道の駅多古と栗山川のあじさい ※あじさいは町の花
千葉県多古町
2906号(2015年1月26日) 多古町 産業経済課
多古町は、成田国際空港の東側に位置し、豊かな自然に恵まれ、歴史と文化に育まれた町であり、72.68k㎡の面積を有しています。
人口は、転出と死亡が転入と出生を上回る状況が続き、平成8年の18,436人をピークに減少の一途をたどり、平成26年4月1日現在15,557人となっています。
町の基幹産業である農業は、 シャリ米として定評があり食味日本一に輝いたこともある「多古米」や全国有数の生産高を誇る「大和芋」を中心として多品種にわたる農産物が生産されているほか、養豚や酪農なども行われ、 稲作・畑作・畜産といったバランスのとれた構成になっています。
東京から約70㎞に位置する本町は、首都圏の生鮮食料基地としての役割が大きく、トラック輸送にて農産物の出荷が行われています。
しかしながら、農業人口は、少子化、農業従事者の高齢化などにより減少し、不耕作農地が増加するなど将来に向けて厳しい現状となっています。
多古町の田園風景
多古米の輸出のきっかけは、平成25年3月に千葉市・幕張メッセで開催された、 すしの調理技術を競う「ワールドスシカップ・ジャパン2013」にオフィシャル米として採用されたことにより世界各国で活躍するシェフに多古米を知ってもらうことができたことです。
多古米に興味を持っていただいたシェフに試供品を送る中、シンガポールの和食レストラン「山川」のオーナーシェフから「多古米をシャリとして使いたい」というオファーがありました。 町としても農業の厳しい状況を打開し、将来に向け、持続的に発展させるため多古町産農産物(特に多古米)のブランド力を強化し、 生産農家のモチベーション向上を図るため、輸出(販路拡大)に取り組むこととしました。
また、国においても「攻めの農林水産業」の下、農林水産物・食品の輸出拡大の取組みをおこなっていることも取組みを推進する要因のひとつでした。
輸出イメージ図
最初は、シンガポールにおける日本からの農産物の輸入状況や日本から輸出する仕組みなどを関係者などから情報収集することから始めました。
輸出の入口(多古町・多古米)と出口(シンガポール・「山川」)が決まっているなかで、輸送ルートをどうするか。シンガポールで米の輸入をするためには、 国のライセンスが必要であり、その許可を得た輸入業者をどのように見つけていくか。また、既に日本各地の米がシンガポールに輸出され競争が激化している中、 価格をどうするかなどいくつかの検討課題が見えてきました。
7月には、事前(現地)調査のため現地に赴き、関係者との打合せ、市場調査等を行いながら、価格や輸出ルートの確立などの準備を始めました。
その中で、輸出の開始する時期を新米が出始めた10月とし、キックオフイベントとして「山川」で関係者を招待して「多古米お披露目会」というイベントを行うこととしました。 あわせて、多古米のPR・販売促進活動を行うため、 同時期にシンガポールのサンテック国際会議展示場で開催される「Oishii JAPAN 2013(ASEAN市場最大級の食品見本市)」に千葉ブランド農水産物・食品輸出協議会の会員ともに出展することとしました。
輸出ルートについては、隣接する成田国際空港の活用を視野に入れたため、空輸で行うこととし、事業者を株式会社多古(道の駅多古運営法人)に決め、確認のため、 9月に試験輸出を実施しました。
こうした準備を重ねながら、10月上旬に多古米120㎏〔業務用60㎏(5㎏袋)、小売用60㎏(2㎏袋)〕の輸出、イベント用品等を輸送し、中旬に現地に赴きました。
現地では、関係者訪問・市場調査などを行なった上で「Oishii JAPAN2013」(10/17~19)に出展し、試食を行いながら、バイヤー、 マスコミ及び一般消費者に多古米のPR・販売促進活動を実施することができました。
「多古米お披露目会」(10/19)では、関係者47名出席の下、多古米及び多古町産農産物を使った料理を用意し、多古米PRのため「おいしいごはんの炊き方」の実演を行いました。 参加者からは「美味しい」という評価を頂き、盛大に開催することができました。加えて、「山川」を多古町のアンテナショップに認定し、この日から、店内の一画にて、 多古町のパンフレット等の展示及び多古米の小売りを実施しています。
また、現地関係者と打合せを行い、輸送方法を輸送コストが高い空輸から海上輸送に切り替えることとし、2回目(11月以降)からは、神戸港から輸送を行うこととしました。
認定書交付(多古米お披露目会)
菅澤町長とゲイリーロウ氏(山川レストランオーナーシェフ)
多古米の輸出や海外での多古米のPR・販売促進活動の実施は、国内市場における認知度を向上させ、多古米のブランド力の推進が図れたものでありました。 また、海外(シンガポール)で多古米を食べて、買える仕組みができたことは大きな成果であり、多古米の輸出に取り組むことにより多古町を国内外にPRできたことは、大きな効果がありました。
関係機関(JETRO、CLAIR、千葉銀行など)の現地事務所等の協力により取り組みましたが、輸出を始めるまでの検討する時間も少なく、 海外取引の経験のない者で始めましたので、方法や価格などのいくつかの課題ができてしまいました。
平成25年10月から多古米の輸出を開始して、山川で「多古米」の使用(しゃり)及び店頭販売を行い、1年間で976㎏の輸出数量でした。
2年目となる本年度においては、1年目での課題を改善できるよう、昨年同様、10月に現地に赴き、関係機関への訪問・意見交換、 市場調査を行った上で、「Oishii JAPAN 2014」(10/16~18)に千葉ブランド農水産物・食品輸出協議会の会員とも出展し、多古米及び大和芋の試食を行いながら、 現地関係者にPR・販売促進活動を実施しました。
Oishii Japan 2014 多古米試食(菅澤町長)
多古米
大和芋
また、輸出を継続する中で、課題を改善できるよう関係者を集めて、「山川」で「多古米試食会」(10/18)というイベントを開催(参加者60名)し、 多古米及び多古町産大和芋・さつま芋を使った料理及び多古米で造った日本酒などを提供しました。大和芋の調理実演を栄養価などの説明を交えて実施したところ、 粘りが強い大和芋に驚いた様子で興味深く見入っており、多古米以外の産品については、取引の申込みがあったほど盛大に開催することができました。
大和芋の調理実演の様子
さらに、現地関係者に集まっていただき、今後に向けた打合せを行い、11月からは横浜港からの海上輸送となりました。
2年間、千葉県の補助金を活用しながら、輸出に係るPR・販売促進活動に取組んでいますが、多古町という小さな自治体の取組みにおいては、取扱量が少ないなど、 輸出に適さない要因等もあり、なかなか改善が進まない状況もあります。
平成26年11月現在、多古米の輸出は品質保持(真空包装)した上、海上輸送で横浜港から行っており、「和食」が世界無形文化遺産に登録されるという追い風の中、 今後も課題解決に向けた検討・取組みを行いながら、併せて平成26年7月にシンガポールでの原発事故による輸入規制が緩和されたことを受け、 米以外の農産物やシンガポール以外の東南アジアの国々など他の地域への販路拡大の検討を進めていきたいと考えます。
海外への取組みとしては、平成26年8月に東京ビックサイトで開催された「ワールドスシカップ・ジャパン2014」に多古米のPRのため、オフィシャル米として提供したほか、 海外で開催されている「すし調理技術セミナー」〔インド(平成26年3月)、ブラジル(平成26年8月)ほか〕にシャリ用として多古米を送り、多古米のPRに努めています。 これらの取組みなどが今後どのような形になるか、状況を把握しながら適切に対応していく予定です。
ワールドスシカップ・ジャパン2014