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徳島県つるぎ町/二層うだつの町並みを活かした地域活性化について  ~「会音の和(あいねのわ)」、「つるぎの達人」の取り組み~ 

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年2月23日
二層うだつの写真

隆盛を今に伝える二層うだつ


徳島県つるぎ町

2910号(2015年2月23日)  つるぎ町長 兼西 茂


つるぎ町の概要

西日本第二の高峰剣山への登山口、徳島県つるぎ町。

つるぎ町は徳島県徳島市から西へ約50㎞の吉野川中流南岸に位置している。剣山山系の南斜面から吉野川に注ぐ貞光川と半田川の流域に発展し、面積194.8㎞、 うち森林が84%を占める。地形は起伏に富み、急峻な傾斜地に民家と耕地が点在している。 

平成17年3月1日に半田町、貞光町、一宇村の2町1村が合併し、今年3月で10周年を迎える。人口は10、490人(平成22年度国勢調査)で高齢化率40%を超える。 しかし、古くからの文化財を中心に据え、住民参加による地域活性化につながる様々な取り組みを行っている。  

貞光地区は、古くから商業の町として栄えてきた。特に江戸時代には葉たばこの生産地として繁栄し、阿波藩内でも十指に数えられる巨商を生み、「商売の町」と呼ばれるほどであった。 当時の繁栄を今に伝えるのが商家の屋根に立つ「うだつ」である。「いつまでもぐずぐずして成長や発展がない」という意味で使われる「うだつが上がらない」という言葉の語源となったものである。 うだつの連立する町並みからは、当時の隆盛ぶりがうかがえる。 

特に貞光のうだつは二層うだつと呼ばれる全国的に珍しいもので、美術建築としての風格も備えている。 そんな歴史と情緒あふれる二層うだつの町並みを生かした地域振興や観光情報発信を行っている団体、「会音の和(あいねのわ)」と「つるぎの達人」の取り組みを紹介したい。

会音の和(あいねのわ)の取り組みの動機や内容

結成は平成22年度と比較的新しい。伝統的な町並みや昭和レトロな情景が残る「貞光二層うだつの町並み」を地域の宝として活用し、女性が楽しめるイベントを開催、 地域の活性につなげたいと動きだした。

現在、春には「桃花遊々(とうかゆうゆう)」、秋には「月花遊々(げっかゆうゆう)」というイベントを行っている。「桃花遊々」も「月花遊々」も、 町の文化財である「旧永井家庄屋屋敷」、また、国の登録文化財である「織本屋」を催しの中心に据えて、訪れた方が二層うだつの町並みや貞光地区の文化を楽しめるように工夫されている。

「桃花遊々」ポスターの画像

「桃花遊々」ポスター、躍動するひな人形

「月花遊々」ポスターの画像

「月花遊々」ポスター、手作りの行灯が情緒ある街並みをライトアップ

「桃花遊々」は、旧暦の桃の節句を祝うイベントで、開催期間中は、町内外から寄贈されたひな人形が町や古民家のいたるところに飾り付けられる。 毎回、「おひな様の運動会」「おひな様もアドベンチャー」など、トレンドを取り入れたテーマで、躍動感あふれるお雛飾りが好評を得ている。 また、お雛さまとともに地域の花木を用いた大がかりな生け花がしつらえられ、季節感溢れる空間が創りだされることも特色のひとつである。 メイン会場の旧永井家庄屋屋敷で開催される和楽器の演奏会や童謡コンサートなどは、町並みや古民家の雰囲気とあいまって、情緒あふれるものとなっている。  

「桃花遊々」ひな壇を飛び出して大運動会の写真

「桃花遊々」ひな壇を飛び出して大運動会

秋に行われる「月花遊々」は中秋の名月を楽しむ夜のイベントである。お月見にちなんだ夜の飾り付けが行われるほか、 二層うだつの町並みでは手作りの行灯400個によるライトアップが行われる。これらの行灯は、町内の子どもたち、また町内外から寄せられたイラストで作成される。 集まった行灯を対象にデザインコンクールも行っている。 

催しは、月をお迎えする神事で始まり、ミニコンサート、三味線や大正琴の演奏など、中秋の名月の夜を優雅に楽しんでいる。 

「桃花遊々」、「月花遊々」ともに、期間中には町内外から約3,500人が訪れるなど、多くの人々が交流する場となっており、地域が有する文化や人々の手により生み出された魅力の発信が行われている。 

「月花遊々」三味線による演奏の写真

「月花遊々」三味線による演奏

会音の和の特色ある活動

このイベントの特徴は、行政機関が入らず、企画から運営まで全て地域住民が行っている点である。現在、地域の女性が会長を務めており、会員の半数以上を女性が占めている。 女性ならではのコミュニケーションやネットワークは大きな広がりを見せており、年々イベントの規模や来場者が増加している。催しの内容も女性が楽しめる内容となっている。 

春の「桃花遊々」秋の「月花遊々」など、イベントの内容の選定は訪れるお客様の意見だけではなく、会音の和の会員自身が、自分が行きたい、聞きたい、 楽しみたいと思うものを企画している。よって、スタッフ側の会音の和会員も楽しみ、その楽しさが訪問者にも伝わっているようだ。会員自らが楽しむことにより、 吸引力のあるイベントを創造することができているのではないだろうか。主役は自分たちであるということがイベントを成功させてきた秘訣かもしれない。

スタッフの配置や組織もユニークだ。作業班、企画班、広報班などはほかでもよく聞く担当であるが、会音の和には「まかない班」がある。準備から開催、 片付けまで終日間に及ぶため、それに携わる人たちに食事の準備を行う班である。数回頂いたことがあるが、やはりとてもおいしい。 あたたかい手作りの食事に会員内でも胃袋をつかまれている人も少なくないであろう。広報についても約70人の会員全員が広報係である。 

まかない班による昼食準備の様子の写真

まかない班による昼食準備の様子

自ら準備に携わると、自然に、見に来てほしい参加してほしいと思うようになる。 日頃のそれぞれのネットワークを通じて口コミで行う広報活動はとても力強い。「演奏聞きに来てよ」「人形飾ったから見に来てよ」「団子作ったから食べに来てよ」など、 人と人のつながりを基本とした広報活動はものすごく効果がある。行政主体でのイベントとは、一線を画す盛り上がり方である。 

男性中心の作業班の様子の写真

「月花遊々」男性中心の作業班の様子

つるぎの達人の取り組みの動機や内容

二層うだつの町並みの観光案内人である「つるぎの達人」の結成は平成17年度である。町村合併によって大きくなった町の文化を学び合い、 また自分の町の案内ができる観光ガイドを養成したのが始まりだ。町主催の観光ガイド養成講座(全12回)において、 二層うだつなどの観光施設や文化財を半年間にわたって学んだ地域住民が中心となって結成された。自分たちの誇る地域の観光地や文化財を観光客に伝えるという活動に発展している。

全国の観光会社から、二層うだつの町歩きにガイドをお願いしたいと依頼が寄せられる。依頼の受け付けこそ町役場が行っているが、バスの到着から案内、 お見送りまで1グループ約10名のお客様を達人1名が担当しガイドを行っている。 

1グループ約10名というのも、達人が「お客様とガイドのコミュニケーションを密にするために」という希望によるもので、きめの細やかなガイドぶりが好評だ。 何気ない会話にこそ、「楽しさ」があり、達人自身も交流を楽しんでいる。  

町では二層うだつをはじめ、つるぎ町に来て頂いた方々との交流を深めるため「つるぎクラブ」という会を発足した。会員の方には情報を発信し、 つるぎ町の応援団としてつながりを持ち続けていただくことができている。会報は「つるぎクラブツアー&イベント」と名づけ、 二層うだつの案内イベント「ぶらぶら初心者ウォーク」や会音の和主催のイベント情報、各種ツアー情報やプレゼント企画など、町の魅力を発信している。現在会員数は約1000人である。 春と秋のつるぎクラブ会報で情報発信し、つるぎ町のファンになっていただいた方や、地域住民の皆さんに喜んでいただけるものを目指し、イベントを行っている。 

町主催の観光ガイド養成講座の様子の写真

町主催の観光ガイド養成講座の様子

つるぎの達人の活動

はじめは、町の文化や歴史を知りたいという動機で集まったメンバーで、当初は「人前で話すことなんてとても・・・」と遠慮がちな人も多かった。 しかし、仲間で何度も研修を重ねていくうちに、新たな町の魅力を知ったり、それを人に伝えて共感していただくということに喜びを見いだしたりしながら、とても積極的にガイドをするようになった。

講座受講当時は、メンバー同士初対面だという人も多かったが、今ではとても仲良く、年に1度その年の反省会を兼ねた忘年会では、旧来の知人同士のようにとても盛り上がる。 観光案内をするということもとても楽しいが、ともに楽しみやっていく仲間の存在もとても大きいようだ。 

達人には様々な経歴の方がおり、同じ場所を案内しても十人十色である。最初に作成された大まかなマニュアルはあるが、達人それぞれの個性で味付けされて、 ひとりひとり違った魅力を持っている。そしてその違いを達人同士で楽しんでいるようだ。あのガイドさんにまた会いたいから、と再び訪ねてくださるお客様も少なくない。

町並み案内の写真

観光客との会話を楽しみながら町並み案内

課題と今後の取り組み

さて、人と人とのつながりを基本とした2つの団体の活動であるが、中心的に活躍している会員の年齢は50~70代であり、若者の参加はどうしても少ない。 今後活動を続けていくには、これまでのよいところを引き継ぎ、また、若年層の参加も見込めるような新たな展開が不可欠だ。一番の課題は「世代を超えた楽しみ方の共有をどう構築するか」であろう。 会員内でも後継については頭を悩ませているとのことだ。 

地域活性化で最も重要なのは「人」であるのは自明のことである。つるぎ町のような過疎の小さな町であっても、東京のような大都市でも、企業であっても変わらない。「人」が集まり、 何かを成し遂げようと思うと個人でできる小さな行動から始まる。個の小さな行動が組織を作り、組織が地域を動かす。個がやれることの積み重ねがやがて大きな力となる輪となり力になり、 地域の力や魅力になる。 

今、「会音の和」や「つるぎの達人」によって生み出されているのは、そういった基礎的な「人」と「人」とのつながりによる盛り上がりである。 地域の魅力ができれば、また「人」が集まり、好循環につながるのだ。「人」の気持ちがつながれば地域が変わる。この、自ら楽しむという地域の姿勢が、若年層をも呼び込み、 さらなる盛り上がりにつながることを期待している。  

つるぎの達人のうだつ案内研修会の様子の写真

つるぎの達人のうだつ案内研修会の様子