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福岡県福智町/まちの魅力を結集した平成の大茶会~人口を上回るPRイベントの実現~

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年4月6日
福智山の中腹に咲く推定樹齢600年のエドヒガン「虎尾桜」の写真

福智山の中腹に咲く推定樹齢600年のエドヒガン「虎尾桜」


福岡県福智町

2915号(2015年4月6日)  福智町 まちづくり総合政策課


上野焼と童謡の里・福智町

福智町は、平成18年3月に赤池町・金田町・方城町の3町が合併して誕生した人口約2万5千人の町です。名峰・福智山が裾野を広げ、遠賀川水系の彦山川が貫流する環境の中で、 今日まで豊かな文化が育まれてきました。町内には福智修験ゆかりの文化財や足利尊氏ゆかりの古刹「興国寺」、宮本武蔵ゆかりの「常立寺」などが点在。 福岡県内最大最古で樹齢6百年のエドヒガン「虎尾桜」や樹齢5百年の大藤「迎接の藤」、上野峡の瀑布「白糸の滝」など、天然資源にも彩られています。

また、かつては、わが国のエネルギーを支えた筑豊炭田の一角として、屈指の鉱山を有する炭鉱の町として栄え、 近代化遺産も残されており、「かもめの水兵さん」や「うれしいひなまつり」など、数々の名曲を残した作曲家・河村光陽の生誕地として、音楽の町づくりも展開しています。 そのような多彩な歴史や文化を誇る福智町ですが、なかでも町を代表する地域資源が伝統的工芸品の「上野焼(あがのやき)」です。 

興国寺の写真

足利尊氏ゆかりの古刹「興国寺」

上野焼の写真

利休七哲の大名茶人、細川忠興が創始した上野焼(あがのやき)

人口以上の参加者を誇るメーンイベントの実現

現在21の窯元が点在する「上野焼」は、千利休の高弟で当時屈指の大名茶人・豊前小倉藩主の細川忠興が、李朝陶工の尊楷を上野の地に招いて開窯した国焼茶陶。 御用窯かつ藩窯としての歴史を重ね、4百年以上の伝統が受け継がれている国指定の伝統的工芸品です。その歴史も伝統も誇るべき陶芸ブランドなのですが、近年のライフスタイルの変化や、 焼きものばなれが進むなか、その影響を受け、上野焼4百年祭をピークに売り上げも知名度も伸びず、入り込み客数も減少の一途をたどっていました。

一方で、観光スタイルが多様化し、隣接する田川市の「山本作兵衛炭鉱記録画」が世界記憶遺産に指定されたこともあり、地域には徐々に観光客が訪れるようになってきました。 このようなニーズと環境の変化により、従来の観光地ではない福智町でも、手法や展開次第で成果を挙げる可能性がひろがったことを認識し、 福智ならではの風土や魅力を活かした観光のまちづくりを加速させることになりました。そこで求められたのが、まだまだ知られていない「福智町」や「上野焼」の知名度を向上させ、 交流人口と地域活性化を高め、内ではなく外に向けた、観光型のシンボルイベントでした。 

どうしたら集客できるか、いかにすればPR効果や経済効果が得られるのか。そのことを追求した結果、福智ならではの魅力を融合させる手法を取り入れることにしました。 単体では弱い地域資源の力でも、結びつけることで相乗効果が発揮され、強くなります。実際「上野焼陶器まつり」だけでは従来のように集客できないという課題も背景にありました。 そこで取り組んだのが「フクチ・ファインド・フェスティバル」です。郷土の食、上野焼の器、童謡の町の音楽、それら「食」と「器」と「音楽」の出会いをテーマに福智を広くPRし、 地域ブランド化へとつなげる取り組みに着手。フュージョン(融合)↓ファインド(発見)↓ファンの「3Fサイクル」の創出を目指して、福智ならではの魅力のコラボレーションを核に企画。 さらに、打ち上げ花火的な一過性の成果ではなく、新たな福智の魅力となりうる資源を生み出すことを主題に掲げました。  

初回は「ご当地グルメ」をテーマに特産品開発委員会を立ち上げ、日本最大の炭鉱爆発事故をルーツに、炭鉱長屋で育まれた「福智名物・方城すいとん」を発掘しました。 その後、ご当地グルメで町おこしに取り組む「福智好いとん隊」が発足し、日本青年会議所主催の「全国地域活性たからいち」では飲食部門で70団体中第1位を獲得。 本年度、町内でメニュー化する店舗も10店舗まで増加し、学校給食メニュー化も実現しました。

2回目は「福智ブランド」をテーマに、新たな町の特産品として「ふくち☆リッチジェラート」を開発し、発表披露。上野焼のビアカップにあう絶品グルメを集め、 上野焼をはじめとした町内27軒の全窯元が参加する「陶器まつり」も初めて実現し、1万5千人が来場しました。その後、一般社団法人「福智ブランドファクトリー」を設立し、 福智素材と手作りにこだわった「ふくち☆リッチジェラート」を展開。今ではコンビニエンスストアをはじめとする30店舗以上の販路開拓を達成し、雇用と経済とPR効果を生み出しています。 

ふくち☆リッチジェラートの写真

新たな町の特産品として開発した
「ふくち☆リッチジェラート」

福智名物「方城すいとん」の写真

福智名物「方城すいとん」

そして3回目となる昨年、上野焼の茶陶という最大の魅力に着目。催しを茶会に見立て、日本文化の総合芸術ともいわれる茶道と、そこに欠かせない茶器、抹茶、茶菓子(スイーツ)、 そして一期一会のおもてなしといった、福智にしかないエッジの立ったコンセプトを設定しました。 上野焼の「器」の魅力と「お茶」と「スイーツ」の魅力が互いに高まり合う「平成の大茶会」をテーマとした空間を創出し、ここに「福智スイーツ大茶会」という町の一大イベントを生み出すに至りました。

これまでの取組みの中で、イベントは、結果よりもむしろ、そこに至るまでのプロセスにこそ価値と意義があることを学びました。また実務を通じて、 真のシティプロモーションは業者委託では限界があり、心を込め、血の通ったPRでなければ人の心を動かすことはできないことを実感しました。 たとえ多額の委託金を使って派手なイベントができたとしても、上っ面なPRしかできず、地域が何かを得たり、そこに残るものは少ないと感じています。こうした振り返りを生かす形で準備を進め、 上野焼協同組合や商工会、文化連盟はもちろんのこと、日ごろ町づくりを支援いただいている日本航空やTOTO、福智町に本社を置く平成筑豊鉄道をはじめ、JR九州や西鉄といった企業、 地元の福岡県立大学のご尽力を得ながら、つながりの力を最大限に発揮するイベントとして「フクチ・ファインド・フェスティバル」は昇華を遂げました。そして、 趣旨に賛同いただいた福岡県洋菓子協会の絶大なご協力により、有名店をはじめとする36店舗の出店で、福岡県内最大規模のスイーツイベントが実現。町の人口を上回る3万人の来場と、 数千万円の経済効果とPR効果を残すことができ、町のメーンイベントに位置づけられるまでになりました。 

駅ホームの写真

日本航空やトヨタ自動車九州、TOTOなどの企業と連携した取り組みも展開

取り組みが産んだつながりと気づき

4回目となった今年は、42店舗もの出店により、九州最大規模のスイーツイベントとして実現。前回を上回る規模の集客と経済効果、PR効果を上げ、 平成筑豊鉄道の沿線自治体を巻き込んだ広域連携による取り組みに拡大しました。 大茶会をコースに含んだ旅行会社の観光ツアー企画や博多の一流シェフ集団「博多ミラベル21」監修による「ふくち☆リッチジェラート」の新作披露。さらには、 国内でも例を見ない陶器製上野焼の特製タンブラーの開発など、後の地域資源となるイベント成果も残すことができました。 

福智スイーツ大茶会の開場前の写真

福智スイーツ大茶会の開場前、金田駅まで長蛇の列が並んだ

博多ミラベル21とのコラボレーションの写真

博多ミラベル21とのコラボレーションも実現

そしてうれしいことに、延べ100人にも及ぶ行政職員のイベントスタッフ間にも、単なるお手伝いではなく「一緒に成功させよう」という意識共有が芽生えました。 他の真似ではなく福智にしか出来ないもの、地域資源を活用する取り組みから、携わる私たちが「福智らしさ」の素晴らしさに出会い、故郷の魅力やポテンシャルに気づけたのではないかと思っています。 当初の目的どおり、ただの人寄せのイベントには終わらせたくなかった大茶会。それはやがて、住民のみなさんの共感や驚きと発見、そして誇りを生んだことを実感しています。 

その背景には、業者委託ではなく、関係者の熱意と、そこで生まれた各団体との信頼関係が実を結んだことが何より大きかったと思います。実働の中で、 担当部署の者たちが本気でやっている姿を示さなければ、人の心も動かない。多くの尽力を借りなければ実現できない規模のイベントだからこそ、 ポジションパワー(地位力)ではないヒューマンパワー(人間力)が必要だということを学びました。ほんの少しでも意識が変われば、動き出せば、人が変わる。その積み重ねが町を変えていく。 人は変われるし、人を変えるのも人なのだと感じています。

人は感動や心を動かされることがなければ行動にまで結びつきません。ましてや大切なお金を支払うこともないでしょう。この取り組みでは経済効果や集客数など、 明確な数字で結果を出さなければならない厳しさもあります。しかしあえて、今後の「フクチ・ファインド・フェスティバル」では、地域ブランド化に加え、 定住促進施策を両輪として連動させた人口増加という壮大なインナーコンセプトを設定しました。それは、まだまだ知られていない真っ白な「福智」の状態だからこそチャレンジできる取組みです。 地方創生の政策も含みながら、可能性がある限り高い目標を掲げ、福智ツーリズムや産学官連携など、幅広いアプローチで挑戦していきたいと思っています。 

福智スイーツ大茶会の会場風景の写真

福智スイーツ大茶会の会場風景

地域の宝はモノではなく人

人の「思い」や「心」を表現して伝えたり、人の心の奥底を真に揺さぶることは、コンピュータやロボットではできないと思います。 ましてや「志」を次代に継承することもできないでしょう。地域の宝は、観光資源というモノではなく、それを活かす「人」なのだと思います。 

今回の福智町の取り組みでは「想い」や「熱意」、「信頼」や「つながり」といった古くさいキーワードばかりで、 ITなどの最新技術や統合型マーケティングコミュニケーションを駆使した先進例ではなく、申し訳なく思っています。でもあえて、その古くさいキーワードこそ、 まちづくりには大切なのではないかと痛感しています。そんな志を、次代を担う人たちと共有したいし、多くの人と感動をわかちあいながら、チャレンジを続けたい。 福智の空の下で「この町で生きていこう」と、一人でも多くの人に思ってもらえるような町にしていきたいと願っています。

協奏の庭の写真

童謡作曲家・河村光陽を顕彰する「協奏の庭」