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長崎県小値賀町/観光資源は「島の暮らし」~小さくても輝く島の挑戦~

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年6月1日
小値賀の「民泊体験」の写真

2年連続世界一の評価を受けた小値賀の「民泊体験」


長崎県小値賀町

2921号(2015年6月1日)  小値賀町 総務課企画係


小値賀町の概要

小値賀町は、長崎県五島列島の北端部に位置する外海離島で、小値賀本島を中心に大小17の島で構成される火山活動によって生じた珍しい群島です。総面積は25.46k㎡で、 島嶼部でありながら地形は平坦であり、複雑な海岸線が織りなす美しい自然環境に恵まれ、島のほとんどが西海国立公園に指定されています。 

主な産業は漁業、農業そして観光業です。以前は漁業者が多かったのですが、魚価の低迷、燃油の高騰、磯焼け問題等が影響し、年々減少傾向にあります。 後継者育成制度や全国に先駆けて漁船の燃油補助等の振興策を実施していますが、長く厳しい状況が続いています。 

一方農業は、10数年前に実施された国の畑地帯総合整備事業により圃場やダム等が整備され、後継者や新規就農者が増えてきているほか、近年は子牛の高値などが続いていることもあり、 町の基幹産業として振興されています。

そして、今回ご紹介する観光事業は「アイランドツーリズム」の展開で、平成18年度以降観光客数は徐々に伸びを見せており、町の新たな産業となって注目されています。

「地域づくり総務大臣表彰」大賞を受賞

人口約2,600人の小値賀町が、平成24年度「地域づくり総務大臣表彰」の大賞(第1位)を受賞しました。これは、地域の個性豊かな発想を活かし、住民をはじめ、 様々な主体が取り組む魅力あふれる地域づくりに顕著な功績のあった団体、民間企業、地方自治体及び個人を表彰するもので、30回目を迎える記念表彰において、長崎県で初の大賞受賞となりました。 

受賞した理由は、有名な観光資源が乏しい中、NPO法人や島民、行政が協働して、 基幹産業である農業・漁業と自然環境を活用し、「グリーンツーリズム」、「ブルーツーリズム」、「エコツーリズム」を一体化した町オリジナルの「アイランドツーリズム」による体験型観光に取り組んでおり、 中でも民泊を中心とした体験プログラムは、住民の主体性を引き出し、全国の離島活性化の模範となる先進的な取り組みであると高い評価を受けたためです。 

もちろんこの取り組みは、一朝一夕で築かれたものではなく、様々な難題と直面しながらも、島民の知恵と努力によって乗り越えてきた結果ではないかと思っています。  

今回の「現地レポート」では、過疎化の流れの中で小値賀町が各産業や分野においてどのような変遷をとげてきたのか、また小値賀町の体験型観光の現状と課題などをご紹介したいと思います。 

民泊の様子の写真

民泊では島の暮らしを肌で感じます

小値賀町の体験型観光のはじまり

小値賀町の体験型観光のはじまりは、小値賀本島の東海上に浮かぶ急峻な地形の野崎島にある「野崎島自然学塾村」に端を発します。 

「野崎島自然学塾村」は、昭和60年3月末で廃校になった小値賀中学校野崎分校の校舎を活用し、昭和62年度から平成4年度に改修工事を行いながら、平成元年度当初に開設した簡易宿泊施設です。 

当時は、バブル景気の余韻残る世相で、観光は海外旅行が主流でしたが、手つかずの自然が残る野崎島の魅力は口コミで広がり、開設2年目には初年度の約3倍に上る2,319人の利用がありました。  

開設から数年間の運営形態は、春から秋までの期間限定で、小値賀町が臨時雇用した管理人が常駐するのみで、体験プログラムの提供やツアーガイドの機能はありませんでした。 

そこで、平成10年度から12年度にかけて環境省の「ふるさと自然塾」事業を活用して、野崎島での体験事業について検討と試行を行い、 本格的な体験プログラムの提供が可能な任意団体「ながさき島の自然学校」を平成13年度に設立しました。 

「ながさき島の自然学校」は、

  1. 町民・島民全員が参画する持続性のある自然学校
  2. 地域の資源を再発見し、これを活かした環境づくりや環境教育の場
  3. 都市交流による滞在型体験自然学校
  4. 生き生きとした活力ある島文化共和国の創生

この4点を主な目的として活動を行い、カヌーツーリングや野崎島エコツアー、漁業体験や子どもキャンプなどの事業をボランティアスタッフである住民が協力して実施していました。 

「ながさき島の自然学校」は子どもたちの自然体験では一定の成果がありましたが、1人のIターン者が小値賀の日常に目を向け、 都市との交流拡大のため農家や漁家に直接宿泊してもらう宿泊形態を提案、平成18年度に「小値賀町アイランドツーリズム推進協議会」を設立し、 現在の小値賀観光の核ともいうべき「民泊」(農林漁業体験民宿)の取り組みが始まりました。 

ツーリズム事業の推進にあたり、平成19年には、 従来からあった「小値賀町観光協会」と前述の「ながさき島の自然学校」及び「小値賀町アイランドツーリズム推進協議会」の3者を統合して「NPO法人おぢかアイランドツーリズム協会」を設立、 小値賀町内での体験事業及び民泊、観光情報の案内に関するワンストップ窓口として業務を行っています。 

海水浴の写真

子どもキャンプで一番人気はやっぱり海水浴

体験型観光の現状

現在、小値賀町内で実施している自然体験は、小値賀島と野崎島の2つのフィールドに分かれます。 

野崎島内では、島の歴史的資産や自然を活かした内容となっており、 かつての集落跡を巡るツアーや潜伏キリシタンが居住していた集落跡や遣唐使時代に建立されたといわれる神社への山道を歩くトレッキングツアーや遠浅の砂浜を持つ入り江でのシーカヤック体験を行っています。 

小値賀島内では、島の風景を楽しみながら自転車で巡るサイクリングツアーや東シナ海に沈む夕陽を楽しむサンセットツアーなど、手軽なものが主となっています。 

小値賀町内で行っている民泊は、「長崎県農林漁業体験民宿推進方針」に則って行われており、そのうえで旅館業法や消防法の規制緩和を受けて実施されています。 

町内の民泊実施者は「NPO法人おぢかアイランドツーリズム協会」の会員になることで利用者の予約受け付けや利用料の収受は同法人が行うシステムになっています。 

民泊での体験内容は、その家庭の生業である農業や漁業に関連する作業を基本としながら、波止場での魚釣り体験や小値賀の郷土料理作り、島の周囲に広がる磯場での生き物観察などです。 

また、小値賀島内での旅館や民宿及び前述の民泊とも異なる宿泊形態として、小値賀町が所有する古い民家を改修し、宿泊施設として供用している事業が古民家事業です。 

この事業は、東洋文化研究者のアレックス・カー氏が初めて小値賀町を訪れた際に、「町内に残る古民家を改修することで新たな観光資源となる可能性が高い」と語ったことに端を発します。 

その後、京都で行われていた先行事例の調査や活用可能な補助メニューの検討などを行い、国土交通省と農林水産省の補助事業と過疎債等を利用し、現在までに古民家レストラン1棟、 古民家ゲストハウス1棟、古民家ステイ4棟を整備しました。この古民家ステイ及び古民家ゲストハウスは小値賀島に点在し、趣も周りの風景も異なっています。 

それぞれの建物の歴史やたたずまいを感じ、「暮らすように旅する」ことができるように1組1棟貸し切りの宿泊形態としています。 

現代風にリノベーションされた古民家の写真

現代風にリノベーションされた古民家

体験型観光の評価

民泊事業や体験プログラム事業の充実とツーリストの増加により、 小値賀町は次第に注目されるようになってきました。「第4回JTB交流文化賞 最優秀賞」(第1位)、 「毎日新聞社2008グリーンツーリズム大賞(農水省&国交省関連)優秀賞」(第2位)、「第4回日本エコツーリズム大賞特別賞」(第3位)、「オーライニッポン大賞グランプリ(内閣総理大臣賞)」(第1位)、 「PTPアメリカ国際親善大使プログラム 世界№1表彰」(2年連続)など、NPO法人おぢかアイランドツーリズム協会が全国規模の表彰を相次いで受賞しました。このような表彰もあり、 マスコミへの登場も増えた結果、多大なコストをかけずにPRすることが可能となり、認知度と集客拡大の好循環も生まれています。

民泊先のお母さんに郷土料理を習う子どもたちの写真

民泊先のお母さんに郷土料理を習う子どもたち

体験型観光の課題

今提供しているほとんどの体験プログラムが、恵まれた自然を活用した体験や歴史的建造物の観光など、表面的でテーマや物語づくりに未だ欠けていると思われます。 

原因として、フィールドとしている場所や建造物についての歴史や成り立ちに関する情報を持ったガイドがいないことや体験プログラムを組み立てる際に、テーマや物語を意識していなかったことが挙げられます。 

現在の体験プログラムは、他地域でも類似のものが提供されており、民泊について言えば、長崎県内はもとより九州各地でも実施されていて、その多くが小値賀町より利便性の高い地域となっています。 

地理的条件が不利な小値賀町が、そういった中で魅力ある体験型観光地として生き残っていくためにやるべきことは多いと感じています。 

海の写真

今後も小値賀ならではのプログラムづくりが求められます

小値賀観光のこれから

小値賀町には温泉やテーマパークは無く、あるのは四方を囲む海と緑あふれる島々とそこに暮らす住民の人情です。

この島を余すことなく体験してもらうために何が必要か考えた時に「小値賀らしさ」は欠かせないと考えます。さらに言うと「これは小値賀でしかできない」、「小値賀だから感動できる」ものを作っていく必要があると言えます。

さらに、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界遺産登録が現実味を帯び始めている中、 今後はこの小値賀観光の魅力を高めるためにも、「島である小値賀だから感動できる」体験型観光を作り上げていかなければと考えています。  

野崎島の旧野首教会の写真

世界遺産の構成資産の一つである野崎島の旧野首教会

おわりに

小値賀町が持つ潜在的な魅力、恵まれた自然環境や歴史文化というものに目を向けて、それを大切にした社会環境の整備を図りながら、住民が自然との共生の中で、 健康で満ち足りた生活を過ごすことが外部から訪れる人たちに魅力的に映る、そういう地域づくりを進めていきます。 

また、「小さな島の大きな絆」で、小値賀ファンを増やし、雇用を創出することで地域を活性化し、将来にわたり本町が「小さくても輝く島」として、持続可能なまちづくりを展開していきたいと思います。 

夕焼けと動物の写真

西の果てから、日本に元気を届けていきます