払沢の滝
東京都檜原村
2963号(2016年6月20日) 檜原村長 坂本 義次
山並みから始まる小さな小さな流れは、やがて透き通ったせせらぎとなり、ヤマメやカジカを育み、初夏にはカジカガエルが鳴き競い、下水道が整備された沢筋では蛍が復活し乱舞する『自然豊かな村』。
森をぬける風は訪れる人びとの心を爽やかにし、めぐらす山並みは、八王子市・相模原市・上野原市・奥多摩町そしてあきる野市に接している。
村の中央には1,000m級の浅間尾根が東西に横たわり、南谷と北谷に二分し、ふもとを流れる南・北秋川は西から東に流れ、村の東で合流して秋川となる。
集落は清流沿いに点在する渓谷型の山村で、総面積105.41k㎡、その93%が山林であり、そのほとんどが秩父多摩甲斐国立公園に属している。世界有数の大都市東京で、島嶼を除いて唯一の村であり、明治22年の町村制施行以来、一度も合併を経験していない、『首都東京で輝く村』それが檜原村です。
都心から高速道路を使って1時間程度の距離にありながら、豊かな自然の宝庫となっており、奥秋川の清流と奥深い山々は、多くの動植物を育み、日本の滝100選の払沢の滝、東京都天然記念物の神戸岩など、有名な観光スポットもあり、水と緑の大自然に恵まれた『首都東京のオアシスの村』でもあります。
檜原村では、戦争による疎開等によりピーク時には7,100人程度の人口でしたが、現在では、2,500人を下回り、3分の1程度まで減少しています。また、65歳以上の高齢者の人口比率は40%を超え、過疎と少子高齢化への対策が最大の課題となっています。そのような中、「森と清流を蘇らせ未来に誇れる村づくり」を基本理念に、
を柱として、小規模自治体ゆえの小回りが利く行政を目指し、誕生から高校卒業までの子育て支援対策、デマンドバスの運行、福祉モノレールの設置、小中学校の木質化、特産品のじゃがいものブランド化などきめ細かい行政を行っています。
また、生物が生きていくうえで欠かせない酸素と水を供給していく森林を守り続けながら、それを資源として活用し雇用の場となるよう究極の循環型社会を目指して各種事業を行っています。
檜原村のかつての主産業は林業でした。しかし、石油の使用による燃料革命や、安い外国産材の輸入により国産材は敬遠され、伐採・搬出しても赤字となるなど林業は衰退してしまいました。
そのような中、森林の持つ役割も経済的な価値より環境面での役割が重視されるようになりました。
そこで、見渡せば山林、間伐をしてもその場に棄てられたように置いていかれる木材、ただの山林を何とか活かしていきたいと考えました。
人口減少が続く当村では、小学校8校、中学校3校を統合し、それぞれ1校となっていますが、平成15年度から教室内の壁、天井、床に檜原産材の杉、檜を貼る木質化工事を進め、平成27年度には全教室の木質化が完了しました。
木の持つ調湿機能と、檜の殺菌効果等によりインフルエンザの蔓延を防ぎ、木の持つ温かさと癒し効果により心身の安定した学校生活が送れています。このことにより、中学校では9年間学級閉鎖がありません。
平成19年4月に開館した村立図書館は、オール木造です。一部には樹齢100年以上の村有林を伐採して柱として使用、床暖房も完備し、裸足で木に親しめる施設であり、図書館としての利用のほか、村内を訪れた方々への木材活用のPR施設となっています。
オール木造の図書館
薪燃料製造施設を設置し、間伐材の積極的活用と、檜原温泉センターに補助燃料として、薪ボイラーを設置し地球温暖化対策を図っています。
山岳公園として東京都から指定管理者制度により管理運営を委託されている都民の森「大滝の路」が、森林の持つ癒し効果を活用する森林セラピーロードとして平成19年3月にセラピーロード審査委員会より認定を受けました。ウッドチップを敷き詰めた散策道は訪れる人々に好評を得ています。
セラピーロード
村内でも最も山間地に位置する数馬地区には、東京都中央区の資金援助により山林再生を行っている「中央区の森」があり、地元NPO法人と都市住民により協働で山林の管理が行われています。また、人里(へんぼり)地区では地域の山林に手を入れ、もみじの植栽、散策道の整備を有志で行い、次世代のための名所作りを行っています。
中央区の森の看板
このように、棄てればゴミ、活かせば資源。ただの山も手を入れることや手入れする方法を考えれば蘇ってきます。
檜原村の特産といえば、急峻な土地で栽培されているじゃがいもが人気です。しかし、ほとんどが自家消費か村内の直売所に少し並ぶ程度。そこで、特産品としてのブランド化と付加価値を持った商品開発が必要と考えました。
以前からじゃがいもの味の良さは評判でしたが、これを使った新たな特産品をと様々な検討を行った結果、他で作っているところが少ない焼酎にたどり着きました。村内での製造を検討しましたが、酒税法等の関係で北海道の酒造会社へ委託、檜原村から北海道へ渡ったじゃがいもが焼酎となって戻り、平成15年5月に2,600本を初めて販売したところわずか3週間で売り切れました。
じゃがいも焼酎
村では、マスコットキャラクターとして、じゃがいもをかたどった「ひのじゃがくん」を平成17年度に商標登録し、じゃがいものブランド化を計っています。ピンバッチ、着ぐるみを作製し、ゆるキャラグランプリ等にも積極的に参加しています。
村のマスコットキャラクター「ひのじゃがくん」
「あるから使う」このことにより、じゃがいもを使ったクッキー、また、数件の飲食店が、檜原村の固有のじゃがいも「おいねつるいも」を使った「おいねめし」を提供するなど特産品の開発に対する熱意も出てきました。
ひのじゃがくんクッキー
檜原村の高齢者比率は40%を超え、空き家も目立ちます。檜原村では交通の主流として牛馬が行き来していた頃は、尾根筋の道が生活道として利用されていました。そのような中で、車道から30分~1時間程度歩いていかなければならない家がありました。そこに道路を作るには、莫大な経費も年月もかかってしまいます。都会と比べたら不便な場所。でも、そこが安住の地なのです。
また、新たに住んでいただくことも大切ですが、住み続けていただいている方、子育て(人育て)している方も大切です。
コスト、工期から道路建設をあきらめざるを得なかった地区も、発想の転換で、みかん畑やわさび田での出荷等に使われるモノレールを基本に、乗用タイプのモノレールを使用することで、道路であれば数年かかるものを単年度で供用開始し、利用する方々からは好評を頂いています。
福祉モノレール
路線バスのバス停から、30分も歩かなければならない方がいるのも事実です。路線バスと連絡して走らせるデマンドバスを運行しています。
デマンドバス「やまびこ」
東京都の火災予防条例で既存住宅への火災警報器の設置が義務付けられたことにより平成18年度から20年度にかけて村内の既存住宅への住宅用火災警報器設置補助事業を実施。平成20年10月に100%設置を達成しました。平成27年度からは火災警報器の点検、交換事業も行っています。また、振り込め詐欺被害を防止するために振り込め詐欺防止機能付き電話機を希望する世帯に設置する事業を実施しています。
村だからこそできる子育て(人育て)、支援として、妊娠時の検診から、出生祝金、保育料、給食費、小、中、高校生等への通学補助、修学旅行、遠足等への補助、中学生海外派遣等の充実した助成制度を実施しています。
愛する檜原村のため、「檜原村をもっと多くの人にPRしたい」、「新たな特産品を開発したい」、「イベントをやりたい」等々という方々のため、使い勝手の良い補助金制度を創設しました。
村の課題解決のために平成27年9月に2名の地域おこし協力隊員を採用し、喫緊の課題である空家対策、買物支援等について新たな視点で対策方法を構築しています。
過疎化が進む当村では、村内の商店でも店をたたむところが目立ち始め、高齢者の買物に支障が出始めています。また、雇用の創出も必要です。このため、行政ではできない部分を補完し、地域の活力を生み出すため、第3セクターによるミニスーパーの運営を平成28年7月から実施する予定です。
檜原村のような小さい自治体では、住民の方とのかかわりは非常に密接となります。困っているから村に相談、連絡をされる方がほとんどです。
住民ニーズを敏感に取り入れ、「できない理由を探すのではなく、できる可能性を探す」という理念をもって取り組んできた事業の一部を紹介させていただきました。
人口は少なくても首都の宝石として輝く村を目指し、今後は住民福祉の更なる向上を図りつつ、豊富な自然を生かしたエコツーリズムにより檜原村を更に発展させていきたいと考えています。
新緑に染まる山々、真夏の清流での川遊び、もの寂しさを感じる紅葉の滝、水墨画のような雪景色、四季折々の風景が楽しめる檜原村へぜひ一度足をお運びください。
人里(へんぼり)の桜