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和歌山県高野町/高野町におけるインバウンドの取り組み

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年2月8日
錦秋の蛇腹路を進む様子の写真

錦秋の蛇腹路を進む


和歌山県高野町

2949号(2016年2月8日)  高野町 産業観光課


高野町の概要

高野町は、紀伊半島の中央部、和歌山県と奈良県が接する標高約850mの中山間地帯に広がる人口約3,300名の町で、高野山がその中心となります。

高野山は、816年(弘仁7年)、時の帝、嵯峨天皇から弘法大師空海が、真言密教の根本道場を開くため、「真土(i)以南の七里四方」を賜ったことに始まり、2015年(平成27年)の今年、開創から1200年の節目の年を迎えました。(ii)

高野山は、1200年の歴史の中で、真言密教を基本とした独特の伝統文化を守り育てて来ました。また、奈良や京都、大阪から遠く離れた山間に位置したことから、政治や時代の流れに翻弄されることが少なく、真言密教の根本道場=「学びの地」として、また敬虔な信者の「信仰の対象」として時を重ねたことで、伝統文化とともに、「山の正倉院」と称される程、貴重な仏教美術品を始め、様々な書画や工芸品が遺されて来ました。

世界遺産登録

高野山は、これらの「人類共通の遺産」と、これからも総本山金剛峯寺を中心に、真言密教の教理に基づいた高野山独特の伝統や文化を継承し続けて行くことができるということが評価され、2004年(平成16年)7月7日、「紀伊山地の霊場と参詣道」(iii)として世界文化遺産に登録されました。資産と資産を結ぶ「道」が「文化的景観」という概念に基づき世界遺産に登録された例は少なく、フランスからスペインへと続くキリスト教の聖地巡礼の道のひとつ「サンチアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道」とともに(iv)、非常に珍しい例として知られています。

増え続ける外国人観光客

高野町における入り込み客数についてのグラフ画像

高野町における入り込み客数について

高野山への外国人観光客の入り込み数は、世界遺産に登録された2004年(平成16年)を境に顕著な伸びを見せています。2014年(平成26年)の1年間に、54,511名の外国人が高野山に宿泊し、宿泊客全体の20%、5人に1人を外国人が占めるまでになっています。特にヨーロッパ諸国、特にフランスからの訪問者の比率が高いのが特徴です。

私たちは、この特徴には理由があると考えています。

ひとつは、「キリスト教(ローマ正教)と仏教(真言密教)の違いはあるが、根底に宗教の基盤があり、日常のそこここに相通じるものを持つ」ということです。例えば、ヨーロッパの教会で「早朝ミサ」に列席する。高野山の宿坊の本堂で早朝「勤行」に参加する。宗教の違い、場所の違いはあるもののそこには雰囲気も含め全く同じ敬虔な「祈りの光景」が広がっています。

また、「どちらにも『巡礼の文化』が根付いている」という点も見逃せません。ヨーロッパには、キリスト教の巡礼地として、エルサレム(イスラエル)、ローマ(イタリア)、アッシジ(イタリア)、サンチアゴ・デ・コンポステーラ(スペイン)などがあり、毎年多くの人々が参拝や観光に訪れます。特に近年サンチアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼は人気が高く、年々その数が増えているといわれています。日本においても、「高野詣り」、「四国八十八箇所巡礼」や「西国三十三箇所巡り」などが盛んに行われています。この共通性は非常に重要なファクターであると考えています。

また、文化に対する考え方も影響していると考えられます。ヨーロッパの各国は自国の文化に強く誇りを持つとともに、他国の文化にも興味を持ち、受け入れようとする傾向が強いと思われます。このことから、日本を訪問する際、仏教の聖地として世界遺産に登録された「高野山」を訪ね、「見て・感じてみたい」と考えるのではないでしょうか。

外国人が多く訪れる俗にゴールデンルートと呼ばれる大阪・奈良・京都などに近く、大阪難波からは南海高野線を利用し2時間足らずで入ってこられるなどアクセスの容易さ(v)も大きな要因であると考えています。

そして、何より「外国人にとって『日本らしい』と感じられる街である」という点が大きいと考えています。周りを森で囲まれ、お寺の屋根が軒を接する日本的な景観、堂塔伽藍の持つ神秘性、奥之院の静寂などが多くの外国人の感性に「日本らしさ」、「日本の原風景」を感じさせるのではないでしょうか。また伝統ある「お寺」での宿泊、僧侶の給仕による「精進料理」の夕食、 早朝の本堂での「勤行」、写経や阿字観(瞑想)などの体験など、「お寺で泊る」という独特な「生活文化体験」が行えるのも高野山ならではの魅力です。

精進料理の写真

僧侶の給仕による精進料理

外国人観光客への対応

高野山では、参拝や観光に来られる人々の利便性向上や町としてのアイデンティティーの向上のため、総本山金剛峯寺や民間団体、住民、和歌山県と協働し、様々な施策を講じて来ました。

まず、「景観の向上」として、「電線の地中化」を昭和63年より計画的に実施。現在主な幹線道路においては「電柱電線のない広い美しい空」を取り戻しています。また、2008年(平成20年)12月、高野山らしいお寺を中心とした景観を維持するため独自の景観条例を施行、ファサード整備の補助金の創設と合わせ、景観の維持向上に努めています。

電柱の地中化が実施された様子の写真

電柱の地中化を計画的に実施

ファザード整備の補助金で景観を向上させた建物の写真

ファザード整備の補助金で景観を向上

案内板や誘導板等のサインについては、景観に配慮し多言語を羅列するのではなく、日本語と英語の二カ国語に絞り表記、シンプルなものにするかわりに、世界共通のピクトグラムを導入することで、「見て解る」ものに統一しています。また、英語表記については、国土交通省の「多言語案内表示ガイドライン」に則り、「意味の伝わる表記」とするよう努力しています。案内板については日本の観光地に多いイラストマップではなく、外国の観光地の多くで利用されている距離や方角が直観的に解る地図をベースとしたものを使用するようにしています。

2013年(平成25年)からは、町独自の補助制度にてWiFi環境の充実を図って来ました。宿坊や飲食店を対象に2カ年で14箇所を整備。この甲斐あって、外国人観光客が多く利用する宿坊については、ほとんど全館全室でWiFiが利用できるようになり、宿泊される皆さまから喜んで戴いています。

また、和歌山県トイレ大作戦の補助制度を利用し、老朽化した高野山内の公衆トイレの改修を実施、自動洗浄便座やオストメイトへの対応、ヒーター、多目的トイレが設置され、綺麗で利用しやすい公衆トイレとなっています。

今後の課題

今後も外国人に優しい参拝観光地としての高野山を維持するため、本年度において、一般財団法人全国市町村振興協会の助成を戴き、WiFi機能付き自動販売機を活用した街中WiFiの充実や観光拠点へのWiFiの導入を進めるとともに、地方創生交付金(先行型)を活用し「観光ナビ」(多言語スマートフォンアプリ)を開発しております。これらの取り組みにより携帯電話が利用しにくい外国人観光客の利便性が向上することで、滞在時間の延長や、より深く高野山を知ってもらうことにより、リピーターの増加や口コミでのPRが充実することを期待しています。

また、日本政府観光局(JNTO)や和歌山県などから依頼される海外旅行会社や海外メディアのファムトリップなどの受け入れを強化すること、海外旅行会社や海外メディアとの商談や情報交換を行うなど地道な努力も必要と感じています。9月下旬東京ビッグサイトで行われた「VISIT JAPAN トラベル&MICEマート2015」に高野山内の観光関連団体と協働し高野町ブースを出展、20社を超える海外旅行代理店、海外メディアと商談や情報交換を行いました。

今後、海外各地で行われる旅行博覧会へも積極的に参加し、「聖地高野山」の正しいイメージを一般にも直接PRする必要性を強く感じております。

また、高野町とイタリア国ウンブリア州ペルージャ県アッシジ市との間に、「高野町アッシジ市 日伊世界遺産都市の文化・観光相互促進協定」が締結されており、この関係性を大切にするとともに、ヨーロッパ諸国などキリスト教圏からの観光客を誘致するための切っ掛けとして大いに活用していきたいと考えています。同じく本年釈迦の生誕地であるネパール国ルンビニと交わした「世界遺産都市の文化・観光相互協定」についても、何らかの形で今後インバウンドに寄与してくれるのではないかと期待をしています。

ひとつひとつ確実な対応を重ねることで、よりよい参拝観光地高野山を創造すべく、今後も努力を続けて行きたいと考えています。

根本大塔の写真

空海が建立を進めた根本大塔

金剛峯寺山門の写真

金剛峯寺山門


i 現在の橋本市隅田町真土

ii 本年4月2日から5月21日の50日間、「高野山開創1200年記念大法会」が執行され、60万人の参拝観光客が訪れた。

iii 和歌山県、奈良県、三重県にまたがる仏教(高野山)、神道(伊勢)、修験道(吉野)の聖地とその聖地を繋ぐ道が世界遺産として登録されている。

iv 2014年(平成26年)、「天山回 廊の道路網(シルクロード)」が道として世界遺産に登録されている。

v 関西国際空港の役割も非常に大きいと考えられる。