところにあります。(詳細は町村週報2651号)

しかしながら、森の巣箱は単一の自治集落での運営に対し、3地区は8~9集落で構成される集合体であり、「結い」などの伝承される相互扶助制度の範囲を越えるため、合意形成に時間がかかるという課題があります。特に地域が、新たな取り組みとして一歩を踏みだそうとするとき、拠点施設や集落活動のための運営資金の初期投資をどう集めるかについて、負担を地域住民に求めるのか、地域の魅力を高めクラウドファンディングなどで地域外に求めるのか。そして、いつ地域に決断を求めるのか。津野町も目指すべき地域の将来像を明確に示し、事業の継続に向けた力強い後方支援策を提示することが求められています。

森の巣箱の外観写真

森の巣箱

次世代の担い手づくりにも着手

集落活性化の推進軸になぜ「域学連携」を選択したのかについては、民力を高める地域の担い手が不足している現状があり、その課題解決のため平成28年度からは高知県立大学に講師派遣をいただき、座学とフィールドワークを組み合わせた地域コーディネーター養成講座の開講を予定しています。地域の若手住民と学生が一堂に会して受講するもので、近い将来、「町内の若手と大学の卒業生がともに力を合わせ、津野町の集落づくりに取り組み、地域の高齢者が笑顔で参加している」そんな未来に思いをはせています。

終わりに

現在、津野町を含む高知県の高幡地域5市町で旅の誘客キャンペーン「2016奥四万十博」を平成28年12月25日まで開催中です。日本最後の清流四万十川、ニホンカワウソの生息が最後に確認された新荘川。四国カルストの山麓にその源を発し、流域に暮らす人々の生活に寄り添いながらゆったりと流れ、やがて太平洋に注いで豊穣の海を育んでいます。

山川海が織りなす日本の原風景が今も鮮やかに残る、奥四万十地域。都会の人々がこの地を訪ね、その自然や旬の味覚、素朴な人情に触れるとき、いつの間にか素の自分を取り戻し、リフレッシュされていることに気付くに違いありません。

そんな“すっぴんデトックスの旅”を私たちは提供します。ぜひ「奥四万十博」にお越しください。

奥四万十博オープニングの様子の写真

奥四万十博オープニング