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三重県南伊勢町/地域“共育”で、地域を支えるひとづくり~まちづくりの原点は、ありあまる郷土愛~

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年4月18日
青い空、青い海、漁船が佇む風景の写真

青い空、青い海、漁船が佇む風景


三重県南伊勢町

2957号(2016年4月18日)  南伊勢町まちづくり政策監 松田 裕子(地方創生人材支援制度派遣者)


1.減り続ける人口を前に、まちの将来像をどう描くか。

長く245㎞に及ぶリアス式海岸の青と、町域の約6割を占める伊勢志摩国立公園の緑。その名の通り、伊勢の南に位置する南伊勢町は、海と山のあいだにある町です。

大自然に囲まれた町内には、鉄道駅がありません(役場から最寄り駅まで車で45分!)。高速道路のインターがありません(役場から最寄りのインターまで車で30分!)。そして、猿・鹿・猪、いっぱいいます(人口より多いかも)。

そんな町の主産業は、熊野灘の豊かな漁場をバックにした漁業で、漁獲量は三重県下一、真鯛やアオサ、マグロ等の高い養殖技術も自慢です。

深緑の木々の間から覗く海の写真

深緑の木々の間から覗く海

反面、風光明媚な立地や地形は、高い津波リスクと同義で、南海トラフ巨大地震がくれば、町の8割が壊滅すると言われています。

地方創生のキーワードである「人口」はと言うと、2008年まで増加していた国や県とは大きく異なり、南伊勢町の人口は1960年をピークに減り続け、県内で最も高い人口減少率と高齢化率をマークしています(図1)。そして、「2020年には、高齢化率が50%を超える」「2040年には、人口が現在の半分を切る」等のシビアな予測が示されています。

こうした過疎高齢化の先進地である当町にとって、消滅自治体へのプレッシャーは莫大で、いまや、津波以上の危機感を持っていると言っても過言ではありません。半世紀に及ぶ人口減少のダメージによって、すでにまちのハードやソフトが壊れつつあるからです。

しかし、いま、南伊勢町の創生にとって大切なのは、絶望することでも、やみくもに消滅への危機感を煽ることでもありません。人口推移の背景にある課題や、地域のあり様を読みこんで、まちの中長期的なビジョンをしっかりと考えていくことです。

近い将来、「年少人口が5%になる」「人口が半減する」「過半数が高齢者になる」なかで、「学校が維持できなくなる」「地域経済が一層縮小する」「買い物弱者・交通弱者対策が不可欠となる」ことは、すでに想定の範囲内になっています。

それゆえ、10年後、20年後のまちの姿を見据えて、「いま、役場はどんな手を打っておく必要があるか」「今後、どういった施策が必要になるか」を、学校教育や雇用、高齢者福祉といったさまざまな角度から議論し、将来設計図を描いていく必要があるのです。

人口と老年人口比率の推移のグラフ画像

図1 人口と老年人口比率の推移

2.地方創生に正解はない。でも、不正解はある。

とはいうものの、地方自治体の現場では、「行うは難し」の側面や苦心談も少なくありません。

第1に、数多くの計画の中で、地方創生がone of themになりがちなこと。当事者意識が薄く、カネがつかないとやる気にならない、役場の悲しい実態も見受けられます。

第2に、地方創生では、地域自らがアイデアの出し手になることが求められますが、これまで与えられたメニューから選ぶことしかしてこなかった自治体にとっては、これが非常に難しい。 国の示すCCRCやKPIといった新しいコンセプトも、チンプンカンプンで、いったい何をすればいいのかわからない自治体が多発してしまうのです。

第3に、どうしたらできるかを考えるのではなく、「できない」理由を挙げ連ねて、やってみようしないメンタリティも悩ましい。「できない」を「できる」に変える発想の転換における最大のハードルは、法規制やしがらみ以上に、実は、役場の心の中にあるのではないかと感じます。

やる前に諦めてしまうのは、結局のところ、そこに強い想いやビジョンがないから。この意味で、政策のコンセプトや理念を明確に打ち出した総合戦略づくりが重要になってくるのです。

「地方創生に正解はない」。でも、不正解はあるのです。それは、現状から目を背けて、いまできる対応を先送りしてしまうこと。町民や議会への説明責任の果たしやすさを優先して、既存事業の延長に甘んじること。これでは、人口ビジョンの示す将来まっしぐらで、真の地方創生にはつながりません。

3.まちづくりのコアは、地域“共育”による仲間づくり。

それでは、南伊勢町は何に取り組んでいくのか?最重要課題は、まさに年齢構成の改善です。

小・中学校の児童生徒数は減少の一途をたどり、学校統合や複式学級による学級編制を余儀なくされている。町内唯一の高校である南伊勢高校南勢校舎では、生徒数の定員割れが続き、高校存続の危機にある。

こんな状況だからこそ、わが町に誇りを持つ子どもたちを育てたいと、少数精鋭の学力向上とともに、ふるさと教育に力を入れています。アピールポイントは、昨年公刊になった、南伊勢学検定テキストブック『あばばいっ南伊勢』(アマゾンでも買えます!)を活用した、義務教育での地域学習です。

『あばばいっ南伊勢』を活用した地域学習の様子の写真

南島中学校の『あばばいっ南伊勢』を活用した地域学習

さらに、座学だけでなく、地元干物店を講師に、児童がアジをさばいて干物をつくる「あじっこ集会」や、デイサービスの利用者とふれ合う「福祉交流会」、親子で一緒に考える防災計画、あっぱっぱ貝の養殖体験など、五感を使った体験授業や地域との交流もふんだんに盛り込まれています。

あじっこ集会の様子の写真

南島西小学校のあじっこ集会

福祉交流会の様子の写真

南島西小学校の「福祉交流会」

また、南伊勢高校では、地域課題をビジネスの手法で解決すべく、ソーシャルビジネスプロジェクト(SBP)に取り組み、町のゆるキャラ「たいみー」をモチーフにした「たいみー焼き」を誕生させたり、高校生自らが試食して選んだ「セレクトギフト」を販売するなどして、地域の事業者との連携を深めています。

こうした地域“共育”の狙いは、学校の外での地域コミットメントを通じた、地域社会を支える側になる意識の醸成や、地域とのネットワークづくりにあります。老人会や婦人会、保護者らが全力で協力してくれるのは、“おらがムラの学校”という気持ちの強い小さな町ならではの強みです。

ソーシャルビジネスプロジェクトの様子の写真

南伊勢高校南勢校舎のSBP(ソーシャルビジネスプロジェクト)

4.学び舎は学校だけじゃない。未来の人材確保のカギは、地域コミットメント。

他の過疎地同様、当町でも、若者流出のほとんどが進学・就職時に集中しています。「何もないから出ていけ」と口を酸っぱくして言う親に感化された、地域を受け継ぐはずの若者の多くは、残念ながら、一度まちを出ると、戻ってくることはありません。

こうした「ひとの流れ」を変えることができるのは、ありあまる郷土愛なくして、他にありません。共育を通じたタテとヨコのつながりの強化や、子どもたちの地域コミットメントの深化は、自分の生まれ育った場所を大事にしようとする心の醸成につながるだけでなく、伝統行事や災害時に地域を支える人材の育成・確保や、将来のUターン人材の確保にもつながるものとえています。

「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」というセリフがありますが、地域におけるひとづくりもこれと同じ。学び舎は学校の中だけでなく、地域の現場にあると言えるのです。

5.地域とのつながりを創出し、地域を支える子ども育つまちへ。

地方創生の先行事例が示唆するのは、いまは、「何がある」よりも「何をしているか」でひとが来る時代だということです。

逆に言えば、ひとを呼ぶのもまた、ひとだということ。ひと不足・人材不足が顕著になっている今日では、何をするにも、ひとがいなくては始まらないのです。

そういう切実な想いから、南伊勢の創生では、そのコアをひとづくりに置きました。地域とのつながりを創出し、地域を支える子どもが育つまちを創っていくのです。

新たなひの流れを生み出す手段の柱となるのは、魅力ある高校への再生(H29年度~)と、三重大学との高大連携(H28年度~)。これにより、小・中学校でのふるさと人材の育成から、高大地域連携型の、これからの地域を担う若手リーダーの育成・確保につなげていこう。そして、これらの地域活躍人材を主軸に、若者の雇用確保につながるような組織の設立までを一気通貫で行おうという、若者定住に向けた設計図を描きました。

子どもは、生まれてくる地域を選べません。南伊勢町で育ったことを誇りに思ってもらえるよう、郷土愛あふれるまちの創生に向けて、全身全霊で取り組んでいきます!