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宮崎県綾町/綾町の自然生態系農業の取り組み~持続可能な美しいまちを目指して~

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年11月16日更新
照葉樹林の写真

町づくりのシンボルとなった照葉樹林


宮崎県綾町

2940号(2015年11月16日)  綾町 農林振興課


今や我等綾町農林業者は、綾町憲章「自然生態系を生かし育てる町にしよう」の基本理念を更に追求し、土と農の相関関係の原点を見つめ、従来すすめてきた自然生態系の理念を忘れ近代化、 合理化の名のもとにすすめられた省力的な農業の拡大に反省を加え、「化学肥料、農薬などの合成化学物質の利用を排除すること。」「本来機能すべき土などの自然生態系をとりもどすこと。」「食の安全と、 健康保持、遺伝毒性を除去する農法を推進すること。」を改めて確認し、消費者に信頼され愛される綾町農業を確立し、本町農業の安定的な発展を期するため、本条例を制定する。

~「綾町自然生態系農業の推進に関する条例」前文後段より~ 

1.綾町の概要

綾町は、宮崎県のほぼ中央部、宮崎市の西約20㎞に位置し、人口7,500人の農業を基幹産業とする緑豊かな農山村の町である。総面積9,500㌶のうち森林が7,600㌶(80%)を占め、 耕地は740㌶(8%)に過ぎない。 

町の北西部には、3,400㌶という国内最大規模の照葉樹(カシ、シイ、ツバキなどの常緑広葉樹)の自然林が今なお残されている。この一帯は、 1982年(昭和57年)に九州中央山地国定公園に指定され、照葉樹林の森からの湧水は「名水百選」にも選ばれ、更に、2012年(平成24年)には自然との共生が認められ「ユネスコ エコパーク」に登録されている。 このように恵まれた自然を背景に、「照葉樹林都市・綾」を基調として、基幹産業である農業は「自然生態系農業の町・綾」、木工、陶芸、 絹織物など40を超える工房が点在する工芸では「手づくりの里・綾」を掲げてまちづくりを進めている。

2.住民の自然保護運動が農業のまちづくりを進める

綾町のまちづくりの歴史的な背景として、国内最大規模の照葉樹林地帯の伐採計画を住民運動で阻止したことが挙げられる。この自然保護は国定公園への指定運動に発展し、 町民の意識を自然保護と農業の振興へと大きく変え、その後のまちづくりは照葉樹林の豊かな自然を背景に進められている。 

かつてヒマラヤ南麓部から中国雲南省を経て西日本全域に広がっていた照葉樹の森には、漆や蚕、こうじを生かした食物など共通の文化的特色が見られ、日本文化の起源の一つともいわれている。 祖先から受け継いできた知恵や生活文化を大事にし、ぬくもりのある地域をつくり上げ、自然の豊かさに価値を見いだすことのできるまちこそが、綾町の目指すまちづくりである。 

高度経済成長時代、消費は美徳という考え方の下で、非生産的な手づくり工芸品は認めてもらえず、厳しい時期があったが、使う人の身になって丹念に作られる工芸品は、 その後少しずつ認められるようになった。85年(昭和60年)にケヤキなど銘木を使って再現された「綾城」や工芸の殿堂「国際クラフトの城」の完成で、綾町の手づくり工芸は多くの人に知られるようになった。 現在は綾町の自然に魅せられ、町外から多くの工芸家が移り住み、木工、陶芸、絹織物など40を超える工房が開かれ、「手づくり工芸の里」として綾町のまちづくりの一翼を担っている。

照葉大吊橋の写真

照葉大吊橋(通称:綾の大つり橋)

3.全国初の自然生態系農業推進条例を制定

綾町の自然生態系農業は、1973年(昭和48年)に「健康で住みよい町づくり」の一環として、安全で新鮮な野菜による健康な食生活を目指し、野菜の種子の無料配布と一坪菜園を奨励したことから始まった。 

土づくりの基本である有機質肥料の確保のため、し尿を液状堆肥化する自給肥料供給施設、豚糞を堆肥化する家畜糞尿処理施設、 家庭の生ごみと畜産廃棄物を混ぜ合わせて有効活用する生活雑廃コンポスト製造施設などを設置し、町内で得られる有機物を農地に還元し、資源循環を行う体制を整備した。 

1988年(同63年)には全国に先駆けて「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定し、自然生態系農業の基準の設定と審査方法、審査結果による認証方法など、 綾町が責任を持って健康な野菜を提供していくシステムを確立した。また、2001年(平成13年)には、全国の市町村で初めて有機JAS登録認定機関の登録を受け、 その認定を受けた農家は全国に向けて有機農産物を出荷している。  

自然生態系の推進に関する条例の仕組みの画像

自然生態系の推進に関する条例の仕組み

4.手づくり本物センターと都市部消費者との交流

農産物の販売の面からは、一坪菜園で作られた野菜を持ち寄って販売する青空市場を開設し、町内外の消費者の高い評価を得て今日の「綾手づくりほんものセンター」に発展していった。 販売高約3億円のうち農産物が50%を占め、客層の90%は健康でおいしい農産物を求めて訪れる町外の消費者であり、「綾ブランド」の確立に大きく寄与している。 

自然生態系農業を進めていくためには、消費者の理解を得ることが大切である。都市部の消費者を対象に農産物の収穫を直接体験してもらおうと、 宮崎市内の400人を対象に「ふれあい収穫体験」を毎年実施している。 

毎年11月には「有機農業推進大会」を開催し、生産者・消費者約700 人が集い、農家の事例報告や講演などを通じ、お互いの理解を深めている。 食文化の集いとして開催する「町と村を結ぶ食のふれあい広場」は、17の有機農業婦人部が地域の農畜産物を使い、地域特性のある手づくりの料理を作り、その料理を囲んで消費者と生産者が交流を深め、 郷土の食文化を見直す機会を提供している。  

綾手づくりほんものセンターの写真

消費者との交流拠点「綾手づくりほんものセンター」

5.ふるさと納税制度

ふるさと納税制度とは、出身地や応援したい地方自治体に寄付することであり、平成20年度に総務省が創設した。綾町では、1万円以上の寄付をしていただいた方へ、感謝の気持ちとして綾牛、 綾ぶどう豚、有機野菜、工芸品など綾の特産品を送付している。 

現在では、多くの方々からご支援をいただき、平成26年度には寄付者数6万7千人、寄付金額にして約10億円のご支援を賜ることができた。 

また寄付金の一部は、「次世代を担う青少年育成事業」「高齢者を敬う福祉事業」「自然生態系農業に関する事業」などの町づくり事業として有効的に活用している。  

ふるさと綾の応援団

さまざまな野菜の写真

綾町の恵みの品々をお届けします

6.全集落の自治活動推進と地域環境に対する関心

綾町のまちづくりを支えている組織として、町内22の全集落に自治公民館組織があり、行政と共に車の両輪となってまちづくりを進めている。この制度は、 自らの負担により自らの発想で郷土愛を持って生活文化を高めようとするもので、その活動は生涯学習の発表会としての手づくり文化祭や、町民総参加の花のまちづくり運動など、 産業の振興から社会教育に至るまで広範に及んでいる。 

綾町の自然生態系農業の取り組みは、長い歴史を経て築き上げられたものであり、消費者との各種交流事業の中から、生産者も「安心・安全な農産物を消費者に提供したい」との意識が高く、 地域の環境についても関心を深めるようになった。 

こうした中、綾町の取り組んでいる「本物を求め、本物をつくる町づくり」の様々な施策が、「選んでもらえる産地」としての「綾ブランド」を高めることにつながっていくものと確信している。 環境問題に対する関心が高まり、食の安全性や環境に配慮した農業が進められている今日、商品としての美しさよりその産物のできるプロセスを重要視する姿勢こそが、綾ブランド確立の基本である。 綾町の農産物なら本物であるという、生産者と消費者との信頼の上に築かれた〝顔の見える関係〟こそが、農業の活性化につながると信じている。  

自然生態系農業の写真

本物を求め本物をつくる自然生態系農業