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秋田県東成瀬村/共に学び合う教育~小中連携教育を中心にして~

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年1月19日更新
授業風景の写真

授業風景


秋田県東成瀬村

2905号(2015年1月19日)  東成瀬村教育委員会教育長 鶴飼 孝


村の概要

明治22年、町村制実施により「東成瀬村」が誕生。平成15年の市町村合併においては自立の道を選択し、現在に至っている。

秋田県の東南端に位置し、面積は約204k㎡、人口は2,722人(26年10月現在)高齢化率約35%となっている。

村は、平成23年~32年の東成瀬村総合計画を策定し、「人と環境に優しい協働の村づくり」に村民一丸となって努力している。特に、 平成22年には「NPO法人日本で最も美しい村」連合に加盟し、失ったら二度と取り戻せない、村の美しい景観や環境・文化を守る活動を行っている。  

学校関係では、学校の統廃合が終了し、現在、小学校一校(児童数114名)、中学校一校(生徒数67名)である。

教育行政方針

  1. 村だからできる・やる教育を行う。(村の実態を踏まえ独自性を出す。)
  2. 社会総参加の教育を行う。(地域の教育力を生かす。)
  3. 継承と発展の教育を行う。(村は教育に力を入れてきた伝統があり、その成果を継承発展させる。)
  4. 地域社会づくりの教育を行う。(村民の生きがいづくりに貢献できるように努める。)
  5. 創意工夫の教育を行う。(教育の不易と流行を踏まえ、新たな枠組みづくりに努める。)

学校教育の基本方針

  1. 自信と誇りを持たせる。(東成瀬村に生まれ教育を受けたことに自信と誇りを持って、人生を切り開いていってほしい。)
  2. 人は人のシャワーを浴びて人になる。(世の中には自分と価値観の異なる人がたくさんいる。学校時代に多くの異質性にふれて、人間の機微を実感してほしい。)
  3. 温かい人間関係を築く。(子どもは分からない事があり、間違いをするものである。広い心でお互いを認め、共に高め合う学習集団であってほしい。)
  4. 教育に上限はない。(登山にたとえるなら、二合目にいる子どもは、三合目に行ける。十一合目にだって行ける。チャンスを与えたい。)
  5. 教育は人なり。(教育は人の心に火を灯す、といわれる。灯すのはまずは教職員である。指導力と人間性が豊かであってほしい。)

以上の考えの下に、本村で取り組んでいる教育活動について、ご紹介させていただきたい。

村の柱である小中連携教育

小中連携教育のねらいの一つとして「中一ギャップの解消」を重視するところが多い。 本村においては、この面の心配は少なく、「多様な価値観にふれて自分を高める」ことに主眼を置いている。村の特徴として、学校は小規模少人数であり、 このことから生ずるデメリットを解消するために「切磋琢磨する機会を多くする」「異質性にふれて自分を見つめ、多様な価値観の時代をたくましく生きる子どもを育成する」ことに重点を置いている。 内容としては、知・徳・体のバランスのとれた子どもの育成を目指し、様々な取組を行っている。次に具体的な事例を紹介したい。

知育分野の教員研修会

本村における研修の特徴は、校種、教科、経験の枠を外し、教員という共通項で同じ土俵に上がっていることである。今年の研究テーマは「教師のコーディネート力の向上」である。 もう一つの特徴は、授業を参観する場合は、二種類の付箋紙を持ち、テーマに即して「評価できる」場合は黄色の付箋紙に、「検討すべき課題である」場合はピンクの付箋紙に、その内容を簡潔に記載して、 授業後の分科会を行う事である。毎回、研究協議会では論点が焦点化され、白熱した話し合いになる。

教員研修会の様子の写真

教員研修会の様子

徳育分野のキバナコスモス植栽

心の教育・徳育の分野として、「キバナコスモス植栽」を行っている。小学生と中学生の混合グループを作り、国道三四二号線の沿道に約六千株植えている。 地域の方々も中に入って指導してくれる。「命に優しい心」「みんなが協力する心」「地域のために尽くす奉仕の心」を植える活動である。種子は子どもたちが摘み、小さなビニール袋に、 先ほどの「三つの心」を書いた「メッセージ」と一緒に入れて、学校祭の折に来校者に手渡している。村内にキバナコスモスのオレンジ色が年々広がってきている。

キバナコスモス植栽の写真

キバナコスモス植栽

体育分野のパークゴルフ・グラウンドゴルフ

パークゴルフでは、小学4年生から中学3年生までの混合グループを作り、公認コースで年に2回教育課程に位置づけて行っている。小学1年生から3年生までは、 中学1年生との混合グループでグラウンドゴルフを行っている。こちらも年に2回行い、両方の種目に地域の方々がたくさん来て指導してくれている。ホールインワンをしたり、 藪にボールが入ったりするたびに、子どもたちの歓声がパークゴルフ場に響き渡っている。 

パークゴルフの写真

パークゴルフ

同じ方向を目指す共通指導事項

学力向上のために、小学校と中学校が共通して取り組む事項を八つ定めている。同じ村の子どもを育てる上で、小学校は右、中学校が左では効果が少なく、子どもは戸惑ってしまう。 また、成長の連続性から考えても、最低限の共通実践事項を定める事は必要であると考えている。8項目は次のとおりである。

  1. 授業を改善しよう
  2. 個に応じた指導を充実させよう
  3. 温かい学級を作ろう
  4. 学習意欲を高めよう
  5. 家庭との連携を図ろう
  6. 家庭学習を充実させよう
  7. チャレンジ精神を育てよう
  8. 読書活動を充実させよう

さらに、小学校と中学校では、項目ごとに具体策を3つ以上定めて実践している。具体的な実践事項の例として、中学校における1.授業の改善については次のとおりである。

  1. 対話をキーワードにしたメリハリのある授業づくり
  2. グループやペアなどによる学び合いの重視
  3. 生徒による授業評価の活用
  4. 自分で考える時間の確保
  5. 発問や板書の工夫による思考の活性化

授業の基本パターン・探求型指導

小学校も中学校も、基礎・基本の定着、活用力の育成、学習意欲の向上を目指して授業を行っている。このために、探求型といわれる授業を行っている。 この授業を成立させる学習活動として次の4つの要素を取り入れ、各自が学級の実態や題材・ねらいなどを踏まえ、創意工夫しながら魅力ある授業づくりに努めている。4つの主な要素とは次のとおりである。

  1. 本時の学習課題やねらいを明確に提示する。
  2. 発表の場を設定する。
  3. 学び合いの場を設定する。
  4. ふり返りの活動を充実させる。

基本的な指導過程を共有することは、研修にも役立つし、子どもたちが安心して次の学習に進んで行けるメリットがあると考えている。

教育に上限はない。村の「学習塾」

村にはいわゆる「学習塾」はない。学校教育で大きな成果を上げてくれているが、「できれば、学校の外でも学習する機会があればいいものである」という声が保護者などから聞かれた。 そこで、保護者と子どもたちにアンケートを実施したところ、多くの保護者や生徒が望んでいることが分かった。現在、中学生に英語と、3年生には数学も教えている。年間約20日、 土曜日の午前中は3年生、午後は1・2年生。指導者は近隣の市の資格のある方、場所は役場、受講料はテキスト代のみ。他の経費はすべて村負担。運営等もほとんど教育委員会が行っている。 参加は希望制であるが、毎年9割以上の参加である。今年で7年目であるが、毎年、継続の声が強い。

チャレンジ精神の涵養・難問題に挑戦

子どもたちには、高い志を持ち思い切って新たな世界に足を踏み入れ自分の可能性に気付いてほしいものである。その一環として、 小中の各学校で実施しているものに「チャレンジピック」(小学校)「思考力コンテスト」(中学校)がある。いずれも、知的好奇心、挑戦意欲を高める発展的な難問題で、廊下に掲示し、 学年を問わずチャレンジさせている。願いは、自分で考え、競い合い、可能性を最大限伸ばしてやりたい、ということである。 

その他、対外的な事でも、英語スピーチコンテスト(高円宮杯)や全国スキー大会など、様々な分野の大会にも出場している。 

思考力コンテストの写真

思考力コンテスト

個に応じた指導の充実

学校全体の学力や学習状況を把握し、指導方法や学習環境を改善することは極めて重要である。それと同じように一人ひとりを伸ばす事が重要である。「わが家の子どもはどうなのか・ しっかり成長してほしい」という事は保護者共通の最大の願いである。この願いに応えるために個に応じた指導の充実に努めている。本村では「教育は人なり」という観点から、 教員の指導体制を整える事を重視している。具体的には、村単独で臨時講師(数学)を採用している。 

また、ALTも村単独で一名採用している。また、県から2名の加配をいただき、少人数学習できめ細かい指導を行っている。具体的には、小学校では全校全時間、 算数でティームティーチング、3年生からの理科も同様である。中学校でも数学は全校全時間、ティームティーチング、英語もほぼ毎時間同様である。 

この他、小学校中学校ともに、学習強調期間を設け、1学級に2~3名の教員が入り、一人ひとりに応じて補充学習や発展学習などを行っている。その場合は、 教務主任などの学級担任以外も加わっている。  

また、特色ある活動として、中学校では、5教科の担任が全校生徒全員と個別に教科面談を行っている。 

全校教科面談の様子の写真

全校教科面談の様子

ふるさとに感動する「ふるさと教育」

ふるさとは、自分を見つめさせ、未来に勇気と力を与えてくれるところである。本村では、ふるさとに学ぶ「ふるさと教育」のために多種多様な体験活動を行い、 感動を味わえるように努めている。全教育活動で行っているが、主な教育活動には、次のようなものがある。 

  1. ふるさとの歌~悠久の風にのせて~
    子どもたちが全員で一年かけて作詞をし、プロの作曲家によるふるさと賛歌である。
  1. ふるさと先生
    村出身でそれぞれの分野で活躍している方を先生として招聘し、講話や実技指導などをしていただいている。
  1. 年中行事
    郷土の伝統的な年中行事を学ぶものである。(小学生)
  1. わが村体験
    村内の事業所を訪問し、勤労体験を行うもので、キャリア教育の一環でもある。(中学生)

わが村体験の写真

わが村体験

基礎・基本を定着させる

探求型の授業で、思考力や判断力、表現力を付ける一方で、確実に基礎・基本を身に付けさせるために、たとえば小学校では毎日、10分間、次のような取組を行っている。

  1. モーニングタイム:全校一斉朝読書(始業前)
  2. パワーアップタイム:全校一斉体力づくり
    (ストレッチ、マラソン、なわとび)(2校時後)
  3. チャレンジタイム:全校一斉ドリル学習
    (学級担任以外の教員も加わる。主に算数と国語。)(5校時前)

その他、学年段階に応じて、家庭学習の習慣化を図る指導も重視している。たとえば低学年では次のとおりである。

低学年:書く(宿題、ドリル、プリントなど)話す(学校の出来事を家の人に話す)読む(10分以上の読書、音読) 

また、この他に全校基礎学力テストやノートコンクール等も行っている。

全校一斉朝読書の写真

全校一斉朝読書

グローバル夢ミーティング

子どもたちの英語能力向上、コミュニケーション能力向上、国際理解・交流促進、キャリア教育推進をねらいとして英語合宿を行っている。参加者は小学校6年生、中学校3年生の全員と、 秋田大学の留学生である。留学生については、国際理解という事もあり、できるだけ異なる国からの学生をお願いしている。ホテルに1泊2日で滞在し、名刺交換をしたり、本村の良さを英語で紹介したり、 留学生から留学の動機や帰国後の夢などを語ってもらっている。子どもたちは将来への夢を膨らませたり、英語で意思疎通を図ることの素晴らしさを実感したりしている。子どもたちはそれぞれ、 大きな刺激を得る機会となっている。 

グローバル夢ミーティングの写真

グローバル夢ミーティング