エンジェルロードの夜明け(天使の散歩道)
香川県土庄町
2907号(2015年2月2日) 土庄町長 三枝邦彦
土庄町は、香川県に属し、瀬戸内海国立公園の東部に浮かぶ小豆島の西北部に位置し、豊島、沖之島、小豊島などの有人島を含めた地域を行政区域としています。 面積は、74.39k㎡、人口は約1万4千人です。
小豆島の大きさは、169.86k㎡で、瀬戸内海では淡路島に次いで2番目に大きい島で、山地が多く、高い山が海岸にまで迫っているので平地は少なく、民家はそこに集中しています。 そのおかげで小豆島には、寒霞渓や銚子渓など、人々を魅了する美しい自然が数多くあります。
気候は、明治41年、ヨーロッパ地中海から初めて持ち込まれたオリーブの木がわが国で唯一小豆島だけに根付いたように、四季を通じて雨が少なく温暖な瀬戸内式気候です。
1996年にギネスに認定された世界一狭い海峡「土渕海峡」、潮の満ち干きによって現れたり消えたりする「エンジェルロード」、昔、瀬戸内海にいた海賊との攻防戦に備え、 町を守るために複雑でくねくねと細く伸びる道を成し、全国に現存する数少ない迷路の一つである「迷路のまち」など、ぜひ一度立ち寄っていただきたい観光スポットがたくさんあります。 また、長い歴史を経て受け継がれている肥土山農村歌舞伎や秋の太鼓祭り、島遍路などの伝統文化が今も大切にされているほか、 近年は、瀬戸内国際芸術祭をきっかけとして島独自の文化や自然とアートの融合によって新たな魅力も生まれるなど、小豆島だけで毎年100万人(推定数)を超える観光客の方々が訪れています。
瀬戸内国際芸術祭2013わらアート
その瀬戸内国際芸術祭についてですが、平成22年に初めて開催され、その後は、3年ごとに開催されています。
平成22年は、『瀬戸内国際芸術祭2010「アートと海を巡る百日間の冒険」』という名称で、『海の復権』をテーマに、7月19日から10月31日までの105日間、 香川県内の7つの島を中心に開催され、土庄町では、小豆島と豊島が会場となりました。
美しい瀬戸内海を船で巡りながら、島の自然や文化に溶け込んだ現代アートを体感するという新しい観光のスタイルが都会の若者を中心に大きな反響を呼びました。
また、島民と作家、ボランティアサポーターとの交流は、人と人がつながることの楽しさや大切さを再認識するきっかけとなりました。
平成25年は、『瀬戸内国際芸術祭2013「アートと島を巡る瀬戸内海の四季」』という名称で、同じく『海の復権』をテーマに、 季節の移り変わりも楽しみながら島々を巡ることができるよう春・夏・秋の3会期に分け、計108日間、香川県内の12の島を中心に開催され、土庄町では、前回同様、小豆島と豊島が会場となりました。
小豆島では新たに「インスタレーション(展示空間全体を使った3次元的表現)」や「迷路のまち空き家プロジェクト」を展開し、 会期中には地元の特産物や伝統芸能を活かしたオリジナルイベントを実施しました。また、豊島では、 海と山の自然に恵まれた特徴を活かし「食」と「アート」をテーマにした現代アートが国内外から注目を浴びました。
迷路のまち
瀬戸内国際芸術祭2013迷路のまち空き家プロジェクト
瀬戸内国際芸術祭の魅力は、世界各国の著名作家やプロジェクトによる完成度の高いアートもさることながら、海を渡る楽しさ、島々の住民の心温かなおもてなし、 瀬戸内海の四季の移り変わりや島々の歴史・資源・風習などにあります。そういった島の民俗を活かし、島での生活、歴史に焦点を当て、アートが関わることによって住民、 特に高齢者の元気を再生する機会を作り出しています。特に豊島では、最も人気のある豊島美術館ができたことによって、唐から櫃と地区の棚田が再生され、 その景観維持の活動を地域住民と公益財団法人福武財団と町が協働で取り組んでおり、毎年秋には『豊島棚田の収穫祭』が開催されるなど、地域活性化に大きく寄与しています。 ほかにも、この芸術祭を契機に飲食店がオープンしたり、新たな特産品が販売されたりと、さまざまな方向へその波及効果が表れています。
波及効果のひとつとして、挙げられるのが移住者の増加です。瀬戸内国際芸術祭で来島された方が、土地や地域住民の魅力に惹かれ、 島を訪れたいという興味・関心から島に住みたいという興味・関心に変化し、最終的に移住→定住という行動にもつながっています。
豊島棚田の収穫祭
その移住についてですが、土庄町は、3人に1人が65歳以上の高齢者で、高齢者を支える若い世代を中心に人材が不足しているなど、人口減少・少子高齢化が顕著であります。
若い世代の人口を確保することで、これからの超高齢化社会を支えるとともに、出産・育児を通して人口増加や地域の活性化を図ることを目的として、 平成19年から移住施策に取り組み始めました。なお、平成25年度の移住実績としては、移住相談件数169件、移住者47組66名( Uターンを含めると97組127名)となっています。
土庄町が求める「移住者」とは、地域の中に溶け込み、地域の新しい人材になっていただける方です。土庄町という土地・人の魅力に惹かれ、島に住み、 外からの視点を持ち込んでいただき、それが地元とうまく融合することで新たな可能性が生まれ、その結果として、地域の活性化につながっていけばと考えています。移住を最終的に決めるのは、 移住者自身であるため、「なんとなく移住したい」「どこでもいいから引っ越ししたい」「移住すればなんとかなる」といった曖昧な考えでは、移住はできますが、 定住にはつながりません。「住んでみたけれども想像していたものとは違った。」では、お互いに何のメリットも生まれません。そういった問題(ギャップ)を少しでも取り除き、 移住者と地元(土庄町)がお互いWin-Winの関係を築いていくためには、やはり、町のことを事前に知っていただいて、納得したうえで決断してもらい、行動に移してもらうのがいいのではないかということで、 主な移住促進施策として「土庄町島ぐらし体験の家」、「島ぐらし体験ツアー」、「土庄町空き家バンク制度」の事業を行っています。
豊島棚田
「土庄町島ぐらし体験の家」は、 移住を希望される方を対象とした移住交流滞在施設であり、「移住先としてもっと詳しく知りたい!」「移住の足がかりとしたい!」とお思いの方に利用していただく、いわば、お試し島暮らし住居です。 以前は民間企業のクラブハウスとして使用されていた建物を改築し、一昨年の秋から供用しています。
島ぐらし体験の家(間取り)
今年度(平成26年11月30日現在)の土庄町島ぐらし体験の家の使用実績につきましては、施設稼働日数206日(稼働率84.4%)、施設使用者15組33名(うち移住者3組8名)となっており、 施設使用後のアンケートにおいても、この施設を利用したことで島の暮らしをより身近に感じることができたとか、自分の考えが甘くイメージだけで移住を考えていたが、 より具体的に移住を考える大変貴重な経験になったなど、小豆島に移住を考えている方に大変ご好評をいただいています。
島ぐらし体験の家(外観)
「島ぐらし体験ツアー」は、小豆島の2町(土庄町及び小豆島町)と各町自治会代表者、宅建協会、公共職業安定所などで構成する小豆島移住・交流協議会が平成19年から行っており、 お試し移住体験として短期間でのツアーを企画・実施しています。
島ぐらし体験ツアー
以前は、参加者に各メニューから選択してもらうツアーであり、中には観光的な要素が強いメニューもありましたが、参加者のニーズをより的確に捉え、 観光ではなく移住という目的に参加者が向き合えるツアーの提供を行うということで、平成25年度からツアーメニューを絞りこみ、1泊2日のツアーを年2回開催しています。
第1回10月18日(土)~19日(日)
第2回11月15日(土)~16日(日)
「就労や住居についてのリアルな話が聞けて良かった」・「生活の場としてのイメージをふくらますことができた」・「実際に移住者と話ができてとても参考になった」
移住について、最近よく使われるキーワードとして「居・職・住」がありますが、移住に関する相談で最も多い問い合わせが住まい(家)についてです。
土庄町においては、「土庄町空き家バンク制度」を設けて、町内の空き家を活用した移住も促進しています。町内で賃貸・売買ができる空き家を所有者に登録していただき、 土庄町への移住希望者に情報を提供しています。なお、物件所有者と移住希望者の交渉は、当事者間で行っていただき、最終的に契約を結ぶ際には宅建業者に仲介を依頼する方法をとっています。
空き家バンクの実績としては、毎年10件前後の登録、約5組が空き家バンク登録物件で移住している状況となっています。また、移住促進事業交付金として、 土庄町空き家バンクに登録している物件を取得、又は賃借した移住者に対し1人当たり5万円(世帯当たり20万円を上限)を交付しています。
空き家バンク制度のしくみ
土庄町は、商業の町であり、中でも観光産業が町経済の原動力となっています。瀬戸内国際芸術祭を契機に観光客層が多様になっている中、これを一過性のものとせず、 継続性のある町の資源として、交流人口の拡大を図っていく必要があると思っています。そのためにも一人でも多くの島外の人々に土庄町に対する興味・関心を促し、 観光・移住・定住という行動につながるような取り組みを今後も行っていく必要があります。そして、その交流促進という波及効果によって、 地域住民の活気や地元の魅力の再発見などの地域活性化となって、さらに新たなものが生まれ、さらに人々が土庄町を訪れるという循環型交流施策を進めていきたいと思っています。
「太陽の贈り物」チェ・ジョンファ