早川町の子供たち
山梨県早川町
2942号(2015年12月7日) 早川町 教育委員会
山梨県早川町は県の西端に位置し、昭和31年に早川流域の6ヶ村が合併して早川町として発足しました。面積は369.86k㎡、その内95.3%が山林を占めており、 県内の町村の中では最大の面積を保有しています。
地形は櫛形山系及び白根山系に囲まれた山岳地帯で、北は南アルプス白根三山の間ノ岳(標高3,189m)南は霊峰七面山(1,982m)まで山岳が連なっております。 町の最も低地は南部の身延町と接する標高約300m、町のほぼ中央を北から南に流れる早川に多くの小支流が注いで渓谷美を形成しています。
早川町はその川沿いと山の中腹に、南北25㎞、東西15㎞内に36の集落が点在して町が成り立っており、いわゆる街という形態は無い典型的な山間の過疎地であります。
昭和の合併当時の人口は8,116人、世帯数1,588世帯でしたが、過疎化の厳しい波にさらされ、平成22年の国勢調査時の人口は1,246人、世帯数681世帯と激減し、 平成の合併以降は全国一人口が少ない町となってしまいました。
働く場所として、町内には13の水力発電所(4事業所)や、観光(温泉客・登山客)と林業・養蚕・養豚・土木業などで収入を得ていましたが、昭和50年代に入ると観光の形態も変わり、 林業は外材に、養蚕・養豚も外国の産物に、発電所は自動化で町内に働く場所がなくなってきました。また、高校が町内にはなく、町の中北部の生徒は遠くて通学できないため、 中学卒業と同時に甲府方面に家族で引っ越すというように、町外に働く場所を求め他出ということも人口減少の原因となっています。
過疎化による人口の減少、高齢化の進行、財政事情の悪化など自治体運営には非常に厳しい状況ではありますが、町民が誇りを持ってふるさとで暮らすことが出来るまちづくりを目指して、 新たな施策の展開を行っています。
早川町は、昭和の合併以降早くから施策を積極的に展開し、南アルプス邑計画などの旧村一地区一拠点づくり、東京都品川区とのふるさと交流や山菜祭り、 地球元気村などを取り入れたまちづくり、また、地域の特産品などを創造するための南アルプスふるさと活性化財団を設立し、事業を展開してきました。
これらの成果をもとに地域づくりの理念として、日本上流文化圏構想を掲げ、次の3つのシンボル施策のもと町のシンクタンクともいえる上流文化圏研究所を設立しました。
これらの考え方から様々な施策を進めてきましたが、急速に変わっていく産業構造と人々の生活観の変化に施策が追いつかなくなるという課題も出てきました。
ここ数年来で進んだ平成の合併は本町では行なわず、単独での存続を選択して、小学校2校(南部と北部)中学校は1校(中心地)で存続する、と決めたのには大きな理由があります。
一つ目には、こういう過疎の町は民間の活力が乏しくなりがちで役場の職員が地域の中核を担う面があるからです。
たとえば、地区公民館・地区体育協会・地区消防団・地区財産区管理会、また、その他の団体事務局役員等を職員が受け持つことや、地区・集落に職員が居るところは、 役場からの公用の配布物・手紙等も職員が配達等しており、地区集落の状況や様子も一目瞭然です。
このようなことから、合併したことを考えると「町民に対する行政サービスが出来なくなる、様々な事業が後回しにされる」という事が懸念されます。
二つ目は、何と言っても学校というところは地域の拠り所となっていて、「学校が無くなれば子どもの声が聞こえなくなり、より一層地域に活気がなくなってくる」からです。
ありがとうコンサート(早川南小吹奏楽)
教育面では、合併当時小中学校は6校ずつあり、小学校1,176人、中学校は411人でしたが、この59年間で児童生徒数も減り、平成26年度の時点で小学校は2校38人、 中学校1校28人という現状です。今後も児童生徒の減少は続くものと推測され大きな課題となっています。
児童数は少なくても笑顔があふれる早川北小の児童
ここまで述べたとおり少子化に対応した子育て環境の充実は、町政の最重要課題となっており、このようなことからまず取り組んだのが、児童・生徒数を増やすための施策です。 平成15年から家族(親子)で早川町に居住してもらう「山村留学制度」を発足しました。募集対象は園児を含む、児童・生徒がいる家族という条件です。この制度に町では、 全面的に教育委員会・学校等がサポートしてきており、その内容は、
これらの取り組みの成果から、今までに21世帯44人の児童生徒が早川町に山村留学で転校、入学してきています。それぞれ様々な家族構成ではありますが、 義務教育の中学校を卒業する時には、早川町に来て良かったと皆さん語ってくれております。
山村留学制度の宣伝(東京での田舎暮らしセミナー開催)
次に、子どもや子育て家庭を行政が積極的に支援し、安心して子供を産み育てることが出来るまちづくりを目的に、教育委員会では、町長・議会・教育委員・保護者・教員のご理解を得て、 平成24年から「義務教育経費無償化事業」「学校給食費無料化事業」に取り組みました。
これらの無償化は県下はもとより、全国的にもあまり例がなく、早川町が取り組む子育て支援の重点施策として実施しています。また、この義務教育経費に掛かる予算は、 子どもの人数にもよりますが、試算して年に約350万円で、給食費の方もほぼ同程度の額の予算措置を、皆さんからご理解していただいているところです。子育て世代においては、 子育て支援の「義務教育経費無償化」「給食費無料化」により、少しでも教育にかける負担が軽減され、その分他の生活費等に支出できるため家計の大きな助けになると思います。 また、山村留学受け入れに対しても良いPRとなり、近年では平成24年6世帯、平成25年4世帯、平成26年2世帯の受け入れをしました。
学校給食を受ける児童生徒の保護者が、学校給食法の規定により負担する経費を補助することによって、保護者の教育費の負担を軽減し、 家庭生活環境の向上と安心して子供を産み育てやすい環境づくりを支援することを目的として交付するものです。(小学校児童1人当たり月4,700円、中学校生徒1人当たり月5,400円無料。)
現在は子どもの数が少ないので、このくらいの予算で無償化が出来ていますが、人数が多くなってくると財政負担にもつながること、また、 義務教育無償化によりこれからは何でも無償化にという考え方になるのは困るので、無償化についてPTAや各教育会議において理解を求めていくことが必要と考えています。
学校の教育以外に、子どもたちへの地域教育を進めていくため年間を通して体験型の教育プログラムも組み、町内のNPO法人と委託して「早川子どもクラブ」事業を進めています。 子どもたちに早川町の歴史や文化、自然を体験してもらい、早川町の生活の楽しさや大切さに気付いてもらい、ここで育ったことを誇りに感じてもらうようにと、 地元住民が講師になり町内に伝わる伝統文化や技術の伝承を行うものです。
フィールドアスレチック(早川子どもクラブ)
このほか、町全体としての子育て支援の取り組みとして、
このように子育て支援に町全体として取り組んでいます。
早川町には南北小学校2校・中学校1校と、小規模校ながらそれぞれ特色ある早川教育を行っています。学校の勉強ばかりではなく、南小学校では伝統ある吹奏楽の演奏を児童、先生、 地域の方と一緒になって取り組み、北小学校では地域に伝わる民話や芸能をお年寄りから聞き取り、それを民話劇にして披露しています。中学校では、合唱や地域に伝わる白鳳太鼓の演奏や、 南アルプス神輿を担ぎ、祭に参加しています。この他、放課後の陸上競技活動にも地域のボランティアを招いて多大な成果を得ています。このように、PTAや教育委員会、 地域の方々が一体となって学校を支えています。
地元の民話劇を演じる早川北小の児童
全校生徒による白鳳太鼓演奏(早川中)
町内の間伐材で作った机で授業を受ける早川中の生徒
年の瀬の餅つき(早川子どもクラブ)
早川町は人口が少なく小規模校ゆえの、教育理念があります。
このような理念に基づき、教育に力を注いでいます。また、昨年度教育委員会では、全国初と思いますが、地方新聞に広告を掲載しました。
紙面には「小さいけれど、 笑顔はでっかい」日本一人口が少ない町の素敵な学びができる学校と題し、「学力がつかない?」・「社会性が培われない?」・「競争意識がなくなってしまう?」といった小規模校に対する誤解を受けやすい部分に応える形で、 学校の現状を発信しました。
前記のメリット、デメリット両方の面があると思いますが、良い反響も多く掲載して良かったと思っています。
本町の学校教育は、町が抱えた過疎問題への取組とともに学校の小規模化への繰り返しの中で、弛みない学校教育への努力の積み重ねが、本町におけるへき地教育の歴史であると言えます。
減少し続ける児童生徒数は、本町だけではなく全国的な問題ではありますが、このことは町の深刻な最重要課題となっています。今まで山村留学や義務教育無償化等、 近代的な学校設備を取り入れて早川教育を推進してきましたが、学校が学校であるべき最小の規模を維持できなくなる事態も予想される中、喫緊の課題である児童生徒数の確保を早川町全体で考え、 取り組んでいかなければならないと考えます。
今すぐに・・・・。